もう一人のホワイトルーム生です   作:パクチーダンス

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第十五話 夏休み 3

 

 

 〜一之瀬帆波の視点〜

 

 長い旅から帰ってきた私達Bクラスは、特別試験を乗り切った褒美として、ケヤキモールにある店で打ち上げをする事になった。

 

「皆んな、特別試験お疲れ様。これからもクラス一丸となって頑張っていこうね。それじゃあ乾杯〜!」

 

 音頭を取った私の言葉で、クラスメイトがグラスを掲げて次々と乾杯と声を上げた。その後、卓に並んだ料理を皆で取り分けていく。

 

「いや〜、マジでこの学校のやる事めちゃくちゃだよな。高校生を無人島で生活させるなんてよ」

 

「ホントそれ。小石が背中に当たって全然眠れなかった」

 

 無人島で暮らすなんて、この学校に来なかったら絶対に体験しなかったことだ。確かに大変だったけど、クラスの皆んながいたから乗り越えられたと私は思っている。

 

「またあるのかな?」

 

「えぇやだーー」

 

 二度は無い、なんて保証は何処にもない。けど、次もクラスの皆んなと一緒に乗り越えればいいんだ。

 

「ねぇ見て。これ新しいスマホカバーに変えたんだよね」

 

「可愛い〜、いいなぁ〜」

 

 打ち上げが始まってしばらくすると、話題は特別試験のことから、各々の出来事へと移っていった。私も近くに座る麻子ちゃん、千尋ちゃんと談笑していた。そんな時、遠くの席でこんな話が聞こえて来た。

 

「そうそう、ケヤキモールで2人並んで歩いている所を見たんだって」

 

「へ〜、じゃああの噂は本当だったんだ」

 

 何やら話すこずえちゃんを囲むように女子の塊ができていた。一体、何を話しているんだろう。気になった私は、こずえちゃん達の方へ耳を傾けていた。

 

「ショック〜、私いいなって思ってたのに」

 

「あのルックスで彼女居ない方がおかしいって。それに、女性の方も美人だったし。お似合いって感じ」

 

「狡噛君カッコいいから、仕方ないよね」

 

 狡噛くん? こずえちゃん達が話していたのは、狡噛くんのことだったんだ。それに、彼女いたんだ。

 

 狡噛くんとは何度か話したことがある。結構クールな感じで、冷たい印象を持っている子もクラスには何人かいるみたいだけど、私は優しい人だと思う。無人島の時は、争い回避する為に行動を取ってくれたって浜口くんから聞いたし、船の試験だって、

 

『重要なのは、観察力と論理的思考だ』

 

 あれから、視界に入ってくるものを、注意深く観察するようになった。相手から得られる情報は、何も会話だけじゃない。会話中に相手が見せる仕草や表情、視線の動きから、その人が何を考えているのかを読み取る。

 

 けどそれって、結構注視しないと気付けないことだってある。クラスメイトとはいつも会ってるから大体は分かるけど、問題は他クラスの生徒。彼ら彼女らと相対した時にこそ、力が発揮されるべきなんだ。

 

 狡噛くんは、この力を磨く必要があるって言ってた。けど、クラスが違うのに、どうしてそんな助言をしてくれたのかは分からない。

 

「帆波ちゃん? どうしたの」

 

 隣にいる麻子ちゃんが、心配そうに声を掛けてきた。

 

「ううん、何でもない」

 

 いけない、不安な顔は見せちゃ駄目だ。私はクラスのリーダーなんだから。

 

「狡噛君のことが気になるの?」

 

 麻子ちゃんはチラッとこずえちゃん達の方を見る。彼女も話し声を拾っていたみたい。

 

「あー、まぁね。狡噛くんとは、色々と話す機会があったし。麻子ちゃんも、船では同じグループだったよね」

 

 確か、麻子ちゃんは狡噛くんと同じ『戌』グループだった筈だ。

 

「うん。けど5月頃に一度、狡噛君とはコンビニで話した事あるんだよね。その時に自炊してるって言ってたし、もしかしたら、彼女さんに作ってあげたりしてるんじゃないかな」

 

