機動戦士ガンダム鉄血のオルフェンズ外伝 鉄屑の彼岸 作:ミニトレール
それでは本編どうぞ!
薄暗いブリッジ。
窓の向こうには、静かに漂う星々。
その中で――
フリーゲルの艦の甲板上、金属コンテナが宇宙へと送られていく光景が見えた。
死者の旅立ち。
粛然とした空気は、距離を隔てても伝わってくる。
操舵席で前を睨む男Bが、低く息を吐いた。
男B「……なんだ、あいつら」
ぽつりと、独り言のように。
男B「あんなとこで、何やっているんだ」
男Aは、静かに目を細める。
男A「葬式だ」
男Bは口を閉ざす。
その短い言葉だけで、あの甲板に集まる者たちの感情の重さが伝わった。
男B「……そうか」
視線を戻し――
ほんの少しだけ、苦い顔をした。
少し沈黙が落ちたのち、男Bが腕を組む。
男B「なぁ、俺たち……」
言いかけて、言葉を迷う。
男Aは代わりに言った。
男A「俺達に……口を出す権利はないさ」
男Bは目を細める。
男A「戦闘に巻き込んだのは俺達だ。失われた命の重さに、余計な言葉を足す資格も無い」
その声音には、淡々とした響きの奥に、確かな負い目が滲んでいた。
男Bは短く息を吐き――
頷いた。
男B「……そうだな」
ただ、それだけ。
それ以上の言葉は、野暮だった。
視界の先で、フリーゲルの仲間たちがじっと宇宙を見上げている。
悲しみ、怒り、喪失。
そして――
決意。
その全てを、男Aはただ静かに見つめていた。
やがて、男Aが口を開く。
男A「……明日だ」
男B「ん?」
男A「連中との会談」
男A「あの艦の連中とも、正式に話をする」
男Bは肩を回す。
男B「気が休まらない毎日だな、相変わらず」
男Aは少しだけ笑った。
男A「交代する」
男A「少し休め。寝不足で操舵を誤られたら困る」
男Bは素直に立ち上がる。
男B「……助かる」
男B「お前も無理すんなよ」
軽く肩を叩き、ブリッジを後にした。
静寂。
男Aは一人、宇宙に視線を投げた。
――葬送のコンテナは、もう見えない。
ただ、遠くの星の光だけが揺れていた。
男Aは、静かに目を閉じる。
(――守る)
胸の奥で、強く、確かに刻む。
あの少女を、その命を、その未来を。
たとえ――
世界の全てを敵に回すことになっても。
男A「必ず、守る」
その決意は揺るがない。
そして――
船は静かにフリーゲルの横で進み続けた。
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船内は静かだった。
昼間は声が溢れる通路も、今はただ、かすかな機械音だけが支配している。
エヴォルは、自室のベッドに仰向けになり――
無意味に天井を睨んでいた。
眠れない。
まぶたは重いはずなのに、意識だけが冴える。
ケッチの笑い声、怒鳴り声、喧嘩腰の顔。
そして――崩れた機体。
エヴォル「……くそ」
短く吐き出す。
寝返りを打っても、余計に胸がざわつくだけだった。
エヴォル(……こんな時は)
立ち上がる。
エヴォル(……なんか食うしかねぇだろ)
重たい体を引きずり、静かな通路を歩く。
食堂の自動ドアが、音もなく開いた。
――中は薄暗かった。
照明は節電の薄灯だけ。
夜の食堂は、普段より広く感じる。
その中央に誰かがいた。
一人、テーブルに座って肩を落としている背中が見える。
エヴォル「……誰だ?」
声をかける。
振り返ったのは―― ミア だった。
いつも皆の世話で忙しく動き回ってる、
“強い姉役”
だけど――涙で、ぐしゃぐしゃだった。
エヴォル「……っ!?」
一瞬、ギョッとする。
普段、絶対に見せない顔。
ミア「……エヴォル」
声は震えていた。
エヴォルはとりあえず何も言えず近づく。
エヴォル「お前も……眠れねぇのか」
ミアは笑おうとして――笑えなかった。
ミア「……うん……無理だよ」
ぽつり、ぽつりと、言葉がこぼれる。
