もう一人のホワイトルーム生です   作:パクチーダンス

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第16話 グループディスカッション 1回目

 

 俺は朝早くからカフェで堀北と待ち合わせしていた。その理由はもちろん、昨日知らされた特別試験のこと。約束の時間1分前に、堀北は姿を現した。

 

「遅かったな」

 

「まだ約束時間の前でしょう?グダグダ言わないで」

 

 呼び出しておいてそれか。常日頃からツンケンしている俺のクラスの隣人。堀北が席に腰を下ろすと、

 

「それで、学校からの呼び出しや詳細は一緒だったのかしら?」

 

 早速、昨日の出来事について聞いてくる。

 

「同じだ。12のグループ、4つの結果。そして、朝8時に来る学校からのメールで『優待者』を伝える話。違いを上げるなら、説明する先生が違うことだけだな」

 

 チャットでのやり取りを好まない堀北は、こうして人気の少ない朝で密談をする。

 

「堀北、グループメンバーと人数は?」

 

「見れば驚くわよ」

 

 驚く?堀北はそう言うと少し憂鬱そうに紙を差し出してきた。これはメモ。しっかりと他クラスのメンバーの名前を記録していたようだ。グループ名は『辰』。そのメモに書かれていたメンバーの名前に目を通す。

 

「………なるほどな。これは学校側が意図して組み合わせたものと考えていいな」

 

 俺が知るだけでも、Aクラスの葛城、Bクラスの神崎、Cクラスの龍園は、それぞれのクラスを代表するリーダー。Dクラスの中から選ばれた平田、櫛田もクラスを代表する優等生。

 

(慎也もいるのか………)

 

 メモの中には、同じホワイトルームで育った同郷の名前も。

 

「ここから察するに、12のグループにはある程度の法則があると見るべきかしら?」

 

 意図して組み合わされたメンバー。できれば他のグループリストも見せてもらって法則性があるのか知りたい所だ。

 

「しかし、お前のグループは大変だな」

 

 これだけ濃いメンツが集まると衝突は避けられない。特に龍園との相性は水と油だ。こればかりは仕方ない。決められた中で頑張るしかない。

 

「そろそろ時間ね」

 

 午前8時になったと同時に、俺と堀北の携帯にメールが届いた。

 

『厳正なる調整の結果、あなたは『優待者』に選ばれませんでした。本日の午後ー』

 

 学校側から届いたメールの内容は、俺が『優待者』ではないと告げるものと、試験の開始時間とその場所を伝えるものだった。

 

「俺もお前も『優待者』にはならなかったな」

 

「そのようね」

 

 互いに送られた内容を見せ合う。堀北の文章には、俺とほぼ同じ内容が書かれていた。違うのは時間と場所くらいか。

 

 何にせよ、俺たちは新たな特別試験に挑むことになった。そこで出会う他クラスの生徒、誰か『優待者』でどんな思惑が交差し、どんな結果に着地するのか。それにしても……。

 

(厳正なる調整の結果か…………)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 集合時間の5分前。指定された部屋へ向かう俺は、同じく指定された部屋に向かう途中の龍園とそのクラスメイト達と出会した。

 

「あ?何だよお前?」

 

 龍園の取り巻きの一人が、俺に対してメンチを切ってきた。Cクラスはこんな奴らばっかなのか?

 

「オイどけ。ずいぶん久しぶりじゃねぇか狡噛」

 

 取り巻きの一人を強引に横に退かせ、龍園は一歩前に出る。相変わらず人を寄せ付けないイカつい顔だ。

 

「ハンッ、一人寂しく歩いてたのか?葛城はどうした?」

 

 俺の周りに誰もいないことから、鼻で笑われた。

 

「知らん。もう向こうに着いてるだろ。逆に、お前には友達がいて楽しそうだな」

 

 俺は龍園の後方、取り巻き達を見てそう言った。

 

「言ってろ。テメェはまだ一匹狼か。それとも坂柳の下に降ったか?」

 

「………………」

 

 龍園は顔を下から覗き込むようにして俺を睨みつける。コイツ、誰かに噛み付かないと気が済まないのか?

