ハイスクールO×O ~目指せ!おっぱいドラゴン!~ 作:貴司崎
日本の都市部より少し離れた郊外の山林地帯、そんな人気のない場所の滅多に車も通らないギリギリ車が通れるぐらいの道路を一台の初心者マーク付きワンボックスカーが進んでいた。
「………………うん、この辺やね。青蘭ちゃん車止めて」
「はいはい。……思ったよりも郊外に来ましたね」
その車の助手席にはO×O幹部の1人『安倍輝夜』が座っており、彼女の指示に従って運転席の『櫛橋青蘭』は大学生になって最近免許を取ったばかりとは思えない慣れた動きでブレーキを掛けた。
……転生者と言っても長く生きるにつれて“今世の記憶達して覚え直したもの”以外の前世の記憶は忘れていってしまうのだが、この様な車の運転など慣れ親しんだ動きや経験は意外と長く身についたままと言う事も多かったりする。
「運転方法を意外と身体が覚えているのは良いんですが、それはそれとして免許一年目でこんな山道をワンボックスカーで走るのは神経使うんですけど」
「でもウチは呪詛返しせなあかんしなぁ。ながら運転は危ないやろ?」
「俺と高虎はまだ免許取れる年齢じゃないしな」
「僕らじゃ無免許運転になりますから青蘭さんが運転するのは仕方ありません」
長時間の運転で少し疲れた様子の青蘭に対して輝夜は手元のお札を見せながら交通ルールを説き、様々な機材が設置さえた後ろの客室に座っていた『童門弘毅』と『真羅高虎』は自分らはまだ未成年なんで運転は無理と宣う。
……元五大宗家組を含めた日本の高名な異能者家系の面々がこんな所にいるのは『違法マジックアイテム事件』の調査の為であり、先日駒王町に出現した狗神の残骸を利用した逆探知で製作者の位置を割り出すので日本式の術に長けた彼等が選ばれた訳である。
「さてと、呪詛返しの感覚やとこの道の先に狗神の製作者がいるっぽいな。大体500メートルぐらい先か」
「それならばこの車型機甲式神『飛車丸五型』の出番ですね! それでは飛車丸、偵察ドローン射出! ステルスモード!」
『了解シマシタ』
後席に座っていた高虎がそう言いながら手元の機材を操作するとカーナビから電子音声が聞こえ、それと同時に車のボンネットの一部分が開その中から十基のドローンが射出されて輝夜が指差した方角へと飛翔していった。
この車『飛車丸五型』はO×O技術班が異能科学技術を用いて開発したワンボックスカーを素体とする式神の最新モデルであり、見た目は単なる車だが中身には科学・異能問わない多種多様な機能が内蔵されているのだ。
「この『飛車丸五型』は車型式神の最新モデル、これまでの機能に加えて新型AIによるサポートによって誰でもその全機能を使用可能! 更に最新型偵察ドローンとの連動によって索敵機能も大幅に強化しているのですよ! これで人形ロボットへの変形機能が有れば完璧だったんですがそこは今後の課題ですね」
「これらの車式神は長距離移動と後方支援用の装備なんだからトラ◯スフォーマーみたいな変形機能はいらんだろ。それよりも飛行術式を組み込んで移動範囲の拡大とか証拠隠滅用の自爆術式を組み込むべきでは?」
「自爆は引かれるものがありますがやっぱり人形変形機能は欲しいですよ。後はドローンを脳はコントロールして誘導兵器にするべきです」
「ドローン機能の強化は良いんだが人形変形機能はいらん。……自爆特攻ドローンの追加は検討するか」
ロボットオタクの高虎と術式の実用性と爆発に拘りがある弘毅は各々“ロマン”に対する方向性には違いがあるのだが、ある程度お互いを尊重しているのでこうして意見を交換したりもしている。
……まあ、どっちもロマンを優先し過ぎるので変な方向に行く事が多々あるのが何故か3人セット扱いされてる青蘭の悩みだったりするのだが、それはそれとして能力はあるのでドローンを操作しての偵察は完璧である。
「任務中に自爆しないなら好きにしなさい。それでターゲットは見つかった?」
「ちょっと待って下さいねー。……見つけました。モニターに映します」
そう言った高虎が手元のキーボードを操作するとカーナビの画面に『森の中にある空き家』の映像が映し出された。その家はそれなりに大きいものの一見人が住んでいる様には見えないぐらいにボロい廃墟だったが、その場にいる者達の目は誤魔化されなかった。
