東家の人々。と、その周辺   作:時葉花音

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今日は途中までです。続きが出来れば投稿します。


そのいつものおじさんな。ワイなんよ

 俺は田中慎二(たなかしんじ)。同人誌が好きな25歳、会社員のオタクだ。おんなっけとは無縁で職場でも適度に距離をとって程々の人間関係を維持している。飲み会で趣味の時間を削られるなんてまっぴらごめんだ。

 

「最近の若いモンはケータイばっか見てて人の顔を見とらん!!あーいうのをゆとりって言うんだ!!田中くんも営業をするなら、そこん所しっかりしないとダメだぞ!そらもっと飲め飲め!ガハハ!!」

 

 異動になった営業部での飲み会で上司に言われた言葉だ。このコンプライアンスの時代に差別用語とアルハラのコンボとは恐れ知らずなおっさんだ。その後、何軒か梯子して潰れた上司をタクシーに放り込むと家まで送ったてもらった。その日は帰ったらアマプラでアニメを見るつもりだったのに・・・。

 

 今日はそんな心の乾きを癒すべく関西の港区に来ていた。コスモスクウェアで開催されるコミティアに一般参加するためだ。

 目当てのサークルから新刊が発売されるからだ。版権物の二次創作をしていて、キャラへの造指が深く、解釈も自分と一致している。毎回非常に楽しく購読させてもらっている。

 サークル主は関西弁の気のいいおじさんだ。自分以外の客が手薄な時は同じ作品やキャラの話で盛り上がるくらいに親しくなった。その会話が心地良く、密かな楽しみだった。

 

(本当はアニメを見てから来たかったんだけど)

 

 最近、そのおじさんがXでそのアニメにハマっていると呟いていた。昨今の供給過多により昔のように全てのアニメを見る事は出来なくなっている。アタリのアニメを引き当てるのに苦労する時代になった。気が合うおじさんが面白いというから自分にも合うはずだ。会話の種にもなるし。

 

 今回も期待しながらパンフレットで売り場スペースを確認して、会場の中を進んで行く。

 目当てのサークルの所まできたが、人だかりが出来ていた。

 

(どういうことだ。確かに人気のサークルだがこんな行列は初めてだぞ?)

 

 いつもと違う事態に困惑する。

 

「最後尾はこっちでーす。ここから並んでくださーい」

 

 売り子の女の子がプラカードを持って誘導していた。

 

(見ない子だな。いつもは奥さんと2人でしてるのに)

 

 娘と息子がいると以前話していたことがある。なぜか某魔法少女アニメのホ◯ホ◯のコスプレをしていた。お父さんのお手伝いをするなんて孝行娘だと関心する。とりあえず俺は列に最後尾に並ぶと順番が来るまでまった。20分もすると自分の番が回ってきた。

 俺は会計がまごつかないよう1300円の金額通りに、千円札一枚と百円玉三枚を財布から取り出す。

 

「おっちゃん新刊くださ・・・」

 

 俺は行きつけのラーメン屋で注文をするように言いかけて途中で言葉が切れた。

 

「おお!いつもの君か!毎度おおきに〜」

 

 そこには長年世話になっていたおじさんの姿はなく、銀髪の美少女が立っていた。

 

「え・・・あ・・ひゅっ」

 

 女性との会話に免疫がないのが災いしてどもってしまった。なんだよ。ひゅって。

 

「あ、あの、いつものおじさんは?」

 

「あーそれな。どこから説明したええもんか」

 

「どういう、ことですか?」

 

「そのいつものおじさんな。ワイなんよ」

 

 何を言っているんだこの美少女は。自称おじさんの生徒なら砂漠の学校にいるが、現実ではいない。思春期特有の病をわずらっているのか?美少女なのに気の毒なことだ・・・・・・。

 

「えっと、君みたいな未成年がこういう本を売るのは良くないと思うんだけど・・・」

 

「だからワイや!サークル主のおじさん!!」

 

 俺は目の前の美少女から説明を受ける。なんでも数万人に1人の奇病にかかりTSしてしまったらしい。スマホで調べてみると最近になって症例が実際に確認された物らしい。

 

「あ、あの、本当におじさんなんですね?」

 

「せやから、そう言うとるやろ」

 

「まあ、今時こんなコテコテの関西弁使う人めったにいませんし」

 

