超次元サッカーTS転生者の便乗ヴィクトリーロード 作:アマシロ
「――――くそっ、一体なんなんだ…!?」
『パーフェクトサッカー』の北陽。空宮・品乃を中心とした高速で切り替えられるタクティクスは面倒でこそあれ、レベルの違う留学生で固められた東風異国館の敵ではない―――はずだった。
それを戦術のぶつかり合いと、星空真理という怪物の個人技で制した南雲原中。北陽と合併したのは驚きだったが、それでも日本と海外ではレベルが違う。それは、キャプテンである山之内自身が一番よく理解していた。
―――――唯一の日本人選手。
その肩書きは、重く、しかし薄っぺらい。
ほとんどを留学生で固めている異国館のスタメンに何故日本人選手がいるのか、理由は単純で監督の意向をスムーズに読み取って伝達する役割が必要だから。
必死で語学を学んで、スタメン選手全員とコミュニケーションを取れるようになった。
必死で練習に食らいついた。
結果、日本人部員で実力は一番ではないけれど。一番監督から『使いやすい』と思われた山之内がスタメンに―――キャプテンになった。
といってもそれほど重大な役目ではない。
監督の意向を伝えるだけ。個人技で圧倒できるのだから、キャプテンの仕事なんてコミュニケーションを円滑にするだけ――――それだけで良かった。よかった、はずだった。
【くそっ! なんでだよ!?】
【こいつら動きを読んでやがるのか…!?】
2人掛かりでプレスを掛けられ、止む無くパスを出した瞬間にパスコースに割って入ってくる機敏なデブ。
ならば、と強引にドリブル突破を試みると不意に現れた3人目にスティールされる。
ヒートアップしている選手たちをなんとか宥めなければ、と頭では分かっている。
けれど、なんで―――。
(まるで、相手の人数がこちらより1人……いや。2人も3人も多いようにすら感じる…! なんなんだ、一体!?)
フィールドの中心にいるのは、小柄な少女だ。
前の試合で見せた圧倒的なフィジカルも、個人技も、今は(比較的)目立たない。
パスの起点、攻撃の起点、守備の要。
円堂ハルがフィールドを黙らせる怪物であるなら、今の彼女はフィールドを支配する魔物だった。
こちらのパスはカットされ、あちらのパスは面白いように通る。
ドリブルで突破しても、その先には更なるディフェンスが待ち構えている。
このままでは―――――。
(ダメだ、考えるんだ! 俺は、俺がキャプテンなんだ! 俺は――――)
瞬間、目の前を白い影が通り抜けた。
咄嗟に動かそうとした脚をあざ笑うかのように、ボールが抜けていく。
「――――迷ってる暇があるんだ? ずいぶん余裕だね」
「くっ、そぉ…!」
速い…!
留学生の、世界レベルの選手たちと遜色のないドリブル――――かもしれない。
結局のところ、自分より上手い程度の情報しか分からないけれど。
ダメだ、抜かせるわけにはいかない。
個人技で支えられているこのチームは、フォローの概念が薄い。
このままでは――――そう思ったところで2人フォローが入り、ボールは逆サイドにパスされる。
【何ぼさっとしてんだ、山之内!】
【すまん、助かった】
「……くそっ」
けれど、助かった。
相手のパスワークに対応できてきている!
フィジカルが優秀なメンバーなら、相手がどれほど巧みにパスを回そうと必ず追いつけて――――追いつける?
(――――違う、追いかけてる。追いかけさせられている!?)
フォロー慣れしていないMF、DF陣が、慣れないフォローをしようと相手のボールを必死に追いかけている。これではいくらフィジカルと体力に優れていても、最後まで持たない!
(すぐ監督に――――言って、どうなる)
原因はフォロー慣れしていないこと、ゾーンディフェンス力の欠如。そして、相手に動きを見切られていること。――――練習不足だ。
個人技任せのツケが来た。
どうやっても、南雲原の動きは止められない。
止められるとすれば、体力が尽きる前に相手のパスワークとパスカットを読み切って、打ち破るしかない。
それをできるのは―――――できるとすれば、監督か、キャプテンの自分自身だけだった。
「―――――」
それでも必死にボールを追いかけてしまう。
対峙した相手チームの少女は、どこか憐れむような――――焦がれるような、あるいは非難するような目で言った。
「気づいたんでしょ――――全力で来てよ」
鮮烈だった。
迷いなく、ボールが足に吸い付くような――――まるで無人の野を往くように駆け抜けていく姿に、必死で食らいつく。
「ぐっ――――――マリベル、フォロー頼む! キキは10番マーク!」
初めて指示を飛ばす。
やや困惑した様子ながらも、チームが動き出す。サッカーへの理解に関しては自分よりも仲間の方が上だ。大雑把な指示でも出せば、後は上手くこなしてくれる、はず。
ただ――――既にこちらのチームが消耗している現実は、変えられそうにもなかった。
普段であれば必要のなかった、慣れないフォローで走り回り。パスに翻弄されて。
【くそっ、なんだ…? 脚が重い……】
【汗でびしょびしょ……】
「ここまで全力で戦ったのは、はじめてのことなんだ……」
「桜咲君、頼んだ!」
「おう――――いけるか、空宮」
自分たちが疲労している反面、試合開始当初は反発していた南雲原メンバーの結束は強まっているようにすら見える。動きが洗練されていく。
(まだ、まだだ…! まだ同点――――このままいけば、逆転の目も――――!)
「「選手交代―――――そして、必殺タクティクス! ブースト15!!」」
(――――何故だ!?)
理屈は分かる。
こちらが走り回らされ、相手はある程度体力を温存していた――――更に前半では守備に優れた北陽選手を出しておき、終盤で攻撃に特化した南雲原選手を途中交代で投入することで大逆転を狙う。そういう戦術だったのだろう。だが。
(どこに――――どこにそれだけの体力があった!?)
交代枠は限られている。南雲原の中核メンバーたちは外国人留学生で固めたウチのチームと、曲がりなりにも前半、後半も15分戦っていた。
どれほどの特訓を重ねれば、あんな怪物のような体力が――――!?
――――――――――――――――
「………うん、さすが真理」
ベンチから見る、『自分』のサッカーは、本当を言えば少ししんどい。
病気が分かる前の、自分がよく使っていたタクティクス。体力が劣っていても、相手を消耗させて有利を取る。それをほぼ完ぺきに再現する姿には、嬉しさもある。けれどやっぱり、悔しい。
自分も、サッカーをしたい。
フィジカルに勝る相手との試合。どんなに最適な動きをしても体力の消耗は避けられない。文字通り血の滲むような特訓で基礎体力をつけておいたからできる荒業。それは、今の自分には絶対にできないことで。
(――――――僕は)
真理がいれば、僕は必要ないんじゃないか。
そんな考えが頭を過る。
何よりも辛いのは、そうして真理を疑ってしまう自分自身で。
それでも、敵のGKを自分たちの必殺技――――春雷が打ち破る姿は、誇らしくもあって。
(余計なことを考える必要なんてない。今回は以前のタクティクスが使えた。次からは、また新しく考えないといけないんだ)
ひとつになろうとする南雲原の姿は、近いようで、それでもフィールドの外と内の、見えない壁に阻まれているようにも思えた。