もう一人のホワイトルーム生です   作:パクチーダンス

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『戌』グループのメンバーを一部変更
 西野武子 → 木下美野里 
 西野が入っていた時、五十音順に並べたら優待者は時任ではありませんでした。なので、木下に変更となりました。ちゃんと確認取れてなくてすみません。

 そして旧作の話は全て消します。


第十二話 船上試験 終了

 

 〜狡噛慎也の視点〜

 

「チェック」

 

 試験が終わってからの翌日、俺は再び坂柳の部屋に招き入れられ、約束通りチェスをしていた。あの時の続きをする為に。今度は俺が先手で勝負が始まった。俺とてホワイトルームの端くれ。綾小路程の頭脳を持ち合わせていなくとも、そう何度も勝ちを譲るわけにはいかない。そんな気概で挑む。

 

「……………………………」

 

 坂柳の長考が続く。この時、坂柳がどの駒を動かすのかを予測して次の一手を考えなければならない。相手の防御を掻い潜る攻めの一手を。この勝負に持ち時間の制限は無い。相手が悩む間にもコチラにも考える時間が与えられる。

 

 コトッとようやく坂柳が駒を動かした。その駒の動きを読んでいた俺は、ノータイムで駒を動かして動きを封じる。だが坂柳も、俺の動きを予測して同じくノータイムで駒を動かす。しかし、そう来るだろうと俺は読んでいて間を置かずに攻める。予測の予測。

だがこれも、坂柳にはお見通しだった。勝ち誇った笑みを浮かべ、盤上に強く駒を置いた。

チェックメイト。そう言わんばかりに俺を見てくる。

 

「負けた」

 

「今度も私の勝ちですね」

 

 完璧に封じられた自身の駒。次の打つ手は何処にもないと分かり、俺は白旗を上げた。ったく疲れた。

 

 俺は背中からベッドに倒れ込む。一戦目よりもアクセル全開の戦いだったため、脳の疲労が半端ない。

 

「狡噛、アンタ自分のベッドじゃないんだから。それやめなさい」

 

 戦いの行く末を静かに見守っていた神室から叱責を喰らう。確かに寛ぎすぎた。俺はすぐ起き上がる。

 

「すまん」

 

「大丈夫ですよ」

 

 坂柳は特段気にしていなかった。それにしてもまた負けたな。二戦目も坂柳に軍配が上がった。全く、コイツの頭の中はどうなっている。戦いの最中、俺は綾小路と戦っている時を思い出した。チェスの実力だけで言えば、奴に届くのではないかと俺は思う。

 

「何か食べに行くか」

 

 頭を使ったから腹が減った。時間も丁度いい。

 

「真澄さん。貴方はどうしますか?」

 

「パス。私、朝ごはん遅かったから」

 

「では狡噛君、行きましょうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この豪華客船には飲食サービス施設は限られているため、殆どの生徒が今から俺達が行くレストランを利用する。辿り着くと案の定、お昼時ということもあってか生徒の数が多い。俺は遠目で座れる席を探すが見当たらない。参ったな。

 

「狡噛君。あそこです」

 

「……何処だ?」

 

 俺より身長が低い坂柳が先に空いている席を見つけたのか? なんて失礼なことを思いながら、俺は坂柳が見つめる視線の先を辿る。だがそこは既に利用者がいて楽しく食事をしている。してはいるが、他のテーブルと比べて大きいため使用されていない席がある。

 

 俺も坂柳が言う前から空いているのは分かっていたが、生憎と飛び込んでいく勇気は持ち合わせていない。同じクラスならまだしも他クラスの生徒であるため憚られる。

 

「本当に行くのか?」

 

「えぇ。彼女ならばきっと断ったりしませんよ」

 

「まぁそうだろうが……」

 

 仲良くしている輪の中に入るのはだいぶ遠慮がなく厚かましいとは思うが、坂柳には関係ないらしい。

それとも、彼女に用があるのか。

 

「こんにちは、Bクラスの皆さん」

 

「あっ、こんにちは。坂柳さん、狡噛君」

 

 そのテーブルを利用していたのは、一之瀬達Bクラスの生徒である。その中には網倉の姿があった。

 

