超次元サッカーTS転生者の便乗ヴィクトリーロード 作:アマシロ
失踪する前に書きたい部分を完走すれば良いことに気づいたので本日2話目です
「いよいよ初戦だ。一歩一歩前に進むしかない――――けど」
どうやら円堂ハルが来ているのは確定らしい。
千乃会長がくれた情報は、かなり大きい。会長が他の部活にも呼び掛けたことで、サッカー部は練習相手にも不足しなかった。万全の準備ができたと言っていいだろう。
百道さんが調べてくれたデータも、千乃会長が整理することでより見やすくなっている。コーチとしても監督代理としても特に実務面で会長は有能で、監督とコーチとキャプテンとかなり増えそうだった負担が軽減されていた。
実際、電車で行く予定だったところバスを手配してくれた。現状では香澄崎先生が一番助かっているみたいだが、まあそれもサッカー部のために重要な貢献……というか、自分としてもとても助かっている。
「相手の監督の性格は小心、復活したばかりの南雲原を甘く見ていること、円堂ハルと月影蓮をもてあましている――――怪我でもさせたら困ると練習内容を絞っている情報は手に入った」
3点差、おそらくそのくらいの差があり。
南雲原に打つ手がなさそうであれば無駄なリスクを防ぐために雷門の二人を下げるだろう。……だが、それはあまりにも博打だ。
「……相手監督の情報は完璧じゃない。そして恐らく、千乃会長の妹は気づく」
情報が、データが足りない。
発言力はどの程度だ? そもそも二人が派遣された本当の目的、派遣要請の狙いは?
例え円堂ハルと月影蓮が相手でも、僕と真理なら――――――。
苦しい。サッカーが、したい。
二人でなら、どんな相手にも負けないのに―――――。
「ダメだ。考えるな――――今ある手で、最善の手を選び取るんだ」
日本一を、目指すと誓った。
皆の、真理の、サッカーへの想いを、僕が背負っている。
………
……
…
試合会場への到着は、余裕を持って完了した。
借りておいた一室を使って、試合前のミーティングを行う。
「作戦は二つです。まず相手監督が小心で円堂ハル、月影蓮という超大物を持て余していること――――練習も怪我しないよう細心の注意を払っていることから、ある程度の点差があれば後半は彼らを下げるだろうという想定で動くプラン」
「それってつまり」
「円堂ハルとの直接対決は避ける、ってわけか」
木曾路君、桜咲先輩もすぐに気づいたのかやや不満げではあるが、納得はできるというところだろう。あらかじめ円堂ハルのデータは共有してある。
「でもそれ、もし下げなかったら――――」
忍原先輩が不安げに呟く。そう、不確定要素に頼りすぎている。
「……僕の、そして千乃会長、百道さんの集めたデータを総合すればかなり高い確率―――8割程度は、想定通りに動くと思います」
少し盛った。実際は7割程度だろう。
「もし失敗すれば、我々は大きな点差というハンデありで円堂ハルと戦わなければならない――――ということか」
「ええ、四川堂先輩の言う通りです。その場合、勝ち目はないに等しくなる」
「……もう一つのプラン、教えて貰えるかしら」
千乃会長の促しに応え、る前に大きく息を吐く。
「―――――真っ向勝負です」
「………えっと、それだけ?」
「基本は。初手で動くだろう円堂ハルの攻撃を真理が全力で防いで、全力でカウンターします。桜咲先輩か、忍原先輩に直接渡るのがベストだけど。月影蓮がいない側のサイドに向かって木曽路君や柳生先輩たちMF陣に死ぬ気で前に運んでもらって先取点を取ります」
正直なところ、助っ人の二人さえいなければ後半だけで3点差くらいは弾き返せるだろうくらいに、皆のスペックは高い。
古道飼君を中心にDFでブロックラインを作り、真理が円堂ハルを―――必要な時に月影蓮も抑える、という無茶が通せるのなら。勝機はある。
