超次元サッカーTS転生者の便乗ヴィクトリーロード 作:アマシロ
練習終了後、木曽路のお気に入りの隠れ家()に下鶴監督に呼び出された雲明は、自動的に付いてくる私と共に到着。
「こんな時間にこんな場所に呼び出すなんて、どういうつもりですか?」
「なに、君とは一度話をしておきたくてね」
ちらりと私にも目線向けるが、その眼差しはどこか優しい。
「……そして君ともね」
…? 北陽学園戦での舐めプ、もとい縛りプレイのことであれば申し訳ないとは思えども、避けては通れなかっただろう。私に頼り切りではこの先厳しくなる。
「そう、まさにそれだ。笹波雲明くん――――現状の我らが北陽・南雲原混成チームは次の『難攻不落の東風異国館』に勝てると思うかい?」
「……勝てたとして、真理に頼ることになるでしょうね。そして、そんな状況で勝ち抜けるほどフットボールフロンティアは甘くは無い」
混成チーム。上手い言い方だ。
確かに今、南雲原と北陽でチームを組んだとして。その連携はお世辞にも良いとは言えないだろう。
むしろ弱くなる可能性すらある。
「……だから、だろう? 空宮の口車に乗って、監督勝負を持ちかけた。その一番のポイントは、君たち南雲原の強い結束にあると思うのだが」
「……はい。僕たちはサッカー部結成から多くの困難に直面してきました。今回のことも、チームを纏めるための材料にする。勝つためには、それがベストだと考えました」
「そうだね。勝ったのは君たち南雲原だ。君たちが主体となることに異論はないよ。だから私も君の策に乗らせてもらおうと思ってね。詳細を詰めておきたい」
「下鶴監督」
このまま行くと監督が身を引く流れになりかねない。
割って入った私に特段驚いた様子もない下鶴監督だったが私が頭を下げると驚いた気配が伝わってくる。
「不躾を承知でお願いします。ーーー南雲原を、雲明を助けて下さい」
「とりあえず頭は上げてくれ。君たちを助けるのは監督の、大人の仕事だ。気にする必要はない」
「じゃあ遠慮なく」
「ふっ」
しれっと頭を上げて席に着くと、下鶴監督からは面白がるような空気が。雲明からは呆れた気配が伝わってくる。
いや、だって礼儀は大事だけども。気にしなくていいならあんまり気にするのも失礼だし。
「雲明は天才ですけど、なんでもできるわけじゃない。私がしてあげられることもあるけれど、それじゃ足りなくて。はっきり言ってしまうと、北陽のメンバーを抱えて、全て面倒を見るのは現実的じゃないし、『切り捨てる』のはあまりに酷です」
サッカーができない苦しみを誰より知っている雲明に、ベンチ入りを……出場機会を与えないベンチ外を選ばせるとか、嫌がらせかと言いたくなる。基本的にレスバモンスターで、容赦なくて、口は悪いけれど。
それでも目の前で苦しんでいるだれかを見過ごせない程度にはお人好しで、優しい奴なのだ。
空宮君風に言うと『他人を出し抜くんじゃなく、他人のことを自分のことのように想える』のが雲明だ。
「加えて病気のこともある。はっきり言って雲明はサッカーに関しては馬鹿です」
「真理にだけは言われたくない」
「いや、私は別に雲明以外とやるサッカーに興味ないし」
「……」
「この底抜けサッカー馬鹿は。サッカーと、サッカーを一緒にやる仲間のためなら自分の病気のことも忘れて頑張るでしょう。それを止めてくれる、冷静で判断力のある大人の人が必要なんです。下鶴監督のような」
「……正直に言って、笹波君の判断力、育成力などの監督能力は傑出している。私よりも優れた監督だろう。私が身を引いた方が良いと思っていた」
いや、伊達に下鶴監督も『パーフェクトサッカーの北陽』なんて言われてないと思うんですけど。
「だが、そうか…………そうだったな。優れたキャプテンは監督がいなくともチームを支え、奮起させてくれるが。それは大人がキャプテンを、チームを支えない理由にはならない、か」
「……僕は『僕もサッカーをするため』に監督勝負で絶対に勝つつもりです。指揮権は譲れません。ただその、下鶴監督がいて下さった方が今後の勝率は高くなるとは思っています」
「あ、監督。これ雲明としてはかなり素直に高評価です」
何さ、雲明。その顔は。
素直に「助けて下さい」って言えるのは大事だぞ。
――――――――――――――――