ミア「普通にご飯作って、普通に喧嘩して、普通に笑って……」
握る手が震える。
ミア「昨日まで“普通にいた人”が……今日には、もういない」
涙が床に落ちた。
ミア「慣れたくないのに、でも……」
ミア「少しずつ“こういうこと”に慣れそうで……怖い……」
喉が詰まった声。
ミア「また誰かがいなくなるのが……もう嫌だよ……」
食堂の静けさが、一層重くなる。
エヴォルは――黙った。
軽い冗談で誤魔化せる空気じゃない。
いつもの調子で肩を叩くだけでも、足りない。
だから――真正面から言った。
エヴォル「……保証は、できねぇ」
ミアの肩が震える。
エヴォル「俺は、神様でも英雄でもねぇ。全部守れるって、軽口は叩けねぇ」
一度、息を吸う。
エヴォル「だけど――」
視線をまっすぐ向ける。
エヴォル「俺は“守るために”マルファスに乗ってんだ」
声が強くなる。
エヴォル「もう誰も失いたくねぇ。もう二度と、“あんな思い”したくねぇ」
胸に手を当てる。
エヴォル「だから俺は――命張って戦う」
そして、少しだけ笑う。
エヴォル「それしかできねぇけど。それだけは、絶対に嘘つかねぇ」
ミアの目から、また涙が零れた。
次の瞬間――
――ぎゅっ
ミアが、勢いよく抱きついた。
エヴォル「お、おい!?」
完全に想定外。
腕の置き場に困る。
ミア「……ありがとう」
ミア「……ありがとう、エヴォル……」
泣きながら、胸に顔を押しつける。
エヴォル「い、いや……あの……俺、こういうの慣れてねぇんだけどな……」
バツの悪そうな顔で、でも、逃げなかった。
そっと、背中に手を回す。
エヴォル「……大丈夫だ。俺がいる」
ミアの涙は止まらない。
でも――震えは少しだけ弱くなった。
静かな時間が、流れる。
――そのとき。
食堂の入り口の陰。
ガル「…………」
水を飲みに来た男が、全力で存在を消していた。
ガル(…………いや、無理だろ。こんなん入れねぇだろ)
ガル(気まずすぎるだろ……!!)
そっと後ずさる。
音を立てたら殺される気持ちで慎重に。
ガル(……そうだ)
ガル(俺は……水を飲みに来て――いない)
ガル(俺は最初から、いない)
静かに踵を返し――
全力で逃げた。
食堂には、まだ静かな涙と、不器用な優しさだけが残っていた。
そして――
夜は少しだけ、優しくなった。
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艦内に、警告灯が淡く明滅していた。
接舷完了の合図。
外部ハッチが開き――静かに、エアロックが繋がる。
重い扉が、ゆっくりと開いた。
最初に現れたのは、男B。
そのすぐ後ろに、フードの外套を深く被った少女。
最後に一歩遅れて――男Aが続いた。
その瞬間。
空気が固まる。
フリーゲルの面々が並んでいた。
誰も武器は持っていない。
だが――構えはある。
視線は鋭く、胸の奥に溜まった感情が、言葉以外で突き刺さる。
男Bは、ほんのわずかだけ目を伏せた。
少女は足を止める。
小さく肩が震えた。
この艦に入るということが――どういう意味か、理解している。
“ここは、仲間が死んだ艦だ”
そして――“その原因の一端は、自分達にある”。
沈黙が、ただ重く降りていた。
誰も、歓迎の言葉を言わない。
形式的な礼すら、出てこない。
ただ――痛みだけが、その場に在る。
そのとき。
ルカ・グレイが、一歩前に出た。
軽く息を吐いて、空気を断ち切るように笑った。
ルカ「――はい、ストップ~」
その声は、不思議と柔らかくて。
けれど、強制力があった。
全員の視線が一瞬だけ彼に向かう。
ルカは、肩をすくめる。
ルカ「空気、重すぎだろ。ここ圧縮炉か何か?」
誰も笑わない。
それでも――空気は、わずかに緩む。
ルカは男Aたちを見る。
ルカ「とりあえず……来てくれて、ありがとな」
“歓迎”ではない。
