機動戦士ガンダム鉄血のオルフェンズ外伝 鉄屑の彼岸   作:ミニトレール

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最近と学校が忙しくて一週間頻度で投稿をしていたのですが大分遅れて投稿することになってしまいました。
何とかキープしたかったのですが難しくなるかもしれません。
ですがこれからも頑張って投稿をし続けていきます!
それでは本編どうぞ!


第二十七話:死踏会

宇宙が張り詰めた糸みたいに静かだった。

 

先に動いたのは――ルーカス。

 

――その瞬間

 

ヴァルツァーが消えた。

 

 

“消えたように見えただけ”

 

次の瞬間には、別の位置にいる。

 

さらにその次には、また別の位置へ。

 

四方八方へと跳ねる機影。

 

視線で“辛うじて残像を追える”速度。

 

推進光だけが遅れて残像みたいに尾を引き――

 

空間そのものが掻き乱される。

 

照準が僅かに揺れ。

 

その高速機動の最中でさえ、機体は一瞬だけ“止まる”。

 

引き金が“本当にただ仕事をするだけ”みたいな軽さで引かれる。

 

――閃光

 

135mm砲弾が宇宙を裂く。

 

速い

 

重い

 

そして――無慈悲

 

だが四機も――“消えた”。

 

三次元軸で跳ぶ。

 

予測外の角度。

 

“避ける”ではなく――“弾丸が来る前提で先に身体が動いている”。

 

フェル「――ッ!!」

 

ナルド「おおおおいおいおい!!なんだあの動き!!」

 

セドリックが歯を食いしばる。

 

セドリック(反応速度……“人間じゃねぇ”。あいつも――“阿頼耶識”か?)

 

ルーカスの目が、僅かに細まる。

 

そして――理解する。

 

ルーカス「……なるほど」

 

ルーカス「“阿頼耶識”か」

 

楽しそうな声音で。

 

ルーカス「それならそれで構わねぇ」

 

ルーカス「“楽しくなりそう”だ」

 

宇宙に、静かに殺意が滲む。

 

四機が散開する。

 

迷わない。

 

考える前に噛み合う。

 

セドリック「距離を詰める!!ナルド、左!」

 

ナルド「任せろ!」

 

フェル「後衛から射線維持――牽制を入れる!」

 

ハンス「……前に出る!」

 

スラスター光が交錯し。

 

四機が、一気にヴァルツァーへ。

 

武装展開。

 

――90mmブルパップライフル。

――ロングブレード三本。

――チェーンアレイ。

 

スラスターがうなる。

 

機体が軋む。

 

“プロを殴り殺す”距離へ――

 

一気に迫る。

 

その様子を見て――

 

ルーカスは笑った。

 

ほんの少し、愉快そうに。

 

ルーカス「いい」

 

ルーカス「“怖くて動けない奴ら”より――」

 

対物ライフルを構える。

 

ルーカス「こっちの方が――仕事のしがいがある」

 

銃口が吸い付く。

 

引き金――僅かな呼吸のズレすら許さない完璧さ。

 

――発砲

 

“1発で十分”という確信を伴った射撃。

 

最初の被弾

 

弾丸が――まるで意思を持つように軌道を走る。

 

ほんの一瞬の遅れ。

 

阿頼耶識でも、埋められないほどの“初弾の完成度”。

 

フェル「ッ――!!?」

 

視界が。

 

突然――落ちた。

 

メインカメラ暗転。

 

粉砕音。

 

ガラスの破砕。

 

内部警告が連続点灯。

 

フェル「ヤベェ――っ!メイン!落とされた!!」

 

ブリッジの管制が一瞬凍る。

 

ユノ「フェル機!メ、メインカメラ機能停止ッ!!」

 

ルカが噛み締める。

 

ルカ「……噂通りだな……」

 

ルカ「まずは“視界を落とす”――それが《ブラックアウト》」

 

――戦いになっていない。

 

まだ、始まったばかり。

 

なのに。

 

“心が先に殴られた”。

 

セドリックの喉が詰まる。

 

ナルドの背筋が冷える。

 

ハンスの手が、ほんの僅かに固まる。

 

嫌でも思い出させるケッチの死因。

 

ただ―― 一機の視界を落としただけ。

 

