機動戦士ガンダム鉄血のオルフェンズ外伝 鉄屑の彼岸 作:ミニトレール
重デブリ帯――。
撃墜された艦船やモビルスーツ、折れ落ちたフレーム片と小惑星の破片が濃霧のように漂い、航行する者を確実に死へと誘う“宇宙の墓場”。
視界は悪く、センサーはほぼ機能しない。
どこから破片が飛んできてもおかしくない、死の宙域。
しかし三人のスパロディは、迷いなくそこへ突っ込んでいた。
ナルド「……しかしよ、こん中入るの、正気じゃねぇよな……」
彼のスパロディは左腕を肘から先ごと失い、切断面には赤黒く焼け固まった金属層がこびりついている。
脚部フレームは変形し、機体は常に右へ傾いており、パイロットの補正操作がなければ真っ直ぐ進むことすらできない。
さらに深刻なのは――
コックピット右側のモニターが完全に沈黙していること。
画面は真っ黒で、警告灯の光だけが虚しくその表面を照らす。
ナルド「右側、全部死んだままだ……!死角が広すぎんだよ……マジで怖ぇ……!」
右側から何が来ようと、彼には察知できない。
それは、この“宇宙の墓場”では致命的だった。
セドリック「デブリの外に出りゃ即死だ。だから入る。敵との遭遇を回避するには……この“墓場”しかない」
三機の中で最も“動く”のはセドリック機だった――だが、それでも重傷だ。
胸部装甲は三枚剥がれ、内部のフレームが一部むき出しになっている。
脚部スラスターは片側が完全に焼け落ち、残った方も黒煙を吐きながら、バチッと火花を散らしては機体を跳ねさせた。
そのたびにコックピットに振動が走り、こすれる金属音と、ガ…ガキン!と内部で何かが砕けるような音が響き、セドリックは思わず眉をしかめる。
エヴォル「ハッ、ゴミの中で生きてきた俺らにはピッタリだろ」
エヴォルのスパロディは三機の中で最も酷かった。
右腕は根元から消失。
右脚は関節ごと吹き飛び、完全に使用不能。
唯一残った左脚も油が垂れ、内部シリンダーがガコン、ガコン……と不規則な音を立てている。
そして致命的なのは――
メインモニターの故障。
画面には常にノイズが走り、映像は時折フリーズし、エヴォルが拳で殴ってようやく映像が戻るという有様だった。
エヴォル「……おい、頼むから今はいい子になってくれ……!」
映った宇宙は歪み、敵影が映っても幻かどうかすら分からない。
正直、こんな状態で“まだ動いている”こと自体が奇跡と言っていいスクラップだった。
ナルド「おいエヴォル、本当に見えてんのかよ!? お前の、それもう“モビルスーツ”じゃなくて“棺桶”だぞ!?」
セドリック「二人で支えてるからどうにか進めてるが……正直、どこまで保つか……」
エヴォル「だったら落ちる前に生き延びりゃいいだろ……!止まったらどの道終わりなんだからよ!」
三機は寄り添うように進み、お互いの欠損を補い合いながら、壊れかけた“鉄屑の隊列”を維持していた。
その姿は――
三機合わせて、ギリギリ一機分の戦闘力。
笑えない現実だった。
酸素・燃料ともに底が見えかけている。
生き延びるには、もはや奇跡に頼るしかない状況だった。
セドリック「……センサー、完全に死んだか?ノイズばかりだ」
レーダーの線が不安定に揺れる。
エヴォル「墓場ってより地獄だな……見ろよ、あれ」
焼け焦げた船体、折れたフレーム、粉々になったパーツ。
それらが濃霧のように漂い、方向感覚すら奪っていく。
エヴォル「帰り道わかんなくなっちまうな……」
ナルド「帰る場所なんてないだろ……お前が言ったんじゃ
その時――
ピ……ッ
セドリック「……前方。“反応”だ」
エヴォル「マジかよ………!!」
最初は巨大な岩塊に見えた。
だが近づくにつれ、その輪郭は“人工物”のそれへと変わっていく。
船体表面は裂け、骨格だけがむき出しになっている。
無数の破片に刺されながら、辛うじて原形を保つ大型の大破船だった。
ナルド「通信の乱れがひでぇ……普通なら全部死んでるはずだが、あの船にまだ生きてる装置か、何かの反応が残ってるのかもしれねぇ」
セドリック「ああ、壊れた船体からじゃこんなにノイズは出ない。反応の“源”を確認する必要がある」
エヴォル「生きてる装置だと?……まさか、俺らを待ちぶせしてるMSとかじゃねぇよな?」
