機動戦士ガンダム鉄血のオルフェンズ外伝 鉄屑の彼岸 作:ミニトレール
エヴォル「……セド……本当に動くのか……?」
セドリックは黙ってタブレットを取り出し。
瓦礫から回収した古い接続ケーブルを経由し黒い機体にケーブル接続する。
その動きには、わずかな“緊張”と“迷い”が入り混じっていた。
ナルド「……お前、それ……また出してきたのかよ」
エヴォル「そういやいつも使ってるよな…… けどさ、それって――」
セドリックは小さく息を吐いた。
セドリック「……海賊の設備保管庫から“頂いた”ものだ。正式な支給品じゃねぇよ」
エヴォル「……盗んだってことか?」
セドリック「ああ。見つかってたら――殺されてたな」
その淡々とした口調の裏に、 “隠していた日々の恐怖”が滲んでいた。
エヴォル「……お前……そんなもんずっと使ってたのかよ」
セドリック「オレがメカニックもやらされてた理由なんてひとつだ。“戦えてMSも整備ができる都合がいい道具”だからだよ」
苦い笑みを浮かべ、セドリックは黒いMSへ端子を接続する。
セドリック「だが……そのおかげで、 普通ならわからねぇ場所まで全部触れた。 だからこいつのコネクタ位置も、大体わかった」
二人は一瞬、彼の背中を見つめた。
普段は冷静で淡々としているセドリックが、 ここまで言うのは珍しい。
――彼もまた、必死だった。
■ データ照合 タブレットの画面が青白く灯り、 古いMS内部の情報がゆっくりと読み込まれていく。
――STATUS:OFFLINE MODE
――REACTOR:TWIN AHAB REACTORS / ACTIVE(LOW)
――WAKE PROTOCOL……UNLOCKABLE
格納庫最深部―― 死んでいるはずの廃船の“最深部”で、 そのモビルスーツだけが時を止めたように佇んでいた。
セドリック「……よし、信号……応答あり。 状態は……オフライン……だけどやっぱり…“生きてる”……」
ナルド「生きてるって……MSがか?」
セドリック「出力が完全には落ちてないって意味だ。 こいつのリアクターは二基だ。しかも……俺らのとは別格のな」
ナルド「ガ、ガチかよ……!?」
エヴォルは解放したコックピットから 黒い機体を見上げた。
その巨体は、まるで“息を潜めている”ようだった。
セドリックは予備の補助バッテリーを取り出す。
それは、整備担当だった時にタブレットと同時にこっそりポケットへねじ込んで持ち出したもの。
もしバレていたら―― 拘束され、二度と戻れなかっただろう。
だが今は、その“小さな反乱”が生き残りの鍵となっている。
セドリック「外部補助電力……接続するぞ」
ケーブルを押し込み、起動信号を送る。
指先が震える。
ナルド「……お、おい……セド、大丈夫かよ」
セドリック「これが失敗したら…… こいつは二度と動かない可能性がある。 だから……緊張して当たり前だろ」
セドリック「それに…」
ナルド「それに?」
セドリック「解除をミスれば……この格納庫ごと爆発の可能性もある」
ナルド「はぁぁ!?なんで今言うんだよ!!」
エヴォル「落ち着け!どの道やるしかねぇだろ!」
エヴォルの目はずっと黒い機体に釘付けだった。
そして、起動信号を送信した瞬間―― ――ズオォォォン…… 黒いMSの胸部が低く唸り、 重い金属が動くような振動が足元を揺らした。
エヴォル「……ッ!」
ナルド「……マジで反応した……!」
胸部の装甲の隙間から、 緑の光がかすかに漏れ出す。
ツインアイにも微弱な通電が走り、 チカッ……と、一瞬だけ光った。
セドリック「オフライン解除……成功……!スタンバイモードに移行…!まじかよ……本当に動いた……!」
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セドリック「とりあえず動かせることはわかった。次は……誰が乗るか何だが――」
言い終えるより早く、二人が噛みつくように叫んだ。
ナルド「俺だ!!こんな強そうなMS、俺が乗る!!エヴォル、お前より俺の方が戦えるしな!」
エヴォル「は? ふざけんな!!“動けるMS”に乗れるなら俺が先だろ!俺のスパロディなんかもう半壊どころじゃねぇ!!」
ナルド「動けねぇなら、俺のに乗りゃいいだろ!?俺のは片腕しか飛んでねぇし、まだマシなんだからよ!」
エヴォル「だから言ってんだろ……!お前のスパロディは“まだ動く”からお前が乗ればいいだろ俺のはもう“乗り換えなきゃ終わり”なんだよ!」
ナルド「……だからって、強そうなMSはお前が乗って当然だ、みたいな言い方すんな!!」
エヴォル「強そうとかじゃねぇ!“こいつしかない”って言ってんだ!」
ナルド「うるせぇ!お前だけ優遇されてたまるかよ!」
二人は徐々に近づき殴り合い寸前までヒートアップする。
その瞬間――
セドリック「いい加減にしろ、お前ら!!」
格納庫中に響き渡る怒号。
セドリック「誰が乗るとか贅沢言っていい状況か!?全員、死にかけの状態だぞ!“強そうだから乗りたい”? ガキかお前らは!!」
ナルド「……ッ」
エヴォル「……」
セドリックは震える息のまま続ける。