 

「今回の特別試験で、テメェを図ってやるよ狡噛」

 

 ニタリとした笑みを浮かべる龍園。まったく困った奴だ。

 

「勝手にしろ。そろそろ時間だ。行くぞ」

 

「仕切ってんじゃねぇよ」

 

 俺は龍園とその取り巻きと共に指定された部屋に入っていく。中には既に、俺たち以外の生徒が待っていた。Aクラスの連中は、俺が龍園と一緒に入ってきたことに少なからず驚いていた。

 

「遅かったな狡噛。龍園と何か話していたのか?」

 

「全く。向かう途中にバッタリ会っただけだ」

 

 大きなテーブルを囲うように席についている『辰』グループのメンバー。俺は空いている葛城と西川の間の椅子に腰を下ろす。龍園率いるCクラスも、空いている残りの席に座る。

 

 俺は右から順にメンバーの顔を確認する。今まで会ったことも話したことも無い人物や、既に何度か話したことのある人物までぐるりと見渡した。

 

『ではこれより1回目のグループディスカッションを開始します』

 

 集合時間から程なくして試験開始のアナウンスが流れた。簡潔で短いアナウンス。後は好きにしろということか。

 

「さて、どうしようか。初めましての人もいるし、ここは自己紹介でもどうかな?」

 

 最初に口を開いたのはDクラスの平田だった。確かに平田の言う通り、俺も初対面の人物は何人かいる。試験は4日も続くため、ある程度互いを知っていた方が良いのかもしれない。

 

「そうだな、俺も賛成だ」

 

 Bクラスから平田の意見に賛同の声が上がる。

 

「私も賛成かな。多少なりとも相手を知れたら話を円滑に進めやす「ハッ、自己紹介なんざどうでもいいだろ」

 

 櫛田の声に被せてきたのは龍園。早速話を乱す奴が現れた。まぁ、予想していた事だが。

 

「まず、お前らがどの結果を考えてるのか話せ。俺が話すのはそれからだ」

 

「ずいぶん偉そうね貴方」

 

「何だ鈴音?俺に構って欲しいのか?」

 

「悍ましい事言わないでくれる?それと、私の名前を気安く呼ばないで」

 

 早くもこのグループで最初の口論が始まる。それにしても、下の名前で呼ぶなんて龍園は堀北に気があるのか?それとも揶揄ってるだけか?

 

「そうかい。なら僕から言わせてもらおうかな。僕としては、『優待者』は自分から名乗り出てくれて、皆んなで結果1を目指したいんだ」

 

 結果1。全員にppが獲得する誰も不幸にならない結果。平田は席から立ち上がり、演説するかのように皆にそう告げた。

 

「それは俺たちBクラスも考えていたことだ。俺たちBは平田の意見を支持する」

 

 Bクラスを代表して神崎がそう発言する。Bクラスは試験開始前から結論が出ていたようだ。

 

「あまちゃんの考えそうな事だぜ。そんなもん却下だ却下」

 

 龍園は鼻で笑い、平田の意見を切り捨てる。

 

「何故だい龍園君」

 

「俺が求めるのは結果3。俺は必ず『優待者』を見つけ出す」

 

 先の無人島試験で0ポイントのCクラスは、今回の特別試験でcpを獲得し、マイナスをチャラにするつもりだろう。

 

 このディスカッションぎ始まる前からわかっていた事だが、このグループで意見が一致することはまず無いだろうな。

 

「なら何故、先に話せなんて言ったのよ。貴方は最初から協力する気が無かった。私達を揶揄っていたの?」

 

「テメェらがどんな結果を選ぶか興味があっただけだ。だがまぁつまらねぁな。そんなんじゃいつまで経っても上にはいけねぇ」

 

 龍園の言うことは一理ある。結果1の選択だとただppが増えるだけ。それも良いかもしれないが、cpは変わらない。

 

「Aクラスはどうなんだ葛城。お前達は俺たちの意見に賛成か?それとも龍園と同じか?」

 

