【旧版】明治生まれの特級呪術師は、泥人形の夢を見るか?   作:須川ユイ

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 ん〜前回に引き続き説明過多!!!けど呪術戦って術式開示が盛り上がりの肝じゃん?自分の作り上げた芸術品ってみんなに知ってもらいたいじゃん?というか理屈理論をこねくり回すのが大好きなのじゃ!!

 ということで中越事変その四です。どうぞ。


第二十一話:引くも足すもは呪いの花

 

 

 更なる突然の予想不可能な情報(夜永の出現)に、思わず狼狽する様相を晒してしまう。

 

「……きみ、何故ぼくの術式が効いていないんだ?」

 

「領域に対して取れる対処法は大凡三つに絞られる」

 

 こちらの質問には答えず、半身の構えを崩さずに淡々と語る。洗脳なんて微塵も効いちゃいない。彼女の目には轟々と燃え上がる、しかして静かな理性とも感じ得る焔が、垣間見えた。

 

「一つ、呪力で受ける。二つ、領域展開前に阻止する、又は領域内からの脱出などの物理的対処。三つ、こちらも領域を展開する」

 

 ……呪力で受けている様子はない。領域は展開済みで彼女は今ここにいる。ならば彼女が取った手段は…………

 

「領域展開できない者にも、対処法が存在する。それが簡易領域と言うものだ」

 

 簡易領域。

 確かそれは、今まで攻めてきた術師(抜刀隊)にも使っている者がいた。「シン・陰流」とか言っていたか。かの御仁(羂索)にも少しだけ教わったが、それは弱者の領域だと。君の領域展開ならば圧倒することが可能と言われた。事実、「シン・陰流」を使用していた術師はものの数分で削り切ることができた。

 

「……可怪しいだろう。もしそれが本当に簡易領域だとして、耐えられるのは精々数分だ。それは簡易領域を使用している君自身ならよく分かることだろう。何故そうも余裕綽々といった様子でいられるんだ?」

 

「お前が鷹揚自若を装うのにかかずらって時間をくれたお陰だ。感謝させてくれ、自惚れ屋」

 

 最初に会った時と印象が異なり過ぎる。あの礼儀正しい口調が一変している。まるで別人(分身)の様な────

 

「お喋りは程々にするぞ。いい加減お前との問答も飽き飽きだ!」

 

 彼女は突如此方(こちら)に飛び込んでくる。簡易領域に気を取られていたが、彼女は既に呪傷を負っている。それを術式で激化させてしまえば──

 

(……っ!?術式が発動しない!?)

 

 何故だ。既に視界内に捉えている。簡易領域では必中を防げ(中和でき)ても、術式効果を無効化できないはずだ。つまり彼女が抵抗できるのは、必中による洗脳と極小の呪傷のみ。なのに、何故。

 考えを巡らせてる間にも、片腕を失っている彼女が残った左手を振り上げる。ならばと、手を交差させ振り下ろされる手刀に防御の姿勢を取る。

 

「っ……がはっ!!」

 

 だが、予想された振り下ろしは来なかった。肺の空気が押し出される。腹部への衝撃をもろに食らってしまい、後方の屋敷の壁に叩きつけられる。

 

(…………っ!腕が!?)

 

 顔を上げてみれば、彼女には切り落としたはずの右腕が付いていた。

 

(術式……いや、反転術式か!?)

 

 切り落としたはずの腕は見つかっていない。逃げた時にこっそり持ち出していたならば、切り口を繋ぎ反転術式で治癒できるだろう。

 

(けれど、どうやって持ち出したんだ!?)

