機動戦士ガンダム鉄血のオルフェンズ外伝 鉄屑の彼岸   作:ミニトレール

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今日小学校からの友人と久しぶりに会い、当時やってたカードゲームを遊んだのですが、久しぶりにあの頃のように純粋に遊ぶことができてノスタルジックな気分になっちゃいました。ああ・・・何も考えてなかった昔に戻りたいな。
それでは本編へどうぞ!


第十九話:人間様の戦場で

警告音が止まらない。

 

スパロディの装甲をかすめた衝撃が、遅れて身体に伝わる。

 

ナルド「……チッ」

 

前方に二機。

 

三尉機と曹長機は、まるで一本の糸で繋がれているみたいに動いていた。

 

一機が撃てば、もう一機が詰める。

 

避ければ、退路に回り込む。

 

ナルド(ギャラルホルンってのは相変わらず、嫌になる連携だな……)

 

スラスターを噴かし、射線を切る。

 

だが、すぐに次が来る。

 

曹長機のライフルが火を噴き、同時に三尉機が角度を変えて迫る。

 

ナルド「っ……!」

 

反転

 

紙一重で避けるが、装甲に衝撃が起こる。

 

ナルド(削られる……!)

 

その瞬間、通信が割り込んだ。

 

ロウ「ナルド!右、詰めてきてる!」

 

ナルド「分かってる!」

 

舌打ちしながら、スパロディを傾ける。

 

ロウの牽制射撃が入る。

 

三尉機の動きがほんの一瞬、止まった。

 

だが――すぐに立て直される。

 

ナルド(甘くねぇな……)

 

別方向

 

ガル「今の射線、読まれてるぞ」

 

低く、落ち着いた声。

 

ガルのスパロディは前に出ない。

 

だが、確実に“邪魔な位置”にいる。

 

ガルの射撃が、曹長機の足元を掠める。

 

派手じゃない。

 

だが、進行方向を歪ませるには十分だ。

 

ナルド「……助かる」

 

ガル「止めきれない。削れてるだけだ。」

 

その言葉どおり。

 

三尉機も曹長機も、まだ崩れない。

 

ケッチ「うおおおらあああ!!」

 

荒い叫びと同時に、ケッチが突っ込んだ。

 

無茶な突撃。

 

作戦もへったくれもない。

 

だが――三尉機が反応する。

 

一瞬、意識がそちらに向いた。

 

ナルド(今だ……!)

 

ナルドは距離を詰める。

 

近接

 

だが――

 

曹長機が、迷いなく割り込んできた。

 

ナルド「っ、この……!」

 

ブレードを振るうが、浅い。

 

すぐに引かれる。

 

ナルド(……ほんと、役割分担が完璧すぎるぜ)

 

息を吐く。

 

その時、視界の端に、遠い閃光が映った。

 

黒い機影。

 

そして――見慣れないゲイレール。

 

ナルド(……あっちは)

 

一瞬だけ、意識が引っ張られる。

 

だが、すぐに切り替えた。

 

ナルド「……今は、こっちだ」

 

仲間の声が、まだ聞こえる。

 

ロウがいる。

 

ガルがいる。

 

ケッチが、無茶をしながらも前にいる。

 

ナルド(だったら――)

 

ナルドは、歯を食いしばった。

 

ナルド(ここで、相手するしかねぇ!)

 

スパロディを立て直し、再び正面を睨む。

 

三尉機と曹長機が、同時に動いた。

 

その瞬間だった。

 

ガル「……今だ!」

 

同時に、ガルの射撃が走る。

 

一見、ただの牽制――

 

だが違う。

 

弾は三尉機でも曹長機でもなく――

 

“その間”に撃ち込まれた。

 

ほんの一瞬。

 

二機の間隔が、わずかにズレる。

 

ナルド(……抜ける!)