「―――いつもと違ってなんかやりにくい」
「雲明は確かに優秀な司令官だけど」
「こちらの痒い所に手が届いていない」
「こちらもあちらさんも混乱してる感じだがよ」
「今までやったことがないことを試して、失敗もあるが成功した時のアドレナリンがハンパない」
「これが、南雲原がいつもやっているサッカーなんでしょうか」
うーん、青春してるね。
というわけで個人技・監督勝負である。
南雲原は下鶴監督が、北陽学園は雲明が指揮を取る。
私? 私はデモンストレーションとして一人で北陽学園の全員を相手にドリブル突破、からのゴールを決めて南雲原メンバー含めて全員からドン引きされた。
レギュラー確定の代償として『試合にならないから外で観てろ』と仲間外れである。だから10対10のちょっと変則マッチ。
「いいよ別に、雲明が私以外とサッカーしてても別に寂しくなんていないし?」
「じゃあもうちょっと離れて。気が散る」
雲明が冷たいー。
まあ真面目な試合だから仕方ないけど。
雲明のサッカーは本来見るだけでも綺麗なものだけど、そのへん慣れてない北陽学園のメンバーじゃボロボロである。おいおい慣れるんだろうけど、現段階では見るに堪えない。
でもなんやかんやで対北陽である程度研究していたこともあってか空宮君を起点に組み立てるのは上手くいってそう。
それにしても……うん。なんというか、よく言えば秀才、悪く言うと凡才なメンバーでよく戦ってきたものである。空宮君はともかく。
謎の運命力……雲明力? で桜咲先輩を始めとした逸材を集めた凸凹だらけながら光るもののある南雲原チーム。北陽学園のメンバーは普通の才能で強い戦術を通す、小奇麗なチーム。
まあ逆に下鶴監督からすればよくもまあこれほど尖り切ったチームを制御しているな、という風に感じられるんだろうけど。
長所と長所を掛け合わせ、短所を逆に長所にも変える。雲明の指揮能力はまさに天賦の才と言っていい。
今も良く言えばバランスの良い、悪く言えば型にはまった北陽学園のメンバーの長所を見抜いて随時戦術を更新している。たぶん。
なんなら試合中にDFとMFを交換している。うーん、これはさすが雲明。
「やっと読めたぜ……この試合は、南雲原と北陽学園の二つのチームの相互理解を深めるための茶番だ」
「何!?」
このあたり真っ先に気づいて言葉にできるあたり、やっぱり柳生先輩は前線でのまとめ役向きな感じはする。
「自分たちがやっていることを敵側から見ることにより、改良点が見えてくる。恐らく向こうも同じになっているはず」
「なるほど! 雲明と下鶴監督がやろうとしているのは、試合を通じて2つの学校を1つにすること……」
そんな皆のつぶやきを聞きながら、雲明はわずかに微笑んでいた。
「よかったね、雲明。気づいて貰えて」
「そうでないと困る。これからワンランク上を目指すには各々がやるべきことを考えること――――僕が全て考えるのではなく、皆の考えを僕が纏めて最適解に導く――――結局のところ、咄嗟の判断は皆にやってもらう必要がある。そして、次の対戦相手である東風異国館は、圧倒的なフィジカルと個人技で実質的にそれができているチームだ」
そうなんだよねー。
ゲームだと『スタミナ切れするからラスト15分に賭ける!』で勝ってたけど。正直アホみたいな特訓による体力ゴリ押し勝負。
どうせなら南雲原に欠けている『戦術的なゾーンディフェンスを北陽学園メンバーが補い』北陽学園メンバーに欠けている『尖った個人技を南雲原メンバーが補う』ことで『戦術と個人技が揃った新生南雲原』にするくらいはしないと厳しい勝負になると思う。
そしてそれは、誰よりも北陽学園メンバーに詳しい下鶴監督がいれば実現できるはず。
「自分たちの弱点も客観的に見られただろうし、これからが楽しみだね雲明」
「うん。皆ならもっと上を目指せると思う」
やっぱりどこか嬉しそうな雲明に、同じく嬉しそうな下鶴監督が声を掛けた。
「北陽学園よりも戦術に長け、南雲原よりも結束が強いチームにならなければ、この先は勝ち抜けない――――面白いチームになるだろうな」
「ええ。……これから、よろしくお願いします。下鶴監督」
「ああ。笹波雲明、君の力―――存分に頼らせてもらうぞ」
「こちらこそ」
やった!
頼れる大人の監督ゲット!