根無し草は幻に花を咲かせる   作:夜照

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 幼い頃、テレビの向こうのバトルに憧れた。
 色とりどりの光線。息の合った動き。
 自分にもできると、疑わなかった。
 強くなれると思っていた。

 だから旅に出た。
 夢を追うため――
 そう思っていた。

 ……本当は、どこにも根を下ろせないだけだったのに。


迷い込む根、迎える花

 土と草を踏むたびに、柔らかな匂いが立ちのぼる。旅のポケモントレーナーである彼は、いつものように足元の草の揺れだけを頼りに歩いていた。春の終わり……夏へ向かう風が、新しい季節の予感を運ぶ。彼はそれを胸いっぱいに吸い込み、自然と足取りが軽くなる。

 

 特に目的地も決めていない。暗くなっても町かポケモンセンターに着かなければ、テントでやり過ごせばいい――そう呑気に考えている。

 

 ――根無し草(デラシネ)

 

 人は彼をそう呼んだ。行くあてのない旅を続ける彼には、その言葉はあだ名以上の意味を持っていた。いつだって風の向くまま、拠り所のないまま。世界をさまよっている。

 

「……今日は、よく風が動くな」

 

 独り言のように呟くと、横を歩く相棒のドダイトスが低く、ゆったりとした鳴き声で応えた。標準的な個体に比べてひと回り大きい体躯と、それに似合うドスの効いた声。そこには「どこまでも行けるぞ」という、いつもの安心感がある。

 

 彼は薄く笑う。根はない、拠り所もない。だが六匹のポケモンたちは、揺らぎ続ける彼をいつも支えてくれていた。ドダイトスはゆっくりと横を歩き、フラージェスは白い花冠を風に揺らし、メブキジカは季節の匂いを読み、ノクタスは影のように寄り添い、チェリムは太陽の下を明るく跳ね回る。そして――シェイミは、今日も好き勝手に走り回っていた。

 

 何も問題ない。

 ……少なくとも、この時点ではそう思っていた。

 

「なあ……どこへ向かうつもりなんだろう、僕は……」

 

 素朴な問いは、誰が答えるでもなく、静かに風に乗って消えていった。

 

 


 

 

 草原を抜け、森に踏み入ってしばらく経った頃。彼らは開けた空間を見つけた。日も傾き始めている。町に続く道もなく、これ以上、下手に進むのは危険と判断し、ここで野営をする他ない。

 

 だが、デラシネはどこか気乗りしない顔をしていた。原因は、中央にポツンと建つ古びた祠だ。旅の中で、こういうものにはろくな思い出がない。

 

「オヤブンみたいな個体か、はたまた伝説のポケモンじゃないだろうな……?」

 

 祠があるということは、過去にここへ人の手が入ったことの証だ。供え物のようなものがあることを考えれば、何かを祀っているのだろう。問題は、それが伝説のポケモンのような“信仰の対象”ならまだしも、森のヌシのような“厄介な存在”を鎮めるためのものだった場合だ。

 

 そんな相手の縄張りで一泊など、好まれるはずがない。下手をすれば、荒らされたと判断され、襲いかかられてもおかしくない。実際、何かに見られているような感覚がある。夏にはまだ少し早いというのに、妙な汗が頬を伝った。

 

「……風向きが変わったな」

 

 つぶやくと、隣のドダイトスが重い声で応える。メブキジカは耳を立て、チェリムは太陽を探すように空を見上げる。フラージェスは白い花冠を震わせ、シェイミは草の中で転がり、ノクタスは風の止んだ方角をじっと見つめていた。

 

 旅はいつも通り――

 これまでも、これからも、そう続いていくはずだった。

 

 気づけば、風がない。音もない。世界の色が一段、淡くなったような静寂。

 

 「嫌な感じだ」と口に出しそうになり、デラシネはその言葉を飲み込んだ。ポケモンたちに余計な不安を与えたくなかったし、自分自身がこの場の空気に飲まれたくもなかった。だが、そんな配慮など無意味だった。

 

 ポケモンたちは、とっくに空気の変化に気づいていたからだ。フラージェスの花弁はわずかに震え、メブキジカは季節の気配を見失ったように立ち尽くす。チェリムはドダイトスの背の大樹に花を閉じたまま身を隠し、ノクタスも全身の棘をこわばらせている。ただ一匹、特に気にした様子もないのはシェイミだけだった。

 

 デラシネはじりじりと祠から距離を取る。手にはクイックボール。風の抵抗を抑えた、遠距離投擲に向いたボールだ。

 

