機動戦士ガンダム鉄血のオルフェンズ外伝 鉄屑の彼岸   作:ミニトレール

13 / 28
三連休ほど尊いものはない。私はそう思う。
それでは本編どうぞ!


第十三話:悪魔の力

正面。

 

ゲイレール隊長機のモニターに随伴機――スパロディの挙動が映る。

 

わずかに乱れた姿勢。

 

反応の遅れ。

 

推力制御の粗。

 

隊長機はそれを見逃さなかった。

 

隊長機「……判断を修正する」

 

隊長機「随伴機を先に潰す。黒は――後回しだ」

 

冷静な判断。

 

主を切り離し片翼から落とす。

 

隊長機の機首がわずかにガル側へ向く。

 

その瞬間。

 

エヴォルの目が細くなる。

 

エヴォル「……させるかよぉ!」

 

マルファスの腰部が跳ね上がった。

 

アンカークロー射出。

 

――ギャインッ!!

 

予測軌道から外れた明らかに教範外の武装。

 

隊長機「――!?」

 

回避判断が半拍遅れる。

 

左のアンカーがクロウシールドに噛みついた。

 

装甲を削り爪が深く食い込む。

 

同時に――

 

右。

 

アンカーが隊長機の110mmライフルへ直撃。

 

――ドンッ!!

 

火花。

 

爆発。

 

ライフルが弾け飛ぶ。

 

隊長機「……ライフル破損!」

 

だが、ギャラルホルンは慌てない。

 

姿勢制御。

 

推進補正。

 

引き剥がす――

 

その判断よりマルファスの動きが早かった。

 

エヴォル「いくぞ……!」

 

マルファスが急旋回。

 

機体を軸に回転。

 

アンカーが隊長機を“振り回す”。

 

ギャラルホルン艦の方向へ引かれる。

 

隊長機「――ぐっ」

 

姿勢制御が追いつかない。

 

クロウシールドに限界以上の負荷。

 

軋み。

 

金属音が響く。

 

――バキィン!!

 

根元からシールドがもぎ取られる。

 

宇宙に暗い青と緑の破片が散った。

 

隊長機はようやく距離を取る。

 

だが――

 

一瞬ではあった。

 

しかし確かに。

 

主導権は奪われた。

 

エヴォル「……まだだ」

 

マルファスはアンカーを巻き戻しながら艦側へ機首を向け直す。

 

隊長機は失われたシールドの先を静かに見つめた。

 

隊長機「腰部の装甲がアンカーだったとは……想定外の武装だな」

 

声に焦りはない。

 

だが――

 

警戒の段階は確実に一つ上がった。

 

そして隊長機の視線は再び随伴機へ向かう。

 

次に狙うべき“弱点”を、もう一度測るために。

 

戦場はさらに一段危険な深度へ沈んでいった。

 

 

 

宙域の端。

 

スパロディはすでに“限界域”に入っていた。

 

ガル「はぁ……はぁ……!」

 

モニターが、警告を叩きつけてくる。

 

過熱。

 

神経負荷。

 

推力配分、破綻寸前。

 

二機のゲイレールは前に出ない。

 

距離を詰めない。

 

ただ――

 

削る。

 

110mmライフルの弾道がスパロディの“逃げ先”に置かれる。

 

当てない。

 

だが避けさせる。

 

避けるたびに姿勢が崩れ推力を食う。

 

ガル「……っ、クソ……!」

 

小型斧が虚空を切る。

 

届かない。

 

クロウシールドが射線を限定する。

 

近づけない。

 

ガルの呼吸が荒くなる。

 

視界の端がわずかに歪む。

 

ガル(……まだ、動ける)

 

ガル(……でも――)

 

次の瞬間。

 

一機のゲイレールが半歩だけ前に出た。

 

わずか。

 

だが明確な変化。

 

ガルの阿頼耶識が即座に反応する。

 

――危険。

 

