エグザイル~俺は自由なビルドで異世界を生き抜く~ 作:SazanK@
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──な、なんだか凄くないか?
俺は思わずごくりと息を呑んだ。
俺の前に広がっているモノはなんというか、そうだな、一言で言えば──宙。
空じゃなくて宇宙の「宙」である。
真ん中にあるのは太陽?
恒星?
よくわからないが、大きい光が鎮座している。
そしてそこを中心にまるで蜘蛛の巣の様に暗い糸が伸び、小さな星々と繫がっていって──
そんな幻想的な光景に俺はしばし時を忘れて呆然としてしまっていた。
中心の光から放射状に伸びる線は、まるで銀河のようだ。
無数の星々がきらめき、それぞれが細い光の糸で結ばれている。
見渡す限りの星空が俺の掌の上に収まっているなんて、ちょっと信じられない光景だった。
「なんだそれ、おっさん、しょぼいなあ!」
ぼーっとしている俺を現実に引き戻したのはそんな声だ。
しょぼいって……コレがか?
そんな馬鹿な、と思い、そのなんというか失礼なガキんちょのミスティカを見る。
……なるほど、まあ真ん中の星はそこそこ大きいな。
ただ、その周囲にこそわずかに瞬く星はあるものの、遠くにいけばいくほどまばらになってくる。
俺との違いは明らかだ。
俺は周囲には数個しか星がないが、そこから遠くに行くほどに密度が増してくる。
どっかのMMORPGの売り文句じゃないが、まさに無限の自由度と言えよう。
「へっ、中心の核星ですらあんなにちっこいとはな。俺なんか見ろよ、この輝き!」
金髪の少年が得意げに自分のミスティカを掲げた。
確かに真ん中の星は俺のより少し大きい気がする。
だが……俺のミスティカには、あいつのには見えない無数の星が広がっているんだが。
まあいいか。
別に張り合うつもりもないし、初対面で喧嘩するのは得策じゃない。
「そ、そうですね。すごいですね」
俺は適当に相槌を打った。
少年はフンと鼻を鳴らして俺から離れていく。
周りの新人たちも、ちらちらとお互いのミスティカを見比べているようだった。
しかし不思議なことに、誰も俺の方を見て驚いたりしない。
むしろ憐れむような視線すら感じる。
……あれ?
俺のミスティカ、こんなに綺麗なのに、なんで誰も反応しないんだ?
「整列終わり! 全員ミスティカを収めろ!」
ガルド教官の怒号が響いた。
俺は慌ててミスティカを閉じる。
意識を切り替えるだけで、あの星空は掌の中に吸い込まれるように消えていった。
「よし、貴様ら。ミスティカの展開はできたな。ここからが本題だ」
教官は腕を組み、俺たちを見回した。
「ミスティカとは何か。知っている奴はいるか?」
しばらく沈黙が続いた後、一人の女性が恐る恐る手を挙げた。
「は、はい。スキルの……体系図、みたいなものでしょうか」
「半分正解だ。だがそれだけじゃない」
教官は地面に足を踏み鳴らした。
ドン、という音が訓練場に響く。
「ミスティカとは貴様らの魂の形だ。可能性の地図であり、成長の証であり、そして──限界の形でもある」
限界の形。
その言葉に、周りがざわめいた。
「静かにしろ! まずは基本構造から説明する」
教官は自らのミスティカを展開した。
巨大な光の球体が浮かび上がる。
周囲には強く輝く十数個の星と、それらを繋ぐ太い光の線。
「まず中心にあるこの大きな星──これを『心核』と呼ぶ」
心核。
なるほど、あの真ん中のでかい光のことか。
「心核は貴様らの魂の本質を表す。大きければ大きいほど、魔力容量が高く、成長の土台がしっかりしているということだ」
教官の心核は確かにでかい。
俺のはそれに比べると……まあ、普通、か?
金髪の少年の方がやや大きかった気もする。
「次に、心核から伸びるこの光る星々。これを『核星』と呼ぶ」
核星。
「核星は貴様らが取得したスキルを表す。一つのスキルにつき、一つの核星が輝く。そしてスキルを強化すれば核星はより明るく、より大きくなる」
教官のミスティカには十数個の核星があった。
どれも眩しいほどに輝いている。
「核星同士を繋ぐこの線──これが『星路』だ。関連するスキル同士は星路で結ばれ、その繋がりが強いほど、スキル同士の相乗効果が高まる」
星路か。
俺のミスティカにもそれらしきものはあった。
中心から放射状に伸びる暗い糸のような線。
ただ、俺の場合は核星がほとんど光っていないから、線だけがやたらと目立っていたわけだ。
「基本的に、ミスティカで見えるのは心核と、取得済みの核星、そしてそれらを繋ぐ星路だけだ」
教官はそう言い切った。
俺は首を傾げた。
あれ?
俺のミスティカには、核星っぽい強い光は確かに少なかった。
だが代わりに、淡く瞬く無数の星があったはずだ。
遠くに行けば行くほど密度が増していく、あの星々は何だったんだ?