それなのに。

 

ルーカスの存在感だけが――戦場の「温度」を、一段下げた。

 

“ここは遊び場じゃない”。

 

“ここは戦場だ”。

 

それを――ただの一発で理解させられる。

 

そして。

 

ヴァルツァーが静かに銃口を――次へ。

 

ルーカス「――さぁ」

 

ルーカス「次は誰が俺とワルツを奏でる?」

 

メインカメラを落とされたフェルの機体が下がる。

 

残る三機――セドリック・ナルド・ハンスが一気に噴射。

 

セドリック「ビビんな!!相手は対物ライフルだ!近距離に持ち込め!!」

 

ナルド「了解!!」

 

ハンス「前に――出る」

 

スラスター光が交差。

 

三機はヴァルツァーを囲むように“死の円”へ踏み込む。

 

セドリック――左側面。

ナルド――右側面。

ハンス――真正面。

 

“この距離ならば対物ライフルは役に立たない”

 

そう。

 

普通なら。

 

ハンスがゼロ距離へ突入する、ほんの手前で。

 

ルーカスの銃口が――

 

下がらない。

 

「近距離では銃は不利。ましてや対物ライフルなんて」そんな常識を破壊するかのように――

 

――撃った。

 

宇宙が炸裂。

 

衝撃波がハンスの装甲を叩く。

 

ハンス「ッ――!!?」

 

避けた。

 

阿頼耶識で。

 

本能が警告を叫ぶより早く。

 

しかし――そこが ルーカスの“仕事”。

 

――弾丸が、デブリに当たり、

 

跳ね返った。

 

意図的に。

 

計算された跳弾。

 

銃撃が曲がる。

 

そして――ハンス機の肩関節を正確に撃ち砕いた。

 

ハンス「ッ……!!」

 

関節への警告音が連続点灯。

 

腕の可動域が一気に崩壊する。

 

機体が傾く。

 

セドリック「ハンス!!」

 

ナルド「なんだそれ!?――これが“弾”の動きかよ!!」

 

ヴァルツァーは一切追撃しない。

 

ただ、静かに銃を戻す。

 

“今のは当然”

 

そんな態度。

 

セドリックの喉がひりつく。

 

セドリック「……今の動き……並大抵じゃない!」

 

ナルド「ならアイツも――」

 

――違う。

 

暗転したフェルの機体の中で震える声だけが響く。

 

フェル「……違ぇ」

 

フェル「“動き方が違う”」

 

セドリック(阿頼耶識特有の“動きの癖”がない…神経反応特有の“揺れ”がまったくねぇ……)

 

ナルド「じゃあなんだよ、あれ……!!」

 

セドリック「――“人間味がない”」

 

喉を締めつける言葉。

 

セドリック「神経で反応してるんじゃねぇ」

 

セドリック「“技術だけで、阿頼耶識と肩並べてんだ”」

 

理解が――恐怖に変わる。

 

ナルド「なんだよそれ……ふざけんなよ……人間の動きじゃねぇだろ、あれ……!」

 

その瞬間――通信が入る。

 

ハンス「……問題、ない。まだ――動ける」

 

肩関節のエラー音が鳴り続ける。

 

装甲の継ぎ目から火花が散る。

 

しかし――

 

まだ前にいる。

 

退いていない。

 

ナルド「ハンス……無茶すんな……!」

 

ハンス「船を……エヴォルの護衛を任された。だったら――簡単には退けない」

 

静かで、揺れない声。

 

“壊れながら、まだ前を向く兵士”。

 

だが――向き合う先で。

 

ヴァルツァーのカメラが、ただ静かに彼らを見つめていた。

 

まだ本気ではない狩人の目で。

 

ルーカス「―― 一機は視界を消して一機は損傷。か」

 

淡々とした事実確認。

 

ルーカス「残り、三機。だな」

 

引き金に触れる指先のわずかな動きだけで――心臓が跳ねる。

 

戦場の温度が、さらに下がる。

 

フェルの暗転したカメラ。

 

ハンスの肩関節から散る火花。

 

戦況は――一進一退ではない。

 

完全に 狩り場 だ。

 

セドリックが、短く息を吸った。

 

セドリック「――ハンス」

 

