もう一人のホワイトルーム生です   作:パクチーダンス

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第15話 船上試験

 

 凡人から天才を作り出す場所、ホワイトルーム。俺はこの世界で生まれ落ちてからずっとこの白い部屋で生きてきた。この『世界』と言っても、俺にはこの白い部屋が『世界』そのものだった。

 

 この『世界』は、非人道的で俺含め集められた子供の人権を完全に無視していた。次々と脱落していく俺と同年代の子供達。最初はどのくらいいたのか一々覚えていない。

 

 だが、明らかに半数以上は居なくなっているだろう。脱落した人間の顔は今となっては覚えてすらいない。脳のメモリの無駄だ。知識を蓄えた方が遥かに合理的だ。

 

 今日も今日とて、俺たちにカリキュラムが与えられる。今回はペーパー試験。あらかじめ机の上に用意された用紙に書いてある問題を解くこと。俺は誰よりも早くその問題を解き終えてペンを置いた。

 

「止めろ」

 

 あの男が試験終了の合図を送る。すると、あの男の部下達が用紙を回収していく。

 

「用紙を渡しなさい」

 

 部下の一人が、今も用紙に殴り書きしている子供に注意している。それを見た時俺は、

 

(アイツはもうダメだな………)

 

 あの様子だと、試験時間まで問題を解けなかったようだ。回収された用紙を見て絶望の顔を浮かべている。

 

「席を立て。次のカリキュラムが待っている」

 

 あの男はそう言い残して去って行く。

 

「先生、少し宜しいですか?」

 

「なんだ狡噛?」

 

 まただ。また『あの子供』だ。あの男にまた質問をしている。今回のペーパー試験で理解できなかった場所を聞いているのだろうか。

 

 俺が気になったのはあの男の表情。あの男は、嫌な顔をしないで『あの子供』と接していた。むしろ、興味対象の一つとして見ているようだった。

 

 いつの頃か、俺は『あの子供』を目で追うようになっていた。格闘試験。驚いた事に、『あの子供』はよりにもよってあの男に反抗の態度を示した。これには、あの男の部下達も顔面蒼白だった。

 

 しかし、あの男は罰することはしなかった。不思議だった。この『世界』で、誰かを気遣うことができる『あの子供』に。だがその反抗も虚しく、対戦相手の子供は連れて行かれた。

 

 ステージから降りてこっちに歩いてくる。そして、俺の横に並ぶ『あの子供』に、俺は声を掛けずにはいられなかった。

 

「お前、何だ?」

 

「………何ってなにが?」

 

 それが俺、綾小路清隆と狡噛慎也のファーストコンタクトだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 無人島試験から3日。何事も起きることなく平穏な時間が流れていた。坂柳は特別試験が起きると言っていたが、本当にそうなるのか?

 

「お待たせしました」

 

 俺は今、豪華客船のレストランにきている。店員が運んできた料理に俺は手を合わせて食べ始めた。無人島試験後、ちゃんとした食事ができるという有り難みを、俺はしみじみと感じていた。

 

「ごちそうさまでした」

 

 再び手を合わせて、俺は席を立ち会計を済ませた。この後は特に何の用事もないし、船の中を散歩でもするか。

 

 レストランを出て廊下を歩いていた俺だったが、正面から歩いてくる女子生徒と目が合い、そして立ち止まった。

 

「アナタは………」

 

「久しぶりだな」

 

 Dクラスの堀北鈴音。そして、堀北学の妹。

 

「無人島試験では上手くやったようだな。これで一歩、Aクラスに近づけた」

 

「それAクラスのアナタが言うの?嫌味かしら?」

 

「そんなつもりはない」

 

 鋭い目つきで睨み付けてくる。素直な賞賛の気持ちだったんだが、堀北には逆効果だったようだ。

 

「Aクラスは何やら揉めていたようだけど。アナタのクラスは大丈夫かしら?」

 

 どうやら船内の中で、葛城が問い詰められている光景を見たようだな。

 

「そうか」

 

 つまらないように吐き捨てた俺の言葉に堀北は眉を顰めた。

 

「それで終わり?クラスの事に関心がないのかしら?」

 

「人の心配をしていて良いのか?今回はcpが増えて差が縮まったとしても、次負ければその差は無くなる。お前は依然として、気の抜ける状態じゃない」

 

「ッ………」

 

 堀北は顔を歪ませる。本当にAクラスまで登りたいのなら、次の特別試験の対策でもしてるんだな。

 

「じゃあな」

 

「待ちなさい」

 

 俺は堀北の横を通り過ぎようとすると、堀北に静止させる。

 

「何だ?」

 

「ねぇ、綾小路君って何者なの?」

 

 俺は体の向きを変えて堀北の正面に佇む。堀北は少なくとも、清隆が実力を隠している事を知っている。だが教えてやるわけにはいかないな。

 

「知りたければ、もっと清隆と仲良くなるんだな」

 

「仲良くって、彼はただの協力関係で……………」

 

 堀北の中では、清隆は友人にすら入っていないようだ。単なるクラスメイトというだけ。まぁいい。しかし、これだけは言っておかなければならない。

 

