機動戦士ガンダム鉄血のオルフェンズ外伝 鉄屑の彼岸   作:ミニトレール

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今週2日使って友達とディズニーランドとシーに行ったのですが約4時間センターオブジアースに並ぶのに費やしました・・・足千切れるかと思いましたね・・・それでは本編どうぞ!


第十八話:戦場は、交差する

最初の訓練開始から二か月後

 

食堂

 

合成食の匂いが、薄く漂っている。

 

金属のテーブルに、数人がだらけるように腰を下ろしていた。

 

ケッチがスプーンを弄びながら天井を見る。

 

ケッチ「あ~あ……まだ着かねぇのかよ」

 

ノア「あと一週間ぐらいって言ってたよ」

 

ケッチ「その一週間が長ぇんだよなぁ」

 

向かいでフェルが鼻で笑う。

 

フェル「文句言えるだけ余裕ある証拠だろ」

 

ケッチ「余裕っていうかよ……エヴォルの訓練昨日もキツすぎだろ」

 

ノア「シュミレーターとはいえあれ普通に人死ぬやつだよね。セドリックも止めてくれたらいいのに」

 

フェル「止めるどころか、横で平然とデータ取ってたぞ。顔色一つ変えずにな」

 

ミアはトレーを片付けながら小さく言った。

 

ミア「セドリックさん……ちょっと怖いです。優しいですけど、線を引いてる感じがして」

 

マーク「……まさに技術屋だな」

 

短い一言。

 

ケッチ「ナルドは逆だよな。口は悪ぃのに、最後は必ず助けに来る」

 

ノア「この前もさ、エヴォルが無茶した時――」

 

フェル「“あいつが死んだら俺が困る”って言ってたな」

 

ケッチ「素直じゃねぇなあいつも」

 

ミア「でも……皆さん、ちゃんと仲間なんですね」

 

一瞬、沈黙が流れる。

 

誰も否定しない。

 

そのとき。

 

――警報が鳴り響く。

 

低く、船内を這うような音。

 

一瞬、全員が固まった。

 

ケッチ「……なんだ?」

 

フェルはすでに表情を引き締めている。

 

フェル「この音は――」

 

マーク「本物だ」

 

フェルがすっと立ち上がる。

 

フェル「ブリッジに行くぞ」

 

誰も反論しない。

 

自然と足が動く。

 

――エヴォル達の所へ向かうように。

 

ブリッジ

 

既に、主要メンバーは揃っていた。

 

操舵席にルカ。

 

コンソールにセドリック。

 

エヴォルは腕を組み、正面モニターを睨んでいる。

 

――ナルドだけが、露骨に嫌な顔をしていた。

 

エヴォル「……何がいる?」

 

ルカ「10時方向。エイハブ・ウェーブを捕捉」

 

セドリック「……数、六」

 

ノア「六……?」

 

椅子から腰を浮かせかける。

 

セドリック「小型艦一隻MS五」

 

ブリッジの空気が、一段冷える。

 

ケッチ「……海賊か?」

 

立ち上がりかけた足を止める。

 

エヴォルは、即座に首を振った。

 

エヴォル「違う」

 

短く、断定。

 

エヴォル「ギャラルホルンだ

 

誰かが、息を呑む。

 

ミア「……どうして、こんなところに……?」

 

言いながら、無意識に出口の方を見る。

 

ナルド「……そうなんだが」

 

視線はモニターから離れない。

 

ナルド「様子が変だ」

 

ルカ「モニター、拡大する」

 

映像が切り替わる。

 

艦のリアクター形式。

 

MSの型式番号。

 

――EB-04 ゲイレール

 

六つの光点。

 

だが、その配置が――おかしい。

 

ロウ「……一つ、変だな」

 

セドリックが、ゆっくりと頷く。

 

セドリック「……小型艦が逃走行動を取っている。最大推力で、進路はランダム」

 

画面上、小型艦は必死に宙域を抜けようとしている。

 

セドリック「……それを一機のゲイレールが、庇っている」

 

光点の一つが、常に小型艦の前に出る。

 

他の四機の射線を、体で塞ぐように。

 

ざわめきがブリッジ内に起こる。

 

フェル「……内輪揉めか?」

 

ルカ「きな臭いな……だが、俺達が首を突っ込む理由はない」

 

操舵を切る。

 

ルカ「進路変更。迂回する」

 

