機動戦士ガンダム鉄血のオルフェンズ外伝 鉄屑の彼岸   作:ミニトレール

17 / 28
先日閃光のハサウェイを見に行ったのですがサプライズ演出が多くて心が躍りました!
それでは本編どうぞ!


第十六話:名を呼ぶ前に

あの戦闘から一週間後

 

木星圏

 

巨大な縞模様のガス惑星が、観測窓いっぱいに広がっている。

 

赤い大斑がゆっくりと回っていた。

 

貨物船はその外縁をかすめるように進んでいる。

 

土星まではまだ数日かかる距離。

 

食堂

 

簡素な金属製のテーブル。

 

再利用を繰り返した合成食。

 

味は――まあ、可もなく不可もなく。

 

エヴォルは椅子を後ろに倒し、頬杖をついた。

 

エヴォル「……なぁ」

 

ナルド「ん?」

 

エヴォル「空気、重くね?」

 

ナルドはスプーンを止め、視線を巡らせる。

 

食堂の端。

 

二十人ほどのデブリ達が、固まって座っている。

 

会話は小さい。

 

目は伏せがち。

 

誰かが笑ってもすぐに止まってしまう。

 

ナルド「……まぁ、無理もねぇだろ」

 

エヴォル「分かってるよ。でもよ」

 

エヴォルは少し不満そうに言った。

 

エヴォル「同じ船乗って一週間だぞ?もうちょいこう……普通に話してもいいくね?」

 

ナルド「お前、距離の詰め方が雑なんだよ」

 

エヴォル「るせぇ」

 

ルカは黙ってコーヒーを飲んでいたが、ふと口を開く。

 

ルカ「……怖いんだよ」

 

二人が見る。

 

ルカ「助かったって実感より“いつ終わるか”の方がまだ近い。檻から出たばっかなら尚更だし俺らの事も完全には信用しきれないだろうしな。」

 

エヴォル「……でもさ」

 

少しだけ、声を落とす。

 

エヴォル「どうせ一緒に行くなら、仲良くやりてぇだろ」

 

ナルド「だな。ギスギスしたままは俺もごめんだ」

 

ルカはしばらく考えてから、肩をすくめた。

 

ルカ「じゃあ」

 

立ち上がる。

 

ルカ「行くか」

 

エヴォル「行くって?」

 

ルカ「話をしによ。どうせならちゃんと顔と名前覚えとけ」

 

ナルド「お、いいね」

 

エヴォルはにやっと笑った。

 

エヴォル「そうこなくちゃだ」

 

三人はデブリ達のテーブルへ向かう。

 

それまでざわついていた空気が、嘘のように静まり返った。

 

スプーンが皿に触れる、かすかな音。

 

紙トレーがずれる、乾いた擦過音。

 

誰かが思わず息を呑む気配。

 

視線が一斉に集まる。

 

警戒、恐怖、期待――それらが入り混じった、重たい沈黙。

 

エヴォルはその中心で、わざとらしく肩をすくめた。

 

エヴォル「……あー、違う違う」

 

両手を軽く上げ、敵意がないことを示す。

 

エヴォル「怒鳴りに来たとかじゃねぇから。というか、面談だ。面談」

 

その言葉に、数人が戸惑ったように顔を見合わせる。

 

ミアが恐る恐る口を開いた。

 

ミア「……めんだん?」

 

ナルド「面接みたいな堅ぇやつじゃねぇよ。名前と“できること”を教えてほしいだけだ」

 

ルカ「それと――」

 

ルカ「できないこともな」

 

その一言で張りつめていた空気が、ほんのわずかに緩んだ。

 

全員を“戦力”としてだけ見ていない、と伝わったからだ。

 

エヴォルは空いているテーブルの端に腰を下ろす。

 

エヴォル「俺はエヴォル。もう知ってるだろうけど、一応な」

 

ナルド「んで俺はナルド。雑用、無茶、あとこの馬鹿の尻拭い担当」

 