“許す”でもない。
でも――今ここで必要な言葉だった。
ルカは続ける。
ルカ「事情は、あとでゆっくり聞く」
ルカ「怒ってる奴もいるし」
ルカ「納得してねぇ奴もいる」
ちらりと、後方の仲間たちを振り返る。
ルカ「でも――」
ルカ「“向き合う場所”は、ちゃんと用意する」
それが、この艦の答えだと言うように。
男Aは、静かに頷いた。
短い沈黙。
そして、低く――はっきりと。
男A「……感謝する」
それは、決して軽い言葉ではなかった。
ルカは頷き――手で案内を示す。
ルカ「応接室を用意してある」
ルカ「……話そうぜ。ちゃんとな」
少女は、一瞬だけ彼を見た。
その瞳に映ったのは――少しの安心と、それでも消えない恐怖。
男Bが彼女を庇うように寄り添う。
そして三人は、フリーゲル艦内の奥へと歩き出した。
残されたクルーたちは――ただ見送ることしかできない。
静かな部屋だった。
最低限のテーブルと椅子。
壁に埋め込まれた端末が、一定のリズムで微弱な音を鳴らしている。
だが――空気は静かではない。
椅子に座るのは 男A・男B・少女。
向かい側に ルカ・セドリック。
そして
応接室の扉の近く、壁にもたれかかるようにして―― エヴォルがいた。
腕を組み、視線は鋭い。
“何かあれば即座に動く”。
その意思が、姿勢そのものに出ていた。
先に息を吐いたのは、ルカだった。
ルカ「――さて」
軽く手を叩く。
ルカ「まずは“取引の話”って流れなんだけどさ」
言いかけて、肩をすくめる。
ルカ「その前に、形だけでも“ちゃんとした場”にしとこうぜ」
男Aが静かに頷く。
ルカ「じゃあ、先にこっちから」
少し笑って――しかし、その目だけは笑わない。
ルカ「ルカ・グレイだ」
ルカ「フリーゲルの航行責任者で、実質この艦の口出し担当だ」
セドリックへ顎を向ける。
ルカ「こっちは」
セドリックは軽く会釈する。
セドリック「セドリック・フェザーズ」
セドリック「整備と技術方面の責任者だ。よろしく頼む」
そして扉の方へ視線だけ動かす。
ルカ「で、そこの怖い顔して突っ立ってるのが――」
エヴォルは小さく鼻を鳴らした。
エヴォル「エヴォル・ヴァレンティ」
エヴォル「パイロット……まぁ、戦う担当だ」
名乗りはそれだけ。
だが、その声には迷いがなかった。
場の空気が、一瞬だけ締まる。
ルカはゆるく息を抜く。
ルカ「じゃあ――」
視線を男Aたちへ向ける。
ルカ「そちらさんは?」
促され、まず男Aが口を開いた。
男A「……私の名は――」
静かで、はっきりと。
アンク・ヘルマン「アンク・ヘルマン」
男Bも続く。
男B「俺は――」
シウバ・ローク「シウバ・ロークだ」
形式は整う。
だが――まだ“埋まらない穴”がひとつ。
それを埋めに行くのは、セドリックだった。
セドリック「――で」
わざと柔らかい声で。
セドリック「彼女の名前は?」
少女が、微かに身体を強張らせる。
視線が、ほんのわずかに俯く。
シウバがすぐに言葉を挟む。
シウバ「……申し訳ない」
シウバ「それは、教えることはできない」
応接室の空気が、わずかに変わる。
温度が下がる。
ルカが――笑う。
だが、さっきより目が笑っていない。
ルカ「へぇ?」
軽い声色。
軽い仕草。
しかし――声の下にある圧だけは、まったく軽くない。
ルカ「それは、なんでだい?」
アンクが代わりに答える。
わずかな逡巡。
そして――静かな拒絶。
アンク「……それも、答えることはできない」
応接室の空気が――さらに沈む。
エヴォルの視線が鋭くなる。
セドリックは目を閉じ、息を整える。
ルカは――手を後頭部へ回し、
ルカ「やれやれ」
本気で呆れたような、しかし続きが本題。
ルカ「じゃあさ」
テーブルに肘をつき、前に少し身を乗り出す。
ルカ「“何だったら”答えてくれるんだ?」
軽く聞こえる。
だが――逃がさない。