セドリックはわずかに息をのみつつも、冷静さを保とうとした。
セドリック「……ありえるな。どっちにしろ進むしかないんだ。慎重に行くぞ。俺が先導する。ナルドは――エヴォルの補助に集中してくれ」
セドリックは深く息を吐き、壊れかけた自機の腰部へ視線を落とした。
そこには――唯一まともに残った近接武器、チェーンアレイが吊り下がっている。
鉄球にトゲを持つモーニングスター型の武器。
外装は傷だらけで、ところどころ錆び、鎖も部分的に歪んでいるが――
それでも、まだ“使える”。
エヴォルが苦笑しながら呟く。
エヴォル「お前のソレ……まだ壊れてなかったのかよ」
セドリック「今使える武器は……これしかないからな」
鎖の束が揺れ、金属音を鳴らす。
ガララ……ジャラッ。
ナルドが肩をすくめる。
ナルド「チェーンアレイなんて武器、宇宙じゃ普通なら使わねぇよ。でもセドちゃん、意外と扱うの上手いんだよな、それ」
セドリック「“生き残る為”なら何でも使うさ」
その言葉には冗談が一切なかった。
ナルド「……了解。だがよ、その前に一つ渡しておく」
損傷だらけのスパロディがギギ、と不規則な振動を起こしながらセドリック機へ寄る。
ナルド「右のラックに、まだ一丁だけコイツが残ってた。もう俺じゃ精密に扱えねぇ……持ってってくれ」
外装がひしゃげ、銃身が短く切り詰められた35mmショートカービン。
何度も修理され、焼け、補修跡だらけのそれは、まさに“最後の武器”と呼べる代物だった。
セドリック「……俺が、受け取るのか?」
ナルド「ああ。エヴォルは右腕も脚も逝ってるし、俺は左腕がねぇ上にモニターの一部が死んでる。撃てるの、お前だけだろ?」
セドリックは一瞬だけ逡巡するが――すぐに真剣な声で返す。
セドリック「……分かった。預かる」
カチャン、と武器のロックが外れ、ナルド機がぎこちない所作でそれを差し出す。
セドリックのスパロディは、火花を散らす片脚スラスターで体勢を保ちながら、慎重にカービンを受け取った。
エヴォル「おいおい、二人とも。そんなやり取りすんなよ。遺言みてぇじゃねぇか」
ナルド「バカ、お前のせいでこうしてんだよ。右手足ないやつ支えるのはマジでムズイんだぞ」
エヴォル「支えてもらってんのはありがたいけどよ……!」
セドリック「喧嘩は後だ。武器は俺が持つ。ナルドはエヴォルをしっかり掴んでろ。こっから先は、より慎重に行くぞ」
三機は密着するように隊列を組む。
右に傾くナルド機がエヴォル機を支え、右半身が死んでいるエヴォル機がそれに寄りかかり、スラスターが瀕死のセドリック機が前に出る。
まるで――
三体でやっと“ひとつの機能”を果たしているような、壊れかけの隊列。
金属同士が軋み、火花が散る。
セドリック「……行くぞ。誰も墜ちるなよ」
三人のスパロディは互いを支え合いながら、廃船へとゆっくりと進んでいった。
ジジッ……ガガッ……。
セドリック「光学も熱源もほぼ死んでるが、リアクターの残留反応だけは微かに残ってる……何か生きてるな。間違いない」
エヴォル「なるほど……なら、やっぱこの船になんかいるってことか」
ナルド「……ワクワクすんな、こんな墓場でよ」
三機は警戒しながら、謎の船へと近づいていく。
距離が縮まるにつれ、その船に残る“傷”の異常性が目に見えてきた。
外壁は焦げ、“焼き溶かしたような”痕跡が無数に残っている。
まるで未知の熱線で貫かれたような、異常な破壊。
甲板は内側から突き破られたように盛り上がり、通常の爆発では説明できない形で裂けていた。
ナルド「……なんだよ、これ……壊れ方が変だぞ……」
セドリック「実体弾でも衝突でもない……何か強烈な“熱”で、一瞬にして焼かれた痕だ。……こんな武器、知らないぞ」
エヴォル「古かろうが新しかろうが、俺らにゃ関係ねぇだろ。隠れられりゃ万々歳よ」
ナルド「隠れるだけで済めばな……中身、何か補給できそうなもんが残ってるといいんだが」
セドリック「……調べるしかない。ここを逃すと、次のチャンスは無い」
エヴォル「おっしゃ、宝探しか。アタリかハズレか……開けてみなきゃわかんねぇよな!」
小さな電子音が、絶望に沈むコックピットに響いた。