「あー見た目は廃墟に見えるけど中身は別物やね。そういう風に見える認識改竄の結界を貼っとる」
「術師の拠点としてはよくあるやつですね。周りの雑草に最近人が踏んだ後がありますし」
「サーモグラフィーとソナーで探知したら中に人がいる反応がありますねー。探知術式は妨害されてますけど科学的な探知の対策は完全ではない様で」
「それと電線や水道も使われてる形跡があるから空き家じゃないのは間違いないだろ。まあこんな山奥の拠点なら誰も来ないし最低限の結界で済ませるのはおかしくないが」
彼等は普通にその空き家が“空き家に偽装された術師の拠点”であると看破し、これ以上車で近付くのは幾ら飛車丸三型にステルス機能が備わっていても気付かれる(後は道幅的に運転が面倒と青蘭が文句を言った)ので車を降りて近付く事にした。
その拠点には周囲に拠点に近づく者を知らせる侵入者探知術式も敷かれていたが、ドローンの接近にも気付けないレベルの代物だったので特に“隠す”事に長けた日本式の術者の中でも上位の彼等の隠行を持ってすれば探知を掻い潜って接近する程度は問題なかった。
「……さて、直接近くで見れば偽装されてるのは丸わかりですが此処からどうします? 殴り込みますか?」
「一応術者の拠点なんだから防衛機能があるでしょ。この手の“工房”の中では主人の能力は大きく強化されるでしょうし。……まあ輝夜さんがいれば正面突破でも問題ないかもしれないけど」
「日本式の術者が必要だと言われたが俺ら3人合わせても術者としては輝夜氏の足元にも及ばんしな」
「まあそんなに自分を卑下する事はないて弘毅くん、君らも十分に優秀な術者やしこういう状況では数がいる方が色々やりやすいしなぁ。……ま、正面突破はリスクもあるし、せっかくやから怨みを晴らさせてあげようやないか」
輝夜が徐に取り出したのはお札に包まれた何か……駒王町で回収した狗神の素材に使われた犬の死体の頭部であり、封印されたそれは先程までは呪詛返しによる逆探知の為の触媒として使われていた物だ。
だが、彼女はそれだけで終わらせるつもりはない様で封印のお札を外すと同時に手印を結んで術を行使、直後犬の首から悍ましい怨念が溢れ出して駒王町で暴れた時よりも遥かに強力な気配を感じさせる禍々しい狗神へと変化した。
『GUUUUU……!!!』
「まあ素材の出来にしてはそこそこの式になったか。……さて、この先におるのが貴方を殺したヤツやからな。存分に恨みつらみを晴らしてきいや」
『GRUAAaAAAaA!!!』
その輝夜の言葉がきっかけとなった様に狗神は憎悪と怨讐の叫び声を上げながら空き家に向けて吶喊し、正門を粉砕して拠点防御用の術式を
……彼女は機能を停止した筈の狗神の術式を強化した上で修繕し、素材となった犬が狗神の制作者に最も怨念を向ける事を利用して呪詛返しの術式として再構築してみせたのだ。
「元は此処の決壊の持ち主ぐらい作ったもんやから“同じ人物の術式”って括りで防御術式にスルーされる様に作ったのは上手くいったな。後はあの狗神に表で派手に暴れさせて目眩しにして潜入すれば良いわな……どしたん?」
「思ったよりえげつない呪詛返しの術式でちょっと引いてます」
「蠱術には呪詛返しされやすいデメリットぐらいあるのは知ってますけど」
「術式のレベルが高過ぎてヤバい(小並感)」
簡単にやってのけた様に見えるが彼女が何をしたのか理解出来るだけの能力がある他の3人からすれば、改めて転生者内で最高の術師と称される“伝説の大陰陽師の孫娘”である輝夜の実力を理解させられられる程の芸当であったのだが。
「ま、人を呪わば穴二つってヤツやね。“呪い”ってのはちゃんとソレがどういうモノなのか理解せんといかんってこっちゃな。さて内部の潜入はウチがやるから青蘭ちゃん達は外の警戒を頼むわ」
「中の者が逃げ出すのを防ぐ為ですか?」
「それに加えて外から来るかもしれん“ヤツら”への警戒やね。杞憂ならええんやけど一般人が近寄らん様にする工作ついでに頼むわー。……術式“
