Project Moon RPG とある男が実況プレイ   作:下手好き

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スポットライトの陰で

 

L社外郭分社。

外郭という辺鄙なところに存在するその会社は、本社からの支援も乏しく、更に支部を管理する立場にもあった。

そのため、分社でありながら欠陥が多く、金銭面で常に苦闘していた。

一時期はTT2プロトコルさえもまともに作動しておらず、特にとあるチーフが死亡した時は本社から一人引っ張り出さなければならなかった。

まだ経験の浅い10歳の子供は何が何だか分からないまま、送り出されたことであろう。

 

そのような環境に嫌気が差し、限界を迎えた超高性能AI秘書、アンジェラ――厳密には感情を持って生まれたコピー――がとうとう反旗を翻し、L社外郭分社は完全に機能停止となった。

人が死ぬ様を切り捨てられず、悔い続けた彼女の決断を、誰が責めるであろうか。

 

さて、分社が完全停止した波乱の日。

職員たちの物語の裏で、知られざる大きな決断をしていた者たちの話をしよう―――。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

いつもとは何かが違う。

 

『F-01-a111』――以降、笛吹の男と表記する――は収容室の中で演奏する手を止めた。

理由は、外から聞こえてきたアナウンスだ。いつもは聞こえない男の声が、収容室の中にまで響いてきた。

何か緊急事態が起きたらしい、焦りが放送越しでも伝わってきている。

尤も、ここに収容されている幻想体と扱われている笛吹の男には関係の無いことだろうが。

 

「(そういえば、今日も料理を届けに来てくれたあの娘も様子が変だった。)」

 

「…じゃ、生きてたらまた会おうね。」

 

去り際のあの言葉は何だったのだろう。

いつもは「じゃあまたね!」と言い残す無邪気そのものなのに、今日のあの娘からは何か別のものを感じた。

それと同時に、彼に懐かしい感覚が襲ってきた。

恐怖とは違う、しかし彼が最も恐れている感情。

寂寥感。

どうしてあの娘からそんな感情が伝わってきたのか。

 

考えても答えの出ないことは、笛を吹いて忘れるのが彼だが……。

改めて、今考えてみると答えは簡単だった。

今、この施設は危機に陥っている。

そして、男の声はここの職員を脱出させると言っている。

 

別れの時が来たようだ。

友との別れ――彼にとってそれは苦い記憶でしかなかった。

 

かつての友は、金に囚われて他の仲間を殺し、しまいには彼すらも殺しにかかってきた。

欲にまみれる世間に辟易し、自由を求めて飛び出した仲間だったというのに、結局人は欲物に囚われる生き物だった。彼自身はそう悟った。

 

しかし、それでも彼は自由を求めている。

欲に囚われた者が何をするかなど、他でもない自分はよく知っていたから。

知っていることと、思い込むことは違うが。

結局、彼は欲にも自由への渇望にも囚われていた。

 

誰よりも自由を求めながら、誰よりも欲に囚われている。

それが今の彼だった。

 

 

外にいつもの存在を察知して我に返る。

例日なら放送があって、少ししたらその反応は消えるのだが……。

 

「(放送が無い…手が回っていないのかもな。)」

 

そう思い、笛を吹こうと構え…躊躇う。

彼の笛の音は幻想体を収容室に帰すことができる。しかし、それは契約と対価によって成り立っているものだ。

無償で何かをするなんて間違っている。

人間は対価を求める生き物だから。欲に囚われる生き物だから。

欲に囚われないと、自覚していない欲に身体を蝕まれてかつての友のように呑まれてしまうから――

 

「また会おうね。」

 

ここでできた、小さな名前を知らない友達の声が頭に蘇る。

いつも僕のために、料理を届けに来てくれていた娘だ。

外の反応を何とかしないと、より施設は混沌と化し友達に危険が及ぶだろう。

 

「(これ以上、友を失うことになっても良いのか?)」

 

そんな葛藤が笛吹の男の頭を駆け巡る。

でもそれは、自分の無責任な善意によるものではないか。

本当は、対価を望んでいるのではないか………。

 

「………結局、僕は欲に囚われたままのようだ。」

 

笛を構える。

求める対価は―――友人の生存。

全ては、かつて彼が望んだ自由を謳歌してもらうため。

 

生きていれば、因果が巡り合うこともあるだろう。

別れがあれば、再会することもあるだろう。

友は、また会おうと言った。

 

 