 へぇー、狡噛くんって自炊するんだ。でも想像出来ちゃうな。彼、何でもこなしそうだし。

 

「ほ、帆波ちゃんは、狡噛君のことが好きなの?」

 

 私と麻子ちゃんの会話に、千尋ちゃんが慌てた様子で入ってきた。

 

「全然、そんなこと無いって。私なんかと狡噛くんが釣り合うわけないよ」

 

 でも気になるな。狡噛くんの彼女。一体、どんな人なんだろう………。 

 

 打ち上げが終わり、皆んな寮に向かって帰っていく。明日の予定は、クラスの女子とケヤキモールにお出掛け。だから早く寝ないといけない。ほぼ毎日友達と遊びに出掛けている私は、常に充実した日々を送っている。この学校に来て、いっぱい友達が出来て、本当に良かったと心底そう思う。

 

 寮へ帰る道すがらにあるコンビニから、手にビニール袋を持った狡噛くんと橋本くんが話しながら出てきた。遠いから何話しているか分からないけど、狡噛くんは興味無さそうな顔をしていた。

 

「あれ? あそこにいるのって狡噛君だ」

 

「ホントだ」

 

 私以外の人も狡噛くんを見つけて話し出した。すると、視線に気付いたのか、狡噛くんはこっちを見た。その時、私は彼と目が合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜狡噛慎也の視点〜

 

「なぁBクラスの奴ら、こっち見てないか?」

 

「あぁ……」

 

 コンビニを出ると、一之瀬を含むBクラスの連中が俺達のほうを見ていた。結構な人数で道に広がって歩いている。多分、クラス全員いるんじゃないか?

 

「手を振ってやろうぜ」

 

「よせよ。あんな大勢いる所わざわざ行きたくない」

 

 あの大群が来る前に、さっさと寮に向かわないと。

 

「しっかし狡噛、お前が男子の集まりに顔を出すなんてよ。声を掛けた俺が言うのもあれだが、ちょっと驚いたぜ」

 

 今日の朝、橋本から電話があった。夜に吉田の部屋に集まって男子会をやるのかお前も来ないか、と。俺はそれに乗っかり、橋本と共にコンビニでお菓子やジュースを買いに行った。

 

「暇だったらからな。後は誰が来るんだ?」

 

「真田と清水だな。吉田は他にも呼ぼうとしてたみたいだが、部屋の広さ的に後1人が限界ってところだな」

 

「そうか」

 

「聞いといて興味のない返事はねぇよ」

 

 俺と橋本は、開いた自動ドアを抜けて寮1Fのロビーに足を踏み入れると、エレベーターの上ボタンを押す。

 

 そして俺達のすぐ後から、Bクラスの大群が迫ってきた。

 

「こんばんは狡噛くん、橋本くん」

 

「あぁ、こんばんは」

 

 その先頭にいた一之瀬が声を掛けてくる。先程目が合ったばかりだというのに、改めて挨拶を交わすのは、どこか妙な感じがした。

 

「一之瀬、今日は何かあったのか?」

 

 橋本が尋ねる。

 

「うん。特別試験が終わったから、クラス全員でその打ち上げ」

 

「クラス皆んなでか。やっぱ仲良いよな、Bクラスは」

 

 仲が良過ぎるくらいだ。

 

「Aクラスは打ち上げとかないの?」

 

「5月の中間テスト以降一回も無いな。まぁあれでも全員参加してなかったし、ウチのクラスは中でバチバチやってたから仕方ねぇな」

 

「そっか……」

 

 返す言葉に迷い気の利いた言葉がでない一之瀬。俺はビニール袋を持つ手を動かすと、物が袋に擦れる音がした。その音に気付いた彼女は視線を落とした。

 

「それ、何が入ってるの?」

 

「あぁこれか。お菓子とジュースだ。これから男子会があるんでね」

 

 橋本は一之瀬に袋の中身を見せながらそう言った。

 

「男子会? それって何を話す会なの?」

 

 一之瀬の隣にいる網倉が尋ねてきた。正直俺も何を話すのか分からん。

 

「悩みや愚痴言い合ったり、気になってる奴の名前挙げたり、女子と変わんねぇと思うぜ」

 

「ふ〜ん………狡噛君も恋バナするの?」

 

 今度は俺に話を振ってきた。

 

「無い。俺は恋バナ出来るほど、恋愛経験があるわけでもないしな」

 

「でも狡噛君って恋人いるんじゃないの?」

 

「………何のことだ?」

 

 網倉が言っていることが理解できん。俺に恋人がいるって? 一体何の話をしている?