ルカ「ルカだ。操舵と整備寄り……今は、この船の責任者」

 

ざわ、と小さなざわめき。

 

“責任者”という言葉が、想像以上に重く響いた。

 

エヴォル「で、だ」

 

指を鳴らす。

 

エヴォル「次はそっちの番だ。順番でいい。無理すんな」

 

最初に立ち上がったのは、小柄な少女だった。

 

ミア・レインフォード(16)

 

ミア「……ミアです。料理と、洗濯と……怪我の手当て…あと年下の子の世話も、慣れてます」

 

自然と周囲を見回す視線。

 

すでに“役割”が染みついている動きだった。

 

エヴォル「助かるぜ~。この船、世話役いねぇとこの船終わりだったからな。」

 

ナルド「こいつの世話も頼むぜ~」

 

エヴォル「……はぁ?」

 

ミアは少しだけ肩の力を抜いた。

 

その隣で無言のまま立つ少女。

 

ルゥ・カーヴィン(14)

 

ルゥ「……ルゥ。見るの、得意」

 

短い言葉。

 

だが、視線は鋭く、食堂全体を捉えている。

 

エヴォル「……もしかして俺、見られてる?」

 

ルゥ「……動きが、変」

 

エヴォル「おう悪口か?」

 

ルゥ「……たぶん、違う」

 

誰かがくすっと笑った。

 

腕を組んだ少年が、一歩前へ。

 

カイ・ケッチャー(17)

 

ケッチ「カイだ。ケッチって呼んでくれ。力仕事とMSの操縦」

 

ケッチ「短気なのは……自覚してるつもりだ」

 

語気は荒いが、目は真っ直ぐだった。

 

エヴォル「自覚あるなら上等だ。自覚ねぇ奴の方が面倒だしな」

 

ケッチはわずかに口角を上げる。

 

少し離れた位置から、落ち着いた声。

 

セラ・ヴァイス(17)

 

セラ「セラです。計算、状況整理……セドリックさんのそばにいると落ち着くので」

 

入口の方へ一瞬だけ視線を送る。

 

その横でよろける少年。

 

アルター・ベルク(15)

 

アルター「あっ……いってて…アルターです」

 

アルター「走るの、苦手で……よく転びます」

 

場の空気が少し緩む。

 

ナルド「無理すんなよ」

 

アルター「はい……でも、頑張ります!」

 

どこか必死な笑顔。

 

ナルドの袖を引く小さな手。

 

エミル・クロウ(13)

 

エミル「エミル!」

 

エミル「力はないけど、言われたことは全部やる!」

 

ナルド「元気だな。」

 

ナルドはエミルの頭をなでる。

 

エミルは嬉しそうに頷いた。

 

大柄な青年が、静かに立つ。

 

ハンス・ディートリヒ(19)

 

ハンス「……ハンス。前は鉱山作業員だった」

 

ハンス「重い物や荷物運びは……任せてほしい」

 

それだけで十分だった。

 

控えめに手を挙げる少女。

 

リナ・オルセン(16)

 

リナ「医療知識を少しだけ。応急処置くらいなら……」

 

ルカ「医療か。頼ることも多くなるかもな、期待してるぜ」

 

ミア「一緒にやろ!」

 

リナは安堵したように微笑む。

 

口元に皮肉な笑みを浮かべる青年。

 

フェル・マルティノ(18)

 

フェル「フェル」

 

フェル「索敵と警戒、あと、皮肉」

 

エヴォル「最後いらねぇな」

 

フェル「ですよね」

 

勢いよく前に出る少年。

 

ノア・フィンチ(14)

 

ノア「ノア!」

 

ノア「質問していい?この船、どこまで行くの?」

 

ルカ「いい質問だ。後でちゃんと話す」

 

ノアは満足そうに頷く。

 

腕を組み、強気な少女。

 

イーラ・ケンプ(17)

 

イーラ「イーラ」

 

イーラ「雑用でも何でもやる。弱い者扱いはするな」

 

ナルド「頼もしいな」

 