――――そんな無茶を、大きなブランクのある真理ができるのなら。だけれど。
「……ボールさえ届けば、俺と忍原が絶対に点を取る」
「まっかせといてー!」
「おう、なんとしても届けてやるぜ」
「ぜ、全力で繋ぐ!」
「………僕も、頑張りたい…!」
個々の力は、南雲原が勝っている。
当初の環境からは考えられないくらいに―――素晴らしい仲間たちが集まってくれた。
千乃会長が、ここで前に出て――――頭を下げた。
「「「会長!?」」」
「……皆さんの努力は、見届けさせてもらいました。間違いなく、雷門中の力を除けば西ノ宮より、皆さんの方が勝っていると――――そう確信しています」
「「「………」」」
「私は、いつも妹に負けてきた。どれだけ努力しても、どんな分野でも、どれだけの時間を掛けても、あっさりと。妹に勝ちたい、その気持ちだけで笹波君の口車にのせられてここまできたけれど。………南雲原サッカー部に、少しでも関われたこと……誇りに、思います」
「かいちょ――――」
「――――だから! こんなところで終わらないように! ここまでの逆境を跳ね除けてきたあなた達には、確かに誇るべき――――サッカーへの想いがあるのだから」
「会長~! 絶対勝つからねー!」
「…ま、受けた恩の分は働くぜ」
「まぁその、俺らも日ごろ迷惑かけてる自覚はあるしな……」
先輩たちが盛り上がっているのを後目に、木曾路君と古道飼君はこちらを不安げに見てくる。
「正攻法か、搦め手か――――」
「どうすんの、雲明……」
「真理」
「うん」
言葉は、端的だった。
「やれる?」
「“私たち”なら」
いつもと違う、真理のニュアンスに顔を上げると。
“私たち”が僕を見ていた。いや、僕も含めて、ここに居る皆の心は、きっと一つだった。
興奮、不安、期待、心配、熱気、色々な気持ちがあるけれど。
……そうか。そうだった。
もう、一人でも、二人でもない。
「決めました。作戦は―――――」
――――――――――――――――――
『――――さあ、少年サッカー最大の祭典。日本の王者を決めるフットボールフロンティア。その地区予選・九州大会第1回戦。南雲原中 対 西ノ宮中の対戦となります』
『実況は私、田部達治がお送りいたします。そして解説には実況界のレジェンド、角馬圭太さんをお迎えしております。角馬さん、よろしくお願いします』
『よろしくお願いします』
「お願い、私にできるのは、ここまでだけれど―――」
ベンチに立ち、相手ベンチで手を振る妹に辛そうな表情の会長。
「負けられねぇ理由が、また一つ増えちまったな」
「桜咲先輩」
「どっちにしろ、負けるわけにはいかねぇんだ――――楽しむしかねぇだろ?」
「そうそう! 盛り上がって、いくよ~!」
柳生先輩はどこか落ち着かせるような声音で。
忍原先輩は元気づけるように明るく声を出して。
『雷門中の重要な二人が西ノ宮中に参加した今、南雲原中はどう立ち回るのか。注目です』
「じゃあ、行こう――――雲明」
真理と試合前にいつもやっていたサイン。
突き出された握りこぶしに、同じように返す。
『――――サッカーって、楽しいね。雲明―――!』
『私が取った、雲明が取らせてくれた点――――だから、私たちの点だよ』
『――――貴方のサッカーを、私も一緒に探すから』
いつだって、傍にいた。傍にいてくれた。もう、隣には立てないけれど。
それでも『私たち』で戦うと語り掛けてくる。
『――――さあ、いよいよキックオフです! 最初に仕掛けるのはどちらか。そして雷門中の二人はどう動くでしょうか』
「蓮さん!」
「ハル、速攻で行くぞ」
月影蓮が、円堂ハルにボールを渡してスタート。
柳生先輩、古道飼君のディフェンスを軽々と躱し、散歩するような気軽さでゴール前へ。