だが身体が追いつかない。

 

ガル「――っ!」

 

スパロディが弾幕を掠める。

 

直撃ではない。

 

だが装甲が歪む。

 

推力制御が遅れる。

 

二機目のゲイレールがその“遅れ”を見逃さない。

 

さらに距離を詰める。

 

ガル(……やばい)

 

ガル(……このままじゃ――)

 

そのとき。

 

ガルの視界の奥で、黒い影が遠ざかっていくのが見えた。

 

マルファス。

 

エヴォル。

 

ガル(……船、離れてる……)

 

理解していた。

 

自分が――

 

“最後の砦”だということを。

 

ガル「……っ、はは」

 

笑いにもならない息。

 

それでも操縦桿を離さない。

 

ガル(……やるしか、ねぇだろ……)

 

一方。

 

ゲイレール隊長機。

 

失われたクロウシールド。

 

破損したライフル。

 

機体ステータスには“小破”の表示。

 

だが姿勢は崩れていない。

 

隊長機「……随伴機、限界が近いな」

 

淡々とした分析。

 

だが同時に自機の損耗も把握している。

 

このまま続ければ――

 

勝てる。

 

だが、確実性が下がる。

 

隊長機は通信を開いた。

 

隊長機「こちら前線指揮。正体不明MS一、随伴機一と交戦継続中」

 

一拍。

 

隊長機「当機は小破。ライフルとシールドを消失、戦闘継続可能だが増援を要請する」

 

ギャラルホルン艦・ブリッジ。

 

艦長席の男は、戦術スクリーンを一瞥する。

 

黒い機体。

 

灰色の機体。

 

そして、自艦から距離を取る貨物船。

 

艦長「……時間をかけすぎたな」

 

短い沈黙。

 

だが、即断だった。

 

艦長「要請を了承する。第四小隊を出す」

 

オペレーター「増援MS、発進準備に入らせます」

 

艦長「確実に包囲しろ。逃がすな」

 

冷たい声。

 

それは怒りでも焦りでもない。

 

“処理”の声だった。

 

戦場に新たな駒が投じられようとしていた。

 

そのことを――

 

ガルはまだ知らない。

 

だが。

 

阿頼耶識は確実に“次の危険”を告げ始めていた。

 

限界はもうすぐそこまで来ていた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

エヴォルの背中に嫌な感覚が走った。

 

エヴォル(……来る)

 

理由はない。

 

だが、こういう時の勘は――外れたことがない。

 

エヴォル「……そろそろ増援が来ても、おかしくはねぇよな」

 

だから選択肢は一つだった。

 

今、決める。

 

マルファスが推力を一気に解放する。

 

バスターリッパーを前面に掲げ“盾”として構えたまま――突進。

 

隊長機「……!」

 

ゲイレール隊長機は理解していた。

 

隊長(相性が悪い…!)

 

あの大剣。

 

チェーンソー刃を備えた重量級の近接兵装。

 

対するこちらはトマホーク――間合いを制する武器。

 

だが。

 

押し合いになった瞬間、分が悪すぎる。

 

隊長機は即座にトマホークを振るう。

 

斬撃。

 

衝突。

 

バスターリッパーのチェーンソーが起動する。

 

火花が散る。

 

だが――止まらない。

 

マルファスの推力が、ゲイレールの姿勢をじわじわと押し潰していく。

 

隊長機「……っ!」

 

拮抗はほんの一瞬だった。

 

推力差。

 

質量差。

 

覚悟の差。

 

マルファスが、ゲイレールをそのまま――

 

ギャラルホルン艦の外殻へ押しつけた。

 

――ドガァンッ!!

 

衝撃。

 

艦体に鈍い振動が走る。

 

お互いのコックピット内に火花と電撃が弾ける。

 

隊長機「……!」

 

視界が一瞬白く飛ぶ。

 

その衝撃で――

 

トマホークが手から離れた。

 

だが隊長機は止まらない。

 

武器を失っても戦闘は終わらない。

 

拳。

 

ゲイレールの右拳がマルファスの顔面を殴りつける。

 

――ゴッ!!