黙って一礼。

 

マーク・ヘルマン(19)

 

マーク「……整備、作業。喋るのは得意じゃない」

 

エヴォル「それでいい」

 

食堂側から、柔らかな声。

 

シア・モレノ(15)

 

シア「シアです……食堂、担当します」

 

シア「皆、お腹は空かせません」

 

一瞬、彼女の胸に視線が集まり、すぐに逸らされる。

 

壁のような青年。

 

ウルス・アヴェンタドール(18)

 

ウルス「ウルスだ。前に立つのは慣れてる」

 

盾役の空気。

 

星図を抱えた少女。

 

ユノ・スターク(16)

 

ユノ「ユノです。星を見るのが好きです。航路を、覚えるのも」

 

ルカ「いいね。お前は後でブリッジに来てくれ」

 

落ち着いた青年。

 

ロウ・アーデン(17)

 

ロウ「ロウだ。前の場所ではまとめ役的なのをやっていた、必要なら言ってくれ」

 

ルカが評価するように見る。

 

緊張気味に。

 

ペトラ・ノイマン(19)

 

ペトラ「ペトラです。MS整備を学びたいです。……セドリックさんに」

 

入口に立つ男。

 

セドリック「……俺か」

 

眠そうに欠伸。

 

ダニエ・フロスト(14)

 

ダニエ「ダニエ……起きてる時は役に立つ……はず」

 

すでに半分寝ている。

 

おずおずと。

 

ミーク・サザーランド(16)

 

ミーク「ミークです…気配りなら……」

 

エヴォル「十分だ」

 

最後に、少し距離を置いた少年。

 

ガル・ハインツ(17)

 

ガル「……ガル。操縦ができる……」

 

空気が、一瞬だけ張り詰める。

 

エヴォル「知ってる。助けられた」

 

ガルは短く頷いた。

 

エヴォルは立ち上がる。

 

エヴォル「同じ船の連中だ。遠慮しすぎて潰れるなんてごめんだ」

 

ナルド「生き残るぞ」

 

ルカ「使えるもんは全部使う」

 

誰かが笑い、誰かが頷き、食堂に――

 

少しだけ“居場所”が生まれた。

 

エヴォルは、パンッと手を叩いた。

 

やけに大きな音。

 

エヴォル「――はいっ!!」

 

その瞬間、食堂内の視線が一斉にエヴォルに集まる。

 

スプーンを持ったまま固まる者。

 

水を飲みかけて止まる者。

 

セドリックすらわずかに眉を動かした。

 

エヴォルは胸を張る。

 

エヴォル「実はですねぇ……前から温めてたことがありまして!」

 

ナルド「ほうほう?」

 

ルカ「嫌な予感しかしねぇ」

 

エヴォルはわざと一拍置く。

 

 

 

 

ノアが耐えきれず口を開く。

 

ノア「……な、なに?」

 

エヴォルは、にやっと笑った。

 

エヴォル「この船の――新しい名前を考えようと思います!!

 

一瞬の沈黙。

 

そして

 

ウルス「……は?」

 

ミーク「船の?」

 

ケーラ「名前……?」

 

ミアが小さく首を傾げる。

 

ミア「……今の名前、ありましたよね?」

 

エヴォル「ああ」

 

即答

 

エヴォル「ウィロウ

 

わざとらしく肩をすくめる。

 

エヴォル「古臭ぇ!地味!ダサい!!」

 

ナルド「言い切ったねぇ」

 

エヴォル「というわけで!」

 

勢いよく指を突きつける。

 

エヴォル「審査員は――ルカ!!」

 

ルカ「えぇ!?俺かよ!?」

 

エヴォル「責任者だろ?最終決定はお前だ!」

 

ルカ「押し付けんなよ……」

 

その横で、エヴォルはナルドとセドリックを引き寄せ二人の肩をがっちり組む。

 

エヴォル「ちなみに!」

 

ナルド「ちなみに~?」

 

エヴォル「俺ら三人は――もう考えてありまーす!!」

 