異論は出ない。

 

ルカ「騒がせて悪かったな。各自、持ち場に戻ってくれ」

 

ブリッジの緊張が、わずかに解ける。

 

皆がブリッジから退出していく。

 

――その瞬間。

 

ナルドだけが、動かなかった。

 

一歩も。

 

視線が、モニターに縫い止められている。

 

ナルド「……なぁ」

 

エヴォル「なんだよ?怖気づいてんのか?」

 

口元だけで笑う。

 

ナルド「ざけんな……」

 

それでも、目は離さない。

 

ナルド「二機……進路、変えてねぇか?」

 

声が、わずかに掠れる。

 

全員が振り返る。

 

モニター

 

確かに――

 

二つの光点が、こちらを捉えるように針路を修正している。

 

セドリック「……視認距離に入った。こっちを認識した可能性が高い」

 

ルカ「この船は貨物船だ。船籍も名前も、全部書き換えてある。……理由は、ないはずだ」

 

エヴォルは、ゆっくりと腕を解いた。

 

エヴォル「ナルド、ケッチ、フェル、ロウ、ミア」

 

全員が反応する。

 

エヴォル「格納庫へ行くぞ……嫌な予感がする」

 

ナルド「ああ」

 

ようやく、足が動く。

 

ナルド「俺もだ」

 

歩き出しながら、肩越しに。

 

ナルド「なぁセドリック、なるべく……穏便に済ませてくれよ?」

 

セドリック「そのつもりだ」

 

だが――

 

モニターの中で、二つの光点は。

 

逃げる小型艦と、それを庇う一機を背に。

 

こちらへの速度を、落とさなかった。

 

オープン通信。

 

無機質なノイズの向こうから、声が届く。

 

ゲイレール《そこで何をしている》

 

ルカが、一瞬だけ目を閉じ、息を吸う。

 

ルカ「土星圏へ向かっている。ノクティス・コロニーだ」

 

《ノクティス?……目的は?》

 

ルカ「商売だよ、商売」

 

いつものように軽く、いつもの“貨物船の声”をだす。

 

《あんなコロニーで商売を?何を売るつもりだ》

 

沈黙

 

その間に、セドリックが一歩前に出る。

 

セドリック「補給物資です。中心区から弾かれた居住区向けの安物ですがね。水処理部品、簡易医療パック、合成食の代替素材」

 

一拍

 

セドリック「ノクティスでは、よくある話でしょう?」

 

回線の向こうで、短い間が空く。

 

《……確かに、辻褄は合う》

 

ルカが、コンソールの下で小さくサムズアップする。

 

――だが。

 

別の声が、割り込んだ。

 

《もういいですか、三尉?どうせ沈める予定なんですよね?》

 

露骨な嘲り。

 

三尉《すまんな曹長。少々遊びが過ぎた》

 

短い、下卑た笑い声が回線に乗る。

 

ルカ「待て、今の説明で――」

 

セドリック「不審点はありません!検問なら、それで十分なはずです!」

 

三尉《ああ、分かっているとも》

 

声が、妙に穏やかになる。

 

三尉《しかしどんな正当な理由が見つかった以上この現場に居合わせた以上。このまま生かすわけにはいかない》

 

ぞっとする間。

 

三尉《なぁに、大丈夫だ。君たちの存在は、後でちゃんとなかったことにする》

 

二機のゲイレールが、同時にライフルを構える。

 

曹長《運が悪かったな。あんたら、化けて出るなよ?》

 

嘲笑

 

――その瞬間。

 

セドリック「最大加速!!」

 

反射的に叫んでいた。

 

ルカ「了解!」

 

操舵が叩き込まれる。

 

フリーゲルが、前方へ突貫する。

 

想定外の加速。

 

一瞬、ゲイレールの照準が乱れる。

 

二機《――っ!?》

 

慌てて回避する二機。

 

曹長《逃がすか!》

 

警告音

 

船体が強く揺れる。

 

ブリッジの床が軋んだ。

 

――格納庫

 

赤色灯が回り、空気が一変する。

 

皆が準備のためにが走り、搭乗ハッチが開く。

 

セドリック「……すまない」

 

低く、短く。

 

エヴォルはヘルメットを手に取り、肩をすくめた。

 

エヴォル「気にしてねぇよ。こうなる気はしてたしよ」

 

どこか楽しげに笑っている。

 

被り、固定する。

 

