機動戦士ガンダム鉄血のオルフェンズ外伝 鉄屑の彼岸   作:ミニトレール

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原付のヘッドライトが何とかつくように修理することができました。これで何とか公道で動かすことができます笑
それでは本編どうぞ!


第十二話:全員が生き残る方法

エヴォルは推力を一気に開いた。

 

マルファスが艦へ向け一直線に加速する。

 

迷いのない軌道。

 

振り返らない速度。

 

それを見逃すほど相手は甘くない。

 

三機のゲイレールが即座に反応した。

 

陣形が崩れ追撃態勢へ移行する。

 

――その瞬間。

 

横合いから、スパロディが割り込んだ。

 

無理な噴射。

 

限界に近い機体があえて射線に身を晒す。

 

ガル「……させるかよ」

 

弾丸が走る。

 

命中はしない――だが、十分だった。

 

隊長機が即座に判断する。

 

隊長機「――分離したか」

 

冷静な声。

 

感情の揺れはない。

 

隊長機「俺が黒いのを追う」

 

一拍。

 

隊長機「お前らは随伴機を沈めろ」

 

命令は短く明確だった。

 

二機のゲイレールが即座に反転しスパロディへ向かう。

 

逃げ場はない。

 

真正面からの殲滅指示。

 

ガルはそれを見て――笑った。

 

ガル「……ハッ」

 

スパロディがさらに前へ出る。

 

マルファスから意図的に距離を取る。

 

――役割は果たした。

 

一方。

 

隊長機は無駄のない加速でマルファスを追う。

 

黒い機影だけを正確に捉えている。

 

通信を開くこともなくただ距離を詰める。

 

エヴォルは背後の反応を確認した。

 

三つだった敵影は――

 

いつの間にか一つになっている。

 

エヴォル「……来たか」

 

呟きは独り言に近い。

 

それでも口角はわずかに上がっていた。

 

マルファスは艦へ向かう進路を変えない。

 

ただ――

 

追われる覚悟をすでに受け入れているかのように。

 

黒い機体が一直線に艦へ向かう。

 

ギャラルホルン艦の外殻が視界いっぱいに広がった瞬間――

 

艦側砲塔が反応した。

 

《機銃、展開》

 

砲口が開く。

 

次の瞬間白い閃光が空間を切り裂いた。

 

――ダダダダダダッ!!

 

衝撃波。

 

マルファスは鉄の雨を“滑る”ように抜ける。

 

エヴォル「……遅ぇ」

 

機銃は直線的だ。

 

だが止まれば当たる。

 

加速を殺さず進路を細かく刻む。

 

そこへ――

 

別方向から110mmの弾線。

 

ゲイレール隊長機。

 

エヴォルは即座に左腕を前に出す。

 

腕部ライフル。

 

短い連射。

 

牽制。

 

弾幕を“置く”。

 

エヴォル「……うっとうしいっての」

 

だが。

 

隊長機は難なくそれをかわした。

 

弾道の“間”を読む。

 

踏み込みの“癖”を測る。

 

被弾ゼロ。

 

隊長機「……やはり、反応が異常だな」

 

声は冷静。

 

距離が自然と詰まっていく。

 

艦からさほど離れていない宙域。

 

二機は同時に速度を落とした。

 

互いに止まる。

 

ここが――

 

戦場だと理解していた。

 

隊長機がライフルを構える。

 

照準がマルファスの胸部に固定される。

 

撃つ。

 

110mm弾。

 

エヴォルはバスターリッパーを引き抜きその“刀身”で弾道を受けながらゲイレールへと突っ込む。

 

――ガンッ!!

 

エヴォル「……っ!」

 

完全に防ぎ切りバスターリッパーを横になぎ倒す

 

しかし

 

隊長機はもうそこにいなかった。

 

回り込む。

 

死角。

 

背後。

 

エヴォル「――!」

 

反応は間に合った。

 

だが距離が近すぎる。

 

隊長機の脚がマルファスの背中を捉える。

 

鋭く無駄のない蹴りがマルファス襲う。

 

――ドンッ!!