ナルドは得意げにニヤリとする。

 

セドリックは無表情……だが、ほんのわずかに胸を張っている。

 

エヴォル「まずは俺から行くぜ!」

 

一呼吸

 

エヴォル「新しい船の名前は――ブラック・デス・ギャラクシー号だぁ!!」

 

食堂が凍った。

 

ルカ「……不採用」

 

即答

 

エヴォル「はぁ!?」

 

ルカ「ダサすぎる。そんな名前にするくらいなら、俺はこの船降りる」

 

真顔だった。

 

エヴォル「そこまで言うかよ!?」

 

エヴォルはがくっと項垂れる。

 

その横で、ナルドが腕を組みながら首を振る。

 

ナルド「いやぁ~ダメだねぇエヴォル君~」

 

エヴォル「……あ?」

 

ナルド「そんな名前、俺なら思いつかないね?」

 

ナルド「センスが違うよ、センスが」

 

エヴォル「ぐぬぬ……」

 

ナルドは、満を持して一歩前へ。

 

ナルド「では!」

 

ナルド「このナルド様が考えた船の名前は――」

 

大きく息を吸う。

 

ナルド「スター・ハイパー・マッスル・ウルティメット号!!」

 

ルカ「不採用」

 

ナルド「!?」

 

目が落ちそうになる。

 

ナルド「ちょ、ちょっと待て!今のは響きが――」

 

ルカ「お前もエヴォルとどっこいどっこいだ。むしろ悪化してる」

 

エヴォル「聞いたか?大差ねぇってさ」

 

ナルド「いーや!俺の方が絶対かっこいい!」

 

エヴォル「んっだと!?」

 

二人が睨み合い、軽く胸を突き合う。

 

ナルド「筋肉は正義だろ!」

 

エヴォル「船名に筋肉要素いらねぇんだよ!」

 

ナルド「てめぇこそ船名にデスなんて単語つけてんじゃねぇよ!」

 

その様子をセドリックが腕を組んで眺めていたが――

 

やれやれ、と小さく息を吐く。

 

セドリック「……ガキのセンスだな」

 

二人「ぐぬぬ……」

 

セドリックは、静かに一歩前に出る。

 

セドリック「ルカ」

 

セドリック「俺は、こいつらとは違う」

 

ルカ「嫌な予感しかしねぇぞおい」

 

セドリック「俺が考えた名前は――」

 

一瞬、間を取って。

 

セドリック「多層装甲独立推進貨物輸送兼居住複合航宙艦第一種改修型・実証運用モデルα

 

沈黙

 

長い

 

長い沈黙

 

ルカ「……不採用」

 

セドリック「なん……だと?」

 

本気で信じられない、という顔。

 

ルカ「長ぇよ」

 

ルカ「下手すりゃ、さっきの二人より酷い」

 

エヴォルとナルドは、必死に笑いを噛み殺す。

 

エヴォル「おい聞いたか?」

 

ナルド「今の名前、呪文かよ」

 

二人「ぶはっ……!」

 

セドリックはしょんぼりと視線を落とす。

 

セドリック「……論理的だと思ったんだが」

 

エヴォルは肩を震わせながら言った。

 

エヴォル「まぁまぁ。こんな感じでさ!」

 

両手を広げる。

 

エヴォル「みんなも、アイデア出してくれ!却下されても泣くんじゃねぇぞ!」

 

その一言で、食堂の空気が一気に弾けた。

 

「じゃあ俺は――」

 

「それなら――」

 

「あたしは――」

 

いくつもの小さな輪ができ、口に出したり、笑い合ったり。

 

さっきまでのぎこちなさは、もうない。

 

ナルド「お、そっちの案いいじゃん」

 

セドリック「……それは割とアリかもな」

 

エヴォルは、その光景を見渡しながら、満足そうに笑った。

 

エヴォル「――いいじゃねぇか」

 

この船に、ちゃんと“居場所”が生まれ始めていた。

 

食堂はいつの間にか――

 