 神崎は龍園から葛城へ視線を流し、Aクラスの意向を聞こうとする。俺も葛城が何を考えてるのか気になる。

 

「俺達は話し合いに参加しない」

 

 葛城は腕組みをしながら皆に告げる。

 

「余計な話し合いをせず試験を終えること、それがAクラスの考えだ」

 

「信じられないわね。これじゃあAクラスに『優待者』がいると思われても仕方ないわ」

 

 葛城に話しながら、堀北はチラッと俺の方へ視線を向けた。

 

「どこのクラスに『優待者』がいるのか、そんなことはどうでもいい。いや関係がない」

 

「どういうこと?」

 

 堀北は葛城の発言に疑問を覚える。

 

「この試験で絶対避けたい結果は何だと思う?」

 

 それは堀北に言うだけでなく、やや大きめな声量でこの部屋にいる全員に語り聞かせるものだった。

 

「『優待者』の正体を誰かが見破り、裏切ること」

 

 堀北は数秒の時間を要して葛城の問いに答えた。

 

「そうだ。裏切り者を生み出すのが敗北に繋がる。裏切り者が正解しようと失敗しようと、どちらにせよ敗北だ。なら逆に、それ以外の答えはどうなる?」

 

 なるほどな葛城。お前が何を考えているのか分かってきたぞ。

 

「………マイナスがない。と言うことか?」

 

 葛城の考えにたどり着いた神崎がそう発言する。

 

「そうだ。残り2つの結果。結果1と結果2にはデメリットがない。クラスポイントが詰まることも開くことも無い。わさわざ危険を負うことはない」

 

 葛城はこのまま静観する腹づもり。それは的場も同じだろう。西川は分からないが、試験が開始してから一言も話さないあたり、昨日俺が去った後に葛城と話し合ったのだろう。

 

「狡噛君、君も同じ意見なのかい?」

 

 堀北と葛城を交互に見て、しばし沈黙していた平田が俺に話を振ってきた。俺がクラスで何処の派閥にも所属していないことを知っての発言か?

 

「俺は話し合いに参加してもいいぞ」

 

「おい狡噛、お前また勝手なことを!これは決定なんだぞ!」

 

 葛城の隣に座る的場が、テーブルに身を乗り出して俺を睨みつける。

 

「その決定に、俺は覚えがないな」

 

 俺のいない場所でそんな決定がされていたのか。身に覚えが全くない。最初から俺を外していたんだろう。ならこっちも勝手にさせてもらう。

 

 BクラスとDクラスは結果1、Cクラスは結果3、Aクラスは静観。さて、これからどうするか………。このまま見合いが続いていてもつまらないな。

 

「どうした狡噛?」

 

 席から立ち上がる俺に葛城が反応する。

 

「このまま睨み合っても何の進展もない。ここは一つ、トランプでもどうだ?」

 

 俺はあらかじめ用意して来たトランプカードをポケットから取り出した。

 

「結構よ、遊びに来たんじゃないもの」

 

 堀北は阿呆らしいと言った感じで切り捨てる。他のメンバーの反応もイマイチだ。せっかく持って来たのにな。仕方がない。

 

「龍園」

 

「何だ狡噛?俺を遊んで欲しいのか?」

 

「このグループでは意見の一致は出来そうにない。ただ時間を浪費するのもなんだ、俺と遊んで時間を潰さないか?」

 

「ハッ、誰にも相手にされなくて悲しいな狡噛。俺が遊んでやるとでも?」

 

 俺を嘲笑う龍園。そう言うと思って、俺はポケットから携帯を取り出した。

 

「俺が『優待者』かどうか見せてやるから、少し付き合え」

 

「なっ!?何を言うんだ狡噛!?」

 

 葛城が声を上げる。当然の反応だ。他のメンバーも少なからず驚いた表情を浮かべている。俺は龍園以外のCクラスの表情を見る。

 

「どういうつもりだ?」

 

 俺の行動が理解出来ないだろうな。深い意味など全くない。

 

