超次元サッカーTS転生者の便乗ヴィクトリーロード 作:アマシロ
『――――許せるんですか、桜咲先輩は!?』
確かそんな感じだったと思う。
柳生先輩がサッカーボールをバットで打って、ズタボロのサッカーボールが転がって。桜咲先輩の天性の才能と、サッカーへの想いを感じ取って(調査して)いた雲明が胸倉掴んで叫んで、それに桜咲先輩が応える。そんな感動的なシーンだったはず――――。
なのに、血が出るほど唇を嚙みしめて、拳を握りしめて、それでも雲明はまだ動かない。
柳生先輩たち野球部がサッカーを笑いものにして、こき下ろしているのに。
――――な、なんで!? サッカーできるのにやらないなんて、許せな――――あ゛っ。
いるよ、サッカーできるくせにやらないヤツ!
自分だ!
はっはー、そりゃそうだよね。隣にサッカーできるくせにやらない幼馴染いるんだもん、桜咲先輩に文句言えないよねぇ!?
ど、どどどどどどうしよう!?
このままじゃ、終わってしまう! 運命が――――雲明のサッカーが、始まる前に!?
こ、こうなったら主張を曲げてでも自分がボールを蹴って―――いやそれじゃ桜咲先輩仲間にならないな! 打つ手が、打つ手がない…!
――――…。仕方ない、これ以上雲明を苦しめるくらいなら――――。
一歩前に出ようとして、雲明に手で制される。
「いい。僕がやる」
「………そんな身体で?」
ボールを蹴るくらいなら、まあできるだろう。
けれど、サッカーに触れるだけでも苦しいだろうに。覚悟を決めた顔の雲明に安心すると同時に、ほんの少しだけ申し訳なくなる。
「お前――――」
「桜咲先輩。僕の目の前からある日突然サッカーが消えた。――――でも、諦めきれなくて必死で足掻いて、もがいて、苦しんで――――それでも、僕がサッカーをするべきではないという事実は変わらなかった…!」
未来の技術や、超次元的なあれこれで何とかならないか自分も手を尽くした―――けれど、”彼ら“の痕跡はただの一般人には掴めるはずもなくて。
『――――真理は、サッカーができるじゃないか! やらないなら、くれよ……真理のサッカーを、僕に!』
………うん。言われてたわ、既に。原作の台詞。
なんて返したかなんて、さっぱり覚えてないんだけど。
――――――――――――――――――――
隣で泣きそうな顔をしている幼馴染に、「ああ、やっぱりまだサッカーが好きなんだな」と静かに納得する。
『――――約束するよ。またサッカーをするのなら、雲明―――君と一緒がいい。だから、それまでサッカーはしない。私のサッカーはあげられないけど、無くなってしまった君のサッカーを、一緒に探すから』
『どうして、そんな』
『立場が逆だったら、きっと雲明だって似たようなことをしたよ』
苦しくて、苦しくて――――それでも、同じ苦しみを味わっている幼馴染がいることは、どこか救いであり――――申し訳なさがあり――――自分がサッカーより、他のものを選べるとは、その時は全く思えなくて。
今なら、少しだけ分かる気はするけれど。
自分たちは『相棒』だった。真理を最大限活かせるのは、自分しかいない―――自分も、真理もそう思っている。その事実が、砕け散った心の支えだった。
「やらないと決めた? 禁止されている? 親が敷いたレール? 先輩の前にある壁がどれほどのものだって言うんですか!? 先輩は、自分の境遇とガチで戦おうと思ったことがありますか!? 好きなんでしょう、サッカーが!? 一日も練習を休まなかったくらいにサッカーが大好きな桜咲先輩は、こんな仕打ちを許せるんですか!?」
「お前……」
「先輩は、やれる……先輩は、まだサッカーをやれるじゃないか! サッカーをやらないなら、下さいよ………先輩のサッカーを、僕たちに下さいよ!」
「雲明」
既に泣きそうだった幼馴染の目には涙が浮かんでいたけれど、声かけの意味は分かった。必死で目を背けていたサッカー。でも、ボールを蹴ったら――――もう我慢が効かないんじゃないかって。そうだろう。きっと。
なし崩し的にサッカーを再開して――――今度こそ、命を落とすかもしれない。
けれど、思うんだ。そろそろ、歩き出さないと。いつまでも待っている相棒を、これ以上立ち止まらせないためにも。
「――――やるよ、真理」
「………」
返事はなかった。
答えは分かっていた。
故に、ボールを蹴ろうとして――――その直前。力強い脚が、ボールをキープした。
「俺は、これまで一度だって親に逆らったことがなかった――――一度だって、自分の道を選んでこなかったんだ。――――だから、今。『選択』する――――!」
高く上がったボールが、凄まじく鋭い蹴り足によって弾丸のように放たれ―――柳生先輩の顔面に突き刺さる。
「感謝するぜ、雲明」
「僕も同じなんです。運命だなんだと理由を付けて逃げていた――――僕はもう、サッカーから逃げない」
「――――野球部の先輩方、サッカーで僕らと勝負しませんか」
――――――――――――――――――――
いやー良かった良かった。
桜咲先輩が仲間になったし、雲明は野球部に決闘を申し込んだし、これで万事オッケー!