「坂柳も食べに来たの?」

 

「そうなんです。ただ、座れそうな場所がなくて困っているんです。もしご迷惑でなければ、空いている席をお借りして、皆さんとご一緒に食事をさせていただいてもよろしいでしょうか?」

 

 一之瀬はそれを聞いてクラスメイトの顔を見る。

彼ら彼女達も頷いた事で一之瀬は再びコチラを向く。

 

「うん、いいよ。座って座って」

 

「ありがとうございます」

 

「ありがとう」

 

 俺と坂柳は礼を言ってから席に着いた。一之瀬から二つ折りされたメニュー表を受け取った坂柳は、俺にも見やすい場所に持っていき広げてくれた。

 

「どれにしますか?」

 

「お前に合わせる」

 

「ならこれにしましょう」

 

 俺は卓上ベルを鳴らしてスタッフを呼び料理を注文する。水を2人分用意させることも忘れずに。

 

「狡噛君と坂柳さんて仲が良かったんだね。全然知らなかったよ」

 

「狡噛君とは入学当初からのお友達なんですよ。

それに聡明な方ですから、色々と波長が合うんです」

 

「失礼します」

 

 ここでスタッフが現れて俺と坂柳の前に水が入ったグラスを置いた。俺は早速手に取って水を飲んだ。それを見計らってか一之瀬は、

 

「もしかして本当は付き合ってるとか?」

 

「「違うな/違いますね」」

 

「あ、あれ〜、絶好のタイミングだと思ったんだけどな。っていうか息ピッタリ」

 

 先程の発言に俺が動揺するのを期待していたんだろうが、その程度じゃ俺の動揺は誘えない。

 

「お前には俺と坂柳がそう見えるのか?」

 

 俺がそう言うと、一之瀬は顎に手を乗せた。

 

「う〜ん、私ね、坂柳さんが神室さんや橋本くんと一緒に居るのをよく見かけるんだけど、その二人と狡噛君はちょっと違う感じがするんだよね」

 

 一之瀬は、坂柳が俺と俺以外のクラスメイトで接し方に違いがあることを指摘した。

 

「坂柳と俺は、友人であると同時に上司と部下だ」

 

「会社?」 

 

 網倉の口からポロッと言葉が溢れた。

 

「そうだ。上司(坂柳)が与えた命令を部下()が遂行する。それが会社全体(クラス全員)の利益になる。俺だけじゃない。神室や橋本にだって同じことだ」

 

「な、なんか、Aクラスって私達Bクラスとは全然違うんだね。ビジネスというか何というか………」

 

 網倉の隣に座る女子生徒が若干引き気味にそう言った。

 

「狡噛君の言うことはあながち間違いではありません。Aクラスで卒業するという一つの目的の為に私達は動いているのですから」

 

 Aクラスの中にも不満はあるが坂柳に渋々ついている生徒も少なからずいるだろう。葛城派だった奴らは特にそうだ。だが奴らも納得がいかなくとも理解はしていよう。誰がクラスを率いるのに相応しいかを。

 

「ですが、一つ訂正しなければなりませんね」

 

 訂正?

 

「狡噛君はその中でも一際優秀な部下です。

 言うなれば右腕。替えが効かない人材なんですよ」

 

「光栄だね」

 

 坂柳に視線を向けながらグラスを軽く持ち上げ、

水を一口飲んだ。

 

「へぇ〜」

 

 一之瀬の俺を見る目が少し変わった。Aクラスに上がるうえで、俺をいう人間がどれほど脅威なのかを理解したのか。もしや、坂柳はこれを伝える為に。

 

「確かにそうなんだろうね。昨日の試験でも、派手に暴れてくれたようだし」

 

 その言葉を聞いて、俺はチラッと網倉の方を見たが、彼女はその視線から逃げるように目を逸らし、すかさず目の前の料理に口をつけた。

 

「ねぇ、一応聞くんだけどさ、狡噛君には『戌』グループの優待者が誰か分かっちゃったんだよね?」

 

「あぁ。誰か知りたいか?」

 

「………まぁそうだね」

 

「なら携帯を出せ」

 

 俺はポケットから携帯を取り出して、

 一之瀬に『戌』グループの優待者の名前を送った。

 

「やっぱり………」

 

 一之瀬は携帯の画面をしばらく見つめていた。

 

「おや、いつの間に連絡先を交換したんですか?」

 

「5月に暴力事件があったろ。あの時にちょっとな」

 

「ねぇ」

 

 ここで網倉が声を掛けてくる。

 次はちゃんと俺と目を合わせてきた。

 

「何だ?」

 

「どうやって分かったの? 