バイザーが静かに閉じる。

 

通信が割り込む。

 

ナルド《おいエヴォル!俺らの分、ちゃんと残しとけよ!》

 

明るい声。

 

エヴォル「だったら――」

 

エヴォル「さっさと追いついてこいよ」

 

ニヤリと

 

エヴォル「――エヴォル・ヴァレンティ」

 

エヴォル「マルファス、行くぜぇ!」

 

カタパルト

 

解放

 

黒い機体が、フリーゲルの影を裂き、宇宙へ放たれる。

 

推進炎が、闇を照らす。

 

戦いは――

 

もう、避けられなかった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

――宇宙

 

砲撃が、虚空を裂く。

 

男Aのゲイレールは、小型艦の前に出るように機体を滑り込ませた。

 

ライフルの照準を、常に一機ずつ。

 

射線を切る。

 

撃たせない。

 

だが――数が違う。

 

男A(……まずいな)

 

スラスターが悲鳴を上げる。

 

回避運動のたびに、装甲をかすめる光。

 

一発、肩部の装甲が削れていく。

 

警告音。

 

男A「――っ」

 

歯を食いしばる。

 

男A(このままじゃ……あの人が危ない)

 

背後。

 

通信モニターに映る、小型艦の反応。

 

逃げてはいる。

 

だが、速度が落ちている。

 

男A(……持たない)

 

そのとき。

 

レーダーの光点が、一つ――動いた。

 

男A「……?」

 

追撃していた四機のゲイレールが、進路を分ける。

 

二機はそのまま小型艦へ。

 

もう二機は明らかに別方向へ――。

 

男Aは即座にレーダーを拡大した。

 

そこに映ったのは。

 

――船の反応。

 

大型ではない。

 

だが、安定したエイハブ・ウェーブ。

 

男A「……貨物船?」

 

識別信号。

 

フリーゲル。

 

距離は、離れている。

 

だが――“見つけた”と言わんばかりの針路。

 

男A「……」

 

一瞬、迷い。

 

そして、覚悟する。

 

男A(この船には……申し訳ないが)

 

男A(囮になってもらう)

 

通信を開く。

 

男A「こちら――」

 

だが

 

言葉を発しかけた、その瞬間。

 

レーダーが、再び鳴った。

 

新たなエイハブ・ウェーブ反応。

 

――重い

 

――異質

 

男Aの指が、止まる。

 

男A「……何だ?」

 

識別コードが、自動で表示される。

 

ASW-G-39

 

男A(……これは)

 

機体名

 

――GUNDAM MALPHAS

 

男Aは、思わず息を呑んだ。

 

さらに

 

その背後に、複数のMS反応。

 

友軍ではない。

 

だが――敵でもない。

 

男A(……そうか)

 

一瞬で、頭が回り始める。

 

男A(貨物船に気を取られた二機。こちらに残るのは――二機)

 

男A(ガンダムがこの場に出るなら……)

 

男Aの口元が、わずかに歪んだ。

 

男A(使える)

 

即座に、別回線を開く。

 

男A「――こちら???、???聞こえるか」

 

返事は、すぐだった。

 

男B《ああ。問題ない》

 

男A「追っ手の数が減った。進路を変更しろ」

 

一拍

 

男A「……あの貨物船だ。フリーゲルという貨物船に近づけ」

 

男B《……貨物船?大丈夫なのかよ?》

 

わずかな、戸惑い。

 

男Aは、モニターに映る宙域を睨んだまま答えた。

 

男A「問題ない」

 

言い切る。

 

男A「俺に、考えがある」

 

男B《……了解。信じる》

 

通信が切れる。

 

前方。

 

ゲイレール三機が、包囲を狭めてくる。

 

そして、遠方。

 

暗闇の中で、黒い影が動き始めていた。

 

男A(賭けだが……)

 

男A「悪いな、貨物船」

 

操縦桿を強く握る。

 

男A(だが――ガンダムが来たならこの場は、切り抜けられるかもしれない。)

 

スラスター全開。

 

ゲイレールは、再び小型艦の前へ身を投げ出した。

 

――そして

 

視点が、切り替わる。

 

暗い宇宙を、黒い機体が貫く。

 

ガンダム・マルファス。

 

エヴォルは、コックピットで前方を睨んでいた。

 

エヴォル「……妙だな」

 

レーダー

 

逃げる小型艦。

 