ハンス「……なんだ」

 

ほんの少しだけ間を置き、

 

セドリック「フェル連れて、フリーゲルに戻れ」

 

一瞬。

 

ハンスの呼吸が止まる。

 

ハンス「……まだ、戦える」

 

ナルド「ハンス、てめぇ――!」

 

だがその声を遮ったのは――セドリックの、静かな叫びだった。

 

セドリック「ああ、分かってる!」

 

喉を焼くような声。

 

セドリック「お前はまだ戦える。だが――“勝てる”とは言えねぇ」

 

吐き捨てるような現実。

 

セドリック「流石に俺ら三機でどうにかできる相手じゃねぇ……なら――」

 

ハンドルを握る力が強くなる。

 

セドリック「“即効で治して、戻ってこい”」

 

セドリック「その時、まだ誰も死んでないように――俺らが時間を買う!」

 

それは――命令ではなく。

 

“仲間を信じる頼み”だった。

 

少しだけ、沈黙。

 

そして。

 

ハンス「……了解した」

 

短い。

 

でも重い。

 

ハンス「必ず、戻る。倒れねぇで待ってろ」

 

セドリックが笑った。

 

セドリック「ああ。頼んだぞ」

 

ナルドも息を震わせる。

 

ナルド「フェルのこと、頼むぞ……!」

 

ハンス「任せろ」

 

肩を引きずるスパロディが、暗転したフェル機を護るように抱え――

 

後方へ離脱開始。

 

ヴァルツァーの照準が―― 一瞬だけそちらへ流れた。

 

セドリックとナルドの声が被る。

 

セドリック「撃たせるな!!」

 

ナルド「前出る!!」

 

二機が――命を擦り減らすみたいに前へ飛び出す。

 

“生存戦争”。

 

ここからはただの戦闘じゃない。

 

**「仲間を帰すための時間稼ぎ」**だ。

 

黒いスーツ。

 

黒いボルサリーノ帽。

 

ただ一人、煙草の煙だけが揺れる空間。

 

ルーカス「……判断は悪くねぇ」

 

煙を吐きながら、目は少しも笑っていない。

 

ルーカス「潰し合いじゃない。“残す戦い方”を選べる奴は――指揮官だ」

 

しかし。

 

指が、引き金に軽く触れる。

 

ルーカス「だが――プロってのは “逃げる背中” を見逃さないぜ?」

 

感情はない。

 

愉悦もない。

 

あるのは――

 

“仕事としての殺意”。

 

ヴァルツァーの銃口が、静かに火を吹く。

 

物語は、さらに命を削る段階へ――入っていく。

 

セドリックとナルドの射撃が、濁流みたいに宇宙を満たす。

 

セドリック「撃て! 撃ち続けろ!!」

 

ナルド「分かってる!!――当たれよッ!!」

 

だが――

 

当たらない。

 

当たらないどころか、狙われている側の動きじゃない。

 

ヴァルツァーが、青白い残光を“十字”に撒き散らしながら――

 

踊る。

 

銃弾の雨を裂くように。

 

滑るように。

 

跳ねるように。

 

ナルド「っ――!!」

 

理解が追いつかない。

 

ナルド「やっぱあの速さ……!避けるってレベルじゃねぇだろ!!」

 

セドリックは歯を噛み締めながら目を見開いた。

 

セドリック(――考えられない)

 

通常推力では説明できない。

 

スラスターの光が――異常だ。

 

その時、セドリックの目に信じられないものが映る。 

 

セドリック「リアクターだ……!」

 

喉が震える。

 

セドリック「あいつ――リアクターを“二基”積んでやがる!!