「――――ひとつ」
ボールを蹴り上げ、身体の捻りを伝える――――何気ないようで、超絶技巧の凝らされた一撃。
速さが違う。
四川堂先輩が技を出す暇もない。果たしてアレは、雷門中のGKでも止められるのか―――――そんな一撃に、割り込む影があった。
アロンダイト
白い髪の妖精が、蒼いオーラを纏った脚で貫く。
爆発したような音とともに、円堂ハルが放ったボールが弾き返され――――頬を掠めて、センターラインをやや越えて、敵陣の左に『突き刺さった』。
「―――――ハ」
円堂ハルが、目を見開いていた。
何か信じられないものを見たような――――その顔が笑みに変わる前に、叫んだ。
「――――カウンターだ! 戻れ! ―――――蓮さん!」
『な、なななんと! 撃ち返した! 円堂ハルのシュートを南雲原中の13番、星空選手が撃ち返しました! ボールはセンターラインを越えて西ノ宮中陣地へ!』
「あま~い! このボール貰った!」
突き刺さったのは想定外とはいえ、おおよそ狙い通りの位置。
忍原先輩がボールを確保し、動揺している敵陣を切り裂く。木曾路君が月影蓮のマークについている、忍原先輩の速度に、西ノ宮は追いつけていない―――!
「―――――いっけぇ!」
サイドを駆け上がり、さすがにゴール前には相手DFが城壁をつくるが――――蹴り上げられたボールは、大きく弧を描いて逆サイドへ。
『これはシュートか!? いや、パスだ!』
「――――――悪いが、ここは決めさせてもらうぜ!」
―――――剛の一閃!
桜咲先輩が飛び上がり、あの時――――柳生先輩にボールをぶつけたあの時のように、いや、それよりも遥かに威力を増して、ボールを撃ち放つ。
円堂ハルには劣るだろう。
けれども、紛れもなく10万人に1人の才能! 天性の脚から放たれたボールに、キーパーはほとんど反応できず。ボールはゴールネットに突き刺さった。
『ゴ、ゴォォォーーール! 決めた! 南雲原中が先制! なんとシュートをシュートで返しての電撃的なカウンターから得点が入りました!』
『素晴らしい初動、完全に読んでいましたね。ここからどう動くのか目が離せません』
「……すごい」
ふと、隣の千乃会長がこぶしを握り締めて小さな声で呟いていた。
こちらの視線に気づくとすぐにそっぽを向いてしまったけれど。
「っ」
「……笹波君、何かおかしなことでもあったかしら!? というか、仲間の先取点に何か言う事があると思うのだけれど!」
「いえ。まだダメです。まだ、悟られるわけにはいかない――――」
ただ、拳を突き上げて笑顔を浮かべる桜咲先輩に、同じく笑顔と拳で返した。
「勝負だ、円堂ハル―――――いや、西ノ宮中!」
―――――――――――――――――
ハルのシュートを弾き返しての、完璧なカウンター。
雷門のキャプテンとしては――――雷門中であれば防げたカウンターだ、と考えてしまう心を今は鎮める。
想定外に南雲原中の動きがいい。西ノ宮も、欠点がなくまとまったチームではあるが……尖り切った個性が調和するような、そんな奇怪な何かを感じるような。
「ハル、立て直すぞ―――――ハル?」
「……なんだ、アレ」
頬を押さえていた。
ボールが掠めた、その確かな熱を。駆け抜けた蒼い閃光を感じていた。
(ハルが、笑って――――)
「なんだろう、この気持ち―――――蓮さん。もう一回、勝負させて下さい」
本人は自覚しているのか、いないのか。
これまで放っていたプレッシャーが、怠惰に垂れ流されていた―――余波のようなものでしかなかったと。
蓮ですらビリビリと肌を震わせる感覚に、あの一撃は間違いなく眠れる竜を叩き起こしたのだと、蓮は確信した。
(――――まさか、こんな収穫があるとは―――――感謝するぞ)
どんな相手でも―――――本気になった円堂ハルに、勝てない相手はいない。