超次元サッカーTS転生者の便乗ヴィクトリーロード 作:アマシロ
―――――竜とは孤独なものだ。
運命の相手、とか。
焦がれた人とか。そういう例外なんて、そうはいなくて。
やろうと思えばなんだってできる。誰にも負けないし、比較にもならない。竜だから。
そんなのがヒトに混じっていたらさ、変だろう?
他のヒトたちが地面を走っている中、戦闘機がいるようなものだ。
限界までのろのろ徐行して、加減して。はじめは圧倒するのが楽しくても、じき飽きる。
けれど空を飛ぶことは好きだから。
ただ茫洋と、漫然と、空を見ていたんだ。
そしてある時、目にした。
―――――サッカーという
『――――――!』
彼の言っていることはまあ、専門用語とか、いわゆるサインみたいなもので。
何を言っているのか分かりはしなかったけれども。自分からすれば雛鳥みたいな飛行だけれど、彼の指示で羽ばたく姿は――――綺麗だな、と。そう素直に思えたんだ。
ねぇ、君もそう思ったんだろう?
―――――ああ、きっと。死んでも忘れないだろう。
―――――――――――――――――
なんやかんやで、ハルの滞在も明日まで―――。
現状の南雲原の情報はまあ渡ってしまうが、それを置いておいても円堂ハルという超一級の選手と競い合える経験を、多分南雲原の皆ならモノにしてくれると思う。
というかぐんぐん伸びている。
「もうちょっと負荷をあげましょう」と言ったら悲鳴が上がったのが今朝の事。
で、休み時間。
即座に僕の机に集まってくる真理、そして木曽路。いつものメンバーである。
真理は眠そうにしながら、木曾路はまあいつも通り……距離を測りつつ盛り上げようとしてくれている感じだろうか。
「でさでさ、結局雲明と真理ってどんな関係なわけ?」
「いや、どんなって言われても。サッカーでは相棒だったけど……幼馴染?」
なんとも微妙な関係だけれど。
(――――あんまり楽しそうじゃなかった、なんて喜ぶべきじゃないな)
二人でサッカーをしていた時、試合中でも終わった後でも大はしゃぎしたものだったけれど。この前の試合ではかつてない強敵、円堂ハルと戦った――――二人でなら、間違いなく最高に楽しいサッカーになっていただろう。前のミニゲームもそうだ。
それだけ自分とのサッカーを楽しんでくれていたのが嬉しくもあり、それゆえに現状が悔しくもあり。
「――――どうしたの雲明、まるで私があんまり楽しそうじゃなかったみたいな深刻そうな顔して」
「……分かってても口に出さないでほしいんだけど」
勝手に感情を読まないでほしい、のはお互い様だとして。
言わなくていいこともあると思う。
なんとなく気恥ずかしくなるが、真理は素知らぬ顔で肩を竦めた。
「だって、『私たち』――――南雲原サッカー部、はっきり言ってまだまだだし」
「う゛っ」
流れ弾を受けて木曽路が大袈裟に机につっぷす。
……いや、木曾路は『サッカーを少し齧った』なんてレベルじゃなく動けてるんだけど。はっきり言ってしまえば、ブランクのある桜咲先輩や柳生先輩、素人の古道飼君や忍原先輩よりも頼れる。
「『雲明のサッカー』をやるには足りないものが多すぎ。あとまあ、もう一つ理由はあるんだけど―――」
「…?」
ちょっと躊躇うような、あるいは心配、申し訳なさのような――――なんとも微妙な表情になった真理は、こちらを見て「まあ、おいおいね」と呟いて。
気にはなったものの、だいたいこういう時は絶対に言わないのを知っているので、木曽路との「えー、気になるんだけど!?」「おいおいねー」のやり取りを聞き流しつつ、次の試合の相手、それに対抗するために必要な能力、そしてそれに必要な特訓メニューと、順番に頭の中で組み立てていった。
………
……
…
――――南雲原サッカー部の特訓は過酷である。
まずは小手調べに百目階段。
持久力、足腰の強さはサッカーの基本。体力がなければサッカーはできない。かなり過酷なスポーツだ。
一見するとあまり動いていないように思われがちなDFだって、DFラインを下げてしまうとオフサイドなしで相手のロングパスが通ってしまうリスクになる。FWもそのDFラインの変化に対応しつつ、なんとかパスを受け取れる場所を探し続ける。
スタミナ勝負。そこが土台になる。
続けて海坊主に妨害されながらのドリブル練習。
ボールに慣れないと話にならないのがサッカー、どう蹴ればどう動くか、常に脚にボールを馴染ませないと、ちょっとした狂いが試合では命取りになる。
そして定番の鳥かご練習。