「質問のある奴は?」
教官の言葉に、俺は思わず手を挙げかけた。
だが直前で思いとどまる。
待て。
教官は「見えるのは心核と核星だけ」と言った。
もし俺が「淡い星がたくさん見えるんですけど」なんて言ったらどうなる?
目立つ。
間違いなく目立つ。
異常者扱いされるかもしれないし、最悪の場合、何か厄介なことに巻き込まれるかもしれない。
俺はまだこの世界のことをほとんど知らないのだ。
黙っておくのが得策だろう。
「質問がないなら続けるぞ」
教官はミスティカを閉じた。
「ミスティカの心核や核星の大きさは、才能と努力の両方で決まる。生まれつき心核が大きい奴もいれば、小さい奴もいる。だがな──」
教官の目が鋭くなった。
「小さいからといって諦めるな。核星を増やし、星路を繋げ、一つ一つのスキルを磨き上げれば、心核は後からでも成長する。逆に、心核がでかいだけで努力を怠れば、宝の持ち腐れだ」
その言葉に、周りの新人たちが頷いている。
俺も表面上は頷いておいた。
だが内心では、別のことを考えていた。
俺のミスティカに見えたあの無数の星々。
あれが他の奴らには見えないなら、俺だけに見える「何か」があるということだ。
「プレイヤー」というスキルと関係があるのだろうか。
あるいは、異世界から来たことと何か関連が?
今はわからない。
だが一つだけ確かなことがある。
──俺は他の奴らとは違う何かを持っている。
それが良いことなのか悪いことなのか、まだ判断できない。
「よし、座学はここまでだ。次は実技に移る」
教官の声で思考が中断された。
「まずは基礎体力測定! 走れ! この訓練場を十周だ!」
悲鳴のような声が上がる。
俺もげんなりした。
体力には自信がない。
インドア派の俺に十周なんて拷問だ。
「走れと言っているだろうが! 遅い奴は追加で腕立て百回だ!」
教官の怒号に追い立てられ、俺たちは走り出した。
三周目で息が上がり、五周目で足がもつれ、七周目で視界がぼやけた。
それでも俺は走り続けた。
死にたくないからだ。
この世界で生き残るには、強くなるしかない。
ミスティカの秘密も、「プレイヤー」の意味も、全ては生き延びた先にある。
「へっ、おっさん、もうバテてんのかよ!」
金髪の少年が俺を追い抜きながら笑った。
くそ、ムカつく。
だが言い返す余裕もない。
俺はただ、一歩一歩、足を前に出し続けた。
◆
走り終えた頃には、俺は地面に倒れ伏していた。
「おい、生きてるか」
影が差して、見上げると教官が立っていた。
「……かろうじて」
「ふん、根性だけはあるようだな。最下位だったが、リタイアしなかったのは評価してやる」
最下位。
まあそうだろうな。
周りを見ると、他の新人たちもそれぞれ地面に座り込んだり、木陰で休んだりしている。
金髪の少年は涼しい顔で水を飲んでいた。
体力の差を見せつけられた気分だ。
「休憩は十分だ。その後、武器訓練に移る」
教官はそう言って去っていった。
十分。
短すぎる。
だが文句を言っても始まらない。
俺は重い体を起こし、深呼吸をした。
さっき見たミスティカのことが頭から離れない。
あの無数の星々は何だったのか。
教官は「見えるのは心核と核星だけ」と言った。
つまり俺には、他人には見えないものが見えているということになる。
それが「プレイヤー」のスキル効果なのかもしれない。
だとすれば、あの淡い星々は……未取得のスキル、か?
まだ獲得していないが、獲得できる可能性のあるスキルが可視化されている。
そう考えれば辻褄が合う。
俺には全ての可能性が見えている。
他の奴らには、自分が取得したスキルしか見えない。
だから俺のミスティカは「しょぼい」と言われたのだ。
核星──つまり取得済みスキルがほとんどないから。
「……なるほどな」
俺は小さく呟いた。
これが「プレイヤー」の効果だとすれば、かなり有用だ。
どのスキルを取得すれば効率的か、どの方向に成長すれば良いか、全体像が見えるということだからな。
ゲームで言えば、スキルツリー全開放状態でプレイしているようなものだ。
普通のプレイヤーはチュートリアルで説明された範囲のスキルしか知らないが、俺には攻略wikiが最初から見えている。
「へっ、使えるかもしれないな、このスキル」
俺はほくそ笑んだ。
無能だと思っていた「プレイヤー」が、実は隠れた有能スキルだったなんて。
まさに俺の人生を表しているようだ。
平凡に見えて、実はそうでもない。
……いや、これは希望的観測すぎるか。
まだ確証はない。
もっと情報を集めて、検証する必要がある。
「休憩終わり! 全員集合!」
教官の声が響いた。
俺は立ち上がり、訓練場の中央へ向かった。
異世界生活、二日目。
地獄の講習は始まったばかりだ。