 私達、ボロを出した覚えなんてないよ」

 

 彼女は納得が出来ない顔といった様子だ。

 

「言葉での会話が全てじゃないさ」

 

「……それって、顔に出てたってこと?」

 

 すると一之瀬が携帯から顔を上げて答えた。

 そしてペタペタと自分の顔を触る網倉。

 

「あぁ。言っておくが網倉じゃない。他の奴だ」

 

 網倉の表情はBクラスの中では読みずらかった。

 まぁ、差はなんて殆どなかったが、

 

「そうなんだ………でも、それだけで分かるなんて」

 

 網倉の言葉に俺は首を横に振る。

 

「いいや、それだけで十分だったんだ。重要なのは、観察力と論理的思考だ」

 

「あはは、なんか凄いね狡噛君。メンタリストって感じだ」

 

 一之瀬から感心の声が寄せられる。

 コイツ、何を他人事のように感心しているんだ。

 俺はここで釘を刺すことにした。

 

「凄くなんかないさ。訓練すれば誰だって可能だ。

だがな、一つ言っておくぞ。今後もクラスを引っ張っていくのなら、早急にこの力を磨く必要がある」

 

 俺の指摘に笑顔だった一之瀬は、

 まるで雷に打たれたような顔に変わった。

 

「他のリーダーは知らんが、少なくとも坂柳はこれができる。特に交渉の時は、容易くお前の心を丸裸にしてくるぞ」

 

 一之瀬は俺から隣の坂柳に視線をスライドさせる。坂柳は何も言わずに笑顔を見せるだけだった。その笑顔がとても恐ろしく見えたのだろう。一之瀬は目の前の坂柳から一歩後退した。身体ではなく心がだ。俺にはそう感じられた。

 

「…………そう、だね。ありがとう狡噛君。私、勉強してみるよ」

 

 彼女は自分の甘さを痛感したようで、やる気に満ちた顔つきに変化した。

 

「あぁ。それに今回の特別試験は、訓練するのに最適な環境だろう。まずはここでやってみろ」

 

「お待たせしました」

 

 やっと頼んだ料理が運ばれてきた。喋ったら余計に腹が減った気がする。俺と坂柳も目の前に置かれた料理を食べ始めた。そこからは会話も減って食べるのに集中していた。

 

 そして数分後、先に食べ終わった一之瀬達はクラスメイトから連絡が来て俺と坂柳を残して席を立った。

 

「敵に塩を送るなんて、甘いですね狡噛君は」

 

 一之瀬達を送った後、坂柳は俺を見てそう言った。

 

「かもな」

 

「どうしてあんなことを?」

 

「別に。深い意味はない」

 

 俺は皿に乗った最後の料理を口にして手を合わせた。それをジッと見てくる坂柳は何か考えている様子だったが、

 

「そうですか」

 

 そう言って視線を切り、自分の料理を食べ進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜綾小路清隆の視点〜

 

 試験2日目の夜。オレは夜の海を眺めながら、とある人物と待ち合わせをしていた。電話で話すことも出来たが、会って話したいと言ったのはオレ自身だ。

 

「待たせたか」

 

「いや」

 

 ポケットに手を入れながら近づいて来た狡噛は、オレの隣に立って海を見つめる。海から吹く潮風がオレと狡噛の髪を優しく揺らす。

 

「それで、話とはなんだ?」

 

 互いに無言の時間が続いた後に狡噛が話した。

 

「あぁ、聞いたぞ『戌』グループのこと」

 

「そうか」

 

 狡噛は1日目で『戌』グループの優待者を特定した。それについて驚きはしない。狡噛の力を持ってすれば、優待者が誰か見つけるのは容易いだろう。それよりも、

 