「―――それでは、友よ。再び会った時には君の名前を教えてくれ。この対価はツケにしておくから……その時に、また君の料理を食べさせてくれよ。」

 

今はただ、友の自由を願って―――。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

酒の匂いが充満している収容室。

酒に囲まれている中年の男、『O-01-a09』は、目の前の作業をしに来た職員に目を向ける。

 

「…またお前かよ~。今日は知らん顔しか来ねえのによ~、精力的な職員さんだなぁ?」

 

「そんな褒めても何も出ませんよー!」

 

「褒めてねぇんだがな~…ヒック」

 

無邪気な笑顔の職員――フォード、と呼ばれていた――の手には謎の瓶がある。

 

「で、今日は何の液体を升にぶち込もうってんだ~?」

 

「はい!今回は趣向を変えて、塩酸にしてみます!」

 

最早飲み物ですら無い。

流石に幻想体の彼とは言えど、薬品を飲むのは流石に遠慮したい。

そう思い、止めに入ろうと口を開こうとし――

 

「(…げ、面倒なもんが見えちまった。)」

 

彼の眼は少し特殊なものだ。

彼の一族では稀に不思議な眼を持って生まれることがある。

先祖に何があったのかのかはわからない。

旧E社が先祖と何か関係している、なんて噂もあったが没落した今では確認のしようがない。

ある者は見た相手に深刻な精神汚染を与え、

ある者は見たものの動きを止め、

そして彼の者は、物事の前後が見える。

尤も、彼が活用したことと言えばラベルの無い代わりに安くなっている酒を見て、出荷元を遡って種類を判別することくらいだが。

 

さて、彼が今視えたもの、それは職員フォードが謎の男に斬り殺される姿だった。

それだけなら特に彼に関係なかったのだが…。

 

「おい、職員さんや。ちょ~っと良いかぁ?」

 

「ん?塩酸を升に淹れながらですけど構いませんよ。」

 

「お前は…目の前で自分の仲間が殺されそうになっていたらよぉ…痛みを耐えてでも助けに入ることはできるかぁ~?ヒック」

 

「え、そうですねぇ…。流石に知らない人なら無理ですけど…あ、でもノアさんやジョンソンさん、あとはアローニィさんが殺されそうになっていたら迷わず助けますよ!お世話になった先輩たちですしね。」

 

アローニィ、その言葉が出てきた瞬間彼の中で答えは出た。

彼が視たもの、それは職員フォードを切り殺した男に殺されたアローニィの姿だった。

ユルゲンの話でよく出てくるあの娘だ。

小さいのに、酒を美味そうに飲む娘だ。

 

これからずっと先に、非情な未来が待っている娘だ。

 

と言っても、彼にあの娘を助ける理由はないとも思える。

……が、彼女には一つ大きな恩がある。

 

彼の心残りを、救ってくれた。

 

それだけで、これを託す価値はあるだろう。

元よりあいつの使っていた武器だが…あいつも文句は言わないだろう。

救ってくれた者を助けるために必要なのだから。

 

「その覚悟…偽りは無いな?それならこの短剣をお前に託す。痛みと引き換えに多大な衝撃を瞬時に、遠くから与えることができる。大きな痛みであればあるほど、与える衝撃が大きくなる。だから…お前の守りたい者のために使いな。」

 

「へぇ、この短剣きれいですね~。青っぽい炎もほんのりで…分かりました、任せてください!」

 

そう言って、意気揚々と外へ出ていく職員を見ながら大きく息をつく。

結局、あいつがどうなったかは分からない。せめて生きていたら嬉しいが…。

 

「あ、その前に最後良いですか?」

 

突然、足を止めてこちらを振り返って一言だけ。

 

 

「あなたって、全然酔っぱらってませんよね?吞みすぎて耐性ができたとかかもしれませんが…どうしてフリをしてるんですか?」

 

 

「…さぁな。酒は入ってるぜ、とだけ。」

 

真っ向から言われても反発したくなるのが人の性。

酔っ払いの世迷言としての方が、素直なアドバイスよりも聞き入れやすいものだ。

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

「…もう良いか?久しぶりで疲れるんだが。」

 

「ああ、もう充分さ。職員の皆は脱出した。」

 

「私だけ単独行動は酷くない?そんなに強くないって言ったでしょー?」

 

「でも何だかんだ、職員シータたちを助けて脱出までさせてくれたじゃないか。」

 

「結果論でしょー!」

 

静まり返ったL社分社。

その中で、二人の男と一人の女が会話していた。

 