 

「クラスの子がね、ケヤキモールで狡噛君が女性を連れて歩いていたところを見たんだって、さっき話してたの」

 

 鬼龍院のことか。

 

「違う。あれはただの手のかかる先輩だ。そもそも、女と歩いていただけで、それが恋人だとは限らんだろ」

 

「まぁ確かに……」

 

「そのクラスの奴に言っておけ。次からはちゃんとした根拠に基づいて喋ろってな。こっちからしたら迷惑でしかない」

 

 眉をひそめ、低く抑えた声で言い放つと、彼女達は身体をビクッと震わせた。俺が怒っていると思ったんだろう。少し言い過ぎたか、まぁいい。

 

「ご、ごめんね狡噛くん。私からも注意しておくからさ」

 

 一之瀬は胸の前で両手を合わせ、申し訳なさそうにこちらを見つめた。一之瀬の言葉に、網倉もウンウンと頷いていた。そして、一度も口を開かない白波は、一之瀬の背中にくっつくように身を隠しながら、半身だけを覗かせて俺をキッと睨んでいた。

 

「そうしてくれ」

 

 話している間にエレベーターが1Fに降りてきて、俺と橋本は乗った。一之瀬達は次でいいと言ったので「じゃあな」と一言掛けてエレベーターのドアを閉めた。

 

「なぁ狡噛、もっと言い方ってもんがあるだろ。

 一之瀬達怖がってたぜ」

 

 吉田の住む階に降りると、橋本が呆れた様子で話しかけてきた。

 

「勝手に噂されてイライラするのは分かるけどさ、お前デフォがちょっと怖いから、怒った時には余計怖く見えるんだよ」

 

「別に怒ってない。あれくらい何ともないさ。それより、吉田の部屋は何処だ?」

 

「ここだ」

 

 橋本がインターホンを鳴らすと、すぐにドアが開き、中から吉田が顔を出した。

 

「おっす、買い出しご苦労さん。みんな揃ってるから早く入れよ」

 

 玄関には4足の靴が揃えてあった。一つは部屋の主である吉田だとして、真田、清水、後は誰だ?

 

「狡噛君、橋本君、こんばんは」

 

「よぉ2人とも」

 

「買ってきてもらって済まないな」

 

 短い廊下を歩き、リビング兼寝室に着くと、こそには真田は床で正座し、清水は吉田のベッドに我が物顔で座っていた。そして、島崎が壁にもたれかかっていた。後1人は島崎の靴だったか。

 

「驚いたか? ワンチャン声かけたら釣れてよ」

 

「魚みたく言うな」

 

「ナイスツッコミ。まぁ適当に座ってくれよ。紙コップ用意するわ」

 

 そう言われたので、俺は菓子や飲み物が入ったビニール袋をテーブルに置き、空いているスペースに腰を下ろした。

 

「狡噛君、今日は何の会か知ってますか?」

 

「いや、何も知らない」

 

 真田も何故集まったのか分からないようだ。

 

「とりあえずじゃんじゃん開けようぜ」

 

 吉田は袋から買ってきたコーラをプシュッと開けて、自分の紙コップに注ぎ込む。各々飲みたいジュースを入れる中、俺は自分用に買ったお茶を入れた。

 

「よし、とりあえず乾杯しようぜ」

 

「何に乾杯するんです?」

 

 真田にそう言われて吉田は一瞬考えたが、清水を見たニヤッと笑った。

 

「そうだな………じゃあ、清水の西川への想いが実ることを願って乾杯だ!」

 

「おい、何言ってんだ吉田!」

 

「「「「「乾杯」」」」」

 