 捕まえられるなどとは思っていない。ただ何かが飛び出してきた時、捕獲モーションの数秒でも時間を稼ぐための備えだった。

 

 ポケモンたちも彼に合わせて後退する。

 ――1匹を除いて。

 

「おい、シェイミ! 離れるなって!」

 

 デラシネの声は届かない。シェイミは草むらをぴょんぴょん飛び越え、祠へと近づき、中を覗き込んだ。ここまで来てしまっては、シェイミをボールに戻すためにも彼も祠に近づかざるを得ない。

 

 彼は慎重に歩を進め、祠の中を覗き込む。祠の奥には、淡く光る穴があった。

 シェイミはこちらの制止を聞かず、さらに穴へ近づいていく。

 

 その瞬間だった。穴が一瞬、強く瞬く。空間が、水面のように揺らぎ、空気が吸い込まれ、草がありえない方向へと倒れた。

 

 ウルトラホール

 

 彼はその名を知らない。だがポケモン世界では、()()()()()()()()として恐れられている存在だ。まるで獲物を見つけたかのように、穴は突然、大きく口を開く。

 

 近づきすぎていたシェイミの体が、ふわりと浮き、吸い寄せられた。

 

「きゅっ‼」

「おい、シェイミ⁉」

 

 デラシネは必死にボールの光を向ける。しかし、穴が周囲の空間をねじ曲げているのか、赤い光線は歪み、シェイミに届かない。ボールに戻すことは出来なかった。

 

 不味い――そう思った瞬間、ドダイトスが反射的に大地を踏みしめた。背中の大樹が震える。その瞬間、地面から根が走った。

 

「グ……グルアァ‼」

 

 地割れから太い木の根が飛び出し、大地そのものが腕を伸ばしたように、シェイミの体を絡め取る。あとは引き寄せるだけ――のはずだった。

 

 だが、巨体のドダイトスですら、少しずつホールの方へ引きずられていく。デラシネは根を綱のように掴み、必死にたぐり寄せた。ノクタスとフラージェスも同じようにしがみつき、チェリムは小さいながらも足にしがみつき、メブキジカは根をくわえて森の方へ引っ張る。

 

「絶対に離すな!」

 

 全員が必死だった。

 

 だが、その決意とは裏腹に、ホールの引力はこの世界の自然法則とは別物。抗う術はない。風が逆流し、草木が渦を巻き、地面が軋む。空間そのものが、どこかへ向かって歪んでいく。

 

 根が震え、限界が迫る。

 

「耐えてくれ、ドダイトス‼ 頼む……‼」

 

 シェイミが、泣きそうな声を上げた。

 

「きゅぅぅぅ……‼」

 

 その声に反応するように、風が裏返るように吹く。そして――根が、ぷつりと切れた。

 

 シェイミの体が、ウルトラホールの向こう側へ飲み込まれる。次の瞬間、穴からの引力はさらに強まった。チェリムの、不安を含んだ鳴き声が響く。

 

「大丈夫。みんな、一緒に行こう」

 

 デラシネの声に、ポケモンたちが次々と応える。

 

「グオッ‼」

「ヒヒィィン!」

「キャッ!」

「ノクゥ……」

「チェリィィ!」

 

 シェイミをひとりにはできない。デラシネもろとも、六つの影が宙へ舞い、穴へと呑み込まれていく。視界が白く弾け、空気が押しつぶされ、藍色の空間がどこまでも続く。

 

 デラシネの身体は宙へ投げ出された。重力はどこへ消えたのか。落ちているはずなのに“登っている”ようにも感じる。四方八方から力がかかり、上下も分からない。まるで、“地面に根付く”という現象そのものがこの世から消えたかのようだった。

 

「――シェイミ!? どこだ!!」

 

 叫んでも、声が自分に返ってこない。周囲に、無数の光の輪が現れる。ここはウルトラホールの内部――“空間”という概念が壊れた領域だ。

 

 ドダイトスの鳴き声も、フラージェスの息づかいも、チェリムの泣き声も、ノクタスの影が揺れる気配すらも、すべてが引き延ばされ、遠ざかっていく。

 

「きゅぅぅぅっ……!」

 

 それでも、その声だけは鮮明だった。デラシネは反射的に、声の方へ手を伸ばす。足も、下も、上もない。ただ必死に――必死に。

 

 光の波の間から、小さな体が見えた。シェイミは恐怖に震えていた。

 

「シェイミ!!」

 