 

 

 

ブリッジ

 

 

フェルとハンスの帰投。

 

その一方で、戦況モニターが焼ける。

 

ユノ「……駄目です、捕捉できません……!」

 

ユノ「加速曲線が常識外です……!」

 

セラ「姿勢制御限界を無視してる……」

 

セラ「“人間が乗れる領域”を超えてる……」

 

ルカの瞳が、戦闘画面を静かに射抜く。

 

ルカ「――見えた」

 

フェルの代わりに、ルカの冷静な声が、戦場を解析する。

 

ルカ「背面スラスター、まずあれが普通じゃねぇ」

 

巨大なXの残光。

 

ユノ「でも出力曲線が異常で――」

 

セラが一瞬だけ呼吸を止め、端末を見つめた。

 

セラ「……ルカ」

 

ルカ「ああ、分かってる」

 

画面の中――

 

ヴァルツァーのリアスカートの上に重なる、異質な物体。

 

ルカ「リアスカート部分――」

 

ルカ「あれはエイハブ・リアクターだ」

 

ブリッジの空気が――締まった。

 

セラ「そんな改造……普通行わない……!!」

 

ユノ「構造負荷が常に限界……パイロットへのGも設計外……!」

 

ルカは静かに言う。

 

ルカ「でも――」

 

視線を鋭くした。

 

ルカ「“やる価値がある”って判断してる奴の動きだ」

 

そして、低く締める。

 

ルカ「つまり――“あれはただのMSじゃねぇ”」

 

ユノが息を呑む。

 

セラが理解する。

 

セドリック(リアクター二基……!)

 

セドリック「つまり――」

 

ナルド「何だよ!?」

 

その瞬間――

 

ルカの声とセドリックの声が。

 

――戦場とブリッジを跨いで、同じ結論に重なった。

 

ルカ「“マルファスを相手にしてるのと同じだ”

 

セドリック「“ガンダムを相手にしてると思え!!”

 

その言葉が、戦況の“意味”を塗り替える。

 

ただ速い敵じゃない。

 

ただ強い敵じゃない。

 

“一線を超えた存在”

 

――ヴァルツァー。

 

虚飾も称号もない。

 

だが

 

その性能は――確実に、ガンダム(悪魔)に並ぶ「怪物」だった。

 

 

ヴァルツァーが“跳ねる”。

 

背面のX型スラスターが炸裂し――

 

宇宙が歪んだみたいに背景が引き伸ばされる。

 

同時に――コックピット内部が、悲鳴を上げる。

 

――ギギィッ!!

 

フレームが鳴る。

 

警告ランプがいくつも点灯する。

 

そして“人間”も――悲鳴を上げていた。

 

ルーカス(……ッッ!!)

 

喉が締まる感覚。

 

肺が潰される圧迫。

 

視界の端が、暗く染まっていく。

 

【G負荷警告】

 

【生体反応値 上昇】

 

普通なら

 

ここで限界だ、ここで投げ出す、ここで恐怖する。

 

だが――

 

ルーカスは笑った。

 

ほんの少し。

 

楽しそうに。

 

ルーカス「……はは」

 

煙草の味が喉に残っている。

 

ルーカス「――いいな」

 

軽く、息を吐く。

 

ルーカス「“これくらいじゃあ、死ねねぇ”」

 

その声音には――“恐怖”の欠片も無かった。

 

むしろ――生きていることを実感していた。

 

ルーカス「もっと踊ろうぜ――」

 

黒い帽子の影から、視線だけが鋭く光る。

 

ルーカス「“俺の美学が、まだ燃えてる間はよ”」

 

そして――ヴァルツァーはまた跳んだ。

 

怪物の速さで。

 

だが、その中に確かに“人間の命”を抱えたまま。

 

 

ブリッジ

 

いや――正確には、「声にならない焦り」で満たされていた。

 

ユノ「……セドリック機、回避限界ギリギリ……」

 

ユノ「ナルド機、機体温度が……!」

 

セラ「ダメ。“入れば助けられる”レベルじゃない」

 

拳を握る。

 

セラ「“入れば巻き込まれる戦場”」

 

ルカは歯を噛んで画面を見ていた。

 

ルカ「援護に出れば――」

 

淡々とだが、自分を刺すみたいに続ける。

 

ルカ「“死ぬ”」

 

エヴォルの指が、肘掛けをきしませるほど握られる。

 

エヴォル「けど、このままだと――」

 

ルカ「“こっちも死ぬ”」

 

ルカの声は震えていない。

 

しかし――

 

冷静という名の“拷問”だった。

 

ルカ「感情で助けたい。でもあれは――“助けに出た奴から死ぬ場”だ」

 

ユノは唇を噛み――それでも仕事の声を出す。

 

ユノ「セドリック達、回避限界スレスレですが――まだ、戦えてる……!」

 