 

ナルドは歯を食いしばった。

 

スパロディが宇宙を裂く。

 

一気に踏み込み――

 

曹長機の懐へ。

 

曹長機も、即座に構えを取る。

 

金属同士が噛み合う。

 

鍔迫り合いにより、トマホークとブレードが交錯し、火花が散る。

 

接触通信が勝手に繋がる。

 

曹長「……へぇ」

 

妙に軽い声だった。

 

曹長「よく動くじゃねぇか。お前ら――宇宙ネズミだな?」

 

ナルドの眉が跳ねる。

 

曹長の声色が、楽しげに歪んだ。

 

曹長「さしずめ……ヒューマンデブリってとこか?」

 

一瞬視界が、赤く染まった気がした。

 

喉の奥が熱くなる。

 

ナルド「……テメェ……!」

 

怒鳴るより早く、スパロディが押し込む。

 

曹長「お?いい反応だな」

 

楽しそうに言う。

 

曹長「図星か?」

 

次の瞬間――声が冷えた。

 

曹長「――デブリ如きが」

 

刺すような声音。

 

曹長「人間様に盾突くなやぁ!!」

 

強烈な推力。

 

曹長機が一気に押し返してきた。

 

衝撃

 

ナルドのスパロディが弾かれる。

 

身体が、シートに叩きつけられる。

 

警告音がコックピットに響く。

 

ナルド「ぐっ――!」

 

曹長機が追撃に移る――

 

その瞬間。

 

横合いから、鋭い射撃。

 

ロウ「……させねぇ!」

 

無口な声が、静かに割り込む。

 

弾丸が曹長機の進路をかすめる。

 

曹長「チッ……!」

 

曹長機が舌打ちと共に弾道を避け、距離を取った。

 

ナルドは荒い息を吐きながら体勢を戻す。

 

横に並ぶスパロディ。

 

ロウが短く言う。

 

ロウ「……引きはがすぞ」

 

それだけ

 

だが、その声は迷っていない。

 

ナルドは一瞬だけ目を閉じ、頷いた。

 

ナルド「……ああ」

 

すぐに通信切り替え。

 

ナルド「ガル!ケッチ!」

 

短く叫ぶ。

 

ナルド「そっちのゲイレールは任せる!ここは俺とロウでやる!」

 

ケッチ「あぁ!?任された!」

 

ガル「了解……!崩す!」

 

短い返答。

 

ナルドは、スパロディを並べる。

 

視界の横で、ロウが静かに構え直す。

 

ナルド「行くぞ、ロウ!」

 

ロウ「……ああ!」

 

二機のスパロディが、同時に前へ出る。

 

狙いは――

 

三尉機と曹長機、その“間”を切り裂くこと。

 

戦場が、再び動き出した。

 

曹長機が距離を取りながら、嘲るように声を上げた。

 

曹長「ははっ……いいじゃねぇか。ネズミらしくチョロチョロと」

 

その声音は、戦場とは思えないほど軽い。

 

曹長「やっぱデブリってのは分かりやすいわ。ちょっと突けば、すぐ噛みつく」

 

楽しんでいる。

 

完全に、玩具を見る目だ。

 

曹長「“人間”と同じ土俵だと勘違いしてる分――質が悪いよなぁ?」

 

言い切ると、曹長機は舌打ち混じりに通信を切り替えた。

 

曹長「三尉」

 

三尉「聞いている」

 

冷静、だが、僅かに硬さがある。

 

曹長「あいつら――俺らを“引きはがし”に来てます。」

 

三尉「ああ……認識している」

 

短い沈黙。

 

戦場の軌道が、微妙にずれていく。

 

三尉機が位置を変更し、曹長機との距離を再調整。

 

三尉「連携は維持する――崩されるな」

 

曹長「了解です」

 

曹長機が、狙いを切り替える。

 

ナルド(やっぱ気付いてきたか……)

 

ナルドは奥歯を噛む。

 

三尉も曹長も、距離感を変えない。

 

合わせるように動く。

 

隙を作らせない。

 

ナルド(……やっぱ、甘くねぇな)

 

その時

 

ガル「――悪い」

 

ナルド「ガル?」

 

ガル《少し、乱す》

 

次の瞬間だった。

 

ガルのスパロディが**本来絶対踏み込まないはずの“危険距離**まで、躊躇なく前に出た。

 

三尉「……っ!?」

 

その動きは、真っ直ぐじゃない。

 

あえて軌道を捻り――

 

“連携ライン”そのものへ突っ込んでくる。

 

曹長「おいおいおい……!」

 

ただの突撃じゃない。

 

三尉機と曹長機の“間”

 

――その“位置関係”を壊しにいっている。

 

さらに

 

ケッチ「はいよぉおおおっ!!!」

 

