「きゃあああああぁ!」
東家の大黒柱(メス)こと命が原稿作業をしていたある日、家中に絹を裂いたような悲鳴が響いた。
「なんや、またか」
命はよっこらッセクスと椅子から立つと1階のリビングに降りて行った。
◆
「お父さ〜ん」
「さあ、瑞樹。コレを着るのよ。大丈夫!サイズもばっちりだから!」
そこには高校生の姉、東瑞穂(アズマミズホ)に肩を掴まれた、今年中学になった儚くも涙を浮かべた可憐な我が息子、東瑞樹(アズマミズキ)が父に助けを求めていた。
そう、息子である。
男性とは思えないくらい可愛い見た目をしている瑞樹は、クラスメイトの男子に初対面でよく女の子と間違われた。
そして、次の日に告白されるという目に何度もあってきた。
その度に意中の男子が横取りされたと女子のクラスメイトに恨まれたが、また次の日にその女子に告白されるという、ファムファタールもびっくりの魔性のサムシングを発揮していた。
ちなみに瑞穂が持っているのは自分が中学の頃に着ていた制服だ。中々、罪深い趣味をしようとしていた。
「瑞穂さんよ〜。瑞樹嫌がっとるやん。姉妹なんやけん仲良よおせな」
「父さん、僕は弟だよ」
命は頭を掻きながら姉に注意する。
「なに言ってるの。お父さん。瑞樹には才能があるのよ。こんな可愛い才能が。これを有効活用しないのは人類とっての損失よ!」
「人類持ち出す前に鏡持ち出して自分見てみ。弟にハアハア言いながら自分のお古の制服を着せようと迫っとる変態姉ちゃんが映っとるで」
「一体、僕に何を着せようとしてるの姉さん!?」
姉の行動の真実に戦慄する瑞樹。
「違うのよ瑞樹。私は決して自分の服を弟に着せて興奮するような卑しい女じゃないわ!」
「・・・姉さん。目が怖いよ。それと姉さん。前、お風呂の後に僕に自分のジャージを着せたよね?」
「ち、違うわ。あの時はたまたま瑞樹の替えの服がなかったら仕方なく・・・」
嘘である。めっちゃ確信犯でやった。
「その後、写真も撮ってたよね?」
「かわいい弟の成長を記録に残したかったのよ・・・」
ジトーした目で姉を睨む弟。それを払拭するように瑞穂は手を振り払った。
「瑞樹。あなたには才能があるのよ。誰にも負けない女装という才能が。ギフテッドが。あなたは神に選ばれたのよ!!」
「そ、そんなスカートの服を男の僕が着るのは変だよ・・・」
瑞穂はグッと衣装を瑞樹に差し出す。
「いいえ、間違っているわ瑞樹。女装は男性にしか出来ない、ある意味もっとも男らしい行為・・・・・!」
拳を握りしめ力説する。
「私がこんな服着ても何の意味もないの!瑞樹が着ないと意味がないのよ・・・」
瑞穂は力なく項垂れた。
「そ、そんな事言われても」
瑞樹がクルッと命に首を向けてくる。
(ウッ・・・・・!)
