機動戦士ガンダム鉄血のオルフェンズ外伝 鉄屑の彼岸   作:ミニトレール

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いきなりですが小説のタイトル名を少し変更させて頂きました。
前から悩んでいたのですがこっちの方が個人的にはしっくりするなと判断したのでこれからはこのタイトルでいかせていただきます!

それでは本編どうぞ!!


第二十六話:通行止め

静かな部屋だった。

 

騒ぎとは無縁の静寂。

 

装飾は少ない。

 

だが――机の上に並ぶのは、どれも“戦場に繋がる線”ばかり。

 

艦の航路図。

 

追跡ルート。

 

報告書。

 

そして――抹消済みの名前。

 

男は、その中心に座っていた。

 

ハーゼン・アウスベルン。

 

目を細め、報告を聞いていた。

 

「……以上です。――対象、取り逃がしました」

 

報告した兵士の声は、震えてはいない。

 

だが、息を殺しているのが分かる。

 

沈黙。

 

怒鳴り声も、机を叩く音もない。

 

ただ――空気が沈んでいく。

 

やがて、小さく視線だけを上げた。

 

ハーゼン・アウスベルン「…………下がれ」

 

静かな声だった。

 

兵士は即座に敬礼し退室する。

 

扉が閉まる。

 

静寂だけが残った。

 

その沈黙を破ったのは――低く響く苛立ちの声。

 

「茶番だな」

 

壁にもたれたまま、腕を組んでいた男が吐き捨てる。

 

ダリオ・リックス。

 

口元には皮肉。

 

瞳には苛立ち。

 

ダリオ・リックス「“事故”って言葉一つで消える存在の分際で……よくもまぁ、生き残ってるもんだ」

 

笑う。だが、笑い声は冷たい。

 

ダリオ「死んだ三尉や曹長のことも――無駄死にだ。守られなきゃ生きられない奴なんざ、最初から要らねぇ」

 

ハーゼンは視線を向けない。

 

ただ、淡々と机上のデータを指でなぞる。

 

ハーゼン「結果は結果だ。“仕事”が未完了になった」

 

それだけ。

 

感情がない。

 

ただ、“事実”として処理している声。

 

ダリオが鼻で笑う。

 

ダリオ「……それで?」

 

ハーゼン「続ける」

 

短い言葉。

 

だが、その一言で――ここにいる誰もが理解する。

 

“まだ終われない”

 

“終わるわけにはいかない”

 

ハーゼンは小さくため息をつく。

 

ハーゼン「こちらの戦力は削れた。内部の目も増えた。“失敗の許容回数”は――限られてきた」

 

ダリオが眉を動かす。

 

ダリオ「じゃあ、どうする」

 

ハーゼンはそこでようやく顔を上げた。

 

目は静かだ。

 

揺れない。

 

濁らない。

 

ただ、“必要だからやる”という色だけが宿っている。

 

ハーゼン「――“あの男”を使う」

 

ダリオの表情が、ハッキリと動いた。

 

ダリオ「……はぁ?」

 

驚愕。

 

そして、嫌悪に近い感情。

 

ダリオ「マジで言ってんのか?あいつは――」

 

ハーゼンは遮る。

 

ハーゼン「私も癪だ」

 

珍しく、ほんの少しだけ感情の色が乗る。

 

ハーゼン「だが事は急を要する」

 

椅子から体を起こし、通信端末を取る。

 

ダリオが苛立ったように舌打ちする。

 

ダリオ「……クソッ。あんな“気に入らねぇ外道”に、借りを作ることになるとはな」

 

ハーゼンは応じない。

 

番号へ通話を繋ぐ。

 

コール音。

 

静寂。

 

一拍。

 

――通話が繋がる。

 

「……なんだ。掃き溜めの匂いがする声だな」

 

低く、退屈そうな声。

 

だが、その奥には――刃のような鋭さ。

 

ハーゼンは名を口にする。

 

ハーゼン「ルーカス・ファブノーレ」

 

しばしの無言。

 

そして、微かに笑う吐息。

 

ルーカス・ファブノーレ「へぇ。まさかあんたが俺に頭を下げる日が来るとはな?」

 

ハーゼンは淡々と言う。

 

ハーゼン「――依頼だ。《ブラックアウト》」

 

静かに、しかし確実に、ひとつの“殺しの歯車”が回り始めた。

 

“静かで、重い空気”は――切り替わる。

 

宇宙。

 

黒の海に、巨大な輪の影が浮かび始める。

 

ノクティス・コロニー。

 

フェルの声が、ブリッジに落ちた。

 