“ここは真面目な場だ”と、はっきり示す声。
アンクとシウバが、一瞬、視線を交わした。
少女が、ぎゅっと外套を握る。
――場は、完全に“交渉の空気”になった。
セドリックが視線だけで相手を測るように男A―― アンク を見た。
低く、しかし鋭い声。
セドリック「……じゃあ、順番にいこうか」
テーブルに指を軽く打つ。
セドリック「まず――あんたらは、何でギャラルホルンに追われてた?」
応接室の空気が、わずかに重くなる。
エヴォルの視線が鋭くなり、ルカは何も言わずに様子を見る。
アンクは答えない。
視線一つ動かさず、ただ沈黙する。
セドリックは間髪入れず続ける。
セドリック「次に――」
細く笑う。
セドリック「なんでギャラルホルンのゲイレールを、あんたらが持ってる?”」
その一言で、空気が明確に変わった。
圧迫感。
追及の言葉に、応接室全体がわずかに緊張の帯を強める。
少女の肩が、ほんの少しだけ震えた。
しかし――
アンクもシウバも答えない。
ルカは目を伏せ、薄く笑う。
ルカ「これも黙秘、ってやつかい?」
軽い声
だが、それは皮肉ではなく――確認だった。
――その瞬間。
少女が、ゆっくりと顔を上げた。
薄く被っていた外套のフードが、わずかに滑り落ちる。
柔らかな金髪。
大人びた瞳に宿る、不安と決意。
少女「――私が、説明します」
空気が、跳ねた。
アンクの瞳が大きく揺れる。
アンク「お待ちを――!」
シウバも、一拍遅れて声を上げる。
シウバ「駄目です!ここで身分を明かすのは――」
少女は振り返らない。
ただ、まっすぐ前を見る。
恐怖はある。
それでも――逃げない。
少女「私が、原因です」
静かに。
しかし――この場の誰よりも強い声で。
アンクが歯を食いしばる。
シウバが拳を震わせる。
少女は、胸の前で小さく手を組み――名を告げた。
少女「私の名前は……リリン・ジェルヴィス」
応接室が、凍る。
リリン・ジェルヴィス「ギャラルホルンの貴族――ジェルヴィス家の……娘です」
ルカの目が細くなる。
セドリックが、わずかに息を呑んだ。
エヴォルの表情が強張る。
少女――リリンの言葉は、静かに続く。
リリン「……父は、事故で亡くなりました」
セドリックの視線が――わずかに鋭くなる。
ルカが、瞬間だけ瞼を伏せる。
アンクとシウバの指が、同時に強く握られる。
“事故”
その言葉を、彼女は本気で信じていた。
リリン「状況が、あまりにも急で……家の中も混乱して……」
ほんの少しだけ苦笑いを浮かべる。
リリン「気づいたら、私は“安全のために外へ出されていて”……気づいたら、ギャラルホルンの方たちに追われていて……」
言葉に、ほんの少しだけ迷いが生まれる。
でも、それでも――疑わない。
リリン「理由は、まだ……分かりません」
正直な声。
嘘ではない。
ただ――“知らない”だけ。
ルカはその瞬間に理解した。
ルカ(……この子、知らねぇ口だな)
ただ守られて生きてきた少女じゃない。
守られたまま、現実の黒さに触れさせてもらえていない少女。
セドリックは、無意識に息を吐いた。
セドリック(危ねぇなこの譲さん……この無垢さは、武器にも、標的にもなる)
エヴォルは――ただ、眉をひそめていた。
エヴォル(……こいつ“巻き込まれてる側”か)
アンクが、ゆっくり口を開く。
低く、しかし迷いのない声。
アンク「――リリン様」
リリンが振り返る。
アンク「申し訳ありません。ですが、現状……“真実を全てお伝えすることはできません”」
リリンは少し驚いた顔をする。
それでも、責めない。
リリン「……そう、なのですね」
小さく微笑む。
信じているからこその、微笑。
シウバが苦い声で続ける。
シウバ「俺たちは、“貴女が知らなくていい現実”を隠してるわけじゃない」
喉を鳴らす。
シウバ「ただ――“知った瞬間に、戻れなくなる世界”なんです」
