超次元サッカーTS転生者の便乗ヴィクトリーロード   作:アマシロ

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挫折/再起

 

 

 

 

 

 

―――――ああ、そうだ。忘れていたかったんだ。

 

 

 

 

 

「――――真理(しんり)!」

「ああ、雲明」

 

 

「今日は行かせねぇ!」

 

 

 

 浅葱色の髪の少年、雲明が軽やかに蹴りだしたボールは、示し合わせたように駆けだした先の足元に収まる。しかし金髪の少年が、好戦的な――――ひどく楽しそうな顔で立ちふさがる。

 

 

 

「へっへー、雲明がどうやってディフェンスを抜いてこようと真理をマークしとけば問題ないだろ!」

「いや、FWの空宮くんが下がってどうするのさ」

 

 

 

 正直、並の小学生なら――――低学年の今でも――――相手になる気はしないので、空宮しかこちらをマークできないのは事実なのだが。

 

 

 

 

 

「だってお前ら、俺にボール渡させないだろ!?」

「空宮君はまあまあ厄介なので」

「FWなんだから仕方ないでしょ」

 

 

 

 雲明――――笹波雲明は、控えめに言っても天才だ。

 まるで天空から見ているかのような視野の広さ、敵味方の動きのプロファイリング、感情の動きや根性まで計算に入れ込んでフィールドを支配する。

 

 空宮征は、将来有望な少年だ。

 天性のバネ、動体視力や、強敵相手に食らいつける精神性。単純な運動能力だけで雲明に食らいつける。

 

 

 必死こいて駆けずり回って、なんと雲明の指揮を個人技で食い破りかねない存在――――あるいは、彼なら雲明のライバルになり得たかもしれない。

 

 

 

 

―――――自分がいなければ、の話だが。

 

 

 

 

 

「いいよ、空宮。勝負(サッカー)、しようか」

「――――っ、こいっ!」

 

 

 

 

 

 ふっ、と一呼吸吐く。

 ボールを置き去りにしないように優しく足で触れ、重心を右から左へ急転換。すると見せかけて、そのまま右に“飛んだ”。

 

 

「はい残念」

「はああああ!?」

 

 

―――――必殺技、<フェアリーステップ>。

 

 

 

 物理法則もなんのその。瞬間移動の如く残像だけ残し、目にも留まらぬ速さでカッ飛んだ先で同じく飛んできたボールを胸でトラップ。

 

 完全にフェイントに釣られた空宮がずっこけるのを後目に、するりと位置を変えていた雲明にパスし、雲明はそれをダイレクトでゴール前へ。ふわりとDFをあざ笑うように浮いたボールは、駆け込んでいたこちらのFWのヘディングによってゴールネットを揺らした。

 

 

 

 

「ナイスアシスト、雲明」

「……真理もね」

 

 

 

 にやり、と二人で笑みを交わす。

 

 

 

「くそおおおおなんだよそれええええ! 今度はこっちの番だ、いくぞ皆!」

 

 

 

 

 

 半泣きで、しかし強い意志を滲ませる空宮の相手は、嫌いではなかった。

 サッカーは、相手が強いからこそ楽しい。まあ雲明に言わせると「真理の意味の分からないサッカーもまあまあ悪くない」とのことだが。自分程度で驚いていたら超次元サッカーの世界レベルにはついていけないぞ。たぶん。

 

 

 

 

「行くぞ、雲明!」

「そう簡単には行かせないよ、空宮君」

 

 

 

 

 そうだ、この時間がずっと続いて欲しいと、願っていた。

 そうではないと――――知ってしまっていたけれど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 サッカーは大好きだ。

 この世界が所謂「超次元サッカー」の世界だと知った時は大興奮した――――。雷門中、円堂守たちイナズマイレブンの活躍が自分の生まれる前だと知った時は軽く絶望したが、それでも必殺技やらが消えてなくなるわけでもない。

 

 

 

 

――――幼馴染が、笹波雲明だった。

 

 

 

 

 正直なところ、迷った。

 彼がサッカーのことで苦しんで、苦しみ抜いて、それでも諦めきれずに立ち上がろうとすることは知っている。

 

 なんとかサッカー以外のことに興味を持てないか、試しては見たのだが――――無理でした。

 

 

 

 ので、しょうがないのだ。

 雷門を倒し、一気に駆け上がっていくヴィクトリーロード。そこに便乗させてもらうことに、一切の問題は――――ない!

 

 

 

 

 熱いバトル! 青春! 俺たちの超次元サッカーはこれからだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 笹波雲明は、サッカーが無くなってしまえばいいと思っている。

 

 サッカーのことを調べた、自分の病気を調べた、何か手段がないものか、死に物狂いで足掻いた。足掻いて、足掻いて、どうにもならなくて――――。

 

 

 

 ボールを取ってくれ、と言う子どもに背を向けて歩き出した。

 

 

 

 

 

 南雲原中学――――自由な校風が売りだが、サッカー部は存在しない。そう調べ、だから選んだ。それなのに。

 ボロボロになり、落書きされたボールが転がっているのを見て心が疼く―――何ならサッカーボールの幻影すら見える気がする。

 

 病気の関係で数日遅れの新入生になってしまい少々悪目立ちはしたが、気にするほどでもない。

 

 

 

 