 

「来ないのか?手番を譲ってくれるとは、お優しいことだな!」

 

 追撃に迫ってくる彼女に、賀谷は対処しようと回し蹴りを放つ。加えて、体勢を横に逸らし反撃(カウンター)に備える。

 彼女は蹴りを避けながら、両手を着き、倒立の様な姿勢から関節を曲げ、一気に伸ばして足を突き出す。

 

「っ!!」

 

 ギリギリ頬を掠めた程度で避けることができたが、彼女は蹴りの反動で宙に浮き上がる。そのまま前宙によって(かかと)落としが繰り出され、避けきれず両腕に呪力を込め防御する。

 

「今のを防げるのか」

 

 腕に阻まれた足を掴み投げようとするが、即座に飛び退かれて距離を取られる。

 

「術式にかまけて、近接戦闘なぞできん(タチ)だと思ったのだがな」

 

「言っただろう?最初の傷は自分で付けなければならないって」

 

「なるほど、道理だな」

 

 一拍の会話を挟み、更に戦闘は継続される。しかし、彼女の優れた近接戦闘能力によって繰り出された多種多彩な攻撃に対して、徐々に防戦一方となっていく。如何に呪力で防御を固めても、受けた攻撃(ダメージ)はジリジリと蓄積していく。

 

(何故簡易領域が解かれない!?もうとっくに簡易領域の許容範囲を超えているだろう!?)

 

「混乱しているな?」

 

 此方の胸中を見透かした様に語りかけてきたその言葉に、思わず反応してしまう。

 

「色々考えていたようだが、答え合わせといこうか」

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

「私の術式『泥梨ノ園』は分身を作り出す術式だ」

 

 

 ───私が行ったのは大まかに分けて二つ。

 

 一つ目は、領域内外の外殻に沿って『分骨』を設置し、それを基点に領域展開に干渉すること。私の技量では、領域の解体や完璧な中和なぞできるはずも無いが、極一部に干渉する事はできる。これにより、奴の視界内で発動される必殺のみに的を絞って領域を中和する。

 

 これは、私はこの領域の構成的に、まだ差し引きが成立していないと予想したためだ。領域展開の永続なんて通常あり得ざるものなのだ。おそらく、術者本人の術式行使を禁じている。あとは、領域の維持が保たれない場合、術者と町民の命を失う、など。これで漸く差し引きが成立するだろう。

 ならば、目視による呪傷の激化さえ抑えてしまえば闘り合えるというわけだ。

 

 二つ目は、内部に侵入した分身を外部に脱出させ、持って越させた腕を元通りに修理する事。領域外殻の一部分だけを外陣結界で穴をこじ開け、分身を直す。此方でも少々領域への干渉を行った。といっても、外に出す際に、「本体である私自身が代わりに入ること」を縛りとして認めさせるものだが。

 領域としての目的である「逃さない」ことに対し、分身()本体()を入れ替えることは認めやすい内容だったのだろう。此方の領域干渉はそれ程梃子摺(てこず)らなかった。

 

 分身の修復というのは、分身を作り直すコストを軽減するために編み出したものだが、基本的に従来の分身作成から逸脱しないものだ。拡張術式として認識していないから名前は存在しない。

 

 因みに切り落とされた腕だが、これは「分骨」として認識し操作することで回収した。あんまり戦闘では活用していないが、分骨の従来の目的は全身を作らずに必要な部分だけ作り、操作するものだ。腕のみで動く様はホラーもいいとこだが、呪術なんてそんなものだろう。

 

 閑話休題、外に出した分身は、本体の「自流・簡易領域」の展開を維持してもらった。これは洗脳対策として、「脳内を守る」だけに注力した簡易領域だ。

 

 予測不可能な洗脳を防ぎ、ひと目見られれば致命となる呪傷を、いくら付けられようと意味のない掠り傷へと堕とす。

 分身に情報を探らせ、無傷でこれを持ち帰り、対策を講じて出向く。これこそ、私の術式の真骨頂というべきものだな。

 

 

「さて、長々と説明した訳だが。お前にこの言葉を返させてもらおうか。『さぁ、どうする?』」

 

 術式の開示によって呪力効率は格段に良くなった。これならば、いざ長期戦に移ったとしても善戦出来るだろう。

 

