超次元サッカーTS転生者の便乗ヴィクトリーロード 作:アマシロ
『――――南雲原が驚異的なカウンターで一点を先制し、再び西ノ宮ボールでキックオフです! いやぁ、角馬さん! 驚きの展開でしたね!』
『はい。まさかの円堂ハル君のシュートを撃ち返してからの速攻―――南雲原は同じく雷門中の月影君を徹底マークし、サイドチェンジで西ノ宮DFを翻弄。桜咲君が見事にゴールを奪いました』
『さあ、ボールを持った円堂ハル選手―――――おおっと!? ここで先ほどゴール前の守備についていた星空選手が立ちはだかるぅぅ!』
『マンマークでしょうか。更に月影君に対しても強いマークがついています』
――――――動けなかった。
油断していた、それはあるだろう。
けれど、自分が放ったシュートよりもそれは――――”熱かった“。
自分の知らない『何か』が込められたそれが、頬を掠めたそれが、自分の中の何かを震わせている。
目の前に立ちはだかる少女は、決して大きくはない。
普通より、やや小柄。なのに、感じるプレッシャーは――――大きい。これまでに対決した、同年代の誰も比較にならないくらい。
「ははっ。……やばいかも」
「―――――」
ハルのサッカーセンスが、『確実に勝つならパスをしろ』と訴えている。
けれど熾烈なマークがついている蓮さんにパスするのは、恐らく悪手。完全に封じられている。そして西ノ宮の選手なんて、全く分かっていない。
雷門の選手なら、ある程度の実力は分かる。
けど、ロクに合同練習もできていない他所で対決するには圧倒的な情報・連携不足。
――――確実に勝つ手段は、ない。これまでにない経験。
(なのに、なんでだろうな――――)
知らず、口角が上がる。
冷めきった心に、
仲間がいない? 強敵が立ちふさがっている?
どうすればいい? 答えは決まっている。
「――――勝負だ!」
ドリブル突破――――真っ向勝負。
ドリブル技は、使わない。というか、必要になると思わず何も用意していない。
ボールは、思い通りに動く。
身体も、少し練習に身が入っていなかったからかベストではないが全く問題ない。
右にフェイント、左に行くと見せかけて、右――――!
意識はしていなかったが、それはかつてU-15で空宮征を抜いた時に酷似した動きであり――――完全に見切っていたかのように、ぴったりと同じ動きで追従してきた少女と距離が詰まる。――――抜けない!
最適解は―――やはりパス。
が。雷門なら間違いなくフォローに入ってるだろうにパスコースには誰もいない。南雲原は唯一なんとか動こうとしている蓮さんを徹底的に封じる動き。
――――俺が、やるしかない。
追い詰められている。
負けるかも?
いや―――――。
「勝つのは―――――俺だ!」
ヒールリフト。
ボールを浮かす。そこから強引に空中で必殺シュートの体勢に入ろうとして――――全く同じタイミングで、相手も舞い上がった。
「―――――ひとつ!」
「―――――ファイアトルネード!」
―――――威力は、ほぼ互角。
ボールを通して、何か熱いものが伝わってくる。
楽しさ? 不甲斐なさへの憤り? 負けたくない――――勝ちたいという、渇望? 知らない気持ちだ。
―――やばい。楽しい、かも。
「「おおおおお―――――ッ!」」
僅かに押し勝てる――――そう思った瞬間、“受け流された”。
ボールはゴールから大きく外れた南雲原陣地サイドに突き刺さり――――やたらと機敏かつ大柄な選手のすぐ近くに着弾。おろおろしながらも凄まじい速さで上がっていく。
「くっ――――」
雷門なら、一人で止められただろう。
拙くも速さのあるドリブルに、守備が得意なわけではない西ノ宮のMFではディフェンスが追い付いていない。
ようやく追いついたかと思えば、南雲原MFへのパスコースがフリー。
「―――――木曽路君!」
「うし! ――――柳生先輩!」
「っしゃあ! 任せとけ!」
―――――ま、だだ!
必死に戻る。
が、あざ笑うように視界に白い少女が入る。
「――――遅い」
「ぐっ」
負けてる――――速さで!?
飛ぶように駆ける少女は、自分より速い。
強引にマークを突破して、ディフェンスに戻った蓮さんが、なんとか相手の金髪MFからボールを奪おうとする逆サイドから―――少女、白い妖精がボールを受け取る。
「柳生先輩、ナイスファイト」
「おう! 任せた!」
でも、まだ! まだ追いつける!