騒がしく、あたたかい場所になっていた。

 

テーブルごとに即席の会議。

 

名前を考えては修正し、口に出しては首を傾げ、誰かが笑えば、釣られて笑う。

 

ミアのグループ

 

ミア「……《リバティ》とか、どうかな?自由、って意味だし」

 

リナ「悪くないと思う。縁起もいい」

 

フェル「無難すぎないか?嫌いじゃないけどな」

 

ミアは、少し照れたように笑った。

 

別のテーブル

 

ノアが身を乗り出している。

 

ノア「ねぇねぇ!《スターランナー》ってどう!?」

 

ユノ「……星を駆ける者……かっこいいですね」

 

ノア「だろ!?」

 

ユノは星図を指でなぞりながら、静かに頷いた。

 

ウルスとケッチのところ

 

ケッチ「《アイアン・ハート》とか。強そうだろ?」

 

ウルス「……悪くはない。だが、少し硬すぎないか?」

 

ケッチ「えぇ~」

 

シアの近くでは、食堂担当らしい案。

 

シア「……《ハース》暖炉って意味です」

 

シア「帰ってくる場所だから」

 

ダニエ「……あったかそう……」

 

半分寝ながら肯定する。

 

ロウは腕を組み、全体を見渡していた。

 

ロウ「……名前に必要なのは“強さ”より、“続く理由”だと思う」

 

ペトラ「……続く、理由」

 

ロウ「生き残るための理由」

 

その言葉に、ペトラは少しだけ真剣な顔になった。

 

少し離れた場所。

 

ガルは壁際で様子を見ていた。

 

騒がしい輪の中に入るでもなく、かといって完全に離れているわけでもない。

 

その横にエヴォルがやってくる。

 

エヴォル「どうしたよ?案、ねぇのか?」

 

ガル「……俺はいい」

 

エヴォル「遠慮すんなって」

 

ガルは一瞬だけ視線を逸らす。

 

ガル「名前って……帰る場所がある奴が、つけるもんだと思ってた」

 

その言葉は静かだった。

 

エヴォルは少しだけ目を細める。

 

エヴォル「じゃあさ」

 

ガルを見る。

 

エヴォル「これから“そうなる”ってことでいいだろ」

 

ガル「……」

 

エヴォル「仮でもいい。途中参加でもいい」

 

エヴォル「ここにいるなら、もう当事者だ」

 

ガルは、しばらく黙ってから、ぽつりと言った。

 

ガル「……《リターン》」

 

エヴォル「ん?」

 

ガル「戻ってきた、って意味……俺からは、それだけで」

 

エヴォルは何も言わずに笑った。

 

エヴォル「悪くねぇ」

 

少し離れた場所で。

 

ルカは腕を組んだまま、騒がしい食堂を見ていた。

 

その横にセドリックが立つ。

 

セドリック「……随分、うるさくなったな」

 

ルカ「嫌か?」

 

セドリック「いや」

 

ほんの一瞬、口元が緩む。

 

セドリック「……悪くない」

 

ルカ「だろ」

 

やがて。

 

誰かが、声を張り上げる。

 

「これどうだ!」

 

「いや、そっちの方がいい!」

 

ルカが軽く手を叩いた。

 

ルカ「はいはい。全部、メモっとく」

 

ざわめきが、少し落ち着く。

 

ルカ「今日は決めねぇ。急ぐもんでもない」

 

エヴォル「お、珍しく慎重だな」

 

ルカ「名前はな。生き残ってからつけるもんだ」

 

その言葉に、誰も反論しなかった。

 

エヴォルは椅子に座り直し、背もたれに体を預ける。

 

エヴォル「……ま」

 

天井を見上げて言う。

 

エヴォル「こうやって揉めて笑えるならどんな名前でも、悪くねぇ気がするな」

 

ナルド「お前のやつだったらごめんだがね」

 

エヴォル「うるせぇ」

 

笑い声。

 

また一つ。

 