 ────いや、油断せずに短期決戦で終わらせるべきだな。何と言っても此奴には町民から徴収した無尽蔵の呪力がある。もしも領域の維持より自身の強化に呪力を回せたら、圧倒的な暴力で押されてしまう可能性がある。

 

「……ククッ」

 

 思考を巡らせていると、突然奴の喉の奥から、乾いた音が漏れた。

 

「ははっ……あははははっ!」

 

 突然笑い出す賀谷に、夜永は胡乱げな視線を向ける。

 

「ぼくも人のことは言えないが、君も存外詰めが甘いね!態々領域内にある基点の在り処まで晒すなんて。いま、家族たちにぼくの情報を伝播させて君の言っていた基点を壊させてもらっ───がっ!!」

 

 彼の演説じみた語り口調を聞くに終えず。彼の顔面に右手の突き(ストレート)が決まった。

 

「自分が優位に立っていると思ってる奴に拳を叩き込めるのは、気分がいいな(スカッとする)

 

「……っ!何故だ!?何故まだ術式が効かない!?」

 

「そりゃあ、領域内部の基点なんぞ壊しても意味ないからだろう」

 

 私の言葉に、彼は呆気にとられた表情を浮かべた。

 

「……は?お前はさっき、領域に干渉するための基点だと言っていたじゃないか」

 

「そのとおり。だが、破壊される危険性を排しきれない領域内部の基点を、そのまま干渉の(かなめ)にするはずないだろう。内部の基点は干渉を始めるための、言わば補助線のようなものだ。領域外殻を内外の基点によって特定し、あとは外部の基点を補助に、外の分身が外郭を通して領域に干渉するって理屈だ」

 

 外殻特定の補助に内部の基点。

 外殻から領域への干渉補助に外部の基点。

 多段式打上機(ロケット)よろしく分身(干渉者)を領域に繋げる工程を踏む。

 

 

 「呪術を極めることは、引き算を極めること」原作で語られたそれは、私にとって真逆だった。

 分身を作り出し、呪術行使の工程を肩代わりさせられる私にとって、「呪術を極めることは、足し算を極めること」となる。

 

 

「…………くそっ。みんな!!命を懸けてコイツを殺せ!!」

 

 干渉を妨害するのは諦めたのか、声高々に張り上げる。すると、屋敷の窓や入り口から町民がなだれ込んでくる。

 涙を流しながら憤怒の表情を浮かべる彼らには、命を懸けた……懸けさせられたことにより爆発的な呪力を纏ってこちらに襲ってくる。

 

(呪力供給による猛攻撃を予想していたが……彼らを切り捨ててでも私を排除する方針にしたか)

 

 貴重な供給元であるはずの彼らを、簡単に使い捨てるとは。存外彼にとって家族とは然程大事ではないらしい。まぁ、驚きの感情など一切浮かばないが。

 (あわ)れなるは(賀谷)に洗脳された無辜の民である彼らだろう。しかし命を狙われるのであれば、此方もそれ相応の対処をせざるを得ない。最も接近している鉄線柄の着物を着た男の首を蹴りでへし折る。

 

「なるほど、家族とは使い捨ての矢に相違ないと見える」

 

 確かにこれは厄介だ。原作に鴉に不惜身命の(命を使う)縛りを設けさせ、攻撃に使う術師(冥冥)が登場していたが、此方は人間にそれが使われる。

 呪力量、呪力出力ともに鴉のそれを上回っているだろう。そんなものが群れを成して襲ってくるのだから、厄介極まりないのも容易に考えつく。

 

「一先ずは……」

 

 町民が流れ込み、手狭になった空間(屋敷)から外に飛び出す。囲まれ圧し潰されかねない中より、まだ外のほうがマシだろう。

 

「……これは、面倒だな」

 

 外に出てみれば、辺り一面に血走った眼光で見つめる町民()が、こちらを喰い殺さんとしていた。

 

 

 

 

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