そう3人に言いつつごく自然な雰囲気のまま狗神が暴れ回っている廃墟へと歩いていった輝夜は、軽い感じで手印を結ぶと同時に彼等の目の前で気配する残さずにその姿を消してみせた。
これは陰陽術・妖術・仙術を極めた彼女が創り出したオリジナルの術法によるモノで、仙術による自らの気を自然に溶け込ませる気配操作、妖術による自らの姿形を消す幻術、陰陽術による探知術式を擦り抜ける隠行法を組み合わせた隠密行動用の複合術式になる。
「……陰陽術と妖術と仙術の複合技をああも自然に使いこなせるのか。やっぱり俺らいらねくね?」
「五大宗家って実は大した事ないのでは?」
「O×Oにいると錯覚しそうになるけどそんな事はないからね。……それに『星読み』である彼女がああ言ったんだから何が来ても良い様に警戒しておくべきでしょ。高虎がドローンで周囲の警戒、弘毅は広域探査の術式を使いなさい。私もイズチを出すわ」
「了解、大気中の水分を触媒にした新術式を使おう」
「周囲にドローンと手持ちのロボットを仕込んでおきます」
それを見た元五大宗家の3人がちょっと自信を失いそうになるが、彼女の術がどれだけ凄まじいのかを理解出来るだけ彼等は人間基準だと非常に良い優秀な術者であり、人間の組織ってしては最高峰の五大宗家でも一線級の戦力を張れるだけの実力者ではあるのだ。
まあO×O幹部の出鱈目さは今に始まった事ではないので3人へ即座に気を切り替えて、それぞれが自らの得意分野でもって敵拠点周囲に内側と外側の両方の侵入者に対処できる様な陣容を敷いて行くのだった。
──────◇◇◇──────
「……ふぅん、表から見たよりも広い作りになっとるなこの家。簡易的な空間制御に加えて幻術で表に分からん範囲で増築しとるか。なんか地下室も作られとるみたいやし。……狗神の反応から製作者は地下か」
一方その頃、敵拠点に侵入した輝夜は堂々と家の中を歩きながらも術の効果で誰にも気付かれないまま内部の様子を散策、同時に面倒そうな仕掛けがあれば片手間で解除し、敵の情報になりそうな物があれば記憶しながら歩みを進めていた。
室内は超強化された狗神が暴れ回ったのか至る所が破壊されていたが、備え付けられていたマジックアイテムなどからこの拠点の術者は“そこそこ”程度には腕があると判断してさっさと確保するべく彼女は足早に地下へと歩みを進めた。
「出来れば日帰りで駒王町に帰りたいしなぁ。思ったよりも離れとったから車でも時間かかったしなぁ。……さて地下に着いたけどどうなっとるかなーっと」
「………………クソッ!? なんだこの犬畜生は! 何故防衛用のトラップが発動しない!?」
『GAAAAaaAAAaAAaa!!!』
そうして空間が拡張されている地下室らしき場所に来た輝夜ぐらい見たモノは多分この家の主人である術者の男と、憎悪と怨讐の叫び声を上げながら男に襲い掛かる狗神の姿であった。
その部屋をよく見ると呪術系の素材と思われる動物や昆虫の死体や呪いが篭っているマジックアイテムなどが転がっているので、恐らく男の研究室か何かだったのだろうと判断した彼女は姿を隠しながら室内へと侵入する。
「呪術系の研究がメインって所かな。でも随分と雑な呪術やね。O×Oに所属しとったら呪術の基礎から教え直すレベルや」
「コイツまさか俺が作って売り捌いた狗神なのか!? ……畜生風情が制作者に逆らうNAAAAaaa!!!」
「……ふーん?」
輝夜は姿を消しているので自らの研究が酷評されている事にも気付いていない男だったが、狗神の素材については気が付いた様で奇声を上げながら激昂して自らに喰らいつく狗神を“肥大化した異形の腕”で殴り飛ばした。
それを見た輝夜は目を細めるがそうしている間にも男の全身はドンドン変化していき、最終的には蛇の様な目を持った狼の様な頭部を持ち全身はウロコの様な鎧を纏っている様にも見える毛むくじゃらの狼人間と言えなくもない
『ハはhaHAハはハハ! カノ偉大ナル“這い寄る混沌”様ニツカエル使徒タルコノ私ニ逆ラウトハ「あー、やっぱ『教団』が関わっとったか。嫌な予感はしとったけどなぁ」誰ダ!』
狗神を倒して興奮する異形の男を見ていた輝夜はその特徴的な姿と気の流れから『教団』謹製の改造人間だと判断、情報を得る為に敢えて隠密術式を解いて自らの姿を見える様にした。