「この学校の権力の頂点、野球部に喧嘩を売ったんだ。学校中を敵に回したも同然だな」
「言ってしまったものは仕方ないです。やるしかないですよ」
「だが、2人……3人だけじゃサッカーはできねぇぞ」
桜咲先輩が私をカウントするべきか迷っているようだけれど、そこは私も迷っている。
ここで「良いよ! サッカーするよ!」なんて言おうものなら雲明にぶん殴られても文句は言えない。
うーん、困った。
とても困った。「できるけどやりません」なんて言ったら桜咲先輩に怒られても文句は言えないし。
「まあ極論、桜咲先輩と真理がいれば3対5でも勝てなくはないですが」
「ちょっ、雲明!?」
「は?」
いいの、言っちゃって!?
愕然としていると、雲明はあきれ切った目でこちらを見てきた。
「僕がサッカーに向き合うって決めたんだ。真理も付き合ってもらうよ」
「………うん!」
サッカー解禁! サッカー解禁!
やったー!
い、いやでも雲明の手前、そんな派手に喜ぶわけには――――。
「おい雲明、コイツもしかして……」
「僕と同レベルのサッカー馬鹿です」
「……そうかよ」
「というわけで、サッカー部を作りましょう」
なんか微笑ましいものを見る目で見られてる!?
いやちょっと私の身長が低めだからって……いや雲明、君は私と大差ないよね!?
「そこのお三方、面白そうな話――――混ぜてくれません?」
と、ここで割り込んできたのは木曾路君。
すぐ飛んでくるあたり、彼もけっこうサッカー大好きだよね。過去話もあるっていうのに……。
――――――――――――――――――
その女は、異質だった。
妖精の如き美貌、小柄な体躯から放たれる、圧倒的なまでの威圧感。
例えるなら、眠れる竜。
雲明はそれを対等な相棒だといい、満更でもなさそうにその女は従う。
星空真理――――戦えば、負ける。そんな感覚を覚えるのは初めてのことで。しかし当の本人は一切のやる気もなく、ただサッカーボールに目を輝かせてきた。というか無心でボールを磨いていた。
「うーん、やっぱり手入れが大事だよね。何事も」
「というか俺もサッカー齧った程度だけど、この子……星空さんはいいんすか!?」
何やらやってきた木曾路とやらはわかっていないのか、そんなことを言うが。
雲明が「同レベルのサッカー馬鹿」と言うってのはなかなかのことだと思うんだが。
「真理はまあ、見れば分かると思うので――――ひとまず特訓しましょう」
「特訓だあ?」
と、また雲明が突拍子もないことを言い始めた。
「サッカー部の人材を集めるのは当然必須ですが、並行して能力の向上とデータ収集もします。真理と桜咲先輩のブランクを埋めるのもそうですし、適切なポジションと特訓を割り振ることで必要な人材に目星をつけやすくしたいので」
「なるほどな」
「特訓かぁ、いいねぇ。何をするんだ雲明?」
確かに、FWを5人集めてサッカーをやろうとするよりはある程度絞っておいた方が効率は良いか。
「桜咲先輩はFWとして、木曾路のポジションは?」
「MFかなー、一応DFもできなくはない感じ?」
「で、そこの星空さんは? ……もしもーし」
無心でボールを磨いている星空真理に木曽路が話しかけるも、あえなくスルー。
雲明は慣れた様子で言った。
「真理はボール磨いてる時は話を聞いてないので。真理は基本MFですが、FWもDFもできますし、GKもできなくはないです」
「……冗談、ではないんだよな?」
「いやいや流石に冗談、でしょ?」
「ポジションを変えて攪乱するのが常套手段だったからですね。必殺タクティクス「パラダイムシフト」―――徹底的にマークされることが多かったので、それを逆利用して敵の陣形を引き裂く――――ともかく、真理がいればそこそこレベルまでなら蹂躙できます」
「……マジか」
「い、いやいやいや…!? 流石に信じられねぇよ!?」
ボールを磨いて「んふー」と緩いドヤ顔を決めている少女はどちらかというとマスコットのそれなのだが。
「とはいえサッカーは11人でやるもの。例えばあの雷門中が相手なら、流石の真理も――――2人くらいまでしか抑えられないかもしれません」
ボソリと「恐らく円堂ハルが相手で互角くらい」と付け加えられるあたり、本気なのかは大いに気になるところではあるのだが――――。
「なので、特訓をします。ちょうど都合がいいことに、この学校の前には長い階段―――百目階段があります」
「お、おい」
「もしかしかして…?」
『―――――特訓! 百目階段!』
鬼か。
普段の登下校でも凄まじく面倒な階段を、全力で走らされている。
雲明はデータを取りつつ「木曾路君、ペース落ちてますよ」「桜咲先輩、そんなものですか」と煽られる。
そうして知らず鈍っていたらしい脚に喝を入れて必死に駆けあがり――――その横を、風のように吹き抜けていく白い影があった。
「―――――よっ、ほっ、はっ」
3段とばし、4段とばし、5段とばし、飛ぶように上がっていく速度は自分たちの比ではない。
「真理、ペース遅いけど平気そう?」
「ダメだね。すんごい鈍ってる!」
きらっきらの笑顔で何かとんでもないこと言ってやがる。
「……本当に、サッカーしてなかったんだね」
「うそでしょ信じてなかったの!? ずっと一緒にいたのに!?」
「……いや。なんとなく実感が無かっただけ」
「それは私もそう」
軽口をたたく余裕もある、と。
……上等じゃねぇか、負けてられねぇ!
「うおおおおおおっ!」
「っ、良いですね桜咲先輩! 百目階段は、栄光へと続く階段なんだ!」
こうして、俺たち南雲原サッカー部設立に向けた第一歩……野球部に喧嘩を売ったのも入れると第二歩目は、とんでもない階段特訓から始まった。