フェル「……視界に入った。到達まで――あと六時間ってとこだな」

 

いつもより少しだけ、声音が低い。

 

その意味を、全員が理解している。

 

ルカが椅子を回し、ふっと息を吐いた。

 

ルカ「いよいよ、着くわけだ」

 

軽く言ったつもりでも、声の奥には緊張が混じる。

 

セラが端末を見つめながら、小さく頷く。

 

セラ「ここから先は、“避けられない現実”よ。政治、監視、手続き……全部、私たちの敵にも味方にもなる」

 

言葉は冷静。

 

けれど、視線はわずかに柔らかい。

 

その横で――

 

ユノが、静かに前を見ていた。

 

ただ、星の向こうの巨大な輪を見つめて。

 

誰よりも柔らかく、それでも誰よりも覚悟のある瞳で。

 

ユノ「……帰れる“かもしれない場所”ですね」

 

ぽつりと落ちる声。

 

フェルが横目で見る。

 

フェル「安心できる保証なんざ、どこにもねぇけどな」

 

ユノは、わずかに笑った。

 

ユノ「それでも――“生きて辿り着ける場所”が見えるのは、嬉しいです」

 

セラが目を伏せる。

 

ルカは少し肩をすくめる。

 

ルカ「そうだな。あそこまで運ぶ。それが今の仕事だ」

 

その声は静かだが――確かな“意志”を帯びていた。

 

食堂

 

いつもより少しだけ静かな昼。

 

だが、“張り詰めてる空気”ってほどじゃない。

 

むしろ――落ち着く程度の緊張感。

 

エヴォルは席に片肘を突いて、空になりかけのマグを揺らしていた。

 

セドリックは向かいで端末を見つめ、ナルドは――相変わらず、食べ物を多めに盛りすぎていた。

 

しばらく無言が続き――

 

口を開いたのは、ナルドだった。

 

ナルド「……いよいよ、だな。ノクティス」

 

軽く言ったつもりの声だった。

 

けど、その響きには――冗談に逃げてない“現実感”が混じっている。

 

セドリックが小さく息を吐いた。

 

セドリック「“ただ着くだけ”なら楽なんだがな。あそこは、観光地でも避難所でもない」

 

画面に映るコロニー情報をスクロールしながら、淡々と続ける。

 

セドリック「監視網。治安は不均衡。中心部だけが綺麗で、外周は影だらけ」

 

エヴォルが鼻を鳴らした。

 

エヴォル「つまり――」

 

短く言う。

 

エヴォル「“いい顔した地獄”か」

 

ナルドが苦く笑った。

 

ナルド「表向きは“文明”。裏側は“現実”。……人間の住む場所なんて、大抵そんなもんだよな」

 

珍しく、まともなことを言う。

 

エヴォルはその言葉に続けるでもなく――ただ静かにマグを回した。

 

ほんの少しだけ、視線を落とす。

 

エヴォル「……それでも。“あそこに辿り着けた”ってだけで――ちっとは心が救われる」

 

リリン。

 

そして――フリーゲルの何人も。

 

セドリックは目を伏せたまま、小さく笑う。

 

セドリック「そうだな。“帰れるかわからないけど、立っていられる場所”」

 

セドリック「それだけでも――価値はある」

 

ナルドは椅子に背を預けて、ふーっと息を吐いた。

 

ナルド「俺達は着くまでの護衛。着いてからは――政治、手続き、責任、色々だな」

 

少しの沈黙。

 

だが、その沈黙は重くない。

 

受け入れている人間達の沈黙。

 

エヴォルが立ち上がる。

 

エヴォル「……まぁ、やることは変わらねぇよ」

 

拳を軽く握る。

 

エヴォル「“戦う時は戦う。守る時は守る。”そんだけだろ?」

 

セドリックが肩をすくめる。

 

セドリック「相変わらず単純だな、お前は」

 

だが、ほんの少し笑っていた。

 

ナルドも笑う。

 

ナルド「コイツは単純でいいだろ。複雑な顔してる時より、よっぽど強ぇや」

 

三人の間に――日常の温度が戻る。

 

食堂のざわめきが、少しだけ賑やかに感じられた。

 

そして。

 

遠くの窓では――ノクティス・コロニーが、確かに少しずつ大きくなり続けていた。

 

宇宙。

 

静寂を切り裂く、異様な速度の光跡が――ノクティスへ向かう航路を、一直線に貫いた。

 

フェルが画面を睨む。

 

フェル「……接近反応一つ。速度……異常値!?……“狙われてんな”」

 

ユノの指が震えない速さで端末を走り、次の瞬間、ブリッジに声が落ちる。

 