 

衝撃。

 

マルファスが後方へ吹き飛ばされる。

 

姿勢制御。

 

推進。

 

だが、艦からは確実に距離を取らされた。

 

隊長機「単騎で艦に迫る判断は評価する」

 

淡々と。

 

隊長機「だが――甘い」

 

再び、距離を詰める。

 

エヴォルは歯を食いしばる。

 

エヴォル「……ちっ」

 

斬りかかる。

 

踏み込み。

 

横薙ぎ。

 

縦斬り。

 

連続。

 

だが――

 

隊長機はすべて“いなす”。

 

最小限の移動。

 

最短距離の回避。

 

反撃は当てに来ない。

 

ただ、位置を奪う。

 

隊長機「力任せだ。読みやすい」

 

エヴォル「……言ってろ!」

 

互いにまだ本気ではない。

 

だが――

 

確実に分かり始めていた。

 

これは一方的な戦いじゃない。

 

そして――

 

簡単に決着がつく相手でもない。

 

二機は再び距離を取る。

 

宇宙に緊張が張り付く。

 

ここからが――

 

本当の戦いだった。

 

スパロディが宇宙を滑る。

 

だがその動きは明らかに“押されて”いた。

 

二機のゲイレール。

 

互いに距離を保ち射線をずらしながら逃げ道を削ってくる。

 

突っ込まない。

 

囲い込む。

 

まるで獲物の体力が切れるのを待つ猟犬だ。

 

ガル「……ちっ……!」

 

MSが警告を叩き込む。

 

危険。

 

危険。

 

危険。

 

考えるより早く身体が動く。

 

噴射。

 

回避。

 

反転。

 

だが――

 

次の瞬間110mmの弾線が“そこにある”。

 

当てるためじゃない。

 

動かさないための射撃。

 

ガル「っ……!」

 

姿勢がわずかに崩れる。

 

そこをもう一機が詰める。

 

クロウシールドが前に出る。

 

射線が切られる。

 

逃げ道が消える。

 

ガル「……くそ……!」

 

歯を食いしばる。

 

スパロディは軽い。

 

反応も悪くない。

 

だが――

 

相手が悪すぎる。

 

ガル(こいつらは……海賊じゃねぇ……ギャラルホルンだ)

 

無駄な動きがない。

 

欲張らない。

 

勝つためじゃない。

 

負けないための動き。

 

阿頼耶識がさらに深く入り込む。

 

視界が鋭くなる。

 

時間が引き延ばされる。

 

その代わり――

 

胸の奥が焼けるように痛む。

 

ガル「……っ、は……!」

 

呼吸が浅くなる。

 

それでも手は止まらない。

 

ガル「エヴォル……まだかよ……!」

 

一瞬の隙。

 

ゲイレールの一機が距離を詰めてくる。

 

トマホークが振り上げられる。

 

重い。

 

直撃すれば終わる。

 

ガル「――っらぁ!!」

 

噴射。

 

身体を捻り紙一重でかわす。

 

だが――

 

衝撃。

 

肩部装甲が削れる。

 

警告音。

 

《損傷率上昇》

 

ガル「……っ……!」

 

歯を噛み締める。

 

逃げたい。

 

下がりたい。

 

でも――

 

(ここで下がったら……)

 

視界の端に黒い影が映る。

 

マルファス。

 

エヴォルが単騎で突っ込んでいく背中。

 

ガル(……あいつ、一人で全部背負う気かよ……)

 

胸の奥で何かが切れた。

 

恐怖じゃない。

 

諦めでもない。

 

怒りだ。

 

ガル「……ふざけんな……」

 

阿頼耶識がさらに深く繋がる。

 

痛みがノイズに変わる。

 

世界が静かになる。

 

ガル「……二機だろ」

 

低く、吐き捨てる。

 

ガル「上等だ……」

 

スパロディが前に出る。

 

逃げではない。

 

迎撃だ。

 

ゲイレールの一機がわずかに動きを止める。

 

第二機「……随伴機、踏み込んできた?」

 

第三機「無茶だ」

 

だが、止まらない。

 

ガル「……エヴォル」

 

息が荒い。

 

それでも視線は前を向いている。

 

ガル「そいつは……任せたぞ……!」

 

二機のゲイレールが再び陣形を詰める。

 

削る。

 

追い込む。

 

