波導のヒーロー   作:雅(独者)

3 / 14
訓練

 家の裏には、小さな公園につながる細い道がある。
夕方になると人通りが減り、木々の影が地面に長く伸びる。
リオはそこをまるで秘密基地みたいに感じていた。

(今日も行くか……)

夕飯前、リオは“幼児らしいトコトコ歩き”で庭を抜け、
尻尾をふわんと揺らしながら、いつもの空きスペースへ向かった。

そこで始まるのは――
幼児とは思えないレベルの鍛錬。

とはいっても、いきなり腕立て伏せを百回とかではない。
身体はまだ子どもだ。
だからリオがしているのは、あくまで“できる範囲”の基礎。

◆ 耳と尻尾で風を読む練習
◆ 波導のノイズを感じる訓練
◆ 軽いジャンプやステップでバランスを取る練習

見た目は、ただの元気な幼児が遊んでいる程度。
でも中身は、完全に大人の思考だった。

『……っ!』

耳を動かす。
風の流れを読む。
遠くで犬が吠えた音まで拾える。

尻尾が平衡感覚を補助して、無駄のない動きを作る。

(やっぱり身体能力、高いよな……。
 波導使い+獣化系の個性って、ズルいくらい強い)

ステップを踏みながら、リオはふと思う。

(でも……このままじゃ全然足りない。
 USJで時間稼ぎ? ステインを阻止?
 神野区の惨劇?)

幼児の体では、守れるものに限界がある。

(……まして “トガ” と “荼毘” を助けるなんて)

リオの動きがふと止まる。

空気が重くなった気がした。

波導が揺れ、胸の奥がズキンと痛む。

(トガは……今どこかにいる。
 放置されて、孤独で、噛みしめるみたいに“愛”を求めてる)

歳は近いはずだ。
同じ時代を生きている。

でも住所も知らない。
下手に探せば不審者だ。
まして幼児の足では行ける場所にも限界がある。

(荼毘は……まだ“燈矢”か。
 エンデヴァーの家にいて……孤独の渦の中)

助けたい。
どちらも“救ってやりたい”。
原作ファンとして、彼らの悲劇を知っている転生者として。

でも。

(どうすりゃいいんだよ……)

リオは地面に座り込み、尻尾がしゅんと垂れた。
誰にも見られていない時だけ出る表情だった。

「……むり、だよな」

本心がこぼれる。
幼児の声で。

前世の大人の心が、幼い身体の中で苦しくなる瞬間。

(今行ったところで、なにもできない。
 見つけたとして、何を言う? どう説得する?
 “将来ヴィランになるから助けに来ました!” ……ってバカか)

自分で考えて、自分でツッ込んで、幼児とは思えないため息をつく。

そのとき。

風が吹いた。

草の揺れる音、遠くのざわめき。
リオの耳が反応する。

波導――。
それは心の波を感じる力。

普段はノイズまみれの感覚が、ふっと澄んだ。

(……大丈夫。
 今はまだ、“力をつける時期”だ)

未来は変えられる。
知っているからこそ。

助ける方法なんて今は思いつかなくていい。
まずは、届くほど強くなること。

リオはゆっくりと立ち上がった。

尻尾が、もう一度ふわりと揺れる。

(トガも、燈矢も……。
 絶対に、救う。
 この手で変えるって決めたんだ)

夕陽が差し込み、影が伸びる。

リオはその中に踏み込み、
再びトレーニングを始めた。

小さなステップ。
短いダッシュ。
耳を使って距離を測る。

その姿は幼児のはずなのに――
まるで未来のヒーローの影のようだった。

(急がないと……時間は、あんまり残ってない)

そんな、大人の思考を抱えながら。

――蒼月リオの“子どもの鍛錬”は、今日も密かに続いていた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。