セドリック「こいつは未知数だ。下手すりゃまともに動けない可能性だってある。それでも動かすには――“どんな状態でも動けた奴”が必要だ」
視線がエヴォルへ向く。
セドリック「――乗るのはエヴォル、お前だ。あの損傷で生き残った時点で、適性がある」
ナルドは歯をきしませ、蹴り飛ばした瓦礫がカン、と跳ねる。
ナルド「……チッ…………全然俺は納得しちゃいねぇからな……」
だが次の瞬間、ナルドはエヴォルの肩を強く掴んだ。
ナルド「……頼むぞ……マジで死ぬんじゃねぇぞ……」
エヴォルは息を飲みながら、小さく笑った。
エヴォル「当たり前だ……俺はまだ死なねぇよ……」
エヴォルは胸部ハッチを見上げ、拳を握った。
エヴォル「……これが本気で動くなら……やるしかねぇだろ」
三人は黒いMSの胸部ハッチへと進んでいった。
内部は――
スパロディと“ほぼ同じ構造”のコックピット。
同じシート。
同じケーブル口。
同じ阿頼耶識端子。
……のはずなのに。
ナルド「……なんか……違くね?」
セドリック「ああ。形は同じだ。だから余計に不気味だ……」
三人のうなじの金属が鈍く光る。
海賊による“生死五分の手術”の痕。
セドリック「俺らの阿頼耶識は、海賊が拾って雑にコピーしただけの代物だ。動けばいいって程度のまさに“海賊版”なんだよ」
ナルド「そりゃそうだな……俺らの手術なんて埋め込まれてしばらく放置されて、生きてりゃ成功ってやつだからな……」
エヴォルは端子をじっと見つめた。
エヴォル「でも形は同じなんだよな。スパロディと同じ“規格”してる」
セドリックは端子の表面を指でなぞる。
セドリック「なのに……精度も素材も段違いなんだよ。加工の密度が尋常じゃない。でもな――」
少しだけ呼吸を止める。
セドリック「新しいのか古いのかすら、判断できねぇ。状態が良すぎて、手がかりがねぇんだ」
ナルド「ギャラルホルンのMSじゃないのか?」
セドリック「ギャラルホルン製のMSに阿頼耶識はねぇ。これは……それ以外の、何かだ」
エヴォル「どこの何であろうが……動けばいいだろ。とにかく、動かせるなら――」
ナルド「“動くなら”が怖ぇって言ってんだよ!説明できねぇけど……こいつ、スパロディと“同じ”じゃねぇ。嫌な感覚しかしねぇんだ……!」
エヴォル「そうか?。もしその感覚があってたとしても……後戻りはできねぇだろ?」
エヴォルは笑ってそう言った。
そして――
――カチッ。
ためらいなく自分の阿頼耶識ピアスを端子へ押し込んだ。
次の瞬間。
――キィィィン!!!
脳へ、視界へ、背骨へ、人間が耐えられる限界を越えた情報が流れ込む。
エヴォル「――ッ……あ……!!」
膝が崩れ落ち、シートへ沈む。
目からは涙を流し、鼻からは勢いよく鼻血が流れてきた。
‘‘明らかな異常‘‘
ナルド「エヴォル!!!おい!!大丈夫か!!」
焦ったナルドがケーブルを引き剥がそうとする。
ナルド「クソッ!!今助けるからな!!」
――しかし。
セドリック「やめろナルド!!!絶対に外すな!!」
ナルド「外さなきゃ死ぬだろうが!!!」
セドリックは顔を青くしながら叫ぶ。
セドリック「むしろ死ぬのは“今外した時”だ!!脳に流れ込んでるデータが途中で途切れたら……脳みそがぶっ壊れる!!」
ナルド「じゃあ……この痙攣はなんなんだよ……!」
セドリックは黒いMSから送られてくるデータを見て――気づいてしまう。
セドリック「……情報量が……おかしい……」
ナルド「は……?」
セドリック「スパロディだったら単純な情報しか寄越さねぇ。機体の角度、姿勢、簡単な状態くらいだ。でも……これは違う。情報の密度が桁違いだ……!これ……スパロディの何倍……いや……」
手が震える。
セドリック「何十倍もある……!」
ナルド「はぁ!?何だそれ!!」
セドリック「この黒いMSは普通じゃない……!!エヴォルの脳の処理が……追いついていないんだ……!」
ナルド「じゃ……じゃあ今のエヴォルは……!」
セドリック「恐らく脳が“限界まで深層に避難してる状態”だ……!本来の同期反応は起こしているが……俺たちの阿頼耶識じゃ……耐えきれねぇかもしれない……!」
エヴォルの痙攣は次第に弱まり、最後には完全に力を失って静止する。
ナルド「……死んでないんだよな……?なあ……」
セドリックは震える指で脳波値を確認する。
セドリック「……生きてる。脳波は深層……同期中。ただしこれは“異常なレベルの同期”だ……
俺らのMSより、明らかに情報が多すぎる。まるでこのMSがコイツと“一心同体”になろうとしているみたいだ。」
ナルド「異常って……どういう――」
その時。
――チカ……ッ。
暗闇の中、黒いMSのツインアイがわずかに、緑光を灯した。
生気のない廃船の最深部で、“それだけ”が静かに呼吸するように光る。
ナルド「おい……い、今……光ったよな……?」
セドリック「……ああ。エヴォルがどうなってるかは……まだわからない。だが一つだけ確かだ。」
視線の先の黒い巨影は、まるで“目覚めた悪魔”のように佇んでいた。
セドリック「――あいつはもう……後戻りできねぇ。」
微かな金属音が、誰もいない格納庫に響く。
まるで黒いMSが“新しい主”の目覚めを待ちわびているかのように。
――次の瞬間に何が起こるのか、三人には誰にもわからなかった。