「俺なりにお前を図ろうとしているんだ」

 

「止めるんだ狡噛。お前は今、Aクラスの不利益な行動をしている。それを分かっているのか?」

 

「言っただろ。俺は勝手にやるとな」

 

 葛城からの非難を浴びるが俺は無視する。

 

「………ククク、いいぜ狡噛。お前と遊んでやるよ」

 

 龍園は俺の誘いに乗った。

 

「待ちなさい!」

 

 ガタッと勢いよく席を立ったのは堀北。信じられないと言った感じで俺に目を向ける。

 

「みすみす他クラスに情報を提供するなんてふざけているとしか言いようがないわ。たとえ貴方が『優待者』でなくとも人数が絞られてしまう。それが分かっているの?」

 

「済まない、他にも参加は受け付けているだろうか?」

 

 堀北に続いて席から立ち上がったのは神崎。

 

「おいおい、さっきと違って甘い蜜を吸おうと虫が集まって来やがったなぁ」

 

 酷い言い方だが、俺がメールを開示すると聞いて、ゲームに参加する人数が増えて来たのは間違いない。

 

「構わない。定員は後一名だ。他はどうする?」

 

 A、B、Cのクラスから一名集まったとなれば、残るはDクラスだけ。俺はDクラスの方へ、主に堀北に視線を向ける。

 

「堀北、お前はやらないのか?」

 

ここで俺は、平田や櫛田が出てくる前に堀北に声を掛けた。

 

「………良いのかしら?私が参加しても」

 

 堀北は先程断った手前、自分もやりたいと言えずにいた。

 

「一度断った奴を入れるのか狡噛?」

 

「ッ………」

 

「さっきとは状況が変わったのは分かるだろ龍園。そう、意地悪してやるな」

 

 俺は目で「早く来い」と堀北に促す。

 

「なら、お言葉に甘えさせてもらうわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お互いが近くなるように席を座り直した俺たち。

 

「何をやるんだ狡噛?」

 

「ポーカーをやろうと思っているが、ルールは分かるか?」

 

 堀北、龍園、神崎と視線を移すが、誰も何を言わないのでルールは全員知ってるようだ。

 

「待てよ狡噛、先にメールを見せろ。話はそれからだ」

 

「あぁそうだな」

 

 俺は携帯を皆が見えるように置いてメールを開く。それを三人は凝視する。

 

「だろうな……」

 

 龍園はポツリと呟く。俺は『優待者』ではない。皆は薄々気が付いていたようだが、見せられるまでは半信半疑だったろう。

 

「さて、残りの時間は俺との遊びに付き合ってもらおうか」

 

 俺はトランプカードをケースから取り出してシャッフルする。そして俺、堀北、龍園、神崎、という順番でカードを渡していく。

 

「この遊びに意味なんてあるの?」

 

 配られた手札を確認しながら、そう発言する堀北。

 

「遊び自体に意味はない。遊びは会話する場を設けるための手段に過ぎない」

 

 俺は手札二枚をチェンジする。

 

「狡噛、お前は今の時点で『優待者』が何処のクラスにいると考えてる?」

 

 そう言って龍園は一枚チェンジする。

 

「何処のクラスにいるか分からないが、何処のクラスにいないのかは一つ分かっている」

 

「ほう、それは何処だ?」

 

「お前のクラスだ龍園」

 

 堀北と神崎は手元のカードから顔を上げて俺と龍園を交互に見る。龍園は不気味に微笑んでいる。

 

「何故そう思うんだ狡噛」

 

 神崎は手札から二枚捨てて二枚チェンジする。

 

「俺が龍園にメールを開示すると言った時の龍園以外のCクラスの表情だ」

 

「表情?」

 

 堀北は俺に疑問をぶつけながら三枚チェンジする。

 

「人は言語以外にも様々なサインを発している。口の動き、目の動き、呼吸、仕草、それら全てを踏まえて俺はCクラスに『優待者』がいないと判断した」

 

 これをノンバーバルコミュニケーション。または非言語コミュニケーションという。

 