すると異形の男の視点ではいきなり自分の部屋に見知らぬ女が現れた様になり、すぐに先程倒した狗神を嗾けたのは目の前の女であると判断して警戒の体勢を取った。
『貴様ガコノ呪詛返シノ術者カ。私ノ家ニイツノマニ侵入シタ? ナンノ様ダ?』
「マジックアイテムを通信販売で表の人間に売るアホをしばきに来ただけやけど? まさか此処までやらかしといて返されんとでも思っとったんか? しかも『教団』とまで繋がりがあったなら見逃せへんなぁ」
『ハッ、愚カ者ガコノ端金デ私ノ最上級ノ呪術ヲ扱エタノダ。ムシロ感謝シテホシイグライダゾ? 偉大ナル混沌ノ使徒タル私ノナ』
「いや、お前は単なる『教団』の下っ端信奉者やろ? その実力なら幹部の『
本物の『教団』幹部軍団との交戦経験もある輝夜にとっては目の前の男は改造されただけの下っ端である事は容易く見抜けたが、その言葉を聞いた男は琴線にでも触れたのか異形の肉体を更に隆起する様に変形させながら怒りの形相になっていた。
『……三流ダト? 貴様モアノ家ノ連中ノ様ニ私ヲ愚弄スルノカァ!!! ナラバ見セテヤロウ! 偉大ナル混沌ノ使徒トナッタ我ガ呪術ヲナァ!!!』
「ん? ……これは『邪視』の類いか。拘束と石化と生命力を削る汚染型呪詛ってとこやね。呪いを持った魔物でも混ぜられたか」
そして男の蛇の様な目が怪しげな輝きを放つと共に『
『ソノ通リ! コノ『バジリスク』ノ邪眼ニ私ノ呪術ヲ融合サセタ邪視ハ見タ者ヲ石化サセテソノ命ヲ奪イ取ル! 貴様ハ呪詛ヲレジストシテイル様ダガソレニ集中シテ動ケマイ! 更ニィ!!!』
そんな事を宣いながら異形の男が方向を上げると研究室に並べられていた呪術の素材の獣や蟲の死骸が一誠に動きだし、おどろおどろしい怨念を纏いながら呪われた肉体を形成した蠱毒や狗神などに変容した。
これは男が拠点に設けた最終防衛装置であり強化された呪術により呪いの獣や蟲を大量生成、同時に自らに組み込まれた伝説の魔獣『ガルム』の力で格の低い獣と蟲を支配下に於いて通常では不可能な程の蠱毒系呪術を多数同時運用する術である。
『ハハハハハ!!! ドウダコレガ私ノ呪術! 蠱毒ノ難点デアル制御ノ難シサヲ『ガルム』ノ力デ克服スル事ニヨッテコレダケ多数ノ戦力ヲ完全ニ支配下ニオケル! 更ニ売ッパラッタ狗神モドキト違イ私ガ直接操ル以上ハ一体一体ガ中級ノ妖怪ニモ迫ル力! コレデモ私ガ三流ダトホザクカ!!!』
「呪術の練度の問題やなくて“呪術の基礎”が分かっとらんから“三流”言うとるんやけどなぁ。拠点に敷いとる術式と呪術耐性を引き上げる様に改造された肉体に同調させる形で蠱毒の呪いを増幅しとるんやろうけど、この術式大分危ないし無駄が多いから使うのはオススメせえへんよ?」
『ッ! 殺セェ!!!』
多数の呪いの獣蟲を従えながら自信満々に己の術式の素晴らしさを宣伝する異形の男に対し、輝夜は特に動揺する事なくむしろ呆れた目を向けながら忠告までする。
それを受けた男は自身に対する侮辱と捉えて激昂しながら呪いの獣達に目の前の女を喰らい尽くせと指示を出し、禍々しい呪いを纏った獣と蟲達はまるでタガが外れた様に一斉に獲物へ飛び掛かった……指示を出した異形の男の元へと。
『『『『『『GUAaaAaUuuOOooo!!!!』』』』』』
『ナッ!? 襲ウノハ彼方ダゾ!!! 何ヲシテイグギャァ!!?』
「蠱毒やら狗神やらは呪いの元となる獣や蟲を苦しめて殺す必要があるから、その恨みは自分達を殺した呪術師に向かいやすいって事ぐらい低い知っとるやろ? だから呪詛返しとかもされやすいんや。……しかも、この獣達は呪いを強める為なんか必要以上に苦しめてから殺し取ったみたいやからなぁ。その分あんさんに向ける恨み辛みも深いから、拠点に仕込んどった支配権を補強する術式を少し弄ってやればご覧の通り」
凄まじい怨念を撒き散らしながら異形の男に群がる獣や蟲達を見ながら、当然の如く邪視による呪いなど効いていなかった輝夜は普段から自らに掛けていた変化の術を解除、髪色は白髪に目の色は赤目へと変わり頭部に狐耳を生やして9本の狐尾を有する彼女本来の姿へと戻っていた。