ユノ「警戒レベル3――フリーゲル真正面に高速接近するMSを確認!」

 

セラが顔を上げる。

 

セラ「単独……?護衛も随伴も無し?」

 

フェルが舌打ち。

 

フェル「馬鹿みたいな機動だ。迎撃を前提にして動いてねぇ」

 

ルカの瞳が鋭く細まる。

 

ルカ「――プロだな」

 

光。

 

爆ぜる推力痕とともに―― 一機のモビルスーツがフリーゲルの真正面でピタリと停止する。

 

一切ぶれない。

 

まるでそこが“定位置”だったみたいに。

 

フェルがモデルを固定、映像を拡大する。

 

フェル「識別――AEB-010……?聞いた事ねぇな…!」

 

ユノが息を呑む。

 

ユノ「……確認。未登録機――」

 

セラが名を落とす。

 

セラ「機体名《ヴァルツァー》!」

 

ルカの手が、無意識に肘掛けを握り込んだ。

 

細身のフレーム。

 

無駄のない躯体。

 

背面には十字に折り畳まれた巨大スラスター。

 

ただ“そこに立っている”だけなのに――戦場の匂いがしてきそうな機体。

 

その瞬間。

 

ユノの端末が、短く鳴った。

 

――公共回線。

 

ユノ「ブリッジ。公共通信……割り込まれました」

 

ルカが息を整える。

 

ルカ「……分かった」

 

音が落ちる。

 

低いのに、やけに通る声。

 

ルーカス『……ひとまず大人しく止まってくれて助かるよ』

 

ブリッジの空気が張りつめる。

 

映像はない。

 

声だけ。

 

それでも――十分だった。

 

ルーカス『そこの輸送船。“ウィロウ”の連中だろ』

 

セラが小さく目を伏せる。

 

フェルは悔しそうに舌打ちした。

 

「逃げ場無し」

 

そう言われた気がした。

 

ルーカス『随分と静かに名前を変えたもんだ』

 

そして――

 

声の温度が、ほんの少しだけ仕事の色を帯びる。

 

ルーカス『悪いが――』

 

短く息を吸って。

 

ルーカス『ここから先は通行止めだ』

 

冷たくない。

 

熱くもない。

 

ただ、“決定事項”として告げられる。

 

そして――少しだけ楽しそうに。

 

ルーカス『――俺と“話”をしてもらおうか?』

 

ブリッジの誰も、すぐには息を吐けなかった。

 

ユノの喉が小さく鳴る。

 

セラは唇を結ぶ。

 

フェルは苦く笑って肩をすくめる。

 

ルカは――静かに目を細めた。

 

ルカ「……《ブラックアウト》」

 

戦場の符号みたいに、その名を落とす。

 

ここまでが――ただの航行だった。

 

ここからが――“この世界の現実”だった。

 

ブリッジから第一戦闘態勢の警報が走る。

 

セドリックは端末を見て、目を細めた。

 

セドリック「単機……か」

 

格納庫。

 

スパロディの影で、マークが作業の手を止めた。

 

マーク「敵……か?」

 

セドリック「まだ“敵”じゃない。“話をしに来た奴”だ」

 

エヴォルは、手を止めて空を睨む。

 

その視線は――戦場の男のもの。

 

エヴォル(話、ね……“撃つ前の挨拶”じゃなきゃいいが)

 

拳がぎゅっと鳴る。

 

別艦。

 

アンクは通達を聞き終えた瞬間、息を止めた。

 

アンク「……予想より、速い」

 

シウバが苦く笑う。

 

シウバ「“お偉いさん”が焦り出すと、動く手駒も派手になるって話だな」

 

リリンは不安そうに二人を見る。

 

リリン「……危ない方、ですか?」

 

シウバは優しく微笑み、

 

アンクは短く答える。

 

アンク「――“プロ”です」

 

つまり。

 

甘えは通じない。

 

慈悲も期待できない。

 

だが――

 

無駄に暴れもしない“現実主義者”。

 

そんな敵。

 

そんな相手。

 

だからこそ――怖い。

 

だからこそ――向き合う必要がある。

 

通信は、依然《音声のみ》

 

だが――《声》だけで、空気を支配できる男がいる。

 

ルカは椅子に肘をかけ、わざと軽く笑った。

 

ルカ「で――ブラックアウトさんよ」

 

小さく息を吸い。

 

ルカ「“何しに来た”?」

 

短い沈黙。

 

通信の向こうで、煙草の火が弾ける音がした気がした。

 

ルーカス『俺もそろそろ有名人か?名前を知ってくれてるとは嬉しいね。直球で助かる』

 

