機動戦士ガンダム鉄血のオルフェンズ外伝 鉄屑の彼岸   作:ミニトレール

7 / 28
今回はついに“あの組織”が登場?
あとあとこの作品のタイトルロゴを作成したのでもしよかったら見てってください!!
それでは第七話どうぞ~


第七話:運ばれる命、運ぶ船

貨物船〈ウィロウ〉に三人が乗り込んでから、すでに一か月が経っていた。

 

食堂の小さな窓から見えるのは、火星圏の外縁。

 

通常航路から外れた、ひどく静かな宙域。

 

この船が、「わざわざここを選んで航行している」理由は、誰にも説明されていない。

 

ナルド「……まだ、この船の奴ら全員覚えられねぇ……」

 

エヴォル「お前それ才能だよ。三十人しかいねぇのに」

 

ナルド「三十人もいるんだよ!!」

 

セドリック「お前ら声がでかい。まだ早朝だ」

 

三人が、こんなやり取りを交わすことが増えた。

 

一見すれば、緊張が解けたように見える。

 

だが実際には――

 

慣れただけだった。

 

危険に。

 

違和感に。

 

そして、この船そのものに。

 

その空気に慣れてきた頃、航海士のルカ・グレイが、いつもの軽い調子で近づいてきた。

 

ルカ「お前ら、改めて紹介してやるよ。ほら、あれがうちの船長――ロブ・コッペルさん」

 

コッペル船長――ロブ・コッペル(40代前半)。

 

気弱そうな目。少し猫背の体格。

 

だが、その奥には“数字を計算する人間”の光が潜んでいる。

 

ロブ・コッぺル「や、やぁ……その……できれば……ブリッジの外壁はもう……壊さないで……」

 

エヴォル「そんな壊したみてぇに言うなよ。“ちょっと押し当てただけ”だろ?」

 

ロブ「押し当てただけでガラス軋ませるMSがどこにある!!」

 

ルカが笑いながら肩をすくめる。

 

ルカ・グレイ「で、俺が航海士のルカ・グレイ。道案内と帳簿整理が仕事だ。まぁこの船じゃ、俺もたまに銃持つけどな」

 

軽い自己紹介の後、整備主任がぶっきらぼうに割り込んできた。

 

アルゴ・バーンズ(50代)。

 

油と鉄の匂い。岩のような腕。

 

アルゴ・バーンズ「おい小僧。昨日の整備ログ、雑すぎんだよ」

 

セドリック「それ俺じゃなくて副長が――」

 

アルゴ「だまれ!!」

 

セドリック(……なんで俺に当たるんだ)

 

さらに、副長が淡々と歩み寄る。

 

メイル・ラウズ(30代)。

 

無愛想で、常に人を“値踏み”するような眼。

 

メイル・ラウズ「君たち三人。今日の作業割り当ては確認したか?勝手な行動は困る。特に――エヴォル・ヴァレンティ君」

 

エヴォル「なんで俺だよ」

 

メイル「……自覚がないのか?」

 

ナルド「コイツにあるわけねぇだろ……」

 

ルカが苦笑して場を収める。

 

ルカ「ま、こんな船だよ。合法と非合法の境目走ってる“グレー輸送船”さ。気に入らなきゃ降りてもいいぜ?」

 

セドリック「降りたら死にます」

 

ルカ「それもそうだな!」

 

小さな笑いが起きる。

 

だが――その笑いの底には、確実に“沈殿したもの”があった。

 

食堂に、金属食器の触れ合う音が響く。

 

スープは薄い。

 

パンは硬い。

 

だが、三人にとっては「ちゃんとした食事」だった。

 

ナルド「……あのさ、ここ来てからさ……ちゃんと“昼”って時間あるの、地味にすげぇよな」

 

エヴォル「わかる。前は“腹減ったら食う”“起きたら戦う”だったし」

 

セドリック「規則正しい生活は、生存率を上げる。……皮肉だがな」

 