彼女こそ宇迦之御魂神の神使たる『葛の葉』の血を引き千年以上の時を生きてきた半人半狐、大陰陽師の直弟子にして孫娘である全転生者の中で最高位の術者たる大妖狐であり、その格はたかが魔獣を組み込まれた改造人間とは比べるべくもない。
『ソノ尾ハ……マサカ九尾ノ妖狐……!?』
「呪いの制御を改造された自分を“獣蟲の長”に見立てて蠱毒や狗神を配下と定義して運用するアイデアは悪くはないんやけど、それならこの場で最も格が高い“獣”であり自分達の恨みを晴らさせてくれるウチを長に選ぶのは当然やろ。まあアンタの事を三流言うたんは技術やなくてもっと基本的な所やけど」
多数の獣や蟲に貪り食われる男はどうにか強化された肉体で抵抗しようとするも獣達は本質的には呪いなので物理攻撃の効果は薄く、呪いを祓おうにも自分自身が作った物を返されているので祓いの術が上手く機能せず恨みが多分に篭った呪詛を喰らって苦しむことなった。
得意の呪術も自分が作った呪いには全く効果がなく、自分自身の呪いであるが故に改造強化によって得た呪いへの耐性すら貫通されてしまう……呪詛返しの最も恐ろしい部分は自分の呪いを返される故に一般的な呪い対策である“他人から呪われた時の備え”が何一つ効果がない事なのだ。
「呪いを完全に支配下に置くって言うとるけど、そもそも“呪い”やら“恨み”やら“怨念”やらは人間はおろか例え神仏でも思う通りにならないもんや。自らの怨念を御しきれずに破滅する事があるんは人も神も変わらんし、それが他者のモノであれば尚更完璧に扱うなんて無理や。だからこそ呪術師はそれを念頭に置いた上で呪術を扱わんと痛い目を見るわけやな。……って、もう聞いとらんか」
この場に用意された蠱毒の群れは並の上級悪魔クラスであれば蹂躙できる程の戦力であり、それ故に改造強化されていようとも本人が研究重視の呪術師故に単騎の戦闘能力は並の上級悪魔程度だった男に対処する事は不可能であった。
必然として男は怨讐に身をこがす獣や蟲達に様々な呪詛を浴びせられながら全身を貪り食われ、止めに輝夜の手によって超強化された狗神によってその喉笛を食いちぎられ苦悶の表情のまま息絶えたのだった。
「捕獲したい所やったけど『教団』の改造人間は捕獲対策もされとる場合があるしな、特撮怪人よろしく自爆機能とか積んどった事もあったし。……コイツは死んだら溶けるタイプみたいやけどな。このせいで連中の『奉仕種族』とかは情報を入手するんは面倒なんよな」
息絶えた男は異形の技術で肉体を改造した代償なのかまるで泥や泡のように肉体を溶かされてしまったが、それも見慣れている彼女にとっては驚くに値せず直ぐに蠱毒や狗神に対する“祓い”の術式を用意する。
これだけの呪術を放置して冷コンを現世に縛り続ければいずれ強力な悪霊に変ずる可能性もあり、何より素材とされた“彼等”が苦しみ続ける事にもなるので輝夜は呪詛返しを行うと共に怨念を残さずに成仏させる術式も用意していたのだ。
「復讐出来て恨み辛みは晴らさせたしな。怨念も大分薄まっとるから無理矢理祓わんでも穏便に成仏させる術式でオッケーやね。……それじゃあ来世まで安らかに眠ってな」
そう言った輝夜が拍手と共に呪文を唱えるとその身から清浄な気が溢れ出して研究室一帯を覆って蠱毒や狗神が有していた怨念を穏やかに相殺、現世にしがみ付く執着心の元となった恨み辛みが薄れた彼等の霊魂は暖かな導きに従ってこの世から離れていったのだった。
「これで後始末は終わりやね。……もしもし青蘭ちゃん、聞こえとる? こっちは家の主を撃破したで。まあアレは自滅みたいなもんやけど、それよりもこれから調査に移るわ」
『そうですか、流石に早いですね。私達も調査に加わりますか?』
「いや、ここの主はどうも『教団』の信奉者みたいで本人も改造されとったわ。だから万が一に備えて外の警戒を強めといて欲しいんよ。ついでに本部の藤十郎にも報告しといて。調査はこっちでやっとくわ』
『『教団』が? 違法マジックアイテム事件は思ったよりも根が深いみたいですね。分かりました、本部のリーダーへの報告と掲示板への緊急スレ立てはこちらで』
「よろしくなー」