だが――

 

その前にガルが立っている。

 

倒れるまで。

 

潰れるまで。

 

この場所は――

 

譲らない。

 

隊長機はマルファスと距離を保ったまま射線を管理していた。

 

110mmライフル。

 

撃てる。

 

だが、撃たない。

 

必要なのは撃破ではない。

 

時間と位置の制御だ。

 

隊長機「……」

 

その冷静な思考の裏で一つの“ズレ”が引っかかっていた。

 

(随伴機が、墜ちない)

 

二機が相手にしているのは明らかに性能で劣るスパロディ。

 

阿頼耶識を使っているとはいえ本来ならすでに沈んでいておかしくない。

 

隊長機「……妙だな」

 

黒いMSは逃げない。

 

突っ込んでくるわけでもない。

 

ただ――

 

ここに留まり続けている。

 

隊長機(単騎で艦を落とす気はない……)

 

なら、何だ?

 

次の瞬間。

 

隊長機の視線が一瞬だけ“後ろ”へ流れた。

 

――ギャラルホルン艦。

 

その進路。

 

推力。

 

姿勢制御。

 

そしてその先。

 

隊長機「……っ」

 

理解が繋がる。

 

隊長機「違う……」

 

息を吸う。

 

隊長機「――こいつら、勝つ気じゃない」

 

確信。

 

隊長機「狙いは……時間稼ぎ」

 

視線が、再びマルファスへ戻る。

 

そして気づいた。

 

マルファスの“立ち位置”。

 

艦と、随伴機。

 

その間。

 

逃がすための壁。

 

隊長機「……そうか」

 

低く、吐き捨てる。

 

隊長機「捨て身で艦を逃がす気か……!」

 

その瞬間。

 

マルファスの動きがほんの僅かに変わった。

 

踏み込みでも回避でもない。

 

“間”。

 

その隙間で――

 

エヴォルの視線がこちらを向いた。

 

エヴォル「……気づいたか」

 

通信は繋がっていない。

 

だが、分かる。

 

口元が僅かに歪む。

 

にやりと。

 

エヴォル「遅ぇんだよ」

 

挑発でもない。

 

自慢でもない。

 

確認だ。

 

エヴォル「――もう、間に合わねぇぞ」

 

隊長機は歯を噛み締める。

 

隊長機「随伴機二機引き続き目標を拘束しろ!」

 

即断。

 

隊長機「可能なら撃破!逃がすな!」

 

だが、内心では理解していた。

 

(……間に合わなければ)

 

(この戦場は、負けだ)

 

視線の先。

 

マルファス。

 

そして、その向こう。

 

“人を運ぶ船”が、確実に距離を取り始めている。

 

隊長機「……黒い機体」

 

低く、呟く。

 

隊長機「貴様らは……」

 

だが、その言葉は続かなかった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

ブリッジ。

 

戦術スクリーンにギャラルホルン艦とMSの軌跡が映っている。

 

表示は、刻一刻と変化していた。

 

貨物船〈ウィロウ〉の進路が、ゆっくりと――だが確実に、戦闘宙域から離れていく。

 

セドリックは息を詰めて数値を追っていた。

 

(……離脱が、始まった)

 

推力配分。

 

燃料残量。

 

どれもが示しているのはひとつ。

 

このままでは戻れない。

 

ルカはブリッジ端のモニターを睨み続けている。

 

ルカ「……ギャラルホルンから離れるしかねぇな」

 

セドリックは、静かに頷いた。

 

セドリック「追いつかれたら終わりです。あの艦に捕捉された時点でこの船は詰む」

 

ブリッジの空気が重く沈む。

 

そのとき――

 

後方にいたデブリの一人が声を上げた。

 

デブリ「……あ、あの……」

 

震える声。

 

デブリ「このままだと……エヴォルさんと、ガルが……追いつけなくなるんじゃ……」

 

セドリックは一瞬も迷わず答えた。

 

セドリック「……その通りだ」

 

はっきりと。

 

否定しなかった。

 

その言葉に別のデブリが堪えきれず叫ぶ。

 

デブリ「じゃあ……じゃあこのまま置いてくのかよ!?二人を!!」

 

ブリッジに怒声が響いた。

 