 暴露された可哀想な清水を置いて、俺達は紙コップを掲げて乾杯する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで吉田君、この男子会とやらは、一体何の集まりなんでしょう?」

 

 お菓子をボリボリと頬張る吉田に、真田が問う。

吉田は、食べる手を止めてジュースを喉の奥に流し込むと、一息ついたのちに話し出した。

 

「みんなに集まってもらったのは、今後のAクラスのことについてなんだ」

 

 吉田はチラッと清水と島崎に視線を向けた。

 

「それはどういう事ですか?」

 

 吉田には似合わず、真剣な顔をしていた。俺はお菓子を摘みながら、吉田の話に耳を傾けた。

 

「クラスの状況的に、これから先は坂柳がクラスを率いていくだろ? 俺や清水……後島崎も、元は葛城派閥だからさ、坂柳がどういった人物なのか、まだよく分かんなくて。スゲェ賢いのは知ってるんだけど………」

 

「坂柳さんがリーダーなのが不満なんですか?」

 

 真田の率直な質問に吉田は首を横に振る。

 

「不満というより不安、かな。坂柳に着いていくこと以外他に俺達の選択肢が無いのは事実だし。けどよ、坂柳ってなんて言うか………怖い感じがするんだよ」

 

 押せば簡単に倒れる坂柳が怖いと言う。なんだか笑えてくるな。

 

 葛城と坂柳は対極の存在だ。堅実的で石橋を叩いて進む葛城とは違い、坂柳は平気で汚い手を使ってくる。相手が渡る橋に爆弾を仕掛け、落ちていく様を自分は高みの見物。まぁ悪女だな。

 

「吉田君の話を聞いて貴方はどう思いますか橋本君」

 

 橋本が坂柳の側近であることは周知の事実。真田は部屋の廊下付近に座る橋本にそう尋ねる。

 

「吉田の考えてることは分かる。近くにいる俺も、坂柳を恐ろしいと感じる事は多々ある。坂柳は俺達とは違い、日々沢山のことを考えてる」

 

「真田はどう思うんだ? 最初から坂柳派だったろ」

 

「そうですね……僕が坂柳さんの派閥に入ったのは、葛城君よりも先に声を掛けてくれたのもありましたが、坂柳さんは、何処かカリスマ性を感じさせるものがあります」

 

 真田は、初めて坂柳と対面した日のことを思い出すように言葉を続けた。

 

「カリスマ性か、確かに言われたらそう感じるが、

 そもそもカリスマってなんだ?」

 

「えぇっと、なんて言えばいいですかね………」

 

 上手く言葉にできず悩んでいる真田を見て、俺はお茶を一口飲んだ後、こう語った。

 

「カリスマ性には3つの要素が有ってだな、まずは、英雄的・預言者的資質。次に、一緒に居て気持ちが良いという、シンプルな空間演出能力。そして、あらゆる事を雄弁に語るための知性………真田が坂柳に感じたのは、どのタイプだ?」

 

「……一番最後ですね。坂柳さんは、言葉の端々から知性を感じさせる人です。何気ない言葉一つを取っても、彼女の思考の深さが伝わってきました」

 

 俺の説明を聞き、もう一度考えた真田はそう答えた。確かに真田の言う通りだ。今の3つの内、それが最も彼女に当てはまる。

 

「狡噛、お前はどうなんだ? 坂柳についていくことに、不安はないのかよ」

 

「別に。過程はどうあれ、やっと俺達のクラスは一つになるんだ。今さら輪を乱したりはしない。大人しく従うとするさ」

 

「ちょっと意外だな。お前なら、坂柳にだって喰って掛かると思っていたのに」

 

「何言ってんだ吉田。狡噛と坂柳は仲が良いんだぜ。お前らは知らないだろうが、坂柳は俺や神室には一定の距離を保ってるが、狡噛に対しては気を許してる節がある。いや、絶対そうだ」

 

 橋本、またいらないことをベラベラと喋りやがって。口を縫っといた方がいいかもしれん。

 

「はぁ? お前いつから坂柳と…………なぁ狡噛、

 お前さ………白石とは、何もないんだよな?」

 

「白石?」

 

 何故ここで白石の名前が出てくる?

