翌朝。 リオはわざと早起きした。
と言っても、幼児が早起きするのは珍しくない。 だから母にも父にも怪しまれない。
(……今日は、父さんの“気配の読み方”を観察する)
昨夜の父の言葉は、リオにとって大きすぎるヒントだった。
父が幼いころ“気配を感じる体質”が暴走した。 つまり、“波導”ほど高精度ではなくとも、 似た系統の第六感のようなもの を持っている。
それなら──
* どう読み取るのか
* どう遮断するのか
* どう反応するのか
それを観察すれば、波導制御の手がかりが掴める。
父は新聞を読んでいた。
その姿を、リオは古代の戦士のような集中力で観察する。
(……耳の向き。 無意識に、話し声や足音の方に向くな)
人間でも、感覚が鋭い人は極端に“音の方向”に敏感だ。 父の場合、それがほとんど動かない髪の下でわずかに起こっている。
(波導の“方向感知”と同じ……!)
違いは明確だった。
* リオ → 色 と 密度 で感じる
* 父 → 音・息づかい・気配の濃さ で感じる
系統が非常に近い。
(これなら……父さんの“遮断の仕方”が役に立つ)
父は新聞を読みながら、ふと顔を上げた。
「……ん? リオ、どうした?」
(うわ……見すぎた)
慌てて子供らしい笑顔を作る。
「おとーさん、しんぶん? なにかいてるのー?」
「リオにはまだ難しいぞ」
父は苦笑しつつ新聞を折り、テーブルに置く。
その瞬間。
空気の“揺れ”が変わった。
(……え?)
父の気配が、ストンと静かになる。
(これ……気配の“切り替え”!?)
まるでスイッチのように、父から発せられる気配の波が弱まったのだ。
そして父は何気なく言った。
「小さい頃はな……これができなくて苦労した。 周りの音が全部うるさくて、気配に敏感になりすぎて……」
(間違いない。 これ、“波導OFF”に似てる!!)
リオの胸が高鳴った。
(父さん……自然にやってる……!)
父は自分の能力を大層なものだとは思っていない。 だから“体質”としか認識していない。
けれど実際は── 波導の遮断・調整に直結する動作を、無意識に行っている。
(父さんの“やり方”を真似すれば、俺の波導もコントロールできるはず……!)
無意識のうちに尻尾がピクッと動いた。
しかし──
「……リオ。お前、また耳が動いたぞ?」
(ッッッ!!)
(やばっッ!!)
父の注意力はやはり鋭い。
けれど、父は“心配したように”笑った。
「落ち着いてない時は耳が動くんだよな……俺もそうだった」
(……これ、父さんにとっては“普通のこと”なんだ)
リオはこっそり息を吸う。
父の気配遮断をもう一度観察する。 波導視のレンズを薄く、薄く開く。
すると──
(……! これだ)
父は“呼吸と意識の落とし方”で気配を閉じている。
息を吐くと同時に、胸の奥に意識を沈める。 そうすると気配が弱まる。
(俺の波導も、気配を沈める動きを真似すれば…… もっと自然にON/OFFできる!)
リオは内心で確信した。
リオはテーブルの下でこっそり手を握り、呼吸を合わせる。
父のように息を吐いて意識を沈めると──
耳がゆるむ。 尻尾の先の波が収まる。
(……いける! 父さんの遮断方法、波導に応用できる!)
その瞬間、母がリオを呼んだ。
「リオ〜? パン焼けたわよ〜」
(まずい! 耳がまた動く!)
とっさに父式“OFF”を重ねる。
息を吐き、意識を沈める。
耳は動かなかった。
(……成功!!)
リオは表面上、ただの幼児の笑顔で母のところへ走る。
しかし内心は……歓喜で震えていた。
(父さんの感知体質…… これ、俺の波導制御の“核”だ!!)
トガを助けるための第一段階── 波導の完全なコントロール が、 ようやく見えてきた。