ケッチのスパロディが逆方向から突っ込む。

 

三尉と曹長の片方――

 

どちらかが、確実に“どく”しかない位置取り。

 

三尉「退くな!」

 

三尉が即座に判断し指示をする。

 

だが――

 

ガルの射撃が、三尉機の“進路だけ”を正確に遮る。

 

完全破壊ではない。

 

完封でもない。

 

ただ――

 

邪魔

 

それだけでいい。

 

曹長「チッ!来んなって言ってんだろ、テメ――」

 

ケッチが、笑いながら回り込む。

 

ケッチ「はーい!邪魔するマンでぇす!」

 

曹長「ネズミが………!!」

 

完全な妨害。

 

しかし、致命的に“効く”。

 

三尉機と曹長機の間隔が――

 

ズレた

 

三尉「くっ………!」

 

声がわずかに荒れた。

 

それは、今までになかった音。

 

ナルドは――それを聞き逃さなかった。

 

ナルド(――初めてだ。こいつらが、“焦った”)

 

空気が変わる。

 

――ズレた

 

ほんの僅か。

 

だが、それは“今まで絶対に起きなかったズレ”だった。

 

ナルドの喉が乾く。

 

ナルド(……行ける!)

 

言葉より早く、身体が動いた。

 

ナルド「ロウ!!」

 

ロウ「――分かってる!」

 

二機のスパロディが、左右から同時に加速する。

 

狙いは単純。

 

三尉機と曹長機を“物理的に切り裂く”。

 

三尉「……っ、距離を戻すぞ!」

 

曹長「っ!はい!」

 

声が硬い。

 

三尉機が曹長側へ寄る。

 

曹長機も合わせようとする。

 

だが、ガルが射撃。

 

ケッチがぶつかる寸前の無茶な軌道。

 

絡みつくような妨害。

 

曹長(――戻せねぇッ)

 

三尉「散開するな!連携を――」

 

言い切る前に。

 

ナルドのスパロディが、三尉機の“進路”そのものへ踏み込んだ。

 

直線で潰す。

 

三尉「……っ!?」

 

衝突寸前で、三尉機がバランスを崩す。

 

そこにロウ機が点在している。

 

無口なまま――

 

正確に“嫌な角度”へ射撃を叩き込む。

 

ただ、“体勢だけ”を崩す。

 

三尉機が揺れた。

 

ナルドは笑った。

 

ナルド「どうしたよ……!さっきまでの完璧な連携はどうした!!」

 

三尉「黙れッ――!」

 

怒鳴り返した声は、もう“冷静な指揮官”のものじゃなかった。

 

必死に姿勢を立て直そうとして――

 

さらに崩れる。

 

焦りが判断を鈍らせた。

 

ロウがすかさず射撃。

 

ガルの弾が、動きを固定する。

 

ケッチが外側を荒々しく抉る。

 

三尉(追い詰められてる……!)

 

三尉は理解していた。

 

三尉(このままじゃ――)

 

このままじゃ、“崩れる”。

 

連携が――

 

完全に壊される。

 

――その時。

 

曹長「……は?」

 

低い声が通信を満たした。

 

さっきまで、軽く笑っていた男の声じゃない。

 

曹長「おいおいおい」

 

笑った

 

しかし――

 

それは愉快そうな笑いじゃなかった。

 

狂気を含んだ、笑いだった。

 

曹長「なに勝手に追い込まれてんスか?、三尉」

 

三尉「曹長、口の利き――」

 

曹長「ははっ、閉じねぇっスよ」

 

一瞬、場の空気が変わる。

 

曹長「なぁ、デブリ」

 

吐き捨てるように言う。

 

曹長「調子乗ってんじゃねぇぞ」

 

視界の端。

 

曹長機がまるで獣みたいな軌道でこちらへ振れた。

 

明らかに――今までより“荒い”。

 

理性を削ぎ落とした動き。

 

曹長「俺ら人間様の戦場で――」

 

吐き捨てるように。

 

曹長「ゴミが吠えてんじゃねぇ!!」

 

怒号と共に、曹長機が踏み込む。

 

三尉「曹長!冷静に――」

 

曹長「黙ってろやおっさん!!」

 

通信が、弾け飛びそうな勢いで怒鳴られた。

 