「随分と積極的に試験に取り組んだようだが、お前の方にもあの男から何かメッセージでもあったのか?」

 

「何も」

 

「なら、新しい飼い主でも出来たか?」

 

「…………まぁそんなとこだ」

 

 狡噛はオレから視線を外してまた海を見る。

 

「外に出ても、お前は相変わらずのようだな」

 

 主人が、あの男から他の人間に変わっただけ。

 

「生き方っていうのは、そう簡単に変えられない。

お前もそうだろう?」

 

「……あぁ。そうだな」

 

 オレも狡噛と同じだ。堀北も櫛田も平田も、全てオレが勝つための道具でしかない。その考えは今も昔も変わっていない。

 

「どんな奴なんだ? お前の新しい飼い主は」

 

 狡噛は手すりにもたれかかるように両腕を置いた。

 

「そうだな………………アイツは、自分が天才という自負がある。それでいてプライドが高くて、冷酷で、クラスメイトをただの駒だと思ってる」

 

「酷いやつだな」

 

 プライドが高い堀北でも、そこまでじゃない。

 

「だが、アイツは気高い。他者を見下すのは傲慢だからじゃない。誰にも舐められず、自分の尊厳を守るためだ。哀れみも侮りも寄せつけず、頭一つで戦ってきたんだろう。強くあり続ける姿を見たら、なんだか支えてやりたくなった」

 

 海を見ながらオレに説明してくる狡噛の表情は柔らかかった。オレには出来ない顔だ。

 

「それが坂柳有栖なのか?」

 

 狡噛は少し驚いた顔をオレに向けてきた。

 

「なんだ知ってたのか」

 

「ただ、お前が自ら首輪を嵌めに行くんだ。相当の実力者なんだろう」

 

「チェスで負けた。今2連敗中だ」

 

「……マジか」

 

 狡噛はホワイトルームじゃあ、オレの次にチェスは強かった。その狡噛を倒すとなると、一体どれ程の腕前なのか。

 

「後、お前に会いたがってたぞ」

 

「………どういう意味だ?」

 

 オレが訝しげに聞くと、狡噛は一度辺りを見回して人がいない事を確認すると、オレに接近して耳元でこう言った。

 

「ホワイトルームを知ってる」

 

「………………」

 

 その単語を聞いた時、オレは冷静さを欠きそうになった。外では決して聞くはずが無いのに。

 

「坂柳は一度、父親に連れられて俺達を見たそうだ」

 

「確かなのか?」

 

「あぁ。嘘は言ってなかった」

 

 まさか、この学校の中にホワイトルームを知る生徒がいるなんて。

 

「お前を倒したいんだとさ」

 

「それは…………迷惑な話だ」

 

 担任からの脅しもあり、龍園からの疑いもあり、

今度はホワイトルームの関係者か。我ながら、話題が絶えないな。

 

「ところで、試験も残り2日だが、どうするんだ?」

 

 話は強引にも特別試験へと移り変わる。

 

「オレは無人島試験で痛感した。この学校を生きていくには、オレ一人の力では限界があると。だから」

 

「だから?」

 

「オレにも駒が必要だ」

 

 オレに必要なのは情報収集に長けた便利な駒だ。

 それに、その目処はもう付いている。

 

「お前はどうするんだ狡噛。他グループの優待者を探すのか?」

 

「いや、これ以上余計な事はしない。後はのんびりと結果を待つさ」

 

 そうしてくれるのなら、オレにとっては有難い話だ。

 

「こんな時間に呼び出して悪かったな」

 

「別にいいさ。お休み」

 

「あぁ。お休み」

 

 歩き去って行く狡噛の背中を見つめながら、オレはポツリと言葉が口から漏れた。

 

「本当に、甘くなったな。狡噛」

 

 ホワイトルーム時代の狡噛は、もっと尖っていた。目の前の敵に対して、一切の躊躇がなかった。その戦いぶりは、凶暴かつ冷徹だった。まさに獲物を狩る獣。それ以外に相応しい言葉は無かった。

 