 

続けて、胸部。

 

――ドンッ!!

 

衝撃がエヴォルの体を揺さぶる。

 

コックピットが激しく振動する。

 

だが。

 

エヴォル「……なんのぉ!」

 

怯まない。

 

退かない。

 

三発目の拳が迫る。

 

だが――

 

マルファスの腕がそれを受け止めた。

 

掴む。

 

さらに、左手で放たれた拳も――掴む。

 

両腕拘束。

 

隊長機「……!」

 

エヴォルはそのまま踏み込む。

 

右脚で腹部へ蹴りを入れこむ。

 

――ドンッ!!

 

ゲイレールが後方へ弾かれる。

 

距離がわずかに開く。

 

その瞬間。

 

隊長機のコックピット内で激しい揺れ。

 

警告音。

 

ヘルメットのシールドに亀裂が走り――割れた。

 

額から血が伝う。

 

隊長機「……っ」

 

それでも目は死んでいない。

 

戦意はまだ残っている。

 

エヴォルは呼吸を整える。

 

エヴォル(……ここだ)

 

γナノラミネート弾。

 

使うなら――ここしかない。

 

躊躇が脳裏をよぎる。

 

エヴォル(効果は……分からねぇ…下手すりゃ……俺も――)

 

未知である厄祭戦時の技術。

 

パンドラの箱。

 

だが。

 

次の瞬間脳裏に浮かんだのは――

 

ブリッジで指示を出すセドリック。

 

拳を握りしめていたナルド。

 

そして――

 

二機を必死に止めているガル。

 

エヴォル「……チッ」

 

通信を開く。

 

エヴォル「ガル。できるだけ、俺から離れろ」

 

エヴォル「いいな。離れろよ」

 

返事を待たない。

 

マルファスの内部。

 

弾倉が切り替わる。

 

γナノラミネート弾、装填。

 

照準の先。

 

隊長機。

 

その背後には――

 

ギャラルホルンの艦影。

 

エヴォルは、静かに構える。

 

エヴォル「……賭けてやる」

 

誰に言うでもなく、低く。

 

エヴォル「生き残るためじゃねぇ」

 

トリガーに、力を込める。

 

エヴォル「全員が帰るためだ」

 

マルファスが、まるで応えるかのように、低く震えた。

 

まるで“使え”と、囁いているようだった。

 

覚悟は決まった。

 

戦場は――

 

ついにレッドラインを越えた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

違和感は確信に変わっていた。

 

計測不能。

 

解析不能。

 

だが――向いている先はなんとなく分かる。

 

隊長(……艦か?)

 

ゲイレール隊長機のモニターに黒い機体と自身の“背後”にあるものが思考に重なる。

 

ギャラルホルン艦。

 

隊長機は反射的に理解した。

 

隊長(何か仕掛けてくるな……船に打撃を与える何か……)

 

理由は、論理ではない。

 

経験と直感と教範に載らない“感覚”。

 

だが指向性から判断する。

 

隊長(……高威力の貫通弾か?)

 

隊長(俺が受ければ、威力は減衰する)

 

隊長(仮に抜けても――艦のナノラミネートで止まる)

 

そう判断した。

 

だから――

 

隊長機は、前に出た。

 

逃げない。

 

回避しない。

 

自機を盾にする。

 

歪んだ上半身をさらに押し出す。

 

左肩は沈みフレームは悲鳴を上げている。

 

それでも姿勢を崩さない。

 

隊長(……これが、俺の役目だ)

 

次の瞬間。

 

発射。

 

音はなかった。

 

光もなかった。

 

ただ――

 

空間が削れた。

 

γナノラミネート弾。

 

それはもはや“弾”ではない。

 