 

「吉田、悪いことは言わねぇ、流石に無茶だぜ。白石はAクラスの中じゃ一番男に人気がある、そして隣に座るのがイケメンランキング1位の狡噛とあっちゃ勝ち目はねぇよ」

 

 橋本の言葉に清水が同情の眼差しを吉田に向ける。

 というかそのランキング、まだ存在してたのか。

 

「狡噛、お前は白石のことが好きなのか?」

 

 俺の側まで四つん這いになって進んできた吉田は、膝立ちになると俺の両肩に手を置いた。吉田の険しい顔が、生半可な回答では許さないと言っている。

 

 吉田の言う好きは、友情としての好きではなく、きっと恋愛としての好きなんだろう。俺にとって白石は、良き隣人であると同時に、怪しい人物。彼女は何かを隠している。それを暴いてやりたいと思っている自分がいる。

 

「俺は、白石のことは友人として好ましく思っている、ただそれだけだ。他には何もない」

 

 俺は包み隠さず、今白石のことをどう思っているのかを、ハッキリと告げた。

 

「ホントか?」

 

「あぁ本当だ。ただ、騒ぎ出す前に言っておくが、

俺は夏休みに白石と出掛ける約束をしてる。許せ」

 

「なん……だと………」

 

 吉田の顔が、絶望の色にみるみる染まっていく。

先に知るか後から知るかの違いだが、先に知らせといた方が、後から裏切ったとか色々言われなくて済む。まぁ、これが正しい判断だったのかは、いまいち分からないが。

 

「というか、さっきから話の趣旨がズレてないか?」

 

「俺にとっては! 重要なんだよ!」

 

 俺の肩を両手で掴み、前後させ乱暴に揺さぶってくる。

 

「分かった、悪かったよ」

 

「うぅ……」

 

 吉田が涙目になっているのを、清水が後ろから肩を置いて「ドンマイ」と一声掛けた。それは逆に傷口を抉ることになるんじゃないか。

 

「なぁ狡噛、俺からも一つ聞いてもいいか?」

 

 今度は島崎から何かあるみたいだ。

 

「お前は一体、どんな勉強をしているんだ?」

 

「勉強?」

 

「これまでの中間テストと期末テスト、お前は全教科満点だった。授業中のお前の姿を見ていたが、ペンを走らせるわけでもなく、ただ黒板を眺めていた。それでどうして満点を取れるのか、俺には分からない」

 

 さて、どう答えたらいいものか。

 

「ただ黒板の文字をノートに書き写すだけなら、それはただの作業だ。俺は、自分の言葉に言い換えて頭の中で整理してる」

 

 島崎は不満な顔を露わにする。

 

「それは出来るヤツのセリフだ。俺は、お前みたいに器用な真似は出来ない。そんな人間は、一体どうしたらいい?」

 

 島崎の成績は、Aクラスの中では上位に位置していると記憶している。さらに自分を上へと押し上げる為に向上心があるのは良いことだが、残念ながら、俺から言えることは一つしかない。

 

「反復だ。それ以外にない」

 

 分からないのなら、分かるまで問題を解き続ける。出来ないのなら、出来るまで練習し続ける。時間は掛かるだろうが、一番確実な方法なのは間違いない。

それこそが、天才に対抗する為に凡人に残された唯一の手立て。

 

「やはりそれしかないのか……」

 

「だが、人間はその繰り返す動作を、いつか面倒だと感じてしまう。必要なのは、反復そのものよりも、

反復を続けられる精神力ーー言わばタフネスだ。自分が何故勉強するのか、その目的を明確に定めなければ、いずれ勉強すること自体が苦痛になる。そうなったらお終いだからな」

 

「目的……」

 

「目的を決めたなら、次は小さな目標を作っていくべきだ」

 

「小さな目標?」

 

「あぁそうだ。目的に到達する為に、いきなり大きな壁を乗り越えるようとするのは、かえって自分の首を締める。ならどうすればいいか。それは、小さな段差を積み上げていくんだ。自分が登りやすい、小さなステップ(目標)を積み重ねていけ。そうすれば、自ずと目的に手が届く」