「そのような事が、貴方には分かるの………?」

 

「堀北、お前がAクラスへ上がりたければ学んでおいて損はない」

 

「チッ、後でアイツらには説教だな」

 

 龍園の低いトーンで放つ言葉に、Cクラスの面々は顔を青ざめる。

 

「認めるのね?龍園君」

 

 堀北の言葉に答えず、龍園はギラリと光る瞳を俺に向けてくる。

 

「狡噛、お前を認めてやるよ。侮ってはいけない奴だとな」

 

「ショーダウンだ」

 

 俺の言葉で皆が一斉に手札を公開する。

 

 

 狡噛慎也 7と8のツーペア

 

 堀北   役なし

 

 龍園   1が三枚と4が二枚のフルハウス

 

 神崎   10のワンペア

 

 

「運がいいわね、龍園君」

 

「逆に鈴音、お前は運が無いな。運にも見放されたとなりゃ、お前の実力はそこまでだ」

 

「次だ、カードを回収する」

 

 俺はカードを回収してシャッフルする。そして、十分に混ぜた山札からさっきと同じ順番でカードを配っていく。

 

「!」

 

 堀北と神崎が配られたカードを確認する中、龍園だけが俺の方をジッと見ていた。いや、正確には俺の手を。

 

(気が付いたか龍園………)

 

 その後、龍園は俺に視線を外してカードを確認するとニヤッと口角が上がった。

 

「三枚チェンジ」

 

 龍園は山札から三枚引いて交換する。

 

「狡噛、お前はクラス間の争いに興味がねぇんじゃ無かったのか?何故今になって動き出した?」

 

 山札から引いたカードを確認し、龍園は俺に問う。

 

「俺はこれから坂柳に力を貸すことにした」

 

「狡噛、それは本当か?」

 

 離れた場所で俺たちを見ていた葛城が聞いてくる。

 

「あぁ、坂柳とそう約束したからな」

 

「ククッ、これから益々面白くなるじゃねぇか。お前と坂柳を潰すのか待ち遠しいぜ」

 

 俺は手札を二枚交換する。

 

「坂柳ばかり気を取れてて良いのか?お前の前にはBクラスがいるだろ」

 

「あん?仲良しこよしのコイツらなんぞ相手になるかよ?」

 

 龍園が親指で神崎を指す。

 

「あまり内を舐めないでもらおうか。暴力しか頭にないお前達Cクラスなんぞに負けるつもりはない」

 

 神崎も負けず劣らず龍園に発言する。

 

「私達も忘れてもらっては困るわ」

 

「鈴音、テメェらは相手になんざならねぇよ。入学して早々全てのポイントを吐き出した馬鹿どもにな」

 

「ショーダウンだ」

 

 

 狡噛慎也 役なし

 

 堀北   5と9のツーペア

 

 龍園   10のワンペア

 

 神崎   役なし

 

 

「今回は私の勝ちのようね」

 

 堀北は勝負の結果に満足な顔をして龍園を見る。

 

「時間的に次が最後だな。カードを回収する」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最後のゲーム。私は狡噛君から配られたカードを確認する。私の手には、8が三枚揃っていた。

 

「ただのポーカーじゃつまらなくなって来たな。おい狡噛、最後のゲームはポイントを賭けねぇか?」

 

「俺は別に構わないが、、、」

 

 龍園君の申し出に承諾した狡噛君は私と神崎君を見る。私の手札は十分勝負できるもの。乗るしかないわ。

 

「私もいいわ」

 

「俺も良いぞ」

 

 神崎君も勝負に乗った。余程良い手なのかもしれない。だけどそれは私も同じこと。

 

「ポイントの額はいくらだ龍園」

 

「1万ppだ」

 

「高い、1000ppだ」

 

「チッ」

 

 流石の私も1万ppも賭ける事は出来ないわ。だけどこれに勝てば、3000ppも手に入る。

 

「俺は二枚チェンジする。龍園お前はどうする?」

 

「なら俺は一枚だ」

 

「俺も一枚チェンジだ」

 