リリンは静かに俯く。
遠い世界を、まだ現実として捉えられない少女。
ルカは、椅子に背を預けて息を吐いた。
ルカ「……了解」
軽く笑う。
だが――その目は、笑っていない。
ルカ「つまり」
指を一本立てて、言う。
ルカ「“本人は真相を知らねぇ”、“こっちにも隠してることは山ほどある”、“だけど嘘じゃねぇし、悪意もねぇ”」
セドリックが苦い顔で頷く。
エヴォルは腕を組み直し――
ただ一言。
エヴォル「……守られてるな、お前」
リリンは、一瞬だけ目を瞬かせ――
少しだけ微笑んだ。
リリン「……はい」
“それが当たり前だと思っている”笑顔で。
沈黙
さっきまでとは違う種類の緊張。
“事情は分かった”
――しかし、まだ決めるには材料が足りない。
ルカが、ゆっくりと椅子に背を預けた。
ルカ「さて――」
軽い声で始める。
しかしその目は、やはり一切笑っていなかった。
ルカ「こっちは、命と艦と仲間を抱えてる。そっちは、ギャラルホルンに追われてる」
ルカ「それでも“共闘”を望むなら――」
指を、軽くテーブルに叩く。
ルカ「“どこまで話せるか”を、もう少し聞かせてもらわなきゃ困る」
真正面からの要求。
ごまかしは許さない宣言。
アンクは、一瞬だけ目を伏せ――
ゆっくり息を吐いた。
アンク「……理解しています」
声は静か。
だが確かな決意が宿る。
アンク「ただ、申し訳ない」
顔を上げる。
アンク「“リリン様の前で話せること”に、限界があります」
その瞬間――
エヴォルも、セドリックも理解した。
二人(――つまり)
二人(この場では、まだ出していない“別の事情”がある)
リリンは瞬きをした。
リリン「アンク……?」
アンクは振り返らない。
しかし声だけは、限りなく優しいものになっていた。
アンク「リリン様。申し訳ありません。」
リリンは、少し困った顔をする。
アンク「……ここから先は、“貴女に聞かせたくない話”です」
シウバが続く。
シウバ「正確には――“まだ聞かせてはいけない現実”です」
それでも笑おうとして、少しだけ柔らかい声を出す。
シウバ「だから、席を外していただけますか?」
部屋の空気が、静かに揺れる。
拒絶ではない。
排除でもない。
ただ――
“守るための線引き”。
リリンはほんの少しだけ迷った表情を浮かべた。
リリン(……自分だけ外される。自分だけ知らされない)
胸の奥が少しだけ、痛む。
でも――
二人の表情を見て。
その迷いは、すぐに溶けた。
リリン「……わかりました」
静かに、素直に頷く。
怒らない、疑わない、責めない。
ただ――
“信じているから”。
リリン「私は、席を外します」
スカートの端を軽く摘み、礼をする。
リリン「皆さん、私のことを疑って当然です。ですが……」
少しだけ微笑む。
リリン「私は、あなた方を信用しています」
今度こそ、応接室の空気が止まった。
エヴォルが、目を細めて苦笑する。
エヴォル(……バカがつくくらい、良い子だな)
セドリックは額を指で押さえた。
セドリック(危ない価値観だな……けど、嫌いじゃない)
ルカは――
ほんの一瞬だけ、顔を伏せて笑った。
ルカ(……守られる側か。それでいて、“守らせる覚悟”もある)
アンクは深く頭を下げる。
アンク「感謝します。リリン様」
シウバも優しく頭を下げる。
シウバ「終わったら、迎えに行きます」
リリンは頷き――
応接室を出ていく。
扉が、静かに閉まった。
――静寂。
空気の質が変わる。
甘さも、柔らかさも、守るための優しさも――
すべて、扉の向こうに置いてきた。
ここから先は――戦う側の会話だ。
ルカが息を吐く。
ルカ「――さあ」
視線が、アンクとシウバを刺す。
ルカ「“本題”に入ろうか」
ルカ「俺らが命賭ける価値がある話を――しっかり聞かせてもらうぜ?」
ここからが、本当の交渉だ
それでは次回もお楽しみに!