「清隆はいつも助けてくれるとは限らないぞ。だからアイツから、色々と学んでおかないとな」

 

「学ぶって何を?」

 

 そう聞き返す堀北に、俺は自分の頭に人差し指をトントンと当てる。

 

「頑張れよ」

 

 俺は再び歩き始める。背中に堀北の視線が当たっていたが、気にせず曲がり角を曲がってその場から去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は船の甲板に出ると、近くにあったベンチで腰掛けていた。そして、おもむろに目を閉じて潮風を感じていた時、誰かが近づいてくる足音が聞こえてきた。

 

「何してるんだ、慎也」

 

 抑揚のない平坦な声。俺は目を開けると、正面に清隆が立っていた。

 

「何も、ただ目を閉じていただけだ」

 

「そうか」

 

 清隆は俺の横に腰を下ろす。俺は周りに人の気配がないのを確認して清隆に話しかける。

 

「無人島試験、上手く実力を隠せたのか?」

 

「あぁ問題ない。すべて堀北の成果、ということにしてある」

 

「彼女がお前の隠れ蓑か」

 

 しかし、それにしては堀北自身の実力は清隆の実力を隠すのに適しているとは思えない。その内、誰かに気付かれるぞ。

 

「すまないが、ポイントを返すのはまだ先になりそうだ」

 

 清隆は以前、中間テストで赤点を取った須藤という生徒の為に、俺に5万ppを借りて担任教師に点数を売ってもらっていた。あの時のポイントはまだ返済されていない。

 

「あれか、別に返さなくていい」

 

「良いのか?」

 

「お前も、いつまでも節約生活は嫌だろ?」

 

「そうだな。そうするとしよう」

 

 生徒会長からもらったppとボードゲーム部から巻き上げたppのおかげで、今の俺の財布は潤っている。

 

「清隆、今度お前に紹介したい奴がいるんだ」

 

「オレに?」

 

「学校に帰ってしばらくしたら、また連絡する」

 

「分かった。待ってる」

 

 そうして俺たちは、ベンチから立ち上がって互いに逆の方向から去ろうとした。しかしその時、突如俺と清隆の携帯が同時に鳴った。

 

(何だ?)

 

 受信されたメールを確認しようと、俺たちは携帯を取り出した。そのほぼ同時に、船内のアナウンスが入る。

 

『生徒の皆さんにご連絡いたします。先ほど全ての生徒宛に学校から連絡事項を記載したメールを送信いたしました。各自携帯を確認し、その指示に従ってください。繰り返しますー』

 

俺は船内のアナウンスを耳で聞くと同時に、携帯を操作してメールに書かれていた内容を確認する。

 

『まもなく特別試験が開始します。各自指定された部屋に、指定された時間に集合して下さいー』

 

 俺はスラスラと目を通していく。指定された部屋、指定された時間を確認した後、俺は携帯から顔を上げる。

 

「ちょっと見てもいいか?」

 

「お前のもな」

 

 俺と清隆は互いの携帯の画面を相手に見せ合った。

 

「お前は20時40分、305号室か。オレと違うな」

 

 清隆のメールに書かれていたのは、本日18時の204号室。対する俺は、20時40分の305号室。場所も時間もバラバラだ。

 

「特別試験か」

 

 船の中での特別試験。体力テストやペーパーテストでは、流石にないだろうな。

 

「今、堀北からメールが来た。慎也とは時間が同じだが場所は違うな」

 

「そうか」

 

 今の所分からないことだらけだが、それはすぐに分かるだろう。俺は清隆と別れた後は、指定時間がやってくるまで部屋で仮眠をとっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 指定時間3分前、俺は指定された305号室にたどり着いた。俺はポケットから手を出し、部屋をコンコンとノックする。

 

「入れ」

 

「失礼します」

 

 許可を受けて俺は足を踏み入れる。するとそこには、同じクラスメイトの葛城、的場、西川の姿とDクラスの担任教師である茶柱先生の姿があった。

 

「あっ、狡噛君も同じなんだ」

 

 西川が俺に向かって手を振ってくる。

 

「狡噛、もうじき時間だ。早く座れ」

 

「はい」

 

 俺は空いていた西川の隣に座って時間を待つ。時計の針が20時を指し示した時、茶柱先生が口を開いた。

 

「時間だ。只今より特別試験の説明を行う」

 

 さて、今回はどんな内容なのか。

 

「今回の特別試験では、1年全員に干支になぞらえた12のグループに分け、そのグループ内で試験を行う。試験の目的はシンキング能力を問うものになっている」

 

 シンキング能力。ようは考える力ということ。

 

「社会人に求められる基礎力には大きく分けて3つある。アクション、シンキング、チームワーク。先の無人島特別試験では、クラスのチームワークが試された試験だった。そして今回はシンキング。現状を分析し、問題を明らかにする力。準備する力。創造力を働かせ、新しい価値を生み出す力。そういったものが必要となってくる」

 

 茶柱先生はさらに言葉を続ける。

 