 私はどうすべきかしら。残りの二枚を交換して最後の8を引くことを祈るか、一枚交換してフルハウスを狙うか。

 

「何モタモタしてやがる鈴音。早くどうするのか選べ」

 

 龍園君が私を焦らせてくる。これは考えても仕方ないわ。どうせなら強い役が来た方が嬉しい。二枚チェンジしましょう。

 

「二枚チェンジするわ」

 

 私は手札から二枚捨てて山札から二枚カードを引く。残念だけど、数字は重ならなかった。

 

「さぁ、ショーダウンだ」

 

 狡噛君が合図した瞬間、私は手札をテーブルの上に晒した。8のスリーカード。これよりも強い役は早々完成しない。さぁ、みんなの手札は……………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 狡噛慎也 7が二枚と9が三枚のフルハウス

 

 堀北   8のスリーカード

 

 龍園   ロイヤルストレートフラッシュ

 

 神崎   13のスリーカード

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………は?」

 

 私は状況が理解できずに思考が停止していた。

 

「俺の勝ちだな。ポイントを寄こしな」

 

 龍園が早く寄越せと手で促してくる。

 

「これは、一体どういう事だ?」

 

 動揺していたのは私だけじゃない。神崎君も同じだった。テーブルの上の状況に困惑していた。こんなのあり得ない。一体どんな確率なの。

 

「こんなの、あり得ないわ」

 

 私は自然とそう口にしていた。

 

「あ?」

 

「おかしいわ。だってこんなの明らかにおかしい。イカサマしているわ」

 

 これが運だとしたら神様はふざけている。

 

「おいおい鈴音、一体何言い出すんだ?俺がいつイカサマしたってんだよ?」

 

 私が見落としてた?いいや違う。龍園君がイカサマしている様子は見られなかった。なら、

 

「狡噛君、貴方ね」

 

「何のことだ堀北?」

 

 彼は私に対して惚けた顔をする。

 

「貴方がわざと龍園君にいい役になるようにカードを渡していたんでしょう」

 

「そう思うのなら俺がイカサマしていたという証拠を出すんだな」

 

「クッ………」

 

 分からない、私の目からは狡噛君がイカサマをしているようには見えなかった。

 

 でもおかしい。イカサマするなら、何故自分のカードをいい役に揃えないの?そう思考しているうちに、狡噛君はポケットから携帯を取り出した。

 

「龍園、ついでに連絡先を交換しないか?」

 

「………なるほどな。いいぜ狡噛、今の俺は気分が良い。ほらポイントを渡しな」

 

 狡噛君はポイントを龍園君に支払っている。私も渡さなきゃいけないの?イカサマをしていると分かっているのに。

 

「堀北、これは俺たちの負けだ」

 

「神崎君………」

 

「俺たちは良いようにしてやられたようだ。この二人にな」

 

 悔しそうな顔をする神崎君。私は拳に力が入る。悔しい。良いように扱われてしまった事に。自分がイカサマを見抜けない事に。

 

「ほら後はお前だけだ鈴音。ポイントを寄越しな」

 

 私は言われるがままに携帯を差し出して1000ポイントを龍園君に譲渡した。

 

『時間です。1回目のグループディスカッションを終了します』

 

 胸のモヤモヤが晴れない中、こうして1回目のディスカッションが終了した。各クラスがそれぞれ退室していく中、私は一人座ったままだった。

 

「行こう、堀北さん…」

 

「……ええ、分かってるわ」

 

 平田君が声を掛けてきて、私はようやく椅子から立ち上がった。すると、部屋を出たすぐ右に狡噛君が壁にもたれて立っていた。

 

「狡噛君、どうしたんだい?」

 

「少し堀北を借りるぞ」

 

「私……?」

 

 狡噛はそう言うと、私達が帰る方角と逆の方へ歩き始めた。私は平田君と櫛田さんと別れて狡噛君の後を追う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何処に着くつもりなの……?」

 

「……………」

 

 狡噛君は喋らない。何処に向かっているのか分からないけど、私はただ狡噛君について行くことしかできない。

 