外に待機している3人への連絡を終えた輝夜は『教団』が関わっている以上は何が仕込まれているか分からないので警戒を強めつつ、研究室だっただけあってその場には色々と機材が多かったので念入りな調査を行う為に“人手”を増やす事にした。
「多くはよく見る呪術の素材や法具やけど『教団』絡みとなるとなぁ。ウチだけやと手間が掛かるからしゃーないから手数を増やそか。……術式“
室内を見渡して思った以上に呪物が多いと見た彼女は徐に手印を結ぶと9本の尾が僅かに光り始め、その内の8本の尾が分離して人の形……彼女はそのまま2頭身のSD体型にした様な8人の狐っ子に変化したのだ。
この『術式“分身”』は妖狐の象徴である尾を触媒に自らの分身を創り出す術であり、今回は省エネ目的でデフォルメされた分身を造ったが出力や身体能力は落ちるとは言え本体と同等の思考能力や術の技術を保持している。
「とりあえず呪物やら法具を片端から調べるえ。ぱっと見は大体使い方が分かる程度のもんやけど『教団』が関わっとる以上は慎重にやる」
「えー」「めんどー」「その似非関西弁辞めたら?」「連中が関わってるとな」「その辺か不定形生物が出て来るかも」「情報汚染とかのケースもあるし」「あーヤダヤダ」「永遠の20歳とか自分で言ってて恥ずかしくないの?」
「……無駄話してないでさっさと行き」
『はーい』
尚、分身達は独自の思考能力を有するのが理由なのかそれぞれ独自の人格を保有しており、主導権は輝夜本人にあって基本的に言う事は聞くのだがデフォルメ状態だと若干人格が幼くなる事もあって割と好き勝手な事を言ったりもする。
それでも各々の技術や思考に支障はないので分身達は手際良く室内の法具を解析、或いは部屋自体に何か隠されていないかなどを調べる感知術式を行使して三流呪術師の男が残した研究成果を丸裸にしていく。
「呪物を見る限り動物や昆虫を素材とした呪術を専門としてたみたいだねー。性能は大した事ない割に制御が甘いけど」
「隠し部屋発見! こう言う場所には大体研究資料や重要な素材を入れとくんだよね。はいビンゴ」
「資料によると生贄系の呪術をより強力かつ制御出来る様に改造してたみたいやね」
「ほんで自分が改造人間になってからは教団からの技術提供を受けて信奉者になったと」
「連中からすれば試しに改造した被験者がどの程度やれるか試してる程度のモノだったんだろうけどね」
「マジックアイテム売買でどれだけ利益を得るかの実験も兼ねてって所やろ」
「おやこれは日記かな。どうも自分の研究を実家に否定されてそれで『教団』の甘言に乗ったと」
「今時動物の生贄が前提の禁術をメインでやっとったらそりゃあ何か言われるやろ。今の倫理観やと嫌悪されるのも生贄のデメリットやからなぁ」
「昔ならともかく今の文明レベルで生贄なんてしたら普通は周りから総スカンでしょうに」
調査の結果、男はとある異能者家系に生まれて呪術を学んでいたがある時から生贄や蠱毒などの術式に傾倒し出し、それを実家の人間に非難されて自らの研究の素晴らしさを理解しない周囲への恨みから出奔、はぐれ術師をやっていた所で『教団』が接触して信奉者になった背景の様だ。
……何らかの理由で真っ当に生きられず道を外れた逸れものに接触し、その者の願いを叶えてやるとか力を与えるなどと嘯いて改造して自分達の信奉者に変える事は『教団』の常套手段であると輝夜はよく知っていたので大体予想通りの背景であると言える。
「あ、パソコンめっけ。例のプログラムの情報が何か残ってるかも」
「データ吸い出し用の機材は貰って来たしそれ使おか。ウチは科学系にはそこまで強くないし、データと実物を持って帰って専門家に任せよ」
「呪物や法具の方も証拠として押収した方がええか。ただ思ったより数多いし運び切れるか?」
「亜空間に物品を収納する術とかもあるけど、この家の後始末含めて追加の人員を寄越して貰った方がええか……ん?」
それ以降も輝夜は引き続き調査を続けていたが突然家の結界と周囲の空間に違和感を感じ、その直後に空間が変質して家の内部と外側が結界で切り離された事を解説した分身を含めた彼女は即座に全力の警戒態勢を取った。