ナルドはスプーンを口に運びながら、周囲をちらりと見る。

 

クルーたちは、表面上は普段通り。

 

だが――視線だけが、やけに三人に集まっている。

 

ナルド「……やっぱ見られてねぇか?」

 

エヴォル「見られてるな。値踏みする目ってやつだ」

 

セドリック「気づかれた以上、隠す意味はない。問題は――“いつ”仕掛けてくるかだ」

 

エヴォル「まぁ、その時はその時だろ。先に殴った方が勝つ世界だ」

 

ナルド「お前、その発言もう完全に戦闘前提じゃん……」

 

最近、船内で感じる視線が、明らかに変わってきていた。

 

洗浄室の前。

 

通路の角。

 

ヒソヒソとした声。

 

クルーA「……あの背中の金具……阿頼耶識じゃねぇか?」

 

クルーB「あんなもん付けてる時点で普通じゃねぇ。……デブリだろ」

 

クルーC「三人まとめて“捌けば”、いくらで売れる?」

 

クルーD「デブリなんて一日の食費にもならねぇよ」

 

その瞬間。

 

通路の影から、鋭い視線が突き刺さった。

 

エヴォル「――聞こえてんぞ?」

 

空気が凍る。

 

クルーA「べ、別に敵意は……!」

 

エヴォル「なぁセド。“捌く”って、どういう意味だと思う?」

 

セドリック「……奴隷商か、デブリ供給業者だな」

 

ナルド「やっぱりヤベぇ船じゃんここ!!」

 

クルーたちは逃げるように散った。

 

エヴォルはナルドに肩を組んで笑う。

 

エヴォル「ま、売られる気はねぇから安心しな」

 

だがその笑みの裏側では、完全に警戒が張り付いていた。

 

整備区画。

 

セドリックは端末を見つめ、眉をひそめる。

 

機関ログ、燃料推移、外装補修履歴――数字は整っている。

 

整いすぎている。

 

セドリック(……おかしい)

 

そのとき、廊下の向こうから足音が走ってきた。

 

息が荒い。

 

ナルドが飛び込んでくる。

 

ナルド「セド……!やべぇ……マジでやべぇ……!」

 

セドリック「落ち着け。何を見た」

 

ナルド「格納庫……!奥の方、こっそり覗いたんだよ……!」

 

セドリックの目が細くなる。

 

セドリック「……誰かに見られたか?」

 

ナルド「見られてねぇ……と思う。たぶん……。でも、あそこ――普通じゃねぇ」

 

ナルドは唾を飲み込み、言葉を選ばずに吐き出す。

 

ナルド「MSがある。数が……多い。それだけじゃねぇ。武器箱が山みたいに積んであって、弾薬も。“輸送”って量じゃねぇんだよ」

 

セドリックは端末を閉じ、低い声で返す。

 

セドリック「……どのくらいだ」

 

ナルド「スパロディが五機。それと、解体途中っぽい旧型が何機か……。あとは部品の山で、一番奥――シートで隠してる“でかいフレーム”があった」

 

ナルドは拳を握りしめた。

 

ナルド「……あれ、ヤバい。雰囲気が違う」

 

セドリックは黙って考える。

 

この船の規模。

 

航路。

 

人員。

 

そして、襲撃された痕跡。

 

ナルドが続けた。

 

ナルド「なぁ……この船、襲われたんだろ?俺らが出会った時に、外装焦げてるのも、弾痕も見た。……なのにさ」

 

一拍。

 

ナルド「なんで、MSで応戦してねぇんだよ」

 

セドリックの目がさらに冷える。

 

セドリック「……記録上は、出撃履歴がない」

 

ナルド「だろ!?一機でも出せば被害は減る。あんなに“手札”あるなら、尚更だろ……!」

 

沈黙。

 

機械の低い唸りだけが遠くで鳴っている。

 

セドリックは、結論だけを口にした。

 

セドリック「出せなかったか、出したくなかったか……だ」

 