次の瞬間。

 

セドリックが声を荒げた。

 

セドリック「――いいわけないだろ!!」

 

叩きつけるような声。

 

自分でも驚くほどの激昂だった。

 

セドリック「分かってるに決まってる!!置いていくなんて……そんな判断、誰がしたいと思う!!」

 

ブリッジが静まり返る。

 

セドリックは拳を握りしめたまま、続ける。

 

セドリック「だが――ここで止まったら、全員死ぬ」

 

ルカが低く補足する。

 

ルカ「ギャラルホルンに追いつかれたら、この船ごと拿捕だ。反撃も、逃走も、二度とできねぇ」

 

視線を戦術スクリーンに向けたまま呟く。

 

ルカ「エヴォルたちが稼いでくれてる時間は“俺らが生きる可能性”だ」

 

セドリックは歯を噛み締める。

 

(……そうだ)

 

(だから――)

 

心の中で、強く、強く念じる。

 

(エヴォル……ガル……)

 

(もう十分だ……)

 

(さっさと離脱してくれ……)

 

(こっちに……逃げてこい……!)

 

戦術スクリーンの向こう。

 

二つの光点が確実に、船から引き離されていく。

 

それでも――

 

消えてはいない。

 

セドリックは目を逸らさなかった。

 

(……信じるしかない)

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

宙域。

 

二つの戦場が明確に分かれていた。

 

一方――

 

エヴォルの正面。

 

ゲイレール隊長機。

 

距離、一定。

 

互いに間合いを測り合っている。

 

そして視界の端。

 

かなり離れた位置で三つの光が激しく動いていた。

 

スパロディ。

 

それを挟み込むように動く、ゲイレール二機。

 

そして、さらに遠くに小さくなっていく光が見える。

 

エヴォルはモニターを一瞥した瞬間――

 

全てを理解した。

 

(……もう、合流は無理だな)

 

距離がある。

 

推力差もある。

 

何より――

 

ガルが二機を“止めにいっている”。

 

逃げていない。

 

引きつけている。

 

マルファスのセンサーに貨物船〈ウィロウ〉の航跡が映る。

 

確実に、遠ざかっていく。

 

エヴォルは無意識に歯を噛みしめた。

 

(……間に合わねぇ)

 

通信を開く。

 

だが、繋がる前に――

 

向こうから、ガルの声が割り込んできた。

 

ガル《……なぁ、エヴォル》

 

通信は荒れている。

 

余裕がない証拠だった。

 

エヴォル「二機相手に喋る余裕あんのかよ」

 

ガル《あるわけねぇだろ》

 

一瞬の沈黙。

 

その隙間に衝撃音。

 

スパロディが回避。

 

ギリギリだ。

 

ガル《……船、遠ざかってるな》

 

確認じゃない。

 

もう、分かっている声だった。

 

エヴォル「……ああ」

 

短く返す。

 

それ以上、言えない。

 

ガルは少しだけ間を置いてから――

 

笑った。

 

ガル《最初から、察してた》

 

エヴォル「……何をだ」

 

ガル《あんたさ》

 

砲撃音の合間。

 

息が少し上がっている。

 

ガル《“全員で生き残る方法”じゃなくて》

 

ガル《“全員が生き残る方法”って、言ったろ?》

 

エヴォルは答えなかった。

 

ガルは続ける。

 

ガル《俺とあんたがその“全員”に含まれてねぇってことくらい》

 

ゲイレールのライフルが空間を裂く。

 

ガルはぎりぎりで回避する。

 

ガル《……何となく、分かってたさ》

 

沈黙。

 

距離は埋まらない。

 

エヴォル「……それでも、やるか?」

 

ガル《やるしかねぇんだろ》

 

即答。

 

ガル《俺らがここで踏ん張らなきゃあの船、確実に追いつかれる》

 

一瞬、声が低くなる。

 

ガル《それに――》

 

ガル《“選ばれる側”に戻るくらいなら、自分で決めた方がマシだ》

 

エヴォルは正面の隊長機を見る。

 

冷静。

 

揺るぎなし。

 

そして、遠くのガルを見る。

 

必死。

 

だが折れていない。

 

エヴォル「……悪いな」

 