 だがどうだ。この学校に来てから、狡噛は随分と丸くなった。なってしまった。今の狡噛からは、昔よりもプレッシャーが感じられない。もしかすると、今見ている姿が狡噛本来の姿なのかもしれない。

 

(いや……違う)

 

 ここでオレは、この考えが間違いだっと気づいた。

 

 もっと前からだ。オレは見ていたはずだ。オレと狡噛を追いかけてくる一人の少女、その少女に優しく手を伸ばす狡噛の姿を。あの過酷な場所に居ながらも狡噛の心の中には、冷たさと温かさが内包されていた。

 

 だから、あんな出来事が起こった。

 

『やだ、行きたくない!助けて清隆!慎也!』

 

『待ってください先生! 先生! 『無駄だ狡噛』

 離せ綾小路、どういうつもりだ!』

 

『アイツは負けたんだ。敗者はただ去るのみ』

 

『馬鹿野郎……!!』

 

 忘れることのない記憶。あの時、オレは大人達の命令で狡噛を食い止めるべく立ち塞がった。そして、オレと狡噛は壮絶な戦いを繰り広げた。お互いに死を覚悟した。あれは本当の殺し合いだった。

 

 惜しい、とオレは思う。願うならば、もう一度ギラギラしていた頃の狡噛に戻って欲しい。心の何処かでそう思っている自分がいる。あぁ、本当に残念だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜狡噛慎也の視点〜

 

「なぁ真田」

 

 髪を雑に拭きながらバスルームを出た俺は、ベッドの上で携帯を触っている真田に声を掛けた。

 

「どうしましたか? 狡噛君」

 

「お前は確か『寅』グループだったよな」

 

「はい。それが何か?」

 

「少し気になる事がある。

 その為に、グループ全員の名前を教えてくれ」

 

「気になる事ですか………分かりました」

 

 俺は真田から『寅』グループに所属する生徒の名前を手に入れた後、携帯を操作して電話を掛けた。

 

『こんばんは』

 

 電話越しから白石の柔らかい声が聞こえてくる。

 

「すまん。起こしたか?」

 

『いいえ、大丈夫ですよ。それで、ご用件はなんでしょうか?』

 

「白石が所属するグループの生徒全員の名前を知りたい。後で送ってくれないか?」

 

『それは構いませんが………もしかして狡噛君は、

優待者を探しているんですか?』

 

「まぁな」

 

 探してはいるが、見つけても他言はしない。この特別試験が始まってから、俺の中にずっとあった疑念を払拭させる為だけだ。胸の中にしまっておく。

 

『分かりました。そういう事でしたら私、きっと狡噛君のお力になれると思います』

 

「どういう意味だ?」

 

『私、優待者なんです』

 

 白石は自分が優待者だと告げた。それは好都合だ。他グループの優待者が一人でも分かれば、謎も少しは解きやすくなる。

 

「そうだったのか」

 

『嘘だとは思わないんですか?』

 

「優待者を見つけるのは、何もクラスの為じゃない。ただ自己満足の為だ。だから、お前が嘘を言っていようがいまいが、正直どっちでもいいな」

 

『まぁ酷い』

 

 そう言った彼女の声音には、非難の色よりも、どこか面白がるような色が滲んでいた。その後に、クスクスと小さな笑い声が聞こえてきた。

 

『本当ですよ』

 

「あぁ信じるよ」

 

 信じる、俺は自分の口から自然とそんな言葉が出てきたことに、少なからず驚いた。さっきはどっちでもいいと言ったばかりなのに。

 

『ありがとうございます。じゃあ切りますね。

 狡噛君、おやすみなさい』

 

「あぁ、おやすみ」

 

 プツッと通話が切れる。そして後からチャット欄に載せられた名前を見て、俺はしばらく考え込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 3日目。この日は試験が行われることはなく、完全自由日となっている。心身を休め遊び呆けるのか。それとも策謀を巡らすのか。それは生徒次第である。

 

 朝食を食べる為に今日もレストランに赴いた俺は、適当なテーブルを選んで席に着いた。料理を待っている間、本を読みながら時間を潰していたのだが、

 

「よぉ」

 

 邪魔が入った。

 

「何しに来た?」

 

 俺は許可なく対面に座ってきた男の顔をチラッと見て、再び本に視線を落とした。

 