ナルド「……出したくなかった?」

 

セドリック「表に見せられない事情がある。“あそこにあるもの”を見られるのが都合が悪い」

 

ナルドの喉が鳴った。

 

ナルド「……MSも、武器も……“積荷”みたいな扱いだった」

 

セドリック「……この船は、輸送船じゃない。少なくとも“普通の”輸送船じゃない」

 

セドリックは端末をもう一度見た。

 

整いすぎた数字が、今は逆に不気味だった。

 

セドリック「……お前、よく戻ってきた。もう二度と単独で覗くな。次は“事故”で済まされる」

 

ナルド「わ、わかってる……!でも――」

 

セドリック「十分だ。これで“違和感”が、線になった」

 

ナルドは震える息を吐く。

 

ナルド「……やっぱり、俺たち……ここで“働いてるだけ”じゃねぇんだな」

 

セドリックは答えない。

 

否定できなかったからだ。

 

“襲撃”という出来事が、別の顔を見せ始める。

 

夜。

 

休憩区画の照明が落とされ、船内の足音が減る時間帯。

 

整備区画の奥。

 

人目につかない壁際で、セドリックとナルドは低く声を落としていた。

 

ナルド「……あそこ、絶対ヤバいよな」

 

セドリック「ああ。MSと武器を“隠す”配置だ。即応用じゃない。――売却か、受け渡し前提だ」

 

ナルド「……俺たちさ、知らないうちに“同じ棚”に並べられてねぇか?」

 

その言葉に、セドリックは即答しなかった。

 

否定できなかったからだ。

 

そのとき――

 

通路の奥から、靴音が一つ。

 

エヴォルが現れる。

 

腕を組み、壁にもたれたまま、二人を見る。

 

エヴォル「……話、聞こえたぜ?」

 

ナルド「……いつから」

 

エヴォル「今の“棚に並べられてる”ってとこから」

 

セドリック「……盗み聞きか?」

 

エヴォル「巡回中に声が漏れてただけだ。お前らが慎重なのは知ってる」

 

一拍置いてから、エヴォルは続ける。

 

エヴォル「で――奥の格納庫見たんだろ。“表に出せない方”を」

 

ナルド「……ああ」

 

セドリック「俺はログで確認した。配置も、管理の仕方も……あれは“使うため”じゃない」

 

エヴォルは、ふっと鼻で笑った。

 

エヴォル「だろうな」

 

ナルド「……お前も、何か気づいてたのか?」

 

エヴォル「気づいてたっつーか……違和感が“俺の方”にあった」

 

セドリック「……どういう意味だ?」

 

エヴォルは視線を外し、少しだけ考えてから言う。

 

エヴォル「マルファスの置き場だ」

 

ナルド「……来客用格納庫、だっけ」

 

エヴォル「そう。あそこだけ扱いが違う。整備頻度、清掃、警備……全部“見せる前提”だ」

 

セドリック「ギャラルホルン査察、あるいは――取引相手向け」

 

エヴォル「奥の格納庫とは真逆だ。隠す気がねぇ」

 

ナルド「……じゃあエヴォル」

 

ナルドの声が、わずかに震える。

 

ナルド「なんでこの船、前に襲われた時……あのMSたちで応戦しなかっただと思う?」

 

エヴォルは笑みを浮かべるが額には汗が流れていた。

 

エヴォル「出したくなかった。“見せたくなかった”」

 

エヴォル「だな」

 

エヴォル「出したら終わりなんだよ。あれは“積荷”であって、“戦力”じゃねぇ」

 

ナルド「……じゃあ、襲われたのも――」

 

セドリック「……被害を受け入れてでも、守りたかった“何か”がある」

 

エヴォル「MSだけじゃねぇな」

 

三人の視線が、自然と同じ方向を向く。

 

見えない貨物区画。

 

見えない檻。

 

エヴォル「この船は、“戦う船”じゃねぇ」

 

低く、確かな声。

 