ガル《今さらだ》

 

少し、笑う気配。

 

ガル《あいつらが逃げ切る。それでいい》

 

エヴォル「……生きて帰るぞ」

 

ガル《それは、努力する》

 

通信がノイズに沈む。

 

ガルはもう二機に集中している。

 

エヴォルは通信を切った。

 

正面。

 

ゲイレール隊長機が静かに距離を詰めてくる。

 

無駄のない軌道。

 

速度も、間合いも、すでに計算済みだ。

 

隊長機「……状況は把握した」

 

淡々とした声。

 

そこに驚きはない。

 

一拍。

 

隊長機「貴様の判断は、正しかった」

 

評価。

 

それは、事実として告げられた。

 

隊長機「単機で前に出て、随伴機に自由を与えた。一枚――いや、半枚は上手だった」

 

その言葉に皮肉はない。

 

純粋な戦術評価だった。

 

エヴォルは口角をわずかに上げる。

 

エヴォル「そりゃどうも」

 

だが――

 

次の言葉は冷たかった。

 

隊長機「だが」

 

距離がさらに詰まる。

 

隊長機「それで逃げ切れるほど、こちらは甘くない」

 

110mmライフルがわずかに角度を変える。

 

狙いは、急所ではない。

 

動きを縛るための位置。

 

隊長機「貴様はここで止まる。評価はするが――」

 

隊長機「逃がしはしない」

 

宣告だった。

 

エヴォルは操縦桿を強く握る。

 

エヴォル「……言ってくれるじゃねぇか」

 

マルファスが低く唸るように加速する。

 

称賛と殺意が同じ温度で向けられる。

 

それこそが――

 

**ギャラルホルンの“本気”**だった。

 

隊長機は、正面の黒い機体を改めて見据えた。

 

胸部装甲。

 

両腕部の銃

 

特徴的なフレーム。そして――

 

右腕に携えている大剣。

 

刃の根元に組み込まれた、異様な歯列。

 

回転式チェーンソー。

 

隊長機「……あの武装」

 

一瞬だけ、視線が揺れる。

 

隊長機「やはり近接は不利だな」

 

自機の装備が脳裏をよぎる。

 

トマホーク。

 

一撃の威力はある。

 

だが、間合いに入った瞬間、あの刃に捕まれば――終わる。

 

隊長機「接触は避けて終わらせる。」

 

判断は即座だった。

 

ライフルを構える。

 

110mm。

 

動きを縛るための射撃ではない。

 

撃破優先の射撃。

 

引き金。

 

――ドンッ!

 

弾線が走る。

 

だが、マルファスは止まらない。

 

エヴォルはわずかに姿勢を傾けただけだった。

 

弾は機体の横を抜ける。

 

エヴォル「……甘ぇ」

 

次の瞬間。

 

両腕が前に出る。

 

両腕部ショートライフル。

 

左右同時。

 

短い連射。

 

――ババッ!

 

今度は弾幕が“置かれる”。

 

隊長機「……ほう」

 

即座に回避。

 

推進器を細かく噴かし弾道の“隙間”を抜ける。

 

互いに、当てに行かない。

 

当たらない距離で当たらせない射撃。

 

銃撃戦。

 

空間そのものを削り合う。

 

隊長機「反応速度、やはり異常だ」

 

エヴォル「そっちもな。伊達に正規軍じゃねぇ」

 

火線が交差する。

 

だが、どちらも決定打は出ない。

 

その瞬間――

 

隊長機のモニターに別の警告が走った。

 

随伴機側。

 

視線が、わずかにそちらへ流れる。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

ガルは歯を食いしばっていた。

 

スパロディの警告音が絶え間なく鳴っている。

 

《推進出力低下》

 

《装甲損耗 38%》

 

《姿勢制御、遅延》

 

二機。

 

ゲイレール二機が一定の距離を保ったまま包囲を崩さない。

 

撃ってくる。

 

だが、当てに来ない。

 

逃げ道を確実に潰してくる。

 

ガル「……くそっ……!」

 

阿頼耶識が危険信号を叩き込む。

 

避けろ。

 

止まるな。

 

だが、行く先がない。

 

クロウシールドが視界を遮る。

 