ルカ「……だったら」

 

深く息を吸い――吐く。

 

ルカ「“信じるしかねぇ”」

 

その言葉は祈りじゃない。

 

賭けでもない。

 

ただ――

 

仲間を尊重するという、覚悟だった。

 

エヴォルは目を閉じ――そして顔を上げた。

 

エヴォル「死ぬなよ、あいつら……」

 

それ以上、言葉は出なかった。

 

地獄の只中。

 

連続回避

連続回避

連続回避

 

それでも――“まだ死んでない”。

 

それだけが、唯一の戦果。

 

ナルド「くそっ……!避けるだけで精一杯とか、ダサすぎんだろ!!」

 

だが――

 

声は震えていても、操縦桿は折れない。

 

セドリック「いいや――それでいい」

 

呼吸を合わせるように言う。

 

セドリック「忘れんな。俺達の仕事は――」

 

迫る死線を裂きながら。

 

セドリック「あいつらが帰ってくるまでの時間稼ぎだ!死ぬ気で生き残れ!」

 

ナルド「……チッ」

 

笑う。

 

震えたまま――それでも、笑う。

 

ナルド「じゃあ見せてやるよ……!」

 

ナルド「“簡単には散らねぇ、デブリの意地”ってやつをな!!」

 

ヴァルツァーの銃口が、ふたたび火を噴いた。

 

それでも――二機は、消えなかった。

 

まだ、生きている。

 

まだ――戦っている。

 

“粘る”という、最も人間らしい戦い方で。

 

ヴァルツァーの背で――X字のスラスターが、さらに開く。

 

リアクター出力が跳ね上がる。

 

宇宙の静けさの中で“速さそのもの”が音を持った錯覚を起こす。

 

セドリック「――っ!?」

 

ナルド「さっきより速ぇ!?まだ上がんのかよ……!!」

 

迫る。

 

突き刺さる。

 

“死”が、確実に近づく。

 

そして――

 

公共通信が、開いた。

 

ルーカスの声が、楽しそうに、しかし熱を帯びて流れ込む。

 

ルーカス「――悪いな」

 

軽い声音。

 

なのに、圧迫感がある。

 

ルーカス「そっちの“必死な粘り”は嫌いじゃねぇ」

 

だが――

 

ルーカス「――でもよ」

 

一瞬で間合いを詰める。

 

ヴァルツァーの影が、まるで“落ちてくる黒”みたいに視界を覆う。

 

ルーカス「“見えてる”奴と――」

 

トリガーが軽く絞られる。

 

スパロディのすぐ横を、一発が正確に通過する。

 

肩越しに、死が掠めた。

 

セドリックの背筋に氷が走る。

 

ルーカス「“ただ反応してるだけ”の奴の差は――」

 

センサー群が光る。

 

十字の残光が踊る。

 

ルーカス「“こういうところでつくんだよ”」

 

彼は“言葉で脅した”わけじゃない。

 

ただ、“真実”を宣言した。

 

ルーカスは――少し息を吐き、わずかに笑う。

 

ルーカス「教えてやるよ、サービスだ」

 

その声は“解説”ではなく――狩人が獲物に教えてやる余裕。

 

ルーカス「こっちは――」

 

ルーカス「センサーとスラスターに、リアクター出力を割り切ってんだ」

 

セドリック「……!?」

 

ナルド「割り切るって……!」

 

ルーカス「“速度と目”」

 

ルーカス「それだけで――」

 

再び、加速。

 

視界から消え――次の瞬間には、真横にいた。

 

ルーカス「充分すぎるんだよ、俺には」

 

言葉が、戦術の宣告として突き刺さる。

 

ルーカス「リアクターの脈を見て、フレームの悲鳴を聞いて、――お前らの“命の揺れ”も、全部見えてる」

 

それは――

 

狂気にも似た、しかし“極められた職人”だけの世界。

 

ルーカス「だから――」

 

ほんの僅か、声が楽しそうになる。

 

ルーカス「踊れよ。もっとギリギリで。」

 

笑った。

 

ルーカス「その方が――“カッコいい”だろ?」

 

ヴァルツァーが――再び、闇を裂いた。

 

圧迫感は、さらに増す。

 

逃げ場は――確実に、狭くなっていく。

 