「ほっとけ。昔っからこの喋りやけん今さらなおらんわ」

 

「あはは」

 

 俺はスマホをポケットにしまう。

 

「それより、ほれ。新刊」

 

 そう言って新刊をさし出してくる。

 

「・・・・」

 

 新刊の表紙は版権物のキャラクターが描かれていた。制服が乱れて、頬を染めている。

 

(う・・・・・)

 

 美少女が笑顔でエッチなキャラクターが描かれた表紙をさし出してくる。その姿に俺は内心タジタジになってしまった。

 

「どないしたんや?」

 

「え、いや」

 

「お腹痛いん?大丈夫?」

 

(くぁwせdrftgyふじこlp!!!!)

 

 エッチな本を手に心配そうに顔を覗き込んでくる美少女に、俺は声にならない悲鳴をあげた。

 

「そ、そのお納めさせていただきまひゅ・・・」 

 

「なんや、おもしろいやっちゃな。がはは」

 

(誰のせいでテンパってると思ってんだ!!でも悪い気はしないぞ・・・・・・!)

 

 俺は気恥ずかしさと嬉しさで少し正気を失いかけていた。

 

「それにしても、さっきから来る人みんな兄ちゃんと同じリアクションとりよるんわ」

 

「え?」

 

「みんなモジモジしてたり、バタバタしたり。温暖化で頭ゆだって変になってるんかな?」

 

(それはアンタのせいだよ。アンタがみんなを変にしてるんだよ)

 

 俺は心の中でツッコミを入れる。

 

「それより奥さんは?今日は見かけませんけど」

 

「ああ、かーちゃんな。今日は店番でな。どうしても外せんお客さんが来るんよ」

 

 この夫婦は別に本業があるそうだ。プライベートな事なので詮索はしない。

 

「瑞穂、ちょっと頼めるか?」

 

「うん。いいよ」

 

 奥の方からまた別の女の子が出てくる。こちらもかなりの別嬪さんだ。

 

(アレ?でも娘と息子って。さっきのは・・・)

 

「それより、兄ちゃんこのあとヒマか?」

 

 心の中で疑問に思っている、おもむろにおじさん(美少女)がヒソヒソ声で話しかけてくる。

 

「ええ、特にこれと言って用事はないですけど」

 

 俺が声をひそめて答えると、折りたたみ机からグッと身を乗り出してきた。(美少女の顔面が近い!)

 

「なら、この後打ち上げにつきあってくれんか!?」

 

「ええええ!?」

 

 突然のおじさんのお誘いに俺は心臓の鼓動を早めた。

 

(初めて、女の子(おじさん)から誘われた・・・・・・!)

 

「イベントの後はいつもやっとってな。今回はかーちゃんおらんし、子供は居酒屋つれてけんし。兄ちゃんとは話も合うし丁度ええやん?」

 

「で、でも僕、女の子と2人で飲むなんて初めてだし。それに噂されたら恥ずかしいし・・・」

 

 何故か俺は内股でモジモジしてしまう。

 

「何古いネタ言ってんねん。それにたまには違う人と話さんとこう、作品の幅も広がらんでなー」

 

 おじさんはポリポリと頭をかいた。

 

「新しい引き出しを作るって事ですか?」

 

「まあ、そんな所や。ダメなんか?」

 

 おじさんが上目遣いで聞いてくる。美少女の上目遣い!

 

(す、すごい破壊力だ!戦闘力は53万どころじゃないぞ!!)

 

「い、いいですよ」

 

 OKしてしまう。オタクくんはあまり飲み会とかは得意でなかった。飲みニケーションなんてアルハラの言い換えだと思っている。

 

「ホンマか!?じゃあ、コミティア終わって撤収作業したらすぐ行くけん、駅で待っとて!」

 

 おじさんの本は売れ行きが良かったのか平積みの本は殆どなかった。このままいけば無事完売して撤収作業も早いだろう。

 

「分かりました。あ、一応LINE交換しときます?」

 

「おお、いいで!ケータイケータイ・・・」

 

 スマホの事をケータイと自分の上司みたいなことを言う。見た目は美少女でも中身はおじさんだな、と妙な所で感じてしまう。

 

「交換完了やな!」

 

 だが、初めて異性(おじさん)のLINEをゲットして嬉しくなる自分がいた。




何事も初めてはドキドキするよね。
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