ボールをパスする多人数と、ボールを奪う少人数に分かれてパスとパスカットをする練習である。
例として、柳生先輩、忍原先輩、木曾路が三角形になるようにグラウンドに立ち。その三角形の中心に桜咲先輩が立ってスタート。この三角形が狭いほど難易度は上がるが、最初はまあそこそこ程度で。
この場合は桜咲先輩が鬼役になってボールを奪おうとし、残りの三人はパスを回してボールを奪われないようにする。奪われた場合は鬼を交代する。ごくシンプルだが、これができないとサッカーにならない。
ちなみに大きくその場所から動いてしまったり、パスが悪すぎて味方が受け取れなかった場合はパスを出した側が鬼になる。
これがやってみると想像以上にシビアかつ実践的なのだ。
「―――はいパス!」
「うわ危なっ!?」
「チッ!」
忍原先輩はまだまだコントロールが甘い、けど瞬発力と脚力、咄嗟の体幹のバランス力と、ダンスで鍛えられた能力が活きている。そして桜咲先輩の動きも見つつパスを受けられるように対応できている木曾路はもっと自信を持っていいと思うのだが。
そう、自信。そこだけが課題。……心の問題ばかりは、難しいけれど。
「あ、ごめーん!」
「おう木曽路、今度はこっちだ!」
「させるか!」
柳生先輩は、なんというか学校の人気者だったのも納得のリーダーシップがある。フィールド上、前線でのまとめ役を任せられるだろう。
桜咲先輩は、あの脚なら今のボールは取れても良かったと思うのだけれど――――やはりブランクの影響は大きいか。
その後、交代で入った古道飼君があまりにもDFとして強すぎて4対1に変更になったり、四川堂先輩もかなりの瞬発力を見せてくれたので5対1になったりした。
真理? 真理はまあ、気にするだけ無駄である。
ブランクがあっても円堂ハルとほぼ互角――――自分からすれば世界最高峰の才能だと信じている。
多少無理なボールで楽々とトラップ(ざっくり言うとボールを足で止める・コントロールすること)し、楽々とパスを通す。何なら受け取る側の練習になるようにわざとギリギリのところを狙って見せる余裕すらある。
取れなくて鬼役になった場合、まさしく鬼になった。
限界ギリギリまで追い込み、必死で頑張ればなんとか振り切れる程度になるよう調整して、ミスは容赦なく咎めていく。
最後の5対1になるまでは交代で休憩している間に百道さんも交えて改善点を詰めていた。身体は休憩させなければいけないけれど、頭には常にサッカーがあるくらいでいい。
他にも海坊主リフティングやタイヤを使ったシュート練習、身体を酷使した後はうどんを食べる。
もちろん休息も重要だ。なのだが――――。
その間も頭は使う。というわけで、作戦会議だ。
「で、北陽学園はパーフェクトサッカーとか言われてるんだっけ?」
「おい」
「? どうかした?」
「てめぇ、雷門のだろうが。なにしれっと混ざってやがる」
サッカー部部室にしれっとハルも紛れ込んでいるけれども。
真理はもう諦め顔であるが、桜咲先輩はしっかり注意する。やはり根が真面目である。なんで不良やれてたのだろうか。
「いやー、雷門だと全部蓮さんに任せてたからさ。興味本位?」
「興味本位で敵の作戦会議に乗り込むんじゃねぇ!」
「実際に敵じゃないからね。今のままなら、だけど」
「ぐっ」
実際、練習でもハルの動きは傑出していて。
真理以外では相手にならない。互いに本気でないとはいえ、ハルと真理は現状パワーではハルが、スピードでは真理が有利だろうか。ハルにボールを持たせなければ勝ち目はあるが。真理以外でハルを止められないのに真理以外は雷門メンバーに一枚も二枚も落ちるだろう。
「けれど、皆も才能、センスにおいては決して雷門に劣っていない」
「それは確かに」
まさかのハルのお墨付きである。
とはいえ、ハルからすれば全員が五十歩百歩なのかもしれないけれど。
「でも正直、現状まま雷門と戦ったら百回やってもウチが勝つと思うけど」
「まあそれが妥当な予測。だから、北陽戦はただ勝つだけじゃ足りない」
「へ? それってどういうこと?」
「もしかして大量得点で勝つとか!?」
不思議そうな木曽路、いいテンションの忍原先輩には申し訳ないが、そんなに良い話でも無い。
ちらりと真理の方を見ると、気にしなくて良いよ、とひらひら手を振りながら言った。
「いいよ。特等席で見させてもらうから」
「え、どういうこと!?」
「次回の北陽学園戦ーーー皆には、真理抜きで勝ってもらいます!」
「「「ええーーーーっ!?」」」