この家のシステムは自分がほぼ掌握していたにも関わらず家の結界装置に干渉、即座に時空間操作系の結界術を起動するなぞ並大抵の相手に出来る芸当ではない以上は感じ続けていた“嫌な予感”が最悪の形で当たっただろうと彼女は判断した。
「嫌な予感はしとったけど此処で仕掛けて来るか。この結界の気色悪い雰囲気は『教団』の幹部クラス……チッ、『
此処に来ても常に余裕を崩さなかった輝夜が初めて顔を歪めて神器『先見の水晶球』を呼び出した。これは手のひらサイズの水晶球に未来の情景を映し出す神器だが通常は未来を見るまでに時間が掛かり、見える未来の精度・範囲・確度は本人の能力に比例するので情報源としては使い難い代物である。
ただし『星読み』と呼ばれる程の占星術師である彼女が使えば一日程度先の未来であれば即座、かつ起こり得る可能性が非常に高い情景を超高精度で見る事も可能なので異常事態が起きた時にこの先何が起こり得るかを知る為に使う事が出来る。
「あー! この結界中と外の時空間を歪めるタイプじゃんか! 外の時間は中の10倍ぐらい経つよこれ!」
「空間も操作されとるから無理矢理ぶち破るのも時間掛かって面倒やねぇ。結界の起点は?」
「この家に使われてた空間操作の結界装置が起点。でももうぶっ壊れてる」
「外部から無理矢理強力な術式とエネルギーを流し込んでこの結界を展開したみたいだね。起点が壊れても現実時間で1時間は維持される様になってる」
「この結界装置自体にもブラックボックス部分があるし、昭和時代に『教団』が使ってた結界技術と部分的な一致点がある」
「『教団』から支給されたモノ、ただし細かい部分は新しく改造済みって所か。時間差も考えると中の時間で6分もすれば解除されるけど」
「どう考えてもウチを1時間足止めするんが目的よなぁ。にしてもその為だけに此処までするか」
「流石に6分以内で結界を解析して破壊か解除するのは厳しいか? 本体は何か見えた?」
「……最悪やね。外の3人が
彼女の分身達が並行して結界の解析を進めている間に本体が水晶球の中に見えた未来は『外に残していた青蘭・弘毅・高虎の3人が隕石の直撃とでも見紛う巨大な炎に焼き付くされる光景』であった。
彼等3人はまだ若いとは言え日本最大の異能者組織『五大宗家』の出身であり、実戦の経験も十分に積んでいて並の相手どころか上位の超常の存在と戦っても十分に渡り合えるか最悪逃げるぐらいは出来る筈の実力者なのだが、それでも死ぬ可能性が高いならば仕掛けて来た敵は並大抵の相手ではない。
「……此処で来るか『
つまり敵は『教団』最高幹部である『
──────◇◇◇──────
「……輝夜さんはもう例の首謀者を始末したんだってさ。それと『教団』が関わってるから見張りは厳重にしつつ本部と掲示板で連絡よろしくって」
「やっぱ俺ら要らんかったんでは? まあ周辺を探知する結界は強化しておく」
「掲示板の方は僕が立てておきますよ。本部への連絡は……」
「そっちは私がやっておくわ」
一方その頃、輝夜からの連絡を受けた表の3人はそれぞれ指示通りに各所への連絡や監視網の強化を速やかに実行する。彼等も付いてきたのにほぼ出番が無かった事には思う所もあるが、それと仕事は別であると割り切れる程度には経験を積んでいるので自分達の役回りはしっかりとこなしていた。
また、元五大宗家でありO×Oの幹部候補である彼等は『教団』という組織の異質さに関しても知っていたので、この一件も当初の想定より厄介な案件となると判断して警戒度を引き上げてもいた。
「……本部に連絡はしておきましたよ。『教団』案件だったので何かあったらすぐに報告してほしい。必要なら援軍を送ると」
「幹部……古参勢達は本当に『教団』の事を再警戒しているんだな」
「私達は話を聞いただけだけど古参勢やベテラン組は直接やり合ってるからね。……あの化け物じみた古参勢が此処まで警戒するとか『教団』ってどんな化け物なのか……」
「……良ければお見せしましょうか?」
そんな雑談をしている最中に聞き覚えのない女の声がする同時に見張っている家に空間隔離の結界が展開、それを受けて彼等3人は即座に声がする方向を見つつ事前に決められていた緊急連絡用の念話術式を行使して輝夜に緊急事態発生を伝える。