「朝飯食いに来たに決まってんだろ」

 

「他にも席が空いていた筈だが」

 

 ペラっと紙をめくる。

 

「別に何処だっていいだろうが。俺が座りたいと思った場所に座るだけだ」

 

 集中できん。俺は本をパタンと閉じ顔を上げた。

 

「クククッ、やっと読むのをやめたか」

 

「お前が居たんじゃ集中出来ないからな。龍園」

 

 足を組み、ふんぞり返るように背もたれへ身を預ける龍園に、とりあえずメニュー表を渡した。それをひったくる様に受け取った龍園は、メニュー表を開けるとすぐにベルを鳴らして店員に注文した。食べる物はなんでもいいって感じだ。

 

「それで、一体何しに来たんだ?」

 

「『戌』グループのことだ。

 テメェが優待者を見破ったそうじゃねぇか」

 

 グループ内にいたCクラスの生徒が龍園に伝えたのだろう。

 

「当たってるかは、まだ分からないぞ」

 

「俺は知ってるぜ。『戌』グループの優待者が誰だったのか」

 

 余裕の笑みを浮かべる龍園。

 

「『戌』グループでもないお前がか?」

 

「俺は全て知っている。なんなら今ここで、『戌』グループの優待者の名前を言ってやったって構わねぇ」

 

 全て知ってる、か。なら龍園は分かったのか。学校側が意図して作り上げた、優待者を特定する法則を。いや、まだ分からない。

 

「知ってるなら、何故すぐに試験を終わらせない? 折角のクラスポイントを逃がして、何の得がある?」

 

「何も知らねぇ馬鹿な連中を、上から見下ろすのは気分が良いもんだぜ。俺の『辰』グループには、優待者を必死こいて隠そうとしてる健気な奴がいるんだが、ソイツを見てるとつい可愛がっちまうのさ」

 

「あっそ」

 

 誰かは知らないが同情するよ。

ここで「お待たせしました」と店員が俺が頼んだ料理を持って来てくれた。俺は両手を合わせ軽い会釈をして料理に手をつけた。

 

「狡噛、お前の勘は正しかった」

 

 俺が咀嚼する中、龍園は淡々と話し続ける。

 

「とんでもねぇ腹黒だったぜ。流石の俺も驚いたもんだ」

 

 この会話を聞いた第三者がいたとしても、龍園が誰のことを言っているのかは、俺以外分からないだろう。

 

「そうか」

 

 噛み砕いた料理を飲み込んだ俺は短くそう言った。

 

「Dクラスの奴らは驚くだろうな。

 あんな化けの皮を被っていたなんて知ったらよ」

 

 愉快に笑う龍園から察するに、

 正体を見た時は、さぞ面白かったのだろう。

 

 龍園が奴のタブーに踏み込んだのか。

 はたまた、向こうから龍園に接触して来たのか。

 

「心底どうでも良いが、俺を巻き込むなよ?」

 

 非常に面倒なことになる予感がするからだ。

 

「アレには色々と利用価値があるが、あんな爆弾、長く抱えたくはないのも事実だ。どうすっかな。テメェを巻き込むってのも一つの手だ」

 

 爆弾。嫌な表現だ。

 

「井上都亞、近藤玲音、角倉真美」

 

「!?」

 

 唐突に、なんの脈絡もなく発っした生徒の名前。普通ならば意味不明だと首を傾げる場面だが、龍園は違った。驚き目を見開いた。何故なら、彼らは龍園がいるCクラスの生徒であり、そして……………

 

「……テメェ狡噛、もう既に分かってやがったのか」

 

 それだけで龍園は理解したようだ。俺が優待者の法則を知っていると。その様子だと、やはり龍園も分かっていたのか。

 

「分かったのは昨日の夜だ」

 

 そう。俺は一晩中、優待者に繋がる手がかりを考え、そして見つけた。グループのメンバーを全員五十音順に並べ、振り分けられたグループ名の干支の順番にあたる人物が優待者であることに。

 

「俺に言ったことそのまま返すぜ。何故すぐに試験を終わらせない? 折角のクラスポイントを逃がして、何の得がある?」

 