曹長「ここからは――」

 

“俺のやり方”だ。

 

戦場が荒れ始める。

 

秩序が崩れた瞬間。

 

そして――“連携”ではなく、“暴力”が牙を剥く。

 

――戦場が軋んだ。

 

ナルド「ロウ!詰めるぞ!」

 

ロウ「了解!」

 

二機のスパロディが、刃を引き絞る。

 

踏み込み、加速する。

 

三尉機と曹長機の“間”を突き裂くような、真正面突破。

 

三尉「くっ……!距離を戻せ!!曹長!!」

 

声が荒い。

 

今までの冷静さは――

 

もう、ない。

 

曹長「どうせ戻れねぇなら、戻らなくていいだろ?三尉さんよぉ!!」

 

荒れた笑い声。

 

三尉「いい加減にしろ曹長!勝手に動くな!連携乱すな!!」

 

叫びにも似た叫び。

 

だが、乱れは止まらない。

 

ナルドは前を睨む。

 

ナルド(――今、連携は崩れてる)

 

仲間の声が続く。

 

ガル「……押せ」

 

ロウは黙って、一拍後に射撃。

 

“嫌な位置”に、正確に。

 

三尉機が揺れる。

 

三尉「チッ……!鬱陶しいな、貴様ら!!」

 

口調が完全に変わった。

 

――初めて見た顔だった。

 

ナルド(追い詰められてる)

 

ナルドは確信した。

 

だが――

 

その時。

 

曹長が、獣のように吠えた。

 

曹長「ぎゃははははははは!!!」

 

壊れた笑い声。

 

曹長「いいじゃねぇかぁぁ!!そうだよ、そうやって逃れてくれなきゃよォ!!」

 

曹長機が無茶苦茶な軌道で突っ込む。

 

理性を投げ捨てた速攻、相手の命なんて考えない、自分の命ですら軽んじた動き。

 

ただ、破壊するためだけの動き。

 

曹長「デブリがぁぁ!!!俺ら“人間様”の戦場で――吠えんなやぁぁぁ!!」

 

突進

 

殺意だけで突っ込んできた曹長機のトマホークが振り下ろされる。

 

ロウ「ナルド!!」

 

ロウの叫び。

 

でも、ナルドは――静かだった。

 

ナルド(来る)

 

ナルドの世界から、音が消えた。

 

鼻腔を刺す鉄の匂い。

 

皮膚の裏側を撫でるような、不快な直感。

 

ナルド(殺す気だ)

 

なら――

 

“殺される寸前の最短”で返す。

 

スパロディの機体が半身を捻り、曹長の殺しの軌道を読み切り、胸部フレーム――コックピット直前を正確に叩き潰す。

 

金属が潰れる、嫌な音。

 

曹長機の胸部装甲が内側へ押し込まれる。

 

内部フレームが悲鳴を上げるように歪み、油圧ラインが破裂し、煙が噴き出す。

 

――コックピットが、押し潰された。

 

曹長「……が?」

 

一拍、遅れて声が零れる。

 

肺に空気が入らない。

 

圧迫される胸部。

 

潰される肋骨。

 

骨が内臓に突き刺さる感覚。

 

曹長「お……ま、え……」

 

血が喉を塞ぐ音。

 

曹長「な……んで……」

 

困惑。

 

理解ができない。

 

曹長「お…れ……が……?」

 

途切れ途切れの呼吸。

 

曹長「デブリ……なんかに……?」

 

それでも――

 

最後まで“見下す横柄さ”だけは捨てられなかった。

 

曹長「俺が……ゴミ共に……?この俺が……?」

 

曹長「い……や………

 

声が潰れた。

 

内部で何かが――

 

完全に壊れた音がした。

 

曹長機はそのまま力なく漂う。

 

返事はもうない。

 

曹長という名の“声”は、ここで終わった。

 

残ったのは――

 

潰れた機体と、鉄と焼けた金属の匂いだけだった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

曹長機が撃墜された。

 

通信がぷつりと切れた。

 

戦場に一瞬だけ静寂が走る。

 

――その沈黙を、最初に破ったのは三尉だった。

 

三尉「…………」

 

一泊

 

それから、乾いた吐息。

 

三尉「はぁ……やれやれだ」

 

その声音には――

 