エヴォル「“運ぶ船”だ。MSも、人も……全部まとめてな」

 

ナルド「……最悪じゃん」

 

セドリック「だが、確定じゃない。証拠が要る」

 

エヴォル「だな。だから――」

 

エヴォルは、わずかに口角を上げた。

 

エヴォル「しばらくは“大人しく働く”。その間に――俺は俺で、巡回ついでに“嫌な感じ”を集める」

 

ナルド「……集め方が怖ぇんだよ」

 

セドリック「だが、必要だ」

 

三人の間に、短い沈黙が落ちる。

 

もう一度、同じ結論に辿り着いた。

 

この船は――

 

安全な場所ではない。

 

だが同時に。

 

ここで真実を掴まなければ、次に“並べられる”のは自分たちだ。

 

エヴォル「……決まりだな」

 

ナルド「……ああ」

 

セドリック「慎重にいくぞ。 だが―― 逃げ道も、戦う準備も、両方だ」

 

三人は、無言で頷いた。

 

この時点ではまだ――

 

誰も気づいていない。

 

マルファスそのものが、すでに“売却リスト”に載せられていることを。

 

三人が休憩区画を出たところで、通路の照明が一段落ちた影に、ルカが立っていた。

 

壁にもたれ、腕を組み、“待っていた”というより**“通り道を塞いでいた”**と言う方が正しい。

 

ルカ「……なぁ、三人とも。今、時間いいか?」

 

セドリック「用件は?ルカさん」

 

フルネームでは呼ばない。

 

だが、声のトーンが一段低い。

 

ルカはそれに気づき、苦笑する。

 

ルカ「勘のいい顔になったじゃんか。……まぁいい」

 

一拍、間を置いてから、声を落とす。

 

ルカ「この船、長く居る場所じゃねぇぞ」

 

ナルド「……ですよね」

 

即答だった。

 

ルカの眉が、わずかに動く。

 

ルカ「俺は“運ぶ側”だ。だがな――」

 

視線を逸らす。

 

ルカ「運ぶ“モノ”が何かは、時々……変わる」

 

エヴォル「……人も含む?」

 

一瞬の沈黙。

 

エンジン音だけが、低く響く。

 

ルカ「……含むこともある」

 

それで十分だった。

 

セドリック「忠告、感謝します。ですが、今すぐ逃げる選択肢はありません」

 

ルカ「だろうな」

 

ため息にも似た息を吐き、続ける。

 

ルカ「……だから言っとく。もし“動く”なら――奥じゃねぇ。格納庫側だ」

 

エヴォル「来客用の?」

 

ルカ「そうだ。あそこだけは、俺が“多少”手を回せる」

 

ナルド「……多少?」

 

ルカ「完璧じゃねぇって意味だ」

 

エヴォルは、口の端を少しだけ上げた。

 

エヴォル「命の恩人候補、ってことでいい?」

 

ルカ「借りを作るな。返せなくなる」

 

そう言い残し、ルカは足音を消して通路の奥へ消えた。

 

三人は、しばらく無言だった。

 

セドリック「……動く時期が、近い」

 

ナルド「……向こうも、気づいてるよな」

 

エヴォル「ああ。だから――先に来る」

 

―― 一週間後

 

三人は、意図的に別々に動いていた。

 

セドリックは整備区画。

 

ログと部品、そして“数”を追う。

 

ナルドは積荷周辺。

 

人の流れと、視線の動きを読む。

 

エヴォルは巡回。

 

ただ“感じる”ために。

 

そして――

 

相手は、その隙を逃さなかった。

 

襲撃

 

通路の角を曲がった瞬間。

 

ナルド「……っ――」

 

後頭部に、鈍い衝撃。

 

視界が反転し、床が迫る。

 

音が、遠ざかる。

 

同時刻。

 

整備区画。

 

セドリックは端末を閉じた瞬間、背後から布を被せられた。

 

セドリック「……っ、しまっ――」

 

電撃。

 