 龍園から笑顔が消え、鋭い目つきが俺に刺さる。

 

「俺はこれ以上試験に参加する気は無い。法則を見つけたのも、ただ解いた自分に満足したかった、それだけさ。だが、俺の気が変われば、今すぐにでもこの特別を終わらせることが出来る、そうは思わないか?」

 

「脅しか?」

 

 俺はポケットから携帯を取り出してテーブルに置いた。龍園の視線が俺の携帯に移る。

 

「その爆弾とやらを俺に近づかせるな。面倒ごとはゴメンだね」

 

 龍園は携帯と俺の顔を交互な見て、やがて笑った。

 

「クククッ、クラスポイントとアレを天秤に乗せて釣り合うのかよ。変わってるぜ。本当にAクラスに興味はねぇんだな」

 

「ゼロと言ってもいい。俺はただ、自分に降りかかる火の粉を未然に防いでいるだけに過ぎない。お前も、危ないと思ったらタイミングを見計らって切ったほうが良い。それが身のためだ」

 

「テメェに言われずともそのつもりだ。ただ、向こうからテメェに近付いてくるのは、俺の知ったこっちゃねぇぜ」

 

「あぁ。その場合は適当に対処する」

 

 連絡先も交換してしまったしな。

 

 龍園の頼んだ料理が運ばれて来た。俺が待った時間よりも早く来たのでいささか不満だったが、そんな小さい文句を言う訳にはいかず、俺は代わりに水を要求した。

 

「………分からねぇな」

 

「何が?」

 

 龍園の独り言とも取れる小さな呟きに、俺は反応した。

 

「それだけの洞察力・身体能力を持っていながら、

何故あの女につき従う?」

 

「それは、坂柳のことか?」

 

「他に誰がいやがる。坂柳の頭が切れるのは知ってる。だがそれだけだ。あんな貧弱な女、お前ならどうだって出来たはずだ。違うか?」

 

 物騒な話だ。まぁ俺も、ホワイトルームの単語を坂柳の口から聞いた時は、無理矢理にでも知っている事を吐かせようと、色々と頭を巡らせたけどな。

 

「会ったばかりのお前が俺の何を知ってる? と言いたい所だが、確かにその通りだ。最初は性格の悪い女だなと思ったよ。でもな、あれで案外、可愛い所もある」

 

 龍園は鳩が豆鉄砲を喰らった、

 とはいかずとも、それに近い顔を作った。

 

「はぁ? あんな出るとこも出てねぇガキみたいな女に、マジで惚れたってのか?」

 

 酷い言い草だな。坂柳がここに居なくて良かった。

 

「そんなんじゃない。ただ、坂柳のやりたい事に俺が乗っかった、そんな感じだ」

 

 その後、友人(俺)を見かけたからという理由で橋本がやって来たところ、俺と龍園が同じテーブルで食事をしている事に大層驚いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 特別試験最終日。俺は橋本、神室と一緒に、学校側から特別試験の結果が送られてくるのをカフェで座りながら待っていた。

 

「なんだかあっという間だったわね」

 

「そりゃあ、俺たちは1日目で終わったからな」

 

 俺はテーブルの上に置いた真っ暗な携帯画面を見つめていた。結果が通知されるその時を待っていた。だが、後ろから人の気配を感じ取った俺は、ゆっくりと後方を振り返った。

 

「………背中に目が付いているんですか?」

 

「森下」

 

 森下が両手を広げた姿のまま立っていた。

 

「その手、どうするつもりだった?」

 

「狡噛慎也の目を隠して だ〜れだ? をしたかったんですが、残念ながらバレてしまいました。忍者の血を引く私がこうも気付かれるとは、まさか貴方も忍者の血を……!」

 

 忍者の血? また訳のわからないことを。

 

「ホント、変な子よね……」

 

 神室が呆れた声でそう言った。

 

「いいえ、時代が私に追い付いていないんですよ」

 

「いや意味わかんねぇよ……」

 

 これには橋本と同意見だ。

 

「それで、何しに来たんだ?」

 

 俺がそう問うと、森下は隣のテーブルから椅子を引っ張ってきて俺の横に腰掛けた。

 