相手の意識外からのボール奪取。奇しくも得意技を発揮できる状況になり、サイドからスライディングでボールを奪おうと―――――。
―――――それを、一瞥さえせずヒールリフトで回避された。
「―――――なっ」
「忍原先輩」
強いボールがサイドに飛ぶ。
パスにしては強い、シュートにしては弱い。
そこらの選手なら反応できないだろうそのボールに対して、南雲原の女性FWは踊るような回転で応じた。
「行くよ! ぐるぐる――――シュート!」
「スウェットスティルネス!」
GKがキーパー技を発動させるが、強い回転がかかったシュートはその手をすり抜けてゴールネットを揺らし。
『―――――ゴォオオオオル! なんと南雲原、二点目! こぼれ球からのカウンターが炸裂しました!』
『南雲原DF、古道飼君の俊敏な動き、MF木曾路君の見事な位置取り、同じくMF柳生君のドリブルと、あの月影君にも怯まないキープ力――――星空君のカウンターの速さに、見事な回避。忍原君の見事なシュート――――芸術的なカウンターでした』
『なんという展開! 雷門中から二人を迎え、圧倒的に優位かと思われた西ノ宮でしたが、南雲原は二人を徹底マークする作戦と見事な連携カウンターで2点先取! 2-0、再び西ノ宮ボールで再開です!』
――――――――――――――――――
月影蓮は、言い知れない気味の悪さを感じていた。
なるほど確かに、あの少女の動き――――特に速さに関してはハルすらも上回るかもしれない。だが、全ての動きが見切られているかのような――――。
確かにハルは、その有名さ故にデータも多い。
本人もさして苦労なく抜けてしまうことから特別なドリブル技なんて磨いていない。
だが。視界の外から強襲したハルを見もせずに回避したのはどういう理屈だ?
どうしてああも容易くカウンターが通る?
いや、それよりも西ノ宮の選手の動きの悪さは尋常ではない。彼らは平凡であっても無能ではない。……まるで、ほとんどない弱点までも、徹底的に分析されているかのような封じられ具合は、強豪校でもない彼らにとっては初なのかもしれないが。
―――――違う! このフィールドを作っているのはあの少女ではない!
監督―――いや、ベンチにいるキャプテンか!?
しかし蓮は迷った。
本人の自覚はともかく、楽し気に笑うハルの邪魔をしていいのか―――――雷門のプライドを守らなくていいのか――――。
このまま行けば、ハルが勝てたとしても試合には負ける。
そんな直感がある。
だが。
『――――最近、サッカーやっててもそこまで楽しくないですし』
(――――仲間とプライド、どちらを選ぶかなど……)
敵ベンチのキャプテンと、目が合った。
真剣な目だった。何かを見定めようとするかのような――――。
目先の勝利に拘るなら、この状態に甘んじるべきではない。
だが――――。
「――――円堂ハルが、お前の……俺たちの想定に収まると思うなよ」
――――――――――――――――――
『ここで前半終了のホイッスルです! 得点は2-0のまま! 円堂選手とまさかの伏兵、星空選手がほとんど互角の戦い! 危うい場面は幾度もありますが、南雲原は的確なフォローでゴールラインを割らせません!』
―――――しんどい!
最初の舐め腐った円堂ハルのシュートにちょっとイラッと来てついファイアトルネードを撃ってしまったのが良くなかっただろうか。
ギアをどんどん上げてくる円堂ハルに抜かれる回数はどんどん増えてきている。雲明がサインを出して指示をくれなければ無失点で切り抜けることはできなかっただろう。
鈍った身体は息が上がり、感じたことのほとんど無かった疲労を感じる。
けど、それでもチームは勝ってる。
雲明が、雲明の指揮が勝ってる。
「……真理、まだいけそう?」
サッカーで不安げな雲明なんて、初めて見たかも。
それがなんとなくおかしくて、くすっと微笑んでから言う。
「雲明の指揮のお陰で、なんとかね」
「さっすが真理、あの円堂ハルとほぼ互角じゃん!」
うん。勝手に名前で呼ぶなと言いたいけど一応空気的に許してあげよう木曽路平左衛門。
「ふっふっふ! 真理ちゃんのパスのお陰で私もシュート決めちゃったしね!」
忍原先輩は癒し…。
「油断するなよ、真理の負担を少しでも軽くするためにも俺らが点を取るんだ」
桜咲先輩、なんでその男前ぶりで不良やってたんですか?
「だが、ここまでは予定通りだろう。雲明、真理、お前らのお陰だ。あと亀雄! お前よく走ってたな! 良かったぞ!」
「うんうん、ナイス亀雄!」
「あ、ありがとうございます!」
柳生先輩! そう! 雲明をもっと讃えて! あと亀雄ももっと褒めて伸ばそう。
「……私には信じることしかできないけれど。応援してるわ」
………誰!? 千乃会長の偽物か!?
熱でもあるのかとおでこに手を当てると、ジト目で見られた。
「熱でもあるんですか、先輩?」
「生憎だけど、平熱よ」
「あ、本物っぽい」
「なんで偽物だと疑われてるのかしら!?」
皆でひとしきり笑った後、自然と視線は雲明に集まる。
「……皆、これで最低限の勝利条件は整った――――けど、円堂ハルをマークしきれるのが真理しかいない以上いつ突破されても不思議はない」
「円堂ハルは、本調子じゃない。……本調子じゃ、なかった。急激に調子を上げている」
恐らく私と雲明だけが確信していたそれに、南雲原メンバーが息をのむ。
「けど、百道さんが集めて、千乃会長が纏めてくれたデータのお陰で西ノ宮の選手は圧倒できている。勝つために、あと一点――――あと一点あれば、守り抜ける」
「とはいえ、敵も無策では来ないと思います。ブロック・ザ・キーマンで月影蓮を完全に封じ込んだ現状、恐らく打ってくる手は一つ―――――」