「あ、遅いよ雲明。ご飯は持ってきた? 食堂はけっこう混むけど」

 

 

 

 

 

――――――星空真理。すっかり伸びた白い髪、妖精のような幼馴染は、女子用の制服を身に纏って立っていた。

 

 

 

 

「真理………本当に女の子だったんだ」

「え、そこ?」

 

 

 

 彼女との関わりは、一言では言い表せない。

 幼馴染ではあるのだが、サッカーでは無二の半身と言って良かった。

 

 天性の身体能力を誇る彼女と、自分の指揮が加われば敵わない相手なんていない――――どんな強敵にも勝ち抜いて見せる、と思えたのはもう昔の話。

 

 

 サッカーでつながった絆は、サッカーを失ったことで立ち消える――――そうなるはずだった。実際に、空宮君とはもう会っていない。

 

 けれど、幼馴染との出会いにサッカーは関係がなくて。

 誰よりも楽し気にフィールドを駆け抜けていた彼女は、何を思ったがサッカーのサの字も言わず、ひどく当たり障りのない―――音楽とか、漫画とか、ゲームとか、そういった話題で気を紛らわそうとしてきた。

 

 それは、サッカーがやりたくてもできない自分にとってはひどく目ざわりで――――大喧嘩の末に、元の幼馴染という関係に落ち着いたのだが。

 

 

 

 

 

 周囲の南雲原生たちの視線をくぎ付けにする、幼さと美しさが同居しつつある美貌を気にも留めない幼馴染は、いたずらっぽい笑みを浮かべた。

 

 

 

 

「ははぁん、鞄が重いなら持ってあげようか?」

「……いいよ、流石にそこまで弱ってない」

 

 

 

 口調は軽くとも、心配性なこの幼馴染は本気で心配していることは解っている。そこを指摘しても絶対に認めないし、本人は隠せているつもりのようなので指摘しないでおく程度の情はあった。

 

 

 

 

 

「そう? じゃあ行こうか」

「はいはい」

 

 

 

 

 ちらり、と幻覚のように見えるサッカーボールに目線をやり。

 同じ場所に目線をやった真理も何かを察したのか僅かに目を細めて。

 

 

 

 

「ただでさえ数日も遅れてるんだし、そろそろ行こう?」

「そっちは僕に何とかできる範囲じゃない」

 

 

 

 勝手に手を引かれ、周囲から黄色い声やら怨嗟の声やらが上がるが、そのあたりは慣れたものである。自衛手段がレスバしかないので無駄にレスバ能力が鍛えられたけれど。

 

 

 

 

「風紀委員だ! その髪型は――――」

「ごめん、急いでいるんだ」

 

 

「あ、はい。すみません」

 

 

 

 無表情な幼馴染のドライな声に、美人は怒らせると怖いとか言いますね、そういえば。などと割と余裕のあることを考えつつ。

 

 

 

「一体どうなってるのさ、ここの民度は。目と目が合ったらバトルが始まるなんてポケ〇ンより酷い」

「そんなもんじゃない、中学校なんて」

 

 

 

 

 とんでもなく目立つ幼馴染がいるせいで、こちらとしてはそのくらい日常茶飯事だ。

 

 

 

 

 

「うわぁ、雲明のドライっぷりには流石の私もちょっと引く」

「真理は意外と他人想いだからね。大方、もう何人か助けて惚れられたんじゃない」

 

 

 

 

 主に女子から。

 そう付け加えると、自称「クールで知的」な幼馴染は目をまんまるに見開いてから悔し気に口を尖らせた。

 

 

 

「なんで分かるのさ……女子からモテるなら前世でモテたかったよ」

「諦めた方がいいと思うけど?」

 

 

 

 サッカーへの複雑な思いに支配されている雲明からしても、幼馴染が大変な美少女なのはよく分かる。本人は、こうして軽口をたたくのが好きなのであって「趣味じゃない」と誰に告白されても一刀両断しているようだが。

 

 

 

 

 

「ところで雲明、私たち同じクラスだよ」

「それ、僕の持病の関係だろ」

 

 

 

 

 小学生の時は「これって運命だよね」とかドヤ顔決めていた幼馴染であるが、最近はさすがに収まった、ようなそうでもないような。少なくとも自分で言わない程度にはなった。

 

 

 

 

「うわぁ、にべもない」

「意味、ちゃんと知ってる?」

 

 

 

「愛想が無ーい?」

「真理も人の事は言えないと思う」

 

 

 

「そんな……私はこんなに幼馴染を心配してるのに……ボッチにならないか……私のファンに袋叩きに遭わないか……」

「微妙にありそうだからやめてほしい」

 

 

 

 

 そんなことが起こりそうになると、意味不明な速度で幼馴染がカッ飛んでくるので基本心配はいらないのだが。レスバに関してはニヤニヤして見守るだけなので基本的に役に立たない。まあ、そんな必要もないというのも大きいのだけれど。

 

 

 

 

 

 まあ、本人は絶対に認めないが情が深く――――優しい幼馴染だ。

 

 

 

 

 

 だから、我慢ならなかった。

 サッカーボールをあまりにも杜撰に扱うのも――――それを見た幼馴染の、苦し気な顔も、何もできない自分自身も―――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――勝負しましょう、サッカーで」

 

 

 

 

 

 

 

 

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