 

ブリッジ。

 

フェルの予備カメラ映像、セドリックの戦闘データ、そして――《ヴァルツァー》のエイハブ粒子の波形。

 

ユノの指が震えながら端末を叩く。

 

ユノ「……おかしい……出力配分、戦闘機動の型じゃない……」

 

セラが隣で素早く解析を重ねる。

 

セラ「通常の戦闘機体なら――フレーム出力、スラスター、センサー」

 

指を3本立てる。

 

セラ「均等配分…もしくはどれか一つに多少多く配分するのが基本」

 

しかし。

 

セラの目が細くなる。

 

セラ「でも――あれは違う」

 

画面に表示される予測比率。

 

推進:最大強化

 

センサー:最大強化

 

武装:最低限に削減

 

装甲:切り捨てに近い軽量化

 

ルカが歯を噛みしめる。

 

ルカ「……つまり、あれ……“撃たれる前提”じゃねぇんだ……」

 

ユノの喉が鳴る。

 

ユノ「“撃たれない”って決めつけてる配分……?」

 

セラ「違う」

 

ゆっくり、深く息を吸う。

 

セラ「“撃たれる前に避けることが前提の設計”」

 

冷たい結論。

 

ユノ「そんな……そんな運用、成立するわけ――」

 

セラ「“普通の人間”ならね」

 

そこで――

 

ルカが椅子の背に体を預ける。

 

視線は画面から逸らさず。

 

ルカ「……なるほどな」

 

笑っていない笑顔。

 

ルカ「“当たらなければ、どうって事はない”ってか?」

 

ユノが息を飲む。

 

ルカ「推力は怪物級。旋回性能は無茶苦茶。でも――フレームはもう悲鳴を上げてる」

 

ルカの声が低くなる。

 

ルカ「“それでも踏み込める奴”にしか運用できない」

 

セラが静かに告げる。

 

セラ「つまり――“機体性能とパイロットの精神が両方バグってる怪物”」

 

ユノの肩が震える。

 

ユノ「セドリックもナルドも……“格下”じゃないのに……届いてない……」

 

理解が――

 

恐怖に変わった瞬間だった。

 

エヴォルが黙って画面を見つめていた。

 

眉がわずかに動く。

 

ルカ「……どうした?」

 

エヴォルはほんの一瞬だけ目を伏せ――そして、カッと見開く。

 

エヴォル「――ああ、そういう事か」

 

セラ「何か、掴んだの?」

 

エヴォル「多分な」

 

拳を握る。

 

エヴォル「“反応”じゃねぇ“予測と確信”で動いてる」

 

セラが息を呑む。

 

セラ「だから――ブレない……!」

 

ルカの口元が僅かに歪む。

 

ルカ「そりゃあ――」

 

ルカ「“確実に殺しに来る奴”だ」

 

戦場。

 

ヴァルツァーの十字の残光が――空間を切り裂き続ける。

 

ナルド「くそっ!!」

 

撃つ。

 

しかし当たらない。

 

標的は――撃った瞬間、もういない。

 

セドリック「距離を離すな!頭ぶち抜かれるぞ!!」

 

しかし――

 

それが どれだけ無茶な指示か

 

理解しているのは当の本人だ。

 

セドリック(……速い……速いなんて言葉じゃ足りねぇ……!)

 

一瞬のブースト。

 

重力に似た圧迫感。

 

セドリック(存在そのものが“死の圧力”だ……!)

 

ナルド「うおおおおおっ!!」

 

必死。

 

生きるための操作。

 

だが――

 

ヴァルツァーが確実に距離を詰めてくる。

 

セドリック「……ナルド」

 

一瞬の静寂

 

ナルド「……分かってる。分かってるけどよ……!」

 

息が荒い。

 

汗が止まらない。

 

ナルド「こっちは必死に命貼ってんだよ!!なのに――」

 

叫ぶ。

 

ナルド「向こうは、“まだ余裕”そうじゃねぇか!!」

 

その瞬間。

 

公共通信。

 

ルーカスの声が――静かに降ってきた。

 

ルーカス「――悪いな」

 

優しい声色。

 

しかし、その奥は氷のような冷たさを感じる。

 

ルーカス「俺は仕事は――」

 