尤も、この中で人間は一人だけだが。

 

「構えてくれ、停止を解除したからまもなく来るぞ!」

 

男の姿をした幻想体は再び距離を取り、しばらくすると男と女の向けた視線の先が歪みだした。

 

「サンキューな『O-01-a01』。お前のおかげでまたこうして戦うことができる。あの傷を治すなんて、大したものだな?」

 

「お礼はあとで、この事態にケリをつけるわよ。人数が多いと大変ねぇ、と言っても一人一人が弱いからマシだけど。」

 

「こいつらを弱いと言えるのはお前やっぱ強いわ。まあ私としても、外郭の奴らに比べれば赤子のような者だが。ところで、傍観者…いやもう良いだろう。シャロウ、お前の武器はどうした?あの遠くからめっちゃ飛ばせる短剣。あとたまに手が付いて来る。」

 

「…悪い、親父に預けた。君があの時死んだと思っていたから、戦いから身を退いたんだ。あ、というか親父もここにいるんだろ?脱出させてやらないのか?」

 

「あの人は…ここに残るってよ。もう充分酒も呑んだからな、だってさ。」

 

「そうかよ…あんのクソ親父、結局最後まで酒のことかよ。」

 

「どうだか、な。ともかく、あの武器を預けたか…しょうがない、なんせ『翼の禁忌』なんてもんにお互い触れちまったもんな。目立つようなことできないか。」

 

「でも、よく生きていたな?あんなに見せしめとして体中刺されまくって、血も出まくっていたじゃないか。」

 

「ちょっと頑丈だっただけさ。かくいうお前こそ、こうして戦線復帰できるまでにメンタル回復したんだな?アローニィに感謝しとけよ。」

 

「全くだね…あの娘は本当に強い子だ。彼女の言葉に、僕は救われたんだ。」

 

「お前がここにいたのを見た時は驚いたぞ?僥倖にも感じたけどな。」

 

「それはこっちの台詞だ。死んだものと思っていて、それで僕は病んだってのに馬鹿みたいだよなあ。」

 

「因果は巡る…ってことでしょ。ていうかカロイド、戦闘に集中しなさい!また次が来るわよ!」

 

「おっと、悪いな『O-01-a01』。ところで、お前はこの先どうするんだ?ここはもうすぐ機能停止し、封鎖される。私たちが触れた翼の禁忌に関しては、その翼が堕ちたことで問題は無くなった。私とシャロウは再びフィクサーでもしようと思うが…お前に行く当てはあるのか?」

 

「いや、私にはないわね。ここに残るとするわ。」

 

「……そうか。」

 

「そんなシけた目しないでちょうだい。私が望んでするんだもの。安心なさい、あの子の服を通して見守っておくから。」

 

「頼むぞ、あの娘は僕の恩人だから。」

 

「……任せて頂戴。あの子を私が導いて見せるわ。」

 

「そうと決まればラスト、気ぃ引き締めていくぞ!」

 

カロイドと白髪の女は、再び代行者たちの戦闘に入って行った。

 

 

 

シャロウは、今でも時折思うことがある。

戦いから身を退き、生まれ持つ眼を呪い、誰かを呪い、自分を呪ったかつての自分。

そんな者が生きて行って良いのだろうか、と。

その度に、彼は思い出す。彼を救ってくれた彼女の言葉を。

 

「それはそれで、これはこれだから。」

 

その考え方が正解なのかは分からない。

けれど、あんなに小さい娘が僕を助けようと考えてくれた言葉。

ならばその娘に応えて生きていくのが、僕のできる贖罪だろう。

それに、僕は一人じゃなかった。親友は生きていてくれた。

背負ってくれるのは僕だけじゃない。

僕が目を向けるべきなのは、僕を支えてくれた仲間たちだ。

 

過去に囚われず、今を見よう。

周りを見ると仲間がいる。

 

だから、君も周りに頼って良いんだよ。

 

 

 

「アローニィ。君も独りじゃないからね。」




旧E社の話が本編で出たら…まあちょっと違う世界戦ということで。

最後の最後で傍観者クンの名前が「発せた」のは、彼が幻想体としての性質から解放されたからです。

以上で、L社編終了となります!
一段落といったところですね。ここまで来れたのも読者の方々の支えがあったからこそだと思います。
これからも皆様の期待に応えられる…かは分からないですが自分の思い描く都市模様を最後まで描いていきたいと思います。

俺たちの戦いは、これからだ!!
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