破壊衝動を一直線に押し付ける現象。

 

命中。

 

隊長機の右肩。

 

瞬間、右上半身が“消失”した。

 

爆散ではない。

 

破砕でもない。

 

存在が削り取られたようだった。

 

装甲。

 

フレーム。

 

内部構造。

 

すべてが、途中から“無”に変わる。

 

だが――

 

弾は止まらない。

 

減衰などしてはいなかった。

 

γナノラミネート弾はそのまま直線を保ち――

 

ギャラルホルン艦へ。

 

艦体中央。

 

命中。

 

貫通。

 

ナノラミネートアーマーが意味を失う。

 

外殻。

 

隔壁。

 

内部区画。

 

一直線に穴が開く。

 

一瞬の――

 

静寂。

 

艦内の空気が、凍りつく。

 

次の瞬間。

 

――ドォォォン!!!

 

爆発。

 

二次、三次と連鎖し、艦の腹部が内側から裂ける。

 

黒い艦影が、宇宙に火を噴いた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

ブリッジ。

 

警報が意味を成さないほど鳴り響く。

 

赤色灯が回り計器が次々と沈黙していく。

 

オペレーター「……艦体、一部……消失……!」

 

誰もすぐには理解できなかった。

 

“被弾”ではない。

 

“破壊”でもない。

 

――貫かれた。

 

その言葉だけが脳裏に浮かぶ。

 

艦長は戦術スクリーンを睨みつけたまま、かすれた声を漏らす。

 

艦長「……待て……今の威力……」

 

表示されている数値を何度も見返す。

 

出力。

 

貫通径。

 

残留反応。

 

どれも――艦砲クラス。

 

だが、発生源は――

 

艦長「……MS……だと……?」

 

信じられないというより理解を拒否する声音だった。

 

艦長「馬鹿な……あれは……MSが……出せる威力じゃ……」

 

その瞬間。

 

艦体内部、貫通孔を起点に――

 

圧力差が反転した。

 

隔壁が悲鳴を上げ内部の空気と火炎が一斉に噴き出す。

 

――閃光。

 

――遅れて、衝撃。

 

ドォォォォン!!

 

艦の腹部が内側から裂けるように爆ぜた。

 

外殻が剥がれ黒い装甲片が宇宙へ散る。

 

推進系が連鎖的に誘爆し艦影そのものがゆっくりと折れていく。

 

ブリッジの床が傾き映像が激しいノイズに覆われる。

 

艦長「――総員、退――」

 

言葉は最後まで続かなかった。

 

衝撃。

 

重力が反転し視界が白に焼き潰される。

 

誰かが叫んだ。

 

だがその声はもう届かない。

 

ギャラルホルン艦は――

 

炎の塊となって、宇宙に崩壊した。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

大破したゲイレール。

 

右上半身は、もはや“欠けている”という表現すら足りなかった。

 

装甲は抉り取られ、内部フレームが宇宙に晒され、

 

推進剤が白い霧となって噴き出している。

 

その衝撃で――

 

コックピット内部は滅茶苦茶になっていた。

 

警告音。

 

遅れて、鈍い衝撃。

 

――ガンッ。

 

金属音が腹の奥で鳴った。

 

隊長機の中。

 

割れたバイザー越しに赤い警告が滲む。

 

隊長(……ああ)

 

遅れて、理解する。

 

隊長(……これは……)

 

視線を落とす。

 

腹部を貫いたコックピット内壁の鉄片。

 

鋭利な破断面が深く突き刺さっている。

 

血が、浮力を失って滲む。

 

隊長(……致命傷だ)

 

不思議と冷静だった。

 

恐怖も混乱もない。

 

ただ――

 

時間がないという事実だけがはっきりと分かる。

 

隊長は、震える手で通信回線を開いた。

 

緊急。

 

最優先。

 

断片でいい。

 

送らなければならない。

 