悲しみも、悼む色も、一切なかった。

 

ただの、心底うんざりした声。

 

三尉「最期の最期で……感情に振り回されて自滅か」

 

蔑むように言い捨てる。

 

まるで「部下」ではなく「役立たずな装置でも壊れた」かのように。

 

三尉「あいつは、いつもそうだった」

 

冷たい声が続く。

 

三尉「調子に乗って、勝手に前へ出て――余計な敵意を煽って、現場を荒らして」

 

嘲笑が混ざる。

 

三尉「そのくせ、自分だけは“優秀な人間様”だと思い込んでた」

 

そこで、言い切った。

 

三尉「――結局、あいつが一番“愚かなゴミ”だった」

 

その言葉は、まっすぐにナルドたちへ向けられたものじゃない。

 

だが、確かに届いた。

 

ガルが息を止める。

 

ロウの指先が、わずかに固まる。

 

ケッチが曹長機を睨む。

 

ナルドの拳が、握りしめられる。

 

三尉の声は止まらない。

 

三尉「ヒューマンデブリを笑ってた癖に自分が“デブリ未満”だったと気付かず死んだ」

 

吐き捨てる。

 

三尉「――ああ、滑稽だな」

 

その瞬間。

 

戦場の空気が、別の意味で張り詰めた。

 

曹長の死は――哀悼の対象にならなかった。

 

価値のない失敗、無駄な駒、笑い物。

 

三尉はそう断じた。

 

そして――

 

その侮辱は、同時にナルド達にも向けられていた。

 

ナルド(……そういうことかよ)

 

ナルドの奥歯が鳴る。

 

胸の奥に、違う種類の炎が灯った。

 

三尉「……さて」

 

声が冷たく戻る。

 

三尉「ここからは“俺一人”で十分だ」

 

「曹長がいないほうがやりやすい」とでも言いたげに。

 

三尉「続きをしようか、“デブリ”共」

 

その声は――

 

さっきまでの焦りとは別物だった。

 

静かで、冷たい。

 

ただ淡々と、「対処する」とだけ決めた声。

 

次の瞬間。

 

三尉機が――消えた。

 

正確には、「動いたのに“残像すら残さない”速さ」で。

 

ロウ「気を付けろ!一気にスラスターを吹かしやがった!」

 

短い息。

 

視界の枠外から、三尉機の射撃が突き刺さる。

 

狙いは機体ではない。

 

足首

 

肘関節

 

スラスター基部。

 

“動きそのものを殺すための射撃”。

 

ナルド(……戦い方がまるで違う!)

 

ナルドは即座に理解した。

 

――さっきまでの三尉は、“連携で戦っていた”。

 

今の三尉は――

 

“戦場そのものを管理している”。

 

三尉「動きが大きい」

 

無感情に言う。

 

三尉機の射撃が、ロウの進路を潰す。

 

避けた瞬間、別方向から牽制。

 

“逃げ道”を封鎖するように、穴がない。

 

ガルの射撃が割り込む。

 

が――

 

三尉は、振り返らない。

 

ただ機体を少し傾ける。

 

それだけで、ガルの弾道を“最小旋回”で回避、そのまま軌道だけが滑るように修正される。

 

ナルド(避け方が、合理的すぎるだろ……!)

 

ナルドの喉が鳴る。

 

無駄がない、強引もない。

 

ただ――精密。

 

三尉「射撃が軽い」

 

軽く評価するように。

 

次の瞬間、ナルドの機体の横を、かすめる一発。

 

狙いは――“恐怖心”。

 

当てない。

 

殺さない。

 

ただ、“焦らせる”。

 

ナルド「チッ!!」

 

反射的にスラスターを吹かした瞬間。

 

三尉の声が落ちた。

 

三尉「――そこだ」

 

もう一発。

 

さっき“流れた先”を、もう撃っている。

 

ナルド(……読まれてる!?)