巨大船体の開口部が見え、三人の心拍が高鳴る。
そこはかつて整備ハッチだったが、砕け、鋭い金属片が並ぶ“貪り食う牙”のようになっていた。
内部は真っ暗で、垂れ下がった配線と破片だけがライトに反射して揺れる。
セドリック「……ここから入れる。けど狭い。スラスター吹かすと崩れるぞ」
エヴォル「なら手足で行くしかねぇな。幸い、腕一個と脚一個は生きてるしな!」
ナルド「“幸い”ねぇ……?」
セドリック「入るぞ。警戒しろ。ここの構造、いつ崩れてもおかしくない」
三機は機体の手足だけを使い、ゆっくりと船内へ潜り込む。
金属片がバキバキと擦れ、装甲を削る。
三機のカメラライトが、歪んだ通路を照らしていった。
エヴォル「……なぁ。これ、完全に死んでる船だよな?」
セドリック「ああ。生体反応も熱源も無い。文字通りの墓場だ」
ナルド「でもよ……この広さなら、どっかに生きてる区画があるかもしれねぇ」
エヴォル「だといいな。電力あれば助かるし……なにより“居場所”ができる」
進むにつれ、船内構造はさらに傾き、崩れ、歪んでいく。
そして――
セドリック「……待て。前方の開口部、見えるか?」
エヴォル「なんだよ、あれ……通路じゃねぇな……」
ナルド「カタパルト……か?半壊してるけど、間違いねぇ。発射デッキだ」
エヴォル「ってことは、この奥……!」
セドリック「ああ。MS格納庫の可能性が高い」
ナルド「おいおい……本当に“ワンチャン”来てんじゃねぇか?」
エヴォル「行くしかねぇだろ……!」
ノイズの正体は、船の奥で微かに動いている“何か”。
三人は崩落しそうな通路を抜け、さらに奥へ進む。
半壊したカタパルトは、かつて無数のMSを射出した巨大装置。
今は壁が割れ、金属板が露出し、真空の“墓穴”と化している。
三機は梁やパネルを掴みながら慎重に進む。
ナルド「……なぁ、ここにいたMS達、今どこで朽ちてんだろうな」
セドリック「そんなこと考えても意味ねぇだろ。どうせ俺達ヒューマンデブリと大差ない」
エヴォル「ま、確かに。考えても腹は膨れねぇしな」
やがて、彼らの前に巨大なゲートが現れる。
押し潰され、半開きになった“門”。
セドリック「……ここが格納庫だ。歪んで開いたままってわけか」
エヴォル「おし、運命の宝探しと行こうじゃねぇか……!」
中に入った瞬間、三人のライトが“死体置き場”を照らした。
腕を吹き飛ばされたMS。
胸部を焼き抜かれたMS。
フレームだけになった残骸。
溶け落ちた装甲が固まり、黒い岩のようになった塊。
ナルド「……全部スクラップじゃねぇか……」
エヴォル「動く奴……一つもねぇのかよ……!」
セドリック「奥だ。……指揮官機は最深部に保管されるはずだ……」
エヴォル「ほんとかセドちゃん!マジで……奇跡的に残っててくれ……!」
ナルドは廃棄所と化した格納庫を見渡す。
ナルド「……これじゃあな。俺のよりひでぇのばっかじゃねぇか……」
エヴォル「安心しろ。お前のポンコツよりまともなの、一機も見当たんねぇ(笑)」
ナルド「ッハ!テメェのMSを見てから言うんだな!」
エヴォル「んだと!?こんな状態でもお前ぐらいなら瞬殺だわ!」
ナルド「やんのかこの野郎!」
二人の言い合いをよそに、セドリックは索敵範囲を最深部へ向け、瓦礫を押しのけながら進んでいく。
その時――
ピ……ッ
再び、小さな反応が灯った。
セドリック「……生きてる……!おい馬鹿ども!最深部に……“一機だけ”反応がある!」
二人は喧嘩をやめ、セドリックの元へ急ぐ。
瓦礫の隙間に開いた空間。
――瓦礫の穴を抜けると――
その中央に。
一機だけ、形を保った機体が静かに佇んでいた。
ライトが照らす。
黒鉄と灰銀の重装甲。
所々に走る赤いラインは、まるで“血管”のように見える。
胸部装甲は分厚いプレートの積層で、
冷たい金属光を放つ。
脚部フレームは無機質で合理的。
“歩く”のではなく、“狩る”ために設計されたような、重い構造。
背部スラスターは蝙蝠の翼のような形状をしており、抉れた冷却フィンが、その過酷な運用歴を黙って物語っていた。
ただそこに“立っている”だけなのに、三人は自然と息を飲む。
――これは、ただのMSではない。