「ここにいる4人は同じグループとなる。そして今の時間、別の部屋でお前たちと同じグループになる生徒に対して同じような説明が行われている」

 

 今の時間?ということはつまり…………。

 

「お前たちのグループ名は『辰』。そしてこれが、『辰』グループのメンバーリストだ」

 

 茶柱先生は机の中心に一枚の紙を置く。俺たちはその用紙に書かれている各クラスの名前を凝視した。

 

 

 

 Aクラス

 

 葛城康平 狡噛慎也 西川亮子 的場信ニ 

 

 Bクラス

 

 安藤紗代 神崎隆二 津辺仁美

 

 Cクラス

 

 小田拓海 鈴木英俊 園田正志 龍園翔

 

 Dクラス

 

 櫛田桔梗 平田洋介 堀北鈴音 

 

 

 

 何とも濃いメンツが集められたものだな。各クラスのリーダー的立ち位置の生徒が集められた感じだ。それにしては、一之瀬と坂柳の名前が無い。

 

「最後に、この特別試験のルールを説明する。特別試験の各グループにおける結果は4通りしかない。例外は無く、必ず4つのうちどれかの結果になるように作られている」

 

 

 

 ルール

 

 試験開始当日午前8時に一斉にメールが送られる。『優待者』に選ばれた生徒は、『優待者』に選ばれた事も書かれている。試験の日程は明日から4日後の午後9時まで(1日の完全自由日を挟む)。

 

 1日に2度、グループだけで所定の時間と部屋に集まり1時間の話し合いを行うこと。話し合いの内容はグループの自主性に全てを委ねるものとする。

 

 試験の解答は試験終了後、午後9時半から午後10時までの間のみ『優待者』が誰であったかの答えを受け付ける。解答は1人1回までとする。

 

 解答は自分の携帯電話を使って所定のアドレスに送信することでのみ受け付ける。『優待者』にはメールにて答えを送る権利が無い。

 

 自身が配属された干支グループ以外への解答は全て無効とする。試験結果の詳細は最終日の午後11時に全生徒にメールにて伝える。

 

 結果1

 グループ内で『優待者』及び『優待者』の所属するクラスメイトを除く全員の解答が正解していた場合、グループ全員に50万ppが支給される。『優待者』と同じクラスの生徒もそれぞれ同様のポイントを得る。『優待者』には100万ppが支給される。

 

 結果2

 『優待者』及び所属するクラスメイトを除く全員の答えで、一人でも未解答や不正解があった場合、『優待者』に50万ppが支給される。

 

 結果3

 『優待者』以外の者が、試験終了を待たず答えを学校に告げ正解していた場合、正解者に50万ppが支給される。また正解者の所属クラスは50cp得る。『優待者』の所属クラスは50cp失う。

 

 結果4

 『優待者』以外の者が、試験終了を待たず答えを学校に告げ不正解だった場合、答えを間違えた生徒が所属するクラスは50cp失う。『優待者』に50万ppが支給される。また『優待者』の所属クラスは50cp得る。

 

 

 

 俺はこの特別試験のルールと各結果を頭に叩き込んだ。

 

「説明は以上だ」

 

 そう言って茶柱先生は誰よりも早く部屋から退室した。俺も席を立ち、部屋に帰ろうとした時、

 

「まて狡噛」

 

「何だ?」

 

 俺は葛城に声を掛けられた。

 

「今回の特別試験、お前はどう動くつもりだ?いや、動くつもりがあるのか?」

 

 俺が特別試験に参加する意思があるのか問いているのか。

 

「ちゃんとディスカッションには参加する」

 

「……………」

 

 期待していた言葉ではなかったのか、葛城は黙って俺を見つめていた。

 

「ねぇ狡噛君。この試験、狡噛君ならどう攻略するの?」

 

 次は西川から質問が飛んできた。

 

「まだ始まってすらいないのにか。まぁ、『優待者』が誰か特定したいなら、クラス全員の携帯を一台一台確認するだけだ」

 

「そんなの誰だって思いつくよ」

 

「そんな簡単な事が出来ないのが今のAクラスだろ」

 

 俺が西川にそう言うと、側で聞いていた葛城は下を向いた。

 

「でもそれって、他のクラスだって同じじゃない?」

 

「いいや、そうでもないさ」

 

  BクラスとCクラスなら可能だと思うがな。

 

「じゃあな」

 

 俺は3人の残して部屋を退室した。

 

(今回の特別試験、坂柳はどう動くか……………)

 

 俺が自分の部屋に帰る途中、偶然にも曲がり角で明日のグループメンバーの一人と鉢合わせした。

 

「アナタ…………」

 

「堀北か、今日はよく会うな」

 

 堀北も試験の説明が終わり、部屋に帰る途中だったのだろう。

 

「嫌な偶然ね」

 

「そう言うな。明日からよろしく頼む」

 

「宜しくはしないわ。敵同士だもの」

 

 堀北は長い黒髪を靡かせながら、俺の横を通り過ぎていった。

 

(さて、俺ももう寝るか…………)

 

 

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