だが、その念話が輝夜に届かなかったので彼等は家に張られた結界が内部と外部を遮断して自分達と輝夜を分断するモノだと判断、その間にも声が聞こえた方向を探すと20メートル程度離れた森の中に一人の黒い服を着た黒い肌と髪の女……の様な“何か”の姿があった。
「各種探知術式に反応はなし、全部すり抜けられてるな」
「目視は出来ますが気配が掴めませんね。凄まじい隠行技術です」
「それに堂々と顔を晒しているのに
その女と思われる“何か”は卓越した術者である彼等3人が敷いている感知結界に引っ掛からず眼前に居るのに気配やオーラも感じ取り難く、何より顔を隠している訳でもなくむしろ“笑っている”と分かるのに“顔だけは認識出来ない”と言う異質に過ぎる存在であった。
……それでも彼等3人はこの世界に於ける当たり前の常識が通じない異質すぎる現状から、何より顔が見えない“無貌”と言える存在の情報は知っていた事もあって今のこの状況が自分達にとっての『死地』であると判断していた。
「一応聞いとくけどどちら様? 此処に何の様かしら?」
「此処に来たのはそこそこ見所のある眷属の様子見って所だったけど、気が変わったんで折角だからちょっかいを掛ける事にしただけ。……ああ、自己紹介が遅れたね。私の名前は『ニャルラトホテプ』、今日は短い付き合いだろうけどどうぞ宜しく」
そんな青蘭の問いに対して何か……『教団』最高幹部『外なる神』の1人“這い寄る混沌”或いは“無貌の神”などとも呼ばれる名状し難き怪物『ニャルラトホテプ』は、他者からは認識出来ない笑みを浮かべながら堂々とお辞儀をするのだった。
あとがき・各種設定解説
飛車丸シリーズ:O×O謹製の改造車
・『飛車丸五型』はO×O技術班が開発している式神型戦闘支援車両の最新モデルで、これを含めて異能技術と科学技術の複合に使う素体としてある程度の大きさがあって普段使い出来る物が適している事もあって『車』は大分昔から研究されていた。
・主だった用途は人員や物資の輸送という車本体の機能に加えて各種レーダーや通信装置などを積載して前線における仮の司令本部であり、オペレーターとなる人間を残して後方から前線メンバーを支援する形で運用される事が多い。
・武装も搭載される事があるが車と内部のオペレーターを守る為の結界装置や対人迎撃用の電撃術式など自衛用の物が殆どであり、攻撃的な武器を搭載して戦車的な用途で使う研究もされているが戦闘員が殴った方が強いという定説を上回る装備はコストが掛かるので一般的ではない模様。
・『飛車丸五型』には最新AI技術と式神技術を複合した試作人工知能が搭載されており、内部が無人であっても外部にいる登録された搭乗者の指示によって各種機能を使用したする事が出来る。
安倍輝夜:“術者”としてはO×O最高格
・長く生きる中で陰陽術・妖術・仙術を極めておりそれらを複合したオリジナルの術法を複数編み出していて、D×D的にはテクニック寄りのウィザードタイプでサポートもこなせる超万能型後衛ユニット(パワーが低いとは言ってない)
・神器『先見の水晶球』で未来を見れるのだが本人が『星読み』と呼ばれる程の占星術の使い手なので基本的に占いの補助道具扱いであり、戦闘では一瞬で未来が見えるとは言え水晶を除く隙が大きいので基本的に使わない。
・卓越した占いの才能と未来視の神器の影響から直感力にも優れており彼女の嫌な予感の的中率は非常に高く、今回の一件も嫌な予感がしたので『教団』の『旧支配者』レベルまでなら互角に渡り合える元五大宗家の3人を連れて来た形。
・その上で3人揃って連携を取った方が強いのでチーム分けの時は自分一人で乗り込んだのだが、特異な結界による遮断によって分断されるのは流石に予想外と言うか並の結界なら即座に対応可能で瞬間移動も出来るので単独行動でも本来なら問題なかった。
読了ありがとうございます。
異形の男に関しては自分の才能に合った術式が周りに認められないと思い込んで闇に堕ちたこの世界では良くあるはぐれ術者。そう言った才能があるけど業界から放逐された連中を唆すのが『教団』の基本的な手口です。