思考が、強制的に遮断される。

 

エヴォルは、最後まで抵抗した。

 

エヴォル「……あぁ?今さら“数”で来るのかよ……!」

 

だが――

 

通路の天井から、白い霧。

 

麻酔ガス。

 

肺が拒絶するより早く、脚が崩れた。

 

エヴォル「……チッ……」

 

暗転。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

冷たい感触。

 

金属の床。

 

エヴォルが、最初に目を開いた。

 

エヴォル「……ここは……」

 

視界が、ゆっくり焦点を結ぶ。

 

狭い貨物区画。

 

簡易拘束具。

 

低い天井。

 

――檻だ。

 

そして。

 

同じ空間に、十代の男女が七人。

 

年齢は十三から十八。

 

痩せた体。

 

怯えた目。

 

背中には、見慣れた金具をつけている者もいる。

 

阿頼耶識。

 

少女「……起きた……?」

 

少年「……また、追加……?」

 

その声で、すべてが繋がった。

 

ほどなくして、セドリックとナルドも目を覚ます。

 

ナルド「……ってぇ……ッ!!ここ……人が……!」

 

セドリックは、一瞬で理解した。

 

セドリック「……ここが“積荷”か」

 

少女「……売られるんだよ。私たち」

 

エヴォルは、ゆっくりと立ち上がった。

 

拘束具が、きしむ。

 

怒鳴らない。

 

暴れない。

 

ただ、低く言う。

 

エヴォル「……なるほどな」

 

セドリック「この船は――」

 

ナルド「MSも、人も……」

 

エヴォル「“商品”だ」

 

その瞬間。

 

三人の中で、違和感はすべて“答え”に変わった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

同時刻、ブリッジ奥の個室。

 

ロブ・コッペルは端末を叩きながら、落ち着かない様子だった。

 

ロブ「……遅いな。そろそろ来るはずなんだが」

 

メイル「連絡は?」

 

ロブ「既読はついている。だが、座標への反応がない」

 

アルゴ「嫌な予感がするな」

 

メイル「……黒いMSは?」

 

ロブ「“来客用格納庫”にそのままだ。手は付けてない」

 

メイル「賢明です。あれは値が違う。今回の取引とは別枠だ」

 

ロブ「……デブリ三人は?」

 

メイル「拘束済み。抵抗される心配はありません」

 

その言葉には、もう脅威ではないという慢心が、はっきりと含まれていた。

 

静かな格納庫。

 

黒いフレームは無言のまま佇んでいる。

 

整備用ライトに照らされ、その装甲は異様なほど“美しく”見えた。

 

整備員A「……これ、本当に売らねぇのか?」

 

整備員B「船長命令だ。金払いのいい客相手に“見せ札”として使うらしい」

 

整備員A「じゃあ、あのガキは?」

 

整備員B「替えはいくらでもいる」

 

その会話を、マルファスは聞かない。

 

ただ、何かを待つように沈黙していた。

 

時間が過ぎる。

 

約束の時刻を、すでに二時間過ぎていた。

 

ロブ「……おかしい。こんな遅れ方はしない」

 

メイル「通信、再送します」

 

数秒。――応答なし。

 

アルゴ「……なぁ。“取引相手の船”、本当に生きてるのか?」

 

その瞬間。

 

レーダーが新しい反応を捉えた。

 

航海士「船影確認!大型艦……識別コード――」

 

一拍。

 

航海士「ギャラルホルンです!」

 

ブリッジの空気が、一気に凍りついた。

 

通信が入る。

 

冷静で、事務的な声。

 

ギャラルホルン通信《貨物船〈ウィロウ〉。貴船が予定していた取引相手は、すでに身柄を確保した》

 

ロブ「……な……」

 

通信《“匿名の通報”を受け、当方は当該船舶を追跡。拘束後の取り調べにより――》

 

一拍。

 

通信《貴船との違法取引を自白した》

 

沈黙。

 