 世界が歪む中、デラシネは身体をひねり、宙を蹴るように腕を伸ばす。指先が、柔らかな感触を掴んだ。小さな体、温かい、震えている。シェイミの体だ。

 

「捕まえた……! 大丈夫だ、シェイミ……!」

 

 無重力の中で、デラシネは両腕でシェイミを抱き寄せる。小さな体が震えている。光に怯えている。ウルトラホールの風は、くさタイプであるシェイミでさえ“自然ではない”と理解できるほど異質だった。

 

「……きゅ……きゅっ……」

 

 シェイミは小さく鳴き、デラシネの胸に顔を押し付ける。

 

「大丈夫。絶対離さない。もう勝手に走るなよ……シェイミ……!」

 

 それは叱責ではなく、必死の願いだった。フラージェスやチェリムの声が、遠くで反響する。だが距離が分からない。光が強くなり、風の流れが急に変わる。デラシネはシェイミを抱いたまま、きつく目を閉じた。

 

「みんな……無事でいてくれ……!」

 

 光が弾ける。耳が一瞬で静寂に飲まれ、風が止まった。

 

 


 

 

──ドサッ。

 

 鈍い衝撃が背中を打つ。どうにか柔らかな土の上で済んだらしい。

 

 デラシネは上体を起こし、まぶたを開く。陽光が眩しい。見知らぬ空の色。見知らぬ木々の姿。視界の端に、ドダイトスの大きな影が見えた。

 

「……グォ……」

 

 すぐ傍に倒れていたドダイトスが、ゆっくりと起き上がろうとしていた。

 

「ドダイトス……無事か……?」

 

 相棒の姿に、デラシネは少しだけ肩の力を抜く。胸の奥には、まだざわつきが残っていた。その違和感を抱えたまま、腕の中のシェイミをそっと揺する。

 

「シェイミ……?」

「……ミ……」

 

 かすかな声。それだけで、ほっと息が漏れた。

 

 ザ……ッ。

 

 安堵したのもつかの間、近くの草むらで何かが動く音がした。

 

「……だれ……?」

 

 反射的にシェイミを抱き寄せる。ぐったりとしているが、呼吸はしっかりしている。その事実を確かめた瞬間――

 

「……フレ……」

 

 淡い青白い光が、草むらからふわりと立ちのぼる。フラージェスが、ゆっくりと姿を現した。

 

「フラージェス……無事でよかった……!」

 

 安堵の声を聞いたかのように、別の方向でも草がざわめく。

 

「……ブルル……」

「……カス……」

「……チェ……」

 

 次々に、バラバラの方角から仲間たちが姿を現す。全員、ふらつきながらも自力で動ける状態だ。どうやら、離れ離れにならずに済んだらしい。デラシネの胸が熱くなり、声が少し震えた。

 

「みんな……本当に、よかった……。怪我は……ないか……?」

 

 メブキジカは鼻先で頭を軽く押し付け、チェリムは怯えたようにデラシネの手を握る。ノクタスは音もなく近くに立ち、周囲を警戒している。フラージェスは光を揺らし、守るように円を描いた。仲間が全員揃ったことで、胸の奥にあった焦りがようやくほどけていく。

 

 しかし冷静になればなるほど、周囲の異常性が目についてきた。空気は澄み、とろけるような甘さを含んでいる。風は優しく、季節の境界が曖昧だ。

 

 世界そのものが“呼吸している”。そんな錯覚を覚えるほど、生命の気配が濃い。空に、海に、山に、森に、草原に、そして街に至るまでポケモンに満ちた世界を、デラシネは見てきた。だが、それらとも違う――暴力的と言っていいほどの命の瞬き。

 

「ここ……どこなんだろう……」

 

 自然と声が漏れる。自分でも分かるほど、その声は震えていた。

 

 デラシネは無意識のうちに一歩下がり、空を仰ぐ。そこにあったはずの穴――ウルトラホールは、すでに跡形もない。仲間にひこうタイプも空を飛べるポケモンもいないため、飛び込んで戻ることもできない。

 

 ひとまず仲間たちの無事を確かめたあと、デラシネは深く息を吸った。……空気が違う。草の匂い、土の匂い。それ自体は確かに自然の匂いだ。

 

 だが、なにかが足りない。なにか、別のものが混じっている。風が頬を撫でた瞬間、胸がざわついた。

 

「(僕の知ってる森の風じゃない……)」

 

 周囲を見回す。木々はどれも立派に生い茂っている。しかし、幹の模様も、葉の形も違う。低木に咲く花の形も、シンオウにも、ホウエンにも、カロスにも見たことがない。

 