それを庇うゲイレール。

 

そして、こちらへ引き寄せられるような進路。

 

エヴォル「逃げたいなら、まっすぐ逃げるはず……だが、あれは違う」

 

通信が、割り込む。

 

ルカ《エヴォル。船を守っているゲイレールの動きが変だ》

 

エヴォル「見てる」

 

黒い機体が、速度を上げる。

 

エヴォル「……こっちを使おうとしてるな」

 

ニヤリと、口元が歪む。

 

エヴォル「面白ぇ……乗ってやんよ」

 

スロットルを押し込む。

 

エヴォル「――マルファス。前に出る」

 

推進炎が、さらに強く噴き上がった。

 

戦場は、今まさに――交差しようとしていた。

 

 

黒い影――

 

ガンダム・マルファスが、男Aのゲイレールへと急接近する。

 

だが、その進路を塞ぐように――

 

船を狙っていた二機のゲイレールが割り込んだ。

 

完璧な連携。

 

左右から挟み込み、射線と退路を同時に潰す動きに、エヴォルが舌打ちする。

 

エヴォル「……チッ」

 

その瞬間。

 

戦場の横合いから、五つのMS反応が雪崩れ込んだ。

 

――スパロディ部隊。

 

HUDに、パイロット名が次々と点灯する。

 

スパロディ:ナルド

 

スパロディ:ウルス

 

スパロディ:ロウ

 

スパロディ:ガル

 

スパロディ:カイ

 

一斉に散開。

 

牽制射撃。

 

スラスター全開。

 

強引に、三尉機と曹長機の射線を切り裂く。

 

エヴォル《そっちの二機は任せた!俺は、あのゲイレールの援護に入る!》

 

即座に返答が重なる。

 

ガル《了解!》

 

ケッチ《任せろ!》

 

ロウ《援護入る!》

 

ナルド《ああ!》

 

――一瞬の間。

 

ウルス《……俺も、ついていく!》

 

次の瞬間。

 

ナルド《あぁ!?おいウルス!!》

 

ウルスのスパロディが、マルファスの進路へと加速していく。

 

ナルド《エヴォル!ウルスがお前んとこ行った!……頼んだぞ!》

 

エヴォル《了解!》

 

短く返す。

 

三尉機と曹長機の包囲が、一瞬だけ緩んだ。

 

スパロディ部隊の強引な牽制が、二機の意識を引き剥がす。

 

その刹那を、エヴォルは逃さない。

 

マルファスのスラスターが吼え、黒い影が縦軸を切るように滑り込む。

 

エヴォル《今だ……!》

 

推力を限界まで叩き込み、二機の間を強引に突破。

 

射線が交錯する中、装甲を掠める実弾を無視して――

 

黒い機体は、一直線に“彼”の元へと向かった。

 

三尉機が、マルファスの加速軌道を見切った。

 

三尉「……突破されたな」

 

曹長「ですね。黒いのと――ロディタイプが一機」

 

追従しようとスラスターを噴かした、その瞬間。

 

横合いから、激しい牽制射が叩き込まれた。

 

スパロディ四機。

 

ナルド、ロウ、ガル、ケッチ。

 

一斉に距離を詰め、三尉機と曹長機の進路を力ずくで潰す。

 

曹長「チッ……」

 

三尉「無視できん数だな」

 

即座に、回線を開く。

 

三尉《残存機へ黒いのとロディタイプがそちらに行った対処してくれ》

 

一拍。

 

《了解》

 

簡潔な返答。

 

通信は、それだけで切れた。

 

三尉は、スパロディ部隊へ機首を向け直す。

 

三尉「……行くぞ、曹長。こいつらに少し“お仕置き”してやろう」

 

声に、下卑た笑いが混じる。

 

曹長「りょーかい!撃墜数が少ない方が飲み代奢りっスよ、三尉」

 

二機のゲイレールが、同時に突っ込んだ。

 

連携。

 

射線誘導。

 

殺しに来る動き。

 

ナルド《クソ……!こいつら!》

 

スパロディが散開し、必死に食らいつく。

 

戦場の一角で――格の違う殺し合いが始まった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

視界の先。

 

損傷したゲイレールが、小型艦の前に立ちはだかっている。

 

その周囲を囲むのは、なお健在な残存ゲイレール。

 

数、二

 

エヴォル「……いたな」

 

マルファスが、男Aのゲイレールの横に並ぶ。

 