ブリッジの空気が、じわじわと冷えていく。

 

通信《現在、貴船には多数の違法積荷、および非合法MSの存在が確認されている》

 

メイル「……っ」

 

通信《よって、貴船に対し投降を勧告する。武装を解除し、停船せよ》

 

数秒。

 

誰も、すぐには動けなかった。

 

ロブは歯を強く噛み締め、低く呻くように言う。

 

ロブ「……撃て」

 

メイル「船長――!」

 

ロブ「撃て!!」

 

次の瞬間。

 

主砲が、ギャラルホルン艦へ向けて火を吹いた。

 

通信が、もう一度入る。

 

先ほどと同じ声。

 

だが――

 

そこにあったのは、もはや事務的な冷静さではなかった。

 

通信《……残念だ》

 

それだけを残し、通信は切断された。

 

次の瞬間。

 

ギャラルホルン艦のハッチが開く。

 

暗い青と緑の機影。

 

一機。

 

二機。

 

三機。

 

ゲイレールだ。

 

航海士「MS……三機……ゲイレールです!!」

 

ブリッジは、完全に戦場の空気へと塗り替えられた。

 

そのころ――

 

貨物区画、檻の中。

 

静寂を切り裂くように、船体全体が大きく震えた。

 

――ドン……ッ!!

 

鈍い衝撃。

 

床を伝う振動。

 

天井の配管が、悲鳴のように軋む。

 

檻の中にいた全員が、一斉に身を強張らせた。

 

少女「……な、なに……?」

 

少年「……今の……砲撃……?」

 

また一発。

 

――ドォン……!!

 

今度ははっきりと、「外で何かが起きている」ことがわかる揺れだった。

 

ナルド「……っ!?な、なんだよ……!戦闘か!?」

 

セドリックはわずかに目を閉じ、耳を澄ます。

 

セドリック「……主砲クラスの衝撃だ。この船が、撃った……か、撃たれた……」

 

檻の中に、不安が広がる。

 

売られる予定だった十代の男女が、互いに身を寄せ合い、息を殺す。

 

少女「……ねぇ……私たち……どうなるの……?」

 

誰も答えられない。

 

――ひとりを除いて。

 

エヴォルは、ゆっくりと息を吐いた。

 

エヴォル「……来たな」

 

その声は、妙に落ち着いていた。

 

ナルド「……なにがだよ……!」

 

エヴォルは、檻の向こう――鋼鉄の隔壁の、そのさらに先を見据える。

 

まるで、見えない何かを“知っている”ように。

 

エヴォル「まだ分かってねぇ顔だな」

 

セドリック「……エヴォル。お前、何を知ってる?」

 

エヴォルは、ゆっくりと振り返った。

 

檻の中の全員を、一度見渡す。

 

怯えた目。

 

理解できない顔。

 

それでも――

 

「生きたい」と書かれた視線。

 

エヴォル「いいか」

 

低い声。

 

だが、はっきりと通る声。

 

エヴォル「今のは――“終わりの音”じゃねぇ」

 

一拍。

 

エヴォル「――合図だ」

 

ナルド「……合図……?」

 

エヴォル「反撃開始の、な」

 

ざわり、と空気が揺れる。

 

誰もまだ、何が起きているのか理解できていない。

 

だが――

 

エヴォルだけは確信していた。

 

エヴォル「安心しろ。もう“売られる側”じゃねぇ」

 

檻の中で、黒い笑みが、静かに浮かんだ。

 

エヴォル「――ここからは、“取り返す側”だ」

 

再び、船体を揺らす衝撃。

 

――ドン……!!

 

その音を合図に。

 

貨物船〈ウィロウ〉の中で何かが静かに、

 

しかし確実に――

 

反転した。




ギャラルホルンがついに登場!この時代のギャラルホルンは本編よりも腐敗はしておらずそれなりに練度も高いです。まぁあくまで本編よりは腐ってないってだけですが。
それでは次回もお楽しみに~
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。