もう一人のホワイトルーム生です   作:パクチーダンス

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第17話 1回目を終えて

 

「あら?狡噛君ではありませんか」

 

「椎名」

 

 堀北との会話を切り上げて坂柳のいる部屋に向かっていた俺は、目の前から歩いてくる椎名と出会い足を止めた。

 

「とても久しぶりな気がします」

 

「確かにそうだな」

 

 放課後はよく図書室へ行き椎名と会ってはいるが、船に乗ってからここ一週間と少し、彼女とは会う機会がなかった。

 

「学校に帰ったらまた会う機会は増えるさ。その時にまた、オススメの本を紹介してくれ」

 

「はい、喜んで」

 

 椎名は笑顔で答える。彼女の笑顔に釣られて俺も小さく笑う。

 

「ひよりと仲が良いとは知らなかったぜ、狡噛」

 

「龍園、何しに来たんだ……?」

 

 椎名が歩いて来た方向から龍園がニヤニヤとしながら現れた。

 

「なに、一応礼を言ってやらねぇと思ってな。お前のお陰で雀の涙程だが稼がせてもらったからよ」

 

 3000ppを雀の涙と例えるとはな。まぁこの試験の結果次第で得られるポイントと比較したら、微々たるものであるのは間違いないが。

 

「おや?龍園君と狡噛君はお知り合いですか?」

 

「同じ『辰』グループなんだ」

 

「そうでしたか、龍園君と仲良くなるとは凄いですね狡噛君」

 

 ニコニコと微笑む椎名。少し誤解しているようだ。俺と龍園は別に仲が良いというわけではないんだが。

 

「意外にも龍園君は本を読まれるんですよ。今度三人でオススメの本を紹介し合うのはどうでしょうか?」

 

 龍園をディスりながらも一人話を進める椎名。龍園は頭を押さえてやれやれといった感じだ。苦労しているようだな。

 

「オイ椎名、俺は狡噛と話があるんだ。何処か行ってろ」

 

 龍園はシッシッと手で椎名を追い払おうとする。

 

「分かりました。それではまた、狡噛君」

 

 椎名は離れる際、少し悲しそうにしながらも手を振って歩いて行く。

 

「ったく、アイツの相手は疲れるぜ」

 

「そう邪険にしなくてもいいだろ」

 

 龍園は「はぁ〜」と深いため息を吐いた。

 

「アイツのマイペースさには手を焼くんだ。そんな事より狡噛、お前は人を持ち上げるのが上手いようだな。最後のゲーム、俺に勝ちを渡すとは」

 

 やはり用件はさっきの特別試験での事か。

 

「お前は途中から分かっていただろ?もしあの時、自分の手札が悪かったら俺のイカサマを指摘するだろうからな」

 

 それに、1000ppで龍園の連絡先を入手できた。普通に言っても交換してくれないだろうし。安い買い物だ。

 

「あの時、お前のイカサマに気がついたのは俺だけだった。鈴音や神崎のアホ面は見ていて愉快だったぜ」

 

 クククと肩を揺らして笑う龍園。

 

「だが一番驚いたのは狡噛、テメェのイカサマのレベルさ。最終ゲーム、俺の手札はまだ完成していなかった。その時イカサマを暴露してやろうかと思ったが、山札を引いた時確信したぜ」

 

 龍園の鋭い瞳は、俺のイカサマの全貌を把握しているようだ。

 

「お前はシャッフルの時点で、どのカードがどの順番で来るのかもすべて把握していた、違うか?」

 

「よく分かったな」

 

「しかも、俺の役が揃うようにカードを交換する順番を上手く誘導していた」

 

 龍園の推測は当たっている。俺は、ほんのわずかにカードの柄と数字が見える角度からシャッフルしていた。その時、皆の役が揃うように上手くカードを仕組んでいた。

 

 ボードゲーム部の先輩とポイントを賭けて勝負していた時、相手はイカサマの連続だった。だがそれを逆手に取って俺は勝利しポイントを巻き上げた。それ以降、俺はトランプカードを購入し、イカサマの技をスマホで調べては暇な時に練習していた。

 

「中々手癖が悪いようだな」

 

「数少ない特技の一つだ」

 

 今度森下で遊んでやろうと思っていたがアイツも意外に鋭い。バレるようではまだまだかな。

 

「次も楽しませてくれよ」

 

 龍園は俺の肩をポンと叩いて通り過ぎていった。

 

(そろそろ行かないとな…………)

 

 俺は急足で坂柳の場所まで向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 坂柳の部屋の前に辿り着くと、俺は部屋を三回ノックする。すると扉から顔を出したのは神室だった。これ、前にもあったな。

 

「遅い、何処で油売ってたの?」

 

「すまん」

 

「いいから早く入って」

 

 坂柳からメールを受け取ってから幾分か時間が経ってしまった。素直に謝罪しなければな。

 

「待たせてしまって済まない、坂柳」

 

「別に構いませんよ、呼んだのはこっちなんですから」

 

 俺が遅れた事に対する謝罪を坂柳は微笑みで返す。

 

「それで、俺を呼んだ理由は何だ?」

 

 パタンと扉を閉める神室。今回は退室せずにここに止まるようだ。まぁここは神室の部屋でもあるから、当然と言えば当然だ。

 

「今回は随分と動かれていたようですね」

 

 もう知っているのか。

 

「耳が早いな。誰に聞いたんだ?」

 

「西川さんです」

 

 アイツか、坂柳の派閥だったとは知らなかった。

 

「迷惑だったか?」

 

 坂柳は首を横に張る。

 

「とんでもありません。私は狡噛君がやる気になってくれて嬉しく思います。今回狡噛君が動いた理由は、一之瀬さんを除く各クラスのリーダーがどの程度なのか見たかったから、ですか?」

 

「あぁ、そうだ」

 

 あのグループに一之瀬がいなかったのは残念だったが、今の1年生の