隊長《――こちらハーフビーク級 戦艦アルバロス 第一小隊、隊長機》

 

声はかすれているが、まだ整っていた。

 

隊長《正体不明の黒色のMSと交戦》

 

隊長《既存フレーム規格に該当せず》

 

息を吸おうとして肺が応えない。

 

隊長《兵装――高出力貫通弾を確認》

 

隊長《ナノラミネート装甲を――》

 

突如、通信が乱れる。

 

外で背部スラスターが爆ぜた音がする。

 

隊長《……艦……》

 

隊長《艦は……》

 

ノイズ。

 

声が千切れる。

 

それでも最後の力で続けた。

 

隊長《……警戒を……》

 

隊長《これは……》

 

一拍。

 

視界が暗転しかける。

 

その中で――

 

ふと、思い浮かぶ。

 

隊長(……後は……)

 

隊長(……頼むぞ……)

 

誰かの名。

 

確かに呼ぼうとした。

 

長く同じ教範を学び同じ規律を背負った人物。

 

だが――

 

その瞬間。

 

外で爆発音が重なった。

 

――ドォォン!!

 

音が言葉を飲み込む。

 

隊長の口は確かに動いた。

 

隊長「***」

 

だが――

 

その名は宇宙に掻き消された。

 

通信ランプが一瞬だけ点灯する。

 

――送信完了。

 

その直後。

 

視界が完全に落ちた。

 

鉄片がさらに深く沈む。

 

呼吸が止まる。

 

ゲイレール隊長機、機能停止。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

通信はもう届かない。

 

マルファスの中。

 

衝撃は来なかった。

 

だが、結果が遅れて押し寄せる。

 

艦が――

 

爆ぜた。

 

エヴォルは息を止めたまま動けない。

 

エヴォル「……」

 

勝った、とは思える。

 

守った、とも言い切れる。

 

ただ――

 

戻れないところまで来た。

 

視界の中で大破したゲイレールが漂っている。

 

その向こうで火を噴く艦。

 

マルファスの黒が爆炎に照らされる。

 

エヴォルは無意識に思った。

 

エヴォル(……本当に)

 

エヴォル(俺は何を撃ったんだ)

 

宇宙に答えはない。

 

ただ悪魔の影だけが残っていた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

少し離れた宙域。

 

ガルと二機のゲイレールは交戦すら忘れその光景を見ていた。

 

爆炎。

 

破断。

 

ギャラルホルン艦が宇宙で“折れる”瞬間。

 

言葉が出なかった。

 

ガル(……船が……)

 

ガル(……折れた……?)

 

次の瞬間遅れて届く衝撃波。

 

スパロディが大きく揺れる。

 

ガル「――っ!」

 

姿勢制御。

 

推進。

 

必死に機体を保つ。

 

視界の端で光がまだ膨張している。

 

あれが――

 

エヴォルの撃ったもの。

 

ガル(……あの人が……)

 

喉が乾く。

 

恐怖か。

 

畏怖か。

 

それとも――安堵か。

 

分からない。

 

ただ一つ、確かなこと。

 

ガル(……戻れない)

 

もう“元の世界”には戻れない。

 

ガルは、黒い機体の方を見る。

 

まだ、そこにいる。

 

まだ、戦っている。

 

ガル「……エヴォル……」

 

呟いた声は通信には乗らなかった。

 

だが胸の奥で、はっきりと響いていた。

 

ガル(……俺は……ついていく)

 

爆炎がゆっくりと散っていく。

 

その中で――

 

戦場は最終局面へと静かに向かっていた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

残る二機のゲイレール。

 

戦術リンクに隊長機の反応が消失したまま、戻らない。

 

沈黙。

 

通信にノイズだけが流れる。

 

第二機「……隊長?」

 

返答はない。

 

第三機「……くそ……」

 

視界の端でかつて“艦”だったものがまだ燃えている。

 

第二機(……本当に……やられたのか?)