落ち着いた声。

 

仕事の声。

 

命を奪うことも守ることも、同じトーンで語れる男の声。

 

ルーカス『単刀直入に言うぜ』

 

一拍置いて――

 

ルーカス『《黒いMS》』

 

ブリッジの空気が変わった。

 

フェル「……ついに来たな」

 

セラの指が端末を握る音を立てる。

 

ユノが唇を結ぶ。

 

ルーカス『それと――』

 

声が、ほんの僅かに愉快そうになる。

 

ルーカス『そのパイロット。“エヴォル”って奴だろう?その二つを俺に渡せ』

 

ブリッジ全員の視線が――無意識にドア方向へ向いた。

 

そこへ。

 

――音。

 

ドアが開く。

 

エヴォル、セドリック、ナルド。

 

その三人がブリッジに足を踏み入れる。

 

フェルが鼻で笑った。

 

ユノが息を飲んだ。

 

セラは目を閉じ、ほんの少しだけ肩を落とす。

 

ルカは――視線だけで全てを説明した。

 

“お前とあのMSについてだ”と。

 

エヴォルはニヤリと笑う。

 

エヴォル「……俺ぁ、人気者だな」

 

通信は続く。

 

ルーカス『悪いが――ここから先へは行かせない』

 

ルーカス『依頼だ。お前らの《エース》を置いていけ』

 

ルカは目を細める。

 

ルカ「その依頼人、“ギャラルホルンの匂い”がするな」

 

ほんの少し、沈黙が流れる。

 

そして。

 

ルーカス『仕事だ。依頼人の都合は、俺の都合じゃない』

 

それは肯定と同義であった。

 

ルーカス『《黒いMS》と《エヴォル》それを置いて行け。他は見逃すし、手出しもしないと約束する』

 

ユノが歯を噛みしめる。

 

セラは瞳の色を冷やす。

 

フェルは苦笑いしながら端末をコツコツと叩く。

 

ルカは笑う。

 

ほんの僅かに皮肉の混じった、けれど誇りのある笑い。

 

ルカ「――悪いな」

 

ルカ「“うちの仲間”は、置いていけねぇ」

 

通信の向こう――ルーカスが少しだけ笑う気配が見えた。

 

ルーカス『……いい返事だ』

 

ルーカス『猶予を与えてやるよ。ダンスの招待状だと思え』

 

通信が――途切れた。

 

ブリッジの空気が張りつめる。

 

そして。

 

エヴォルは肩を回す。

 

エヴォル「……俺と会いてぇのか。ご指名とありゃあ相手しないわけにはいかねぇよな?」

 

拳を鳴らしながら笑う。

 

セドリックが即座に止める。

 

セドリック「おい待て」

 

セドリック「目的はお前だ」

 

セドリック「“狙われてる本人”が出てどうする!!」

 

エヴォルが舌打ちする。

 

エヴォル「じゃあどうすんだよ」

 

セドリックは迷わない。

 

セドリック「――俺達が追い払う」

 

ナルドがエヴォルの背中を叩く。

 

ナルド「俺らにお任せあれ。“お姫様”は下がってな」

 

エヴォルは鼻で笑う。

 

エヴォル「お前らの命、無駄に晒す気はねぇ」

 

セドリックは笑った。

 

珍しく、柔らかい笑い。

 

セドリック「――違うだろ」

 

セドリック「“お前も仲間だ”」

 

セドリック「仲間が守るって言ってんだ。少しは“頼れ”」

 

ナルドも笑う。

 

ナルド「信じろよ。数年間。伊達に一緒に死線潜ってねぇんだぜ?」

 

エヴォルはほんの一瞬だけ。

 

目を伏せた。

 

そして――小さく笑った。

 

エヴォル「……しゃあねぇな」

 

エヴォル「譲ってやるよ」

 

エヴォル「――絶対死ぬなよ?」

 

セドリックは軽く拳を合わせた。

 

セドリック「お互い様だ」

 

ナルドは親指を立てる。

 

ナルド「余裕余裕。帰ってきたらノクティスで何か奢れよ?」

 

フェルが立ち上がる。

 

セドリック「フェル。お前も来い」

 

フェルは肩をすくめる。

 

フェル「へいへい。どうせ俺の仕事でもあるしな」

 

去ろうとする彼に、エヴォルが声を投げる。

 

エヴォル「フェル」

 

フェルが振り返る。

 

エヴォル「――死ぬなよ?」

 

フェルは片手を振った。

 

フェル「何言ってんだ。お前みたいな面倒な奴を仲間に残して、先に死ねるかよ」

 