銃口が、ぶれない。

 

狙い続けている。

 

ルーカス「“確実”に終わらせたい主義でね」

 

スコープが収束する。

 

センサーが対象を固定する。

 

ルーカスのスコープが、ナルドのスパロディの“頭”を確実に捉えた。

 

呼吸が――静かに整う。

 

余裕でも挑発でもない。

 

ただ“仕事を終わらせる男の呼吸”。

 

引き金が――落ちる。

 

だが。

 

――空間が揺れた。

 

轟音。

 

フリーゲルが船体ごと“突っ込んで”きた。

 

真正面。

 

躊躇ゼロ。

 

歯を食いしばる意思が、船体そのものに宿ったような愚直な突撃。

 

ブリッジ内。

 

ルカ「――今だけでいい!“邪魔”になれ!!」

 

ユノ「衝突ギリギリまで維持……ッ!」

 

セラ「衝撃係数計算――限界突破してる!」

 

宇宙。

 

フリーゲルの巨体が迫る。

 

殺気の塊。

 

ヴァルツァーは反射で回避機動に入った。

 

ルーカス「……うおっ!?」

 

スラスター噴射――十字の光が弾ける。

 

ギリギリで回避。

 

だが――ほんの一瞬。

 

“セドリック達から視線が逸れた”。

 

ルーカス「……はっ!」

 

苦笑が漏れる。

 

ルーカス「面白ぇ発想だ」

 

少しだけ愉しげに。

 

ルーカス「――けど、それだけじゃ勝てねぇよ」

 

ナルド「うぉおおおおお!!!」

 

飛び込む、斬り込む

 

ロングブレードが――ヴァルツァーの対物ライフルを叩き斬った。

 

金属音。

 

火花。

 

飛散。

 

ナルド「やった!」

 

だが。

 

ルーカス「――甘ぇよ」

 

次の瞬間。

 

ヴァルツァーの左腕が動いた。

 

アームガントレットがブレードを弾く。

 

同時に、左手にはすでに――

 

ナイフを持っていた。

 

セドリック「ナルド下がれ!!」

 

遅い。

 

ナイフが走り――

 

ナルドのスパロディのメインカメラを粉砕。

 

視界が途切れる。

 

通信が一瞬ノイズに飲まれる。

 

ナルド「っ……!!」

 

機体はまだ“生きている”。

 

だが、“見えない”。

 

ルーカス「次で終わりだ」

 

淡々と“確定宣告”を放つ

 

ナイフを頭部から抜き取り――コクピットを捉えた。

 

突き刺さる直前。

 

――砲撃。

 

衝撃。

 

ヴァルツァーの背を吹き飛ばす直撃弾。

 

通信が破裂する。

 

ルーカス「ッ――!?」

 

スラスター噴射で距離を取る。

 

舌打ち。

 

そして、一瞬だけ笑った。

 

ルーカス「……船は今そこには――いねぇはずだ」

 

ルーカス「誰だ?」

 

ゆっくり――振り向く。

 

そこにいたのは【長距離ブースター】

 

――巨大な推進ユニットを背負った白い“矢”のような加速兵装。

 

その側面に、追加装甲と仮設砲座。

 

そして。

 

通信が割り込んだ。

 

エヴォル「――おいナルド」

 

ナルド「……!」

 

エヴォル「前と後ろ。どっちも漏らしてねぇよな?」

 

馬鹿みたいに明るい声。

 

でも、それは――“仲間を失う気のない声”。

 

ナルド「……漏らすか……!!助けるのが遅ぇんだよ!!」

 

半泣きで噛みつく。

 

エヴォルは笑った。

 

一方

 

ルーカスは煙草を吐き出し静かに息を吐く。

 

理解する。

 

ルーカス「――そういうことか」

 

目の前の“矢”を見据える。

 

ルーカス(船に搭乗させていた外部推進ユニット単体を――)

 

口角が少し上がる。

 

ルーカス「“戦闘用に転用”……ね」

 

ほんの僅か、楽しそうに目を細めて。

 

ルーカス「おもしれぇセンスだ」

 

そして視点は――**エヴォルが出撃する“前”**へ戻る。




主役は、ここから登場する。
それでは次回もお楽しみに!
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