この船に“ただ生き延びるだけじゃない時間”が、静かに積み重なっていく。

 

その先にどんな名前が刻まれるのかは――

 

まだ誰も知らない。

 

ルカは軽く手を叩いた。

 

ルカ「――はい、そこまで」

 

一瞬、食堂が静まり返り――

 

次の瞬間。

 

「えー!」

 

「まだ言ってない!」

 

「もう一個あるのに!」

 

年少組を中心にぎゃあぎゃあと不満が噴き出す。

 

ノア「今の良かったじゃん!」

 

ダニエ「……夢の中で考えてたのに……」

 

ルカは額を押さえた。

 

ルカ「多すぎるんだよ。これ以上増えたら、俺がパンクしちまう」

 

ミア「……それは、わかるかも」

 

ルゥも小さく頷く。

 

ルカ「だから締め切り。船の名前は――明日、発表する」

 

不満そうな声が残るが、最終的にはしぶしぶ納得した空気になる。

 

ルカ「今日は解散。各自休め。明日から忙しくなる」

 

椅子が引かれ、人が立ち上がり始める。

 

そのとき。

 

エヴォル「――ちょっと待ってくれ」

 

場の動きが止まる。

 

エヴォルは食堂の中央に立ち、はっきりと告げた。

 

エヴォル「ミア、ケッチ、ハンス、アルター、エミル」

 

「フェル、ノア、マーク、ウルス、ロウ」

 

「ダニエ、ミーク、ガル」

 

名前を呼ばれた者達が、足を止める。

 

エヴォル「……悪いが、残ってくれ」

 

一瞬の沈黙。

 

だが、誰も理由を聞かなかった。

 

分かっている者がほとんどだった。

 

――阿頼耶識

 

静かに集まる十三人。

 

他の人たちは、何も言わず食堂を出ていく。

 

最後に残ったのはエヴォル、ナルド、セドリック、ルカ、そして十三人。

 

扉が閉まる。

 

エヴォルは、一度だけ深く息を吸った。

 

エヴォル「……さっきは、ふざけた感じの流れだったけど」

 

苦笑。

 

エヴォル「ここからは真面目な話だ」

 

全員の視線が自然と集まる。

 

エヴォル「みんなに、やってほしいことがある」

 

一拍

 

エヴォル「MSのパイロットだ」

 

空気が変わる。

 

エヴォル「この船はギャラルホルンに目をつけられてる。海賊だって、いつ襲ってくるかわからねぇ」

 

ナルド「逃げるだけじゃ、限界がある」

 

セドリック「……盾が必要だ」

 

エヴォル「だから――」

 

エヴォル「この船を守る“壁”になってほしい」

 

だが、すぐに続ける。

 

エヴォル「勘違いしないでくれよ?これは命令じゃない」

 

一人ずつ、目を見る。

 

エヴォル「強制もしねぇ。嫌なら、断っていい」

 

ナルド「無理に乗せる気はねぇ」

 

セドリック「俺達三人で、この船を守る選択だってある」

 

静かな沈黙。

 

重いが、押し付けではない。

 

その沈黙を破ったのは――

 

ガルだった。

 

ガル「……俺は」

 

一歩、前に出る。

 

ガル「あんたらに、救われた。檻から出してもらって、生き延びて……」

 

拳を握る。

 

ガル「だから」

 

ガル「今度は、俺も船を……居場所を守る立場になりたい」

 

顔を上げる。

 

ガル「あんたらと一緒に」

 

その言葉が火種になった。

 

ケッチ「……俺もだ。大人しく守られているってのも性に合わねぇからな」

 

ハンス「パイロットなら慣れてる」

 

ミア「……皆を守れるなら」

 

アルター「怖いけど……やります」

 

エミル「ぼ、僕も!役に立ちたい!」

 

フェル「どうせ狙われるなら先に殴る。簡単な話だろ?」

 

ノア「……乗る。ちゃんと理由がある」

 

マーク「……必要なら」

 

ウルス「前に立つ。それが役目だ」

 