 

判断が遅れる。

 

逃げるべきか。

 

引くべきか。

 

それは教範にはある。

 

だが――

 

感情は、教範に載っていない。

 

第二機「……どうする……?」

 

第三機「……隊長の……!皆の仇を……!」

 

言葉が震える。

 

怒り。

 

混乱。

 

そして恐怖。

 

第三機「……このまま、引いていいのかよ……!」

 

その瞬間。

 

――来た。

 

背後。

 

推進を殺さず、減速もせず。

 

串刺しにする構え。

 

バスターリッパーが一直線に突き出されている。

 

第二機「――回避――」

 

間に合わない。

 

距離が近すぎた。

 

エヴォル「……遅ぇよ!」

 

刃が――

 

背中から貫いた。

 

装甲。

 

フレーム。

 

コックピット下部。

 

一気に。

 

――ゴキンッ。

 

機体が“折れた”。

 

串刺しにされたゲイレールはそのまま前方へ押し出され、フレームが無理な方向に歪む。

 

内部。

 

下半身側の装甲が押し潰される。

 

逃げ場はない。

 

声にならない声。

 

そして――

 

即死。

 

エヴォルは引き抜かない。

 

そのまま振り捨てる。

 

残骸が宇宙に放り出される。

 

残る最後のゲイレール。

 

推進が乱れ、隊長機を失った混乱がそのまま挙動に表れていた。

 

第三機「……ちくしょう……!」

 

思考が、完全に白くなる。

 

仇討ち?

 

撤退?

 

もう、選択肢を考える時間はない。

 

その瞬間

 

視界の端にスパロディが映った。

 

第三機(……随伴機……!)

 

“脅威ではない”

 

そう判断したその一瞬が――致命だった。

 

ガルの視界が急激に澄む。

 

阿頼耶識が距離、角度、装甲配置を――直接、脳に叩き込む。

 

ガル(……見える)

 

ガル(……ここだ)

 

コックピット。

 

胸部装甲のわずかな継ぎ目。

 

引き金。

 

――パパパパンッ!!

 

至近距離の発砲。

 

弾は迷わず吸い込まれた。

 

装甲を貫きフレームを裂きコックピットを直撃する。

 

一瞬の静止。

 

次の瞬間。

 

内部から鈍い破裂音。

 

ゲイレールの動きが、完全に止まる。

 

第三機「――――」

 

声は最後まで言葉にならなかった。

 

機体はそのまま慣性で流れ宇宙の暗闇へと消えていった。

 

ガルは引き金にかけた指を離せなかった。

 

息が詰まる。

 

ガル(……今の……俺が……)

 

逃げ場のない事実。

 

“止めた”ではない。

 

“倒した”でもない。

 

――殺した。

 

通信が入る。

 

エヴォル「……やったな」

 

短い声。

 

責めるでもなく、褒めるでもない。

 

ただ、現実として受け止めている声。

 

ガル「……当たった」

 

それだけしか言えなかった。

 

胸の奥が重く沈む。

 

だが――

 

後悔する暇は、ない。

 

周囲にもう敵影はなかった。

 

黒い機体がゆっくりと旋回する。

 

戦闘終了。

 

ガルはスパロディの中で深く息を吐いた。

 

ヘルメットの内側で自分の呼吸音だけがやけに大きく聞こえる。

 

手が震えている。

 

だが――

 

操縦桿はまだ握れている。

 

計器も生きている。

 

機体も動いている。

 

ガル(……俺は)

 

ガル(……まだ、生きてる)

 

胸の奥に重たい何かが沈んだまま。

 

恐怖も後悔も撃った感触も消えはしない。

 

それでも。

 

鼓動がある。

 

呼吸がある。

 

視界が、まだ続いている。

 

それだけが今の彼をかろうじて支えていた。

 




解き放たれた魔弾は全てを貫き破壊した。
それでは次回もお楽しみに!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。