 

ガル「ナルド、落ち着け!」

 

ガルの声が入る。

 

同時にガルの弾幕が広がる。

 

狙い撃つのではない。

 

“空間そのものを荒らす”射撃。

 

三尉「デブリにしては……悪くないな」

 

初めて、ほんの少しだけ声色に評価が混じる。

 

だが――

 

三尉機は退かない。

 

荒れた弾幕の中、わずかな“密度の薄いライン”を読み、そこだけを通過して突っ込んでくる。

 

ロウ「化け物かよ……!」

 

ロウが一言吐く。

 

ロウ「線、一本しか通ってねぇぞ……」

 

そう

 

常人なら見落とす“安全ライン”を見抜き、そこへ踏み込める冷静さ。

 

三尉は――感情のない声で呟いた。

 

三尉「だが……この程度で勝てると思うな」

 

「怒り」も「焦り」もない。

 

あるのは――

 

単なる“確信”。

 

三尉「俺は、戦場を知っている」

 

その瞬間、再び三尉機が消えた。

 

ナルド達は、完全に“狩られる側”に押し戻された。

 

だが――

 

まだ終わらない。

 

まだ、折れない。

 

ナルド「ロウ!撃ち続けろ!」

 

ロウ「わかってる!」

 

ガル「削る!」

 

ケッチ「止まんねぇぞ!!」

 

三尉の“本気”に――

 

スパロディは、真正面から食らいついた。

 

戦いは、次の段階へ入った。

 

三尉「……遊びは、終わりだ」

 

その声と同時に――戦場の“空気”が、また変わった。

 

今度は速さでも、火力でもない。

 

“制御”

 

三尉機が、ただ滑るように動く。

 

狙われているのは――戦場そのもの。

 

ロウの射線を読んで潰し、ガルの弾幕の“穴”を作り、ナルドとケッチが寄る前に、必ず“別の仕事”を増やす。

 

ナルド「……全部、誘導されてる……」

 

ナルドは瞬時に理解した。

 

だが――理解したところで、追いつけない。

 

三尉は孤立しかけた“一機”に狙いを定める。

 

三尉「まずは……一機!」

 

三尉機が急停止する。

 

そして――

 

何かを掴み取った。

 

宇宙に浮く残骸――デブリ。

 

装甲片。

 

焼け焦げた鉄屑。

 

先ほど散った曹長機の破片。

 

それを投げた。

 

狙いは――“カメラアイ”。

 

ケッチ「あ?」

 

ドンッ!!

 

スパロディの顔面(センサー部)が黒い影で覆われる。

 

視界が完全に死んだ。

 

ケッチ「クソッ!?視界がッ――!!》

 

三尉「これがデブリの使い方だ」

 

嘲るでもなく。

 

誇るでもない。

 

ただ“事実”の声。

 

次の瞬間。

 

三尉機のトマホークが――

 

一直線に走った。

 

迷いも、無駄も、誇示もない。

 

ただ、“殺すためだけの最短距離”。

 

ケッチ「――あ」

 

胸部

 

装甲が割れる。

 

いや――押し潰された。

 

内部フレームが悲鳴を上げ、空気が悲鳴のように押し出される音が、一瞬だけ混ざる。

 

ケッチ「っ!!が――――!」

 

呼吸が潰れた。

 

コックピットが、内側へ歪む。

 

胸が、押し潰される。

 

骨が砕ける音は通信には乗らない。

 

ただ――声が止まったことだけが、全てを示していた。

 

ロウ「ケッチぃぃぃ!!」

 

ガル「――ッ!」

 

ナルド「やめろぉぉッ!!」

 

三尉は、一切止まらない。

 

押し込んだまま、トマホークを深く叩き込む。

 

三尉「“メインカメラをやられた奴”は、絶対に勝てない」

 

冷たく、ただの分析のように。

 

胸部装甲が、完全に折れた。

 

内部から、何かが――

 

完全に潰れた音がした。

 

ケッチのスパロディが、ぐらりと揺れ――

 

沈む

 

通信は戻らない。

 

もう、声は――ない。

 

ケッチ機、撃墜。

 

――戦場が凍った。

 

ロウの呼吸が荒くなり。

 

ガルの指が一瞬止まり。

 

ナルドの心臓が痛いほど脈打つ。

 

三尉はただひとつの事実だけを告げた。

 

三尉「一機、撃墜」

 

それだけ。

 

まるで仕事の報告。

 

まるで数字の確認。

 

人の命を、ただの“戦況の変数”として扱う声。

 

それが――三尉の“本気”だった。

 

そして戦いは――さらに地獄へ踏み込んでいく。




ついに引き起こされる、仲間の死。
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