思わず、命はその動作一つが可憐で可愛いモノに見えてしまった。
「ねえ、父さん。僕、そんなに可愛い服が似合うの?そんなに男らしくないの?」
可愛い息子の切実な問いに、父親(メス)は答えに窮してしまう。
(う、そんな目をうるうるさせながら上目遣いで見られると似合ってると言ってしまいそうになるやん。しかし、ここは父親として1人の人間として、こんなオタク一家(ドブ川)に生まれた一輪の花を守らねば)
「瑞樹。人には生まれ持ったモンがある。それは誰にも変えれんし、別に良いとか悪いとかいうもんでもない。お前が見た目を恥じる必要なんてどこにもないんや」
「父さん・・・・・!」
「俺もな、こんな姿になってしまったけど別に恥ずかしいなんて一度も思ったことはない」
恥ずかしい目に遭わされた事はあるが、父の威厳の為に息子に口にしないでおく。娘にはバレているが。
「だから瑞樹。お前は、お前のまんまで堂々としてりゃ良いんや」
「父さん!!」
父(メス)の励ましに顔を明るくする息子。
「じゃあ、問題も解決したから瑞樹。お姉ちゃん。このコスチューム着て欲しいなー」
後ろからスッと新しい服を取り出す瑞穂。
「姉さん。僕は着ないよ。そんなにコスプレしたいなら自分で」
「み、瑞樹。お前それは・・・」
瑞樹が断ろうとした後ろで命がワナワナして指を差している。
「ふふ、気付いたお父さん」
2人の前に黒を基調としたコスチュームが突き出される。
「魔法少女ま◯か⭐︎◯ギカのホ◯◯ムの衣装」
「そう。映画公開が来年に決まった(延期)、次のお父さんの同人誌のキャラクターの衣装よ」
思わず手に取ってマジマジと見てしまう命。一切の隙のない完璧なコスチュームだ。
「今日完成したの。瑞樹の為に丹精込めて作ったのよ。出来には自信があるわ」
無言で瑞樹の肩を掴んだ命はグッと魔法少女の衣装を息子に近付けた。
「・・・瑞樹、この◯ムホ◯のコスプレをするんや」
「な、なんで父さん。僕の味方じゃないの?」
「お前なら完璧なホ◯ホ◯になれる。そしてその写真を資料にすれば、ワイは今までに無い素晴らしい作品が描けるはずや!」
いとも容易く父を味方につけた瑞樹はさらなる暴挙に出ようとする。
「ついでにコスプレ写真もおまけで付けようよ、お父さん!」
「嫌だよ!それに男の僕が魔法少女のコスプレするなんて、こんなの絶対おかしいよ!」
「仕方ないわね」
瑞穂はおもむろにスマホを取り出すと自分のSNSを開いた。
「これは前に瑞樹の体操服姿をポストした時についたコメントよ」
「肖像権侵害!?」
スマホを覗き込むともの凄い数のリツイートとコメントがされていた。
ポストに着いたコメント
『え、これが男ってマ?』
『リアル男の娘キタコレ!』
『姉さん。僕に弟くんちゃんを下さい!』
『めっちゃ可愛い!応援してる!』
『次のコスプレも楽しみにしてます!』
『どうか、どうか続きを、続きをお恵み下せぇ・・・』
「・・・・・ッ!?」
沢山の自分を讃えるコメントに息を呑む瑞樹。
「瑞樹、あなたはこれだけ沢山の人に求められてるのよ。彼らの期待に応えなくて良いの?」
「ね、姉さん・・・」
「アナタの可愛いがこんな多くの人を救ってるのよ」
差し出されたスマホに並んだコメントに瑞樹は釘付けになった。
ポストに着いたコメント
『こんな可愛いリアル男の娘がいるなんて・・・』
『この事実だけで明日も頑張れる』
『可愛い、やばい、苦しい、死にそう。でも写真を見ただけ生き返る〜!』『←永久機関の完成じゃん。ノーベル賞は弟くんちゃんの物だな』
瑞樹は画面に映し出されたコメントを黙ってしばらく見つめた。
「そ、そんなに可愛いのかな・・僕って・・・?」
モジモジと恥ずかしそうに瑞穂に尋ねる。
「安心して瑞樹。あなたは最高に可愛いわ」
「父さんもそう思うの?」
命にクルッと振り向く瑞樹。またしても命は可愛いと思ってしまった。
「ああ、瑞樹。お前がNo.1だ・・・・・!」
その言葉に心打たれた瑞樹は胸を抑える。
「と、父さんがそこまで言うなら、着て、あげても、良い・・かな・・・」
顔を赤らめながら、そっぽを向いて答えた。可愛い。
「その言葉が聞きたかったわ」
そこからは早かった。
瑞穂が完璧なウィッグもメイクも整えて、完璧な魔法少女が誕生した。父と姉の的確な指示の下、完璧な光源と構図、そして初めてとは思えない瑞樹のポージングで写真が撮られ、速やかに瑞樹のアカウントでポストされた。
ポストに着いたコメント
『こんなに黒タイツが似合うおみ足を持つ男の子がいるなんて・・・』
『奇跡も魔法もあるんだよ!』
『あ〜ダメダメ、エッチすぎます!』
『あ〜心がぴょんぴょんするんじゃ〜!』
『僕(カメコ)と(専属)契約してオタサーの姫(男の娘)になってよ』『←その必要はないわ』
◆
「よかったね瑞樹。皆んながこんなに応援してくれてるよ」
姉のスマホを手に自分の写真に寄せられたコメントを見る。
「ンフッ♡」
そこには男の子にして妖艶な笑みを浮かべた瑞樹がいた。
こんなに可愛い子が女の子の訳ないよね!