笑って。

 

三人は出撃準備へ向かう。

 

艦の別区画。

 

狭い船室に、沈黙だけがあった。

 

通信は繋がっている。

 

状況は分かっている。

 

――“黒いMSのパイロットが狙い”

 

――“戦闘になる可能性が高い”

 

だが。

 

リリン達には――「何もできない」

 

それが事実だった。

 

アンクは壁に拳を押し当てる。

 

歯を食いしばる。

 

アンク「……クソッ」

 

悔しさでも、怒りでも、焦りでもない。

 

“無力感”。

 

“守りたい側”なのに“守られる側にいるしかない”。

 

それが一番、堪える。

 

シウバが無言で腕を組む。

 

顔に出さない。

 

でも目だけが苛立っている。

 

シウバ「俺達が動けば――それこそ“全部引火”する」

 

その通りだった。

 

今ここで前に出るのは簡単だ。

 

だがそれは。

 

“自分達の問題”を“フリーゲルの問題”に変える行為。

 

アンク「分かってる」

 

それでも――拳は壁から離れない。

 

その横で。

 

ベッドに座ったままのリリンは。

 

両手を胸の前で組み、ただ――静かに息を整えていた。

 

リリン「……皆様を、信じましょう」

 

その声は震えていない。

 

不思議なほど、真っすぐだった。

 

アンクが少し目を見開く。

 

シウバは苦く笑った。

 

シウバ「……まったく“守られる側”のくせに、強ぇよ……」

 

リリンは微笑む。

 

だが――その笑顔は。

 

ほんの少しだけ、寂しかった。

 

リリン(怖いです)

 

リリン(でも――止まっているだけの私が一番“足を引っ張る”のなら)

 

リリン(せめて、信じる事だけでも――しなければ)

 

そうして。

 

彼らは、ただ“待つ”。

 

“守るために戦場へ行く側”が、静かに覚悟を決めているその頃。

 

“守られている側”もまた――別の覚悟を抱いていた。

 

彼らは格納庫に向かいながら作戦会議を開いていた。

 

フェルの声とタブレットの音が静かに走る。

 

フェル「セラから位置情報送ってもらった。《ヴァルツァー》はここだ」

 

フェルがタブレットを睨む。

 

フェル「直立。逃げる気はゼロ。“ここでブツを待ってます”ってわけか」

 

セドリックは溜息を吐く。

 

セドリック「めんどくさいな……“感情で崩れるタイプじゃない”」

 

ナルドが笑う。

 

だが、その笑いは普段の軽さとは違う。

 

ナルド「なら――こっちも真面目にやるだけだろ」

 

フェルが付け足す。

 

フェル「――ただし慎重に、だな」

 

フェル「アイツは“無駄がない”。勝とうなんて思うな。“追い払えれば勝ちだ”」

 

その時タブレットにメッセージが届く。

 

フェル「……リーダー様から熱いメッセージだ」

 

フェル「“絶対に死ぬな”。負けてもいい。ただ、生きて帰れ……だとよ」

 

ナルド「ああ…当然だろ!」

 

セドリック「二人とも……気合い入れていくぞ!」

 

ただ――覚悟だけ持ち、戦場へと向かう。

 

宙域。

 

ヴァルツァーのコックピット。

 

ノーマルスーツ着用の気配は――ない。

 

黒のスーツ。

 

黒のボルサリーノ帽。

 

深く座り、足を組み。

 

背もたれに体を預け――

 

“仕事前の男”が、静かに煙草に火をつけた。

 

火が灯る一瞬、コックピット内を赤く染める。

 

吸い込む。

 

吐く。

 

白い煙が、狭い空間にふわりと漂う。

 

ルーカス「…………」

 

無駄な緊張もない。

 

昂ぶりもない。

 

ただ“やるべき仕事”を前にした――職人の静かな集中。

 

レーダーが震える。

 

接近反応――四。

 

四機のスパロディが映る。

 

ルーカスの口角が、ほんの僅かだけ――上がった。

 

ルーカス「なるほど」

 

ルーカス「“数で押すタイプ”か」

 

煙草を口に挟み。

 

135mm対物ライフルを構える。

 

その瞬間だけ。

 

ほんの少しだけ笑う。

 

キザで、無駄にカッコつけて、本人も気づいていないクセのある声で――

 

ルーカス「じゃあ――踊ろうか」

 

照準が吸い付く。

 

センサーが四機を睨む。

 

機体が、静かに唸りを上げる。

 

ヴァルツァーが戦場に“舞い踊る”。




その舞台は、死を刻むステップであった。
それでは次回もお楽しみに!
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