ロウ「集団として必要な役割だと思うしな」

 

ダニエ「……起きてる時は、頑張る」

 

ミーク「……誰かを守る力になれるなら」

 

十三人の声が重なった。

 

エヴォルは一瞬だけ言葉を失い――

 

そして、笑った。

 

エヴォル「……ありがとな」

 

頭を下げる。

 

エヴォル「命を懸ける事になる。簡単な道じゃねぇ」

 

顔を上げる。

 

エヴォル「でも――一緒に、生き残ろう」

 

ナルド「歓迎するぜ」

 

セドリック「……後悔はさせない」

 

ルカは少しだけ目を伏せ、静かに言った。

 

ルカ「決まりだな」

 

食堂にはもう恐怖はなかった。

 

そこにあったのは――

 

覚悟と、選択と、“仲間になる”という決断だった。




自分達で作り守っていく。自分達の帰れる居場所を
今回は三人以外の初のMSパイロット。ガル・ハインツの紹介をしていこうと思います。

キャラクター紹介⑤ガル・ハインツ

基本プロフィール

名前:ガル・ハインツ(Garl Heintz)
性別:男
年齢:17歳
立場:フリーゲル所属・MS操縦要員
阿頼耶識システム保持者。

表の性格
無口気味で、必要最低限しか話さない
感情を表に出すのが苦手
常に一歩引いた位置から周囲を見ている

内側の性格
実は仲間意識が強い
「失うこと」を極端に恐れている
一度“仲間”だと認識すると、命を張ることを躊躇しない

人物像の核
ガルは「近づきたいのに、離れることでしか自分を守れない少年」
過去に、阿頼耶識を持つことで周囲から“道具”として扱われた経験があり、
それ以来――「期待されるくらいなら、最初から距離を取る」という生き方を選んでいる。

過去
ガルが最初に属していたのは名前すら表に出ないアングラ組織のMS部隊だった。
表向きは“用心棒”や“護衛部隊”。
実態は――
密輸船団の護衛、資源コロニーの脅迫、企業間の裏戦争を請け負う私兵集団。

ガルの立場
年齢:12~13歳
役割:前線要員・囮・近接戦専門
このころに阿頼耶識手術に適応し“使える”と判断される。

大人たちは彼を名前では呼ばなかった。
「ネズミ」「デブリ」「弾避け」
――それだけだった。

皮肉なことにその部隊はガルにとって**最初で最後の“居場所”**でもあった。
粗末な飯を分け合う
機体の傷を一緒に直す
生き残った夜に誰かが冗談を言う
誰も未来の話はしなかった。
“明日生きているかどうか”だけが、全員の共通言語だった。
ガルはそこで初めて――
「仲間」という言葉を覚えた。

転機はある輸送宙域での任務。
依頼内容は“護衛”。
実際には――
ギャラルホルンと企業連合の“掃討作戦”の囮だった。
戦場
高出力MS部隊
電子妨害
長距離砲撃
脱出ルートなし
部隊は最初から捨てられていた。

ガルの記憶
通信が一人、また一人と途切れる
爆発光が仲間の機体を飲み込む
彼は唯一、生き残った。

漂流していたガルを拾ったのは、
とある商船だった。
治療は最低限。
事情は聞かれない。
値段だけが、静かに決められる。

再び“商品”へ
阿頼耶識持ち。
実戦経験あり。
年齢が若い。
――高値がついた。
そしてガルはウィロウへと売却された。

キャラクター総評
ガル・ハインツは戦場で捨てられ、商品として流され、それでもなお、誰かの背中に立つことを選んだ存在。“居場所”がある限り、彼は言葉も感情も置き去りにして、一番危険な場所に立ち続ける。

というのが現段階のガルの設定となっております。根草無しの少年兵が居場所をなくしヒューマンデブリに堕ちた。というのをイメージして設定しました。彼のMSの腕前としては三人(エヴォル、セドリック、ナルド)以外の船員で一番の腕前となっております。

それでは次回もお楽しみに!

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。