 見慣れたポケモンは、一匹もいない。遠くを飛ぶひこうタイプらしき影に、図鑑を向けても一切反応しなかった。

 

 メブキジカが鼻をひくつかせる。

 

「ブル……?」

「なにか気づいたのか?」

「ブルル……ブル……」

 

 言葉は通じない。だが、メブキジカの表情から、〈季節の流れがどこか歪んでいる〉そんな印象だけは伝わってきた。

 

 足元の草むらを見下ろす。見覚えのない花が一面に咲き乱れていた。薄桃色の四弁花。小さく震える黄色い花。シンオウには存在しない形の葉。見たこともない色合いの野草たち。

 

 どれも美しい。だが、不思議なほど“整いすぎて”いた。まるで自然でありながら、誰かが意図して整えた“作品”のような違和感。ふと、デラシネは風の流れが急に止まったことに気づく。

 

「え……?」

 

 世界全体が、一瞬だけ“こちらの様子をうかがっている”ようだった。

 

「(まるで……誰かに“見られてる”ような……)」

「……きれいね」

 

 背後の空気が、ふっと軽くなる。首の後ろに、ぞわりとした気配が走った。デラシネは振り返れない。先に、ポケモンたちの硬直を感じ取ってしまったからだ。シェイミが小さく震える。

 

「……ミ……」

 

 ノクタスが土を踏みしめて動きを止め、フラージェスの花弁の光がかすかに揺れ、チェリムは不安そうにデラシネの裾を握る。ドダイトスだけが、静かに大地の気配を読むように構えていた。

 

 そして――花が、勝手に開いた。

 

「……え……?」

 

 近くの草むらの花々が、まるで“誰かの通る道を作る”かのように、ゆっくりと左右へ割れていく。葉が、花びらが、蔓が、整列するように退き、奥へと続く一本の道が現れた。

 

「こんな……ありえるの……?」

 

 伝説のポケモンの仕業か。デラシネがそう勘ぐった、その先に――声の主はいた。奥の影が、そっと花の間から浮かび上がる。その姿が輪郭だけを結びはじめた瞬間、デラシネの胸が凍りついた。

 

「(……え? あれ……ドレディア……?いや、形が……違う……。イッシュで見たドレディアよりも背が高くて……花弁が大きく傘みたいに……花のドレス?)」

 

 かつてイッシュでシキジカを追っていたとき、道すがら見かけた“花そのものが歩いている”ような姿が一瞬脳裏をよぎる。だがより近いものとして故郷の古い文献に登場した姿違いが思い当たる。

 

「(ヒスイの姿違いみたいに……地域で姿が変わる可能性も……?それとも……これが、未確認の“メガドレディア”……?)」

 

 図鑑アプリにも反応がない。くさタイプの系譜としては珍しい赤い色主体の新種。ポケモントレーナーとしてこれ以上なく興奮で胸が高鳴っていく。

 

「(……この距離なら……いける……! 憧れのドレディア! 先に観察——いや、ゲットして——)」

 

 緊張でも恐怖でもない。ただ、理解を超えた光景に飲まれていた。気づけば、デラシネの手は無意識に腰のポーチへ伸びていた。“花の姿をした何者か”が、ゆっくりとこちらへ向かってくる。

 

 やることは一つだった。

 

 

 デラシネはフレンドボールをつかった!

 

 

 ボールが放物線を描き、影へと飛ぶ。

 

 コツン

 

 捕獲モーションにすら入らず、転がったボールは少女の足元で――踏み砕かれた。デラシネは硬直した。

 

 よく見ればそれは鮮やかな赤い日傘を肩にかけ、チェック柄のスカートの裾を揺らし、深い緑のベストにリボンをつけ、緑の髪を風に遊ばせていた。

 

「(……あの……ニュースで見たやつ……! たまに“ポケモンの格好をした人間にボールを当ててしまう事件”……あれと完全に同列……!)」

 

 しかし、それどころではなかった。少女は静かに歩み寄る。足音は一切しない。しかし足元の花々は、踏まれる前に自ら避け、道を整えていた。

 

 そしてよく見なくともハッキリと――額に青筋が浮いていた。

 

「……ねぇ、あなた」

 

 やわらかな声。だが、花たちが震える。

 

「これは弾幕ごっこのつもり?それとも、ボールを投げるのは人間の新しい遊びなのかしら?」

「ド、ドッチボールをご存じでない⁉」

 

 少女の瞳が細くなる。

 