一瞬だけ、通信が開く。

 

エヴォル《わりぃ遅れた。二機に足止めくらってよ。残りは……二機か》

 

エヴォルは前方の残存ゲイレールを睨む。

 

エヴォル《ここは俺ともう一機で前に出る。そっちは小型艦を守れ》

 

短く、断定的に言い切る。

 

――返答はない。

 

次の瞬間。

 

男A《……感謝する》

 

それだけだった。

 

感情を抑えた、乾いた声。

 

それ以上の言葉はなく、通信は切れる。

 

エヴォルは小さく息を吐いた。

 

エヴォル「……上等だ」

 

マルファスが一歩前へ出る。

 

男Aのゲイレールは、その背後へと下がり、艦を庇う位置に入った。

 

その瞬間。

 

HUDの端に、見慣れた機影が割り込む。

 

スパロディ――

 

推力を抑えきれず、やや不安定な軌道。

 

エヴォル《来たか!ウルス》

 

返答は、少し遅れて届いた。

 

ウルス《あ、ああ……!任せろ!》

 

無理に前へ出ようとするスパロディ。

 

だが、その動きは明らかに前のめりだ。

 

推力配分が荒い。

 

射線への意識が薄い。

 

エヴォル(……焦りすぎだ)

 

エヴォル《前に出んな。俺の援護に入れ》

 

ウルス《でも……!》

 

言葉が重なる。

 

その刹那、残存ゲイレールの一機が、ウルスの進路へと照準を滑らせた。

 

エヴォル《――ウルス!》

 

マルファスが即座に割り込む。

 

黒い影が射線を遮り、実弾が虚空を裂く。

 

残存ゲイレール二機が、間合いを詰めてくる。

 

二対二

 

逃がす側と、止める側。

 

そして――

 

一人だけ、足並みを崩しかけた者。

 

戦場は、完全に分断された。

 

マルファス/ウルス/男Aのゲイレールvs 残存ゲイレール

 

スパロディ部隊(ナルド・ロウ・ガル・ケッチ)vs 三尉機・曹長機

 

そして中央に―― 守られながら逃走を続ける小型艦

 

それぞれの判断が、それぞれの“覚悟”を試し始めていた。

 

この瞬間、戦場はもはや偶然ではなく――

 

選択によって形作られていた。

 

残存ゲイレールの一機が、露骨にウルスへ向けて加速した。

 

狙いが変わる。

 

――いや、最初からだ。

 

エヴォル《クソ……!》

 

マルファスが割り込もうとする。

 

だが、もう一機のゲイレールが進路を塞いだ。

 

強引な体当たり。

 

装甲が悲鳴を上げ、マルファスの機体が弾かれる。

 

エヴォル《チッ……どけ!》

 

推力を叩き込む。

 

だが一瞬、遅れた。

 

その一瞬で――

 

ウルスのスパロディに、直撃弾が叩き込まれる。

 

胸部装甲が砕け、機体が大きく姿勢を崩した。

 

ウルス《うあっ――!!》

 

警告音。

 

赤く染まるHUD。

 

スパロディが制御を失い、惰性で流れる。

 

エヴォル《ウルス!!》

 

残存ゲイレールが、距離を詰める。

 

右腕が、ゆっくりと――だが確実に振り上がる。

 

鈍く光るトマホーク。

 

一直線に、スパロディの頭部へ。

 

ウルスの視界が赤く染まった。

 

警告音。

 

損傷表示。

 

操縦桿が、まるで別物のように重い。

 

ウルス(……あ、これ)

 

時間が、伸びる。

 

ウルス(……やばいな)

 

頭のどこかで、妙に冷静な声がした。

 

逃げなきゃ、という思考は浮かばない。

 

体が、言うことをきかない。

 

ウルス(……死ぬ、のか)

 

目の前で、刃が落ちてくる。

 

エヴォル《やめろ!!》

 

マルファスが踏み込む。

 

だが、もう一機が完全に噛みついてくる。

 

射線も、推力も、塞がれた。

 

ウルス(――間に合わねぇ)

 

トマホークが、振り下ろされる。

 

その瞬間――

 

横合いから、黒い影が飛んだ。

 

回転しながら飛来する、別のトマホーク。

 

――叩き合う。

 

火花が散り、金属音が戦場に響く。

 

衝撃。

 

刃が弾かれ、軌道を逸らす。

 

次の瞬間――

 

弾き飛ばされたトマホークの一方が、スパロディの胸部に直撃した。

 

鈍い衝突音。

 

装甲がへこみ、フレームが軋む。

 

コックピット全体が歪み、内壁が内側へと押し込まれる。

 

ウルス「――ぐぅっ!!」

 

視界が大きく跳ねる。

 

固定具がきしみ、身体がシートに叩きつけられた。

 

その拍子に、内装パネルが割れ、金属片がコックピット内に飛び込む。

 

左腕に、鋭い痛み。

 

破片が、スーツ越しに突き刺さった。

 

息が、詰まる。

 

ヘルメットのバイザーに、放射状のひびが走る。

 

警告表示が歪み、赤が滲んだ。

 

それでも――

 

致命の一撃は、外れた。

 

一拍

 

ウルス「……っ」

 

血の味がした。

 

呼吸音だけが、やけに大きく聞こえる。

 

男A《うかつに前に出るな……次は保証できない。》

 

低く、短い声。

 

ウルスは、何も返せなかった。

 

腕の痛みと、割れた視界の向こうで――

 

生きている、という事実だけが、遅れて追いついてくる。

 

マルファスのセンサーが、スパロディを捉える。

 

――歪んでいた。

 

胸部装甲が、明らかに内側へ潰れている。

 

本来あるはずのラインが、無理やり折り曲げられた形だ。

 

エヴォル「……っ」

 

一瞬、呼吸が止まる。

 

エヴォル(直撃――いや、掠っただけだ)

 

そう分かっていても、背中に冷たいものが走った。

 

中破。

 

数字がHUDに叩きつけられる。

 

エヴォル「ウルス、動けるか」

 

返事は、間が空いた。

 

ウルス《……あ、ああ……》

 

その声が、もう答えだった。

 

エヴォルは歯を食いしばる。

 

そして、通信を切り替えた。

 

エヴォル「……さっきの、助かった」

 

短く、噛みしめるように言う。

 

すぐ続けて。

 

エヴォル「ウルスを船の護衛に回させてくれ。前には出させんな」

 

返答は、ほとんど間を置かずに返ってきた。

 

男A《……分かった》

 

それだけ。

 

だが、その一言で十分だった。

 

エヴォルはマルファスを前に出す。

 

歪んだスパロディが、ゆっくりと後退していくのを、視界の端で確認しながら。

 

エヴォル「……ここからは、俺がやる」

 

黒い影が、再び戦場の中心へ踏み込んだ。

 

歪んだスパロディのコックピットで、ウルスは荒い呼吸を整えていた。

 

そこへ、男Aのゲイレールが横につく。

 

通信が、低く開く。

 

男A《……その剣を寄越せ》

 

ウルス「え……?」

 

男A《ロングブレードだ。今は、お前より俺のほうが使える》

 

一泊

 

ウルスは操縦桿から手を離し、震える指で右腕の固定を解除した。

 

スパロディの腕が前に出る。

 

両刃がついた大剣ロングブレード。

 

男Aのゲイレールが、迷いなくそれを掴み取る。

 

金属が噛み合う、乾いた音。

 

その瞬間、男Aの声が落ちた。

 

男A《いいか》

 

低く、抑えた声音。

 

男A《もし、一度でもこの船を狙ってみろ》

 

一拍。

 

男A《……死なんて生ぬるい。そう思える地獄を、味あわせてやる》

 

通信越しでも分かる。

 

本気の声音。

 

ウルスは、喉を鳴らした。

 

ウルス「……分かった」

 

それ以上、言葉はなかった。

 

男A《下がってろ》

 

通信が切れる。

 

次の瞬間。

 

ロングブレードを構えたゲイレールが、エヴォルの横へと加速する。

 

マルファスの視界に、その動きが入る。

 

エヴォル「……来たか」

 

返答はない。

 

代わりに――

 

残存ゲイレールへ向け、鋭く踏み込む気配。

 

エヴォルはゆっくりと息を吐いた。

 

エヴォル「……上等だ」

 

マルファスがわずかに前傾する。

 

その横で、ロングブレードを構えたゲイレールが並ぶ。

 

言葉は、もういらなかった。

 

二機は、同時に前へ出る。

 

――戦場が、再び唸りを上げた。




二つの意志が重なり、運命が噛み合った。
それでは次回もお楽しみに!
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