一機が前に出ればもう一機が射線を作る。

 

完璧な連携。

 

ガル「……っ、まだだ……!」

 

踏み込む。

 

回避。

 

反転。

 

だが、追いつかれる。

 

呼吸が荒くなる。

 

(――長くは、持たねぇ)

 

それでも引かない。

 

エヴォルの背中が脳裏に浮かぶ。

 

(あんたは……前に出た)

 

(なら――)

 

ガルは操縦桿を強く握り直した。

 

ガル「……ここは、俺が止める」

 

二機のゲイレールが、同時に間合いを詰めてくる。

 

ガルの限界はすぐそこまで来ていた。

 

一方。

 

銃撃戦の只中。

 

110mmの弾線が幾何学的に空間を切り取っていく。

 

かわす。

 

撃つ。

 

またかわす。

 

互いに決定打はない。

 

エヴォルは操縦桿を握る指にじわりと汗が滲むのを感じていた。

 

(……削られてる)

 

装甲じゃない。

 

集中力と、反応の余白だ。

 

同じ距離。

 

同じ動き。

 

このまま続ければ――

 

先に限界が来るのはこちらだ。

 

その思考にふと、思い出してしまう。

 

マルファスの奥底。

 

封じられた回路。

 

用途不明。

 

理論不明。

 

記録不完全。

 

γナノラミネート弾

 

効果は誰も知らない何か”。

 

厄祭戦時代の技術。

 

再現不能。

 

解析不能。

 

――だからこそ。

 

セドリックの声が脳裏に蘇る。

 

セドリック「……これだけは絶対に使うな」

 

低く、強い口調。

 

セドリック「理解できないものは、扱っちゃいけない」

 

セドリック「命がいくつあっても、足りない」

 

あの時三人とも詳しいことは知らなかった。

 

エヴォルも。

 

ナルドも。

 

セドリック自身も。

 

分かっていたのは、ただ一つ。

 

“開けたら戻れない箱”だということだけ。

 

パンドラの箱。

 

中身が希望か、破滅か――

 

それすら分からない。

 

エヴォル(……だから、まだだ)

 

歯を噛みしめる。

 

使えば流れは変わるかもしれない。

 

だが、それは“勝ち”じゃない。

 

何が起きるか分からないまま引き金を引くことだ。

 

視界の端。

 

スパロディ。

 

ガルの動きがほんのわずかに鈍る。

 

回避が遅れる。

 

推力の戻りが遅れる。

 

エヴォル「……ガル」

 

隊長機もそれを見逃していない。

 

敵も同じ結論に近づいている。

 

このまま続けば――

 

先に崩れるのは随伴機。

 

エヴォルは息を吐いた。

 

(……まだ、今じゃない)

 

そう言い聞かせるように。

 

だが――

 

マルファスの中で、何かが静かに、確実に反応している。

 

被弾。

 

推力低下。

 

姿勢補正の遅れ。

 

数値が積み上がるたび機体の奥からわずかな“違和感”が立ち上ってくる。

 

音ではない。

 

声でもない。

 

ただ――

 

**「ここにある」**と主張してくる感触。

 

阿頼耶識を通して、思考の裏側にじわりと滲む。

 

――使え。

 

そんな言葉は、どこにもない。

 

だが、回路の奥で眠っているものが、まるで 当然の選択肢 のように存在感を増していく。

 

γナノラミネート弾。

 

封じたはずの選択。

 

触れてはいけないはずの箱。

 

エヴォルは操縦桿を強く握る。

 

これは武器じゃない。

 

切り札でもない。

 

ギャンブルに近い行為だ。

 

だが。

 

思い出してしまった以上、それはもう「存在しない選択肢」ではいられなかった。

 

マルファスの内部で封じられた回路がわずかに――息をしているように感じる。

 

まるで「まだだ」と拒むエヴォルを、「いつでもいい」と待っているかのように。

 

そしてそれを使うかどうかを決めるのは――

 

機体ではない。

 

パイロットだ。

 

戦場の空気が、静かに、しかし確実に――

 

次の段階へと踏み込もうとしていた。

 




ついに開かれる……厄祭の力!!
それでは次回もお楽しみに!
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