 

 ???はこわいかおをした

 

 

 瞬間、花畑ごと空気がしんと冷えた。周囲の花々が、まるで彼女と同調して威圧を放つ。デラシネは土下座する勢いで頭を下げた。

 

「ご、ごめんなさい‼ ちがっ……違うんです‼ お、思わず……花の……ドレディアと……か、かんちがいで……!」

 

 少女はふっと表情を緩め、にこりと笑った。笑みの意図は分からない。だが瞳は確かに興味を帯びていた。

 

 少女は花々の中心から、デラシネたちをしばらく観察する。デラシネの背後、陽気の花を映すチェリムも、悠なる緑を抱くドダイトスも、花弁を纏うフラージェスも、四季を身に宿すメブキジカも、植物の辛抱強さを体現するノクタスも、感謝の花を運ぶシェイミも――すべてを“正確に”見ていた。

 

「外来人が、こんなにも“草の香り”を連れて落ちてくるなんて。珍しいわ。とても珍しい」

 

 その声はやわらかい。だが、底が見えない。

 

「風の気まぐれか、境界の悪戯か……。まあ、理由なんてどうでもいいのよ」

「あなたは……だ、誰……ですか?」

 

 デラシネが絞り出すように問うと、少女は花を撫でるように軽く笑った。

 

「私は花の妖怪。風見幽香。……まあ、覚えなくていいわ。花を愛するなら、それだけで十分」

「……よう……かい? やっぱり……ポケモンなんですか?」

「ぽけもん?」

 

 幽香は小さく肩をすくめた。

 

「いいえ。私はそんな分類で呼べるものじゃないわ」

「えぇ……」

「でもあなたたち、面白いわね。草でも花でもない何かを連れて――でも草や花よりずっと優しくて、迷いながらも、ちゃんと“根”を探している」

「……僕は……」

 

 言葉を続けようとした瞬間、幽香の視線がふいに鋭くなった。

 

「一つだけ、言っておくわ」

「え……?」

「この世界では、花は嘘をつかない。でも、人は簡単に“花を怖がる”」

 

 デラシネの胸が、ざわりと揺れる。幽香は最後に、咲き誇る花の中で静かに微笑む。

 

「さあ、花畑を抜けていらっしゃい。“出会い”はいつだって突然よ。あなたが咲く場所かどうか……私が見極めてあげる」

 

 言葉とともに、花々が風に揺れ、道がさらに奥へと続いていく。幽香の姿は、花の色彩の中へ溶けるように、静かに消えた。

 

 その背中を追うように、デラシネは一歩を踏み出す。花の香りの奥に、まだ見ぬ世界の気配があった。

 

 ――幻想郷。

 

 忘れ去られたものたちが静かに息づく、この世界の名は、まだ彼の胸には落ちていない。

 

 けれど、この瞬間すでに彼は、戻り道のない“物語”の中へ歩き始めていた。




〈登場人物紹介〉
● デラシネ
 出身;シンオウ地方 ソノオタウン
 年齢:14歳
 職業:旅のポケモントレーナー
 功績:ジムバッチ4つ所持

 おだやかでひかえめな性格の少年。
 風と草の匂いが好きで、反対に騒がしい場所は苦手。
 白色のワイシャツに緑のズボンと茶色のサスペンダー、赤茶色のリュックサックを背負い、頭にはピンクの花があしらわれたカチューシャを被る。
 故郷のおまじないで、乾燥させた植物の種をお守りとして身に着けている。
 旅の目的は曖昧で、本人にもはっきりしない。

〈デラシネの手持ち〉

● ドダイトス ♂ Lv.38 ゆうかん
くさ / じめん しんりょく
ウッドハンマー / じならし / かみつく / たくわえる

● フラージェス ♀ Lv.36 おだやか
フェアリー フラワーベール
ムーンフォース / ソーラービーム/ ひかりのかべ / まもる

● メブキジカ ♂ Lv.34 すなお
ノーマル / くさ ようりょくそ
ウッドホーン / スマートホーン / にどげり / にほんばれ

● ノクタス ♀ Lv.37 いじっぱり
くさ / あく ちょすい
タネばくだん / ふいうち / どくづき / ニードルガード

● チェリネ ♀ Lv.31 おくびょう
くさ フラワーギフト
ウェザーボール / にほんばれ / てだすけ / せいちょう

● シェイミ Lv.65 きまぐれ
くさ しぜんかいふく
エナジーボール / やどりぎのタネ / いやしのはどう / なやみのタネ
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