「1日目以降、何もしなかったのは何故です? 他グループの優待者を見つける時間はあったのでは?」

 

「下手にポイントを稼ぎ過ぎて、下位3クラスが俺達を打倒する為に同盟を組んだらどうする?それとー」

 

「2度の負けによって、葛城康平の信用をマリアナ海溝くらい深い底に突き落とす、ですか?」

 

「……知ってるなら聞くな」

 

「なぁ森下、お前やけに狡噛を揶揄うよな。もしかして気があるのか?」

 

 橋本は意地の悪い笑みを浮かべ、森下の反応を窺った。

 

「私が狡噛慎也を……? ナイナイありえナイ」

 

 森下は両手を上げて首を振った。いつも思うが、森下の無表情を見ていると綾小路の顔を思い出す。コイツも表情筋が死んでいるのか。

 

「ここに来たのも狡噛が居るからだろ? 俺と真澄ちゃんだけだったら絶対に来なかった、違うか?」

 

 橋本がしつこく食い下がる。結果が送られて来るまでの暇つぶし、ってとこか。

 

「まぁ一理あります。こんな変な私を、狡噛慎也は鬱陶しそうにしながらも会話してくれますから」

 

「自覚あったのかよ………」

 

「私の連絡帳には、今のところ狡噛慎也しか居ませんから。もしよろしければ連絡先を交換しませんか?」

 

 森下は携帯を取り出した。

 

「マジで? なんだか可哀想になってきたぜ。仕方ねぇ、お前の連絡帳を少しでも埋めるために助力してやるよ」

 

 橋本も携帯を取り出そうとポケットに手を入れたが、森下は手のひらを橋本に向けて待ったをかける。

 

「誰が橋本正義の連絡先を欲しいと言いましたか。

 神室真澄、宜しければ交換しませんか?」

 

「良いわよ」

 

「はぁ? なんで俺は駄目なんだよ?」

 

「橋本正義は胡散臭さが形となって歩いているような人間です。それに、いつか裏切りそうなので」

 

 そうして神室と連絡先を交換した森下は、新たに一人増えたことで「おぉ…!」と目を輝かせていた。

 

「振られたな」

 

「ケッ、いいさ別に」

 

 そうしているうちに時間が来た。

 午後11時。携帯端末に学校側からの特別試験の結果を知らせるメールが生徒全員に届いた。

 

 

 子(鼠)裏切り者の正解により結果3とする

 

 丑(牛)裏切り者の回答ミスにより結果4とする

 

 寅(虎)優待者の存在が守り通されたことにより

     結果2とする

 

 卯(兎)裏切り者の回答ミスにより結果4とする

 

 辰(竜)試験終了後グループの全員の正解により

     結果1とする

 

 巳(蛇)優待者の存在が守り通されたため

     結果2とする

 

 午(馬)裏切り者の正解により結果3とする

 

 未(羊)優待者の存在が守り通されたため

     結果2とする

 

 申(猿)裏切り者の正解により結果3とする

 

 酉(鳥)裏切り者の正解により結果3とする

 

 戌(犬)裏切り者の正解により結果3とする

 

 亥(猪)裏切り者の正解により結果3とする

 

 

 Aクラス 1004 無人島試験(+120) 船上試験(-150)

        合計 974 cp +250万 pp

 

 Bクラス 663 無人島試験(+140) 船上試験(-50)

        合計 753 cp +200万 pp

 

 Cクラス 492 無人島試験(+000) 船上試験(+150)

        合計 642 cp +550万 pp

 

 Dクラス  87 無人島試験(+225) 船上試験(+50)

        合計 362 cp +300万 pp

 

 

 結果が送られて来ると同時に、俺のプライベートポイントが大幅に増えた。俺が優待者を特定した、その報酬が支払われた。

 

 結果を見届けた俺たちは席を立ち、それぞれの部屋に歩いて行った。その途中、俺は橋本と神室に16万6666 ppを振り込んだ。均等に分けられない分の2 ppは俺が頂いておくとしよう。

 

 こうして、俺たちの2週間の長い旅が幕を閉じた。

そして間も無く、高度育成高校学校へと帰還するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

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