 

「………………」

 

 島崎は俺の説明を聞くと、顎に手を当て下を向き黙ってしまった。今、島崎の頭の中では、自分の目的を明確化させているのか。それとも、既に自分が登る小さなステップ(目標)を考えているのか。

 

「………なんだか、狡噛君の言葉には説得力がありますね。思わず、聞き入ってしまいました」

 

 真田の言葉に、橋本は深く頷いた。

 

「あぁ、狡噛は偶に先生って感じがするんだよな。

将来は教師とか良いんじゃね?」

 

「どうだかな」

 

 教師か……俺にとっては色々と訳アリの職業だ。

 

「だいぶ話が逸れたが、清水と島崎は、吉田が言っていたように坂柳に対して不安はあるか?」

 

「無いと言えば嘘になるが、クラスのリーダーを引き受けてくれるのなら、文句は言えない。だが、本当にリーダーとしての実力があるかどうかは分からない」

 

「俺も島崎と同じだ」

 

「まぁそれもそうか」

 

 坂柳は表立って何かしてきたわけではない。常に葛城がクラスメイトの前に立って指示をしていた。元葛城派閥の奴らにとっては、心配はそこになる。だが、それはすぐに解消されるだろう。

 

「おい吉田、そろそろ元気出せよ」

 

「………おう、取り敢えずこれ全部食べよう」

 

 俺は、橋本に場を盛り上げろと視線を送る。すると橋本は立ち上がり、

 

「とりあえず今はこの辺でいいだろ。坂柳の事は、

2学期が始まってから各々が判断すればいい。よし! じゃあ今から清水が、西川の好きな所を5個言うから、

皆んなちゃんと聞けよ!」

 

 パンッと両手を叩いて清水に無茶を振る。

 

「いや言わねぇよ!」

 

 清水から直ぐにツッコミが入る。

 

 それから、シュンとした吉田を清水と橋本が慰めるも、吉田はヤケになってまだ開封していない菓子を全て開けては夢中になって口の中に放り込み始めた。その姿に俺や真田は苦笑し、島崎は、先程の俺のアドバイスから一人で考え込んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 男子会は門限ギリギリまで行われた。俺が部屋に戻った頃に、丁度時計の針が8時を指していた。とりあえずシャワーを浴びようと服を脱いだ時、携帯が鳴った。

 

「どうした橋本」

 

 電話の主は、ほんの数分前まで一緒に話していた橋本だった。

 

『今日は来てくれてありがとうな。お前が居てくれて、アイツらも楽しそうだったぜ。まぁ一人、心配なヤツはいるが』

 

 十中八九、吉田のことだ。

 

「悪いことをしたと思ってる」

 

『実際のところ、白石の事どう思ってるんだよ?』

 

 電話の向こうで、橋本のニヤついた顔が頭に浮かび腹が立ってきた。こんなこと聞く為にわざわざ電話してきたのか。俺はすぐ電話を切った。そして、数秒もしないうちにまた電話が掛かってきた。

 

『ちょ、ちょっと待った!』

 

「なんだよ?」

 

『さっきのは次いでで、本題は別にあるんだ』

 

「ならとっとと言え」

 

『今回の男子会で分かったと思うが、やっぱり元葛城派閥の奴らは、まだ坂柳のことを完全には信頼していない。なら次の特別試験は、絶対に勝ち星を取る必要があると思うんだ』

 

「……今回の男子会、主催は吉田だが、やろうと焚き付けたのはお前だな」

 

「やっぱ狡噛には分かるか。そうなんだよ。船に乗っていた時、吉田が今日のような不安を口にしていたから、他に同じ思いをしていそうなヤツを集めてもらったのさ。まぁあれで全員じゃないけどな」

 

 クラスメイトの心の内を聞きたかったわけか。そんな事しなくとも、坂柳の実力を前に、皆んな勝手に付いてくる、そうせざるを得ないと思うが。

 

「ご苦労なこった」

 

『お前も期待してるぜ狡噛。船の試験のようによ』

 

「あぁ。もうシャワー浴びるから切るぞ」

 

『おう、またな』

 

 

 

 

 

 

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