 黙って後を追うと、この船の職員しか立ち入らないような人気のない廊下に立ち入り、そこで足を止めた。

 

「それで、私に何のようかしら?」

 

「堀北、お前は龍園翔をどれくらい知ってる?」

 

「龍園君を……?」

 

 狡噛君は私に背を向けたまま話して来た。

 

「何故そんなことを聞くの……?」

 

「いいから」

 

「…………彼は狡猾で卑劣、人を暴力で支配するという、私が今まで見て来た人間の中で一番最低な男」

 

 私は龍園君の評価を嘘偽りなく答えた。すると狡噛君が微笑した。

 

「そこまで理解しているなら話は早い。今回の特別試験、お前は何処のクラスが有利だと思ってる?」

 

「有利?まだ始まったばかりなのに?」

 

 狡噛君は体の向きを変えて私と向かい合う。

 

「違うな。その意識ではお前はこの特別試験、龍園のいいようにされるぞ」

 

「どう言う意味なの………?」

 

 龍園君のいいようにされる?私が何か見落としていると言うの?狡噛君はポケットから手を取り出して、指を三本立てる。

 

「今日にでも、龍園は少なくとも3人の『優待者』が分かる」

 

「!?…なぜそんなことが言えるの?」

 

「『優待者』が各クラス3人ずつ均等に選ばれているとして、龍園はその3人を知る術を持っている」

 

「知る術?………それは何なの?」

 

「それは堀北、さっき龍園についてお前自身が言ったことだ」

 

 私が言ったこと?過去の発言を思い返してみる。私の龍園君の人物像。まさか、信じられないけど私は一つの答えに辿り着く。

 

「クラスメイトを暴力で脅して、クラス全員の携帯を見たというの…………?」

 

「あり得ないと切り捨てられないだろ?なんせ龍園だからな」

 

「何故嬉しそうな顔をするの……?」

 

 小さく笑う狡噛君。今の何処に笑う要素があったのか私には分からないのだけれど。

 

「やり方は到底褒められたものじゃない。だが、龍園はお前よりも先をいってる」

 

「!?………けどそれは、貴方達Aクラスも同じことでしょう?それとも、もうすでに裏で繋がっているのかしら?」

 

 私は遠回しに龍園君に劣っていると言われているようで腹が立った。

 

「あのゲームの事は試験とは何の関係もない。ただの遊びだといったろ」

 

「龍園君と結託して私の困惑した表情を見れたことが、そんなに楽しかったかしら?」

 

 私はムキになって狡噛君に当たっているが、彼は涼しい顔を崩さない。

 

「あぁ傑作だった」

 

「クッ!」

 

 私はグッと拳に力が入る。今すぐにコンパスで刺してやりたいけど手持ちがないわ。感謝するのね。

 

「堀北、今のお前は清隆の隠れ蓑としては力不足だ」

 

「何の話……?」

 

「惚けなくて良い。無人島試験でDクラスが1位をとったのも清隆の采配だ。お前じゃない」

 

「貴方、知っていたの………」

 

 狡噛君の言うとおり、私の力じゃない。私は途中でリタイアしてしまった。綾小路君は功績の全てを私に譲ったけど、私はあの無人島試験で何の力にもなれなかった事を未だに悔やんでいる。自然と顔が下に下がっていく。

 

「坂柳か……」

 

 狡噛君は携帯を操作している。さっき言ってた坂柳という人と連絡をとっているのかしら。

 

「すまんが急用が入った。勝手で連れて来て悪いな」

 

 狡噛君は来た道を戻っていく。

 

「待って!」

 

「何だ?」

 

「何で私に龍園君のことを教えたの?敵対するクラスに教えるメリットなんてないのに」

 

 狡噛君は私の声で足を止めた。

 

「成長するんだ堀北。清隆のためにも、自分自身のためにもな」

 

 そう言い残して狡噛君は再び歩き出した。私は彼の背中が見えなくなるまで後ろ姿を見ていた。

 

 

 

 

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