周囲が墓場であるほど、この機体だけが異様な“静けさ”と“圧”を纏っていた。
エヴォル「……なんだ……このMS……見たことねぇぞ……」
ナルド「……これって……MSだよな……? ロディでもヘキサでもねぇ……レアフレームってやつか……?」
セドリックはコックピットから身を乗り出し、震える手でタブレットのカメラを起動し、黒いMSを計測する。
セドリック「……!」
タブレットに控えめな表示が小さく点滅した。
静かに――
《NO DATA:OFFLINE》
と示す文字列。
エヴォル「動くのか……?」
セドリック「……ああ。見た感じオフライン状態だが……恐らく“起動可能”だ」
心臓が跳ねた。
エヴォル「…………こいつだ」
ナルド「は……?何言ってんだよ」
エヴォル「こいつが――俺達の生き残る手だ。いや……“これしかねぇ”って直感が言ってる」
ナルドは息を震わせながら、しかし否定はできずに言った。
ナルド「……希望って……こんな無機質な“悪魔”みてぇなのが……?」
だが三人は理解していた。
これは残骸ではない。
これは――
鉄の墓標に残された、最後の光。
異質な黒いMS――
三人の“希望”となってしまったその機体は、まだ静かに闇の中で眠っている。
だが、その静寂の奥で、確かに“目覚めの時”を待っていた。
三人はまだ知らない。
この黒いMSが、後に彼らの運命を大きく狂わせる存在となることを――
そして、“人へ還る道”を切り開く存在となることを――
一体なんなんだこのMSは!?(すっとぼけ)
今回は三人が乗っているMSスパロディを紹介していきます。
MS紹介01 UGY-R39 スパロディ
UGY-R39 “スパロディ” は、もともとコロニー建設・廃棄作業用に使用されたモビルスーツであったが、宇宙海賊や裏組織により、“安価で入手でき、改造しやすい兵器”として戦闘用に転用された。
だが、その戦闘力は 最低限“動く”だけ に等しい。
ヒューマンデブリと共に“消耗品”用として普及したため、安全装置はほぼ無い。
機体コンセプト
「最低限動けばいい」 「死んだら補充されればいい」
という思想のもと作られた、命の価値を無視した機体。
構造・外観
装甲は極薄(マンロディの1/3)胸部・頭部以外はフレーム剥き出し。
軽量フレームによる高速機動
マンロディの1.5倍の上限速度を持つが、制御は不安定。
全体的に露出した弱点が多い
被弾=即死することも珍しくない。
整備性は最悪
部品ごとに規格がバラバラで、海賊が拾ったジャンクパーツを無理矢理つけている。
性能
機動力 高機動。軽量ゆえの加速力が強み。
耐久 最低レベル。実体弾で簡単に貫通される。
操縦性 劣悪。オートバランサーが最低限。阿頼耶識システム搭載が前提
安全性 ほぼ無い。コックピット保護性能も低い。
運用思想 “ヒューマンデブリが乗る前提”。命を守る配慮は皆無。
標準装備
45mmショートカービン
短銃身の実体弾ライフルジャンクパーツから作るため精度は悪い。
反動が強く、ジャム率も高い
ハンドグレネード(腰部に計4個(左右に2個ずつ))
元は作業用の爆破工具を改造したもので小規模爆破やデブリ破砕に使われていた。
対MSとしては威力不足だが補助にはなる。
簡易近接武装
鉄パイプ・作業棒・簡易メイス
本来は工具で、武器としては極めて弱い
センサー補助装置(簡易型)
索敵能力は低いがセドリックの機体のみ“レーダー強化仕様”
チェーンアレイ(モーニングスター)
本来の用途
岩石粉砕・建材破壊のための質量破砕工具を転用したもの
特徴
鉄球直径1.2m
スタッド(突起)多数
太いチェーンで振り回す作業用工具
スパロディでは扱いが極めて困難
唯一、セドリック機の腕部フレームだけ補強が残っていたため使用可能。
エヴォル・ナルドも使用していたが先の戦闘で紛失。現在は使用不能。
■ スパロディの利点
唯一の強みは、「軽装ゆえの加速力」 高速でデブリ帯を抜けられる。
不規則機動に強く海賊が奇襲用に好んで使う。
しかし装甲が薄すぎて、一発でも当たれば文字通りの終わりである。
こう見てみると三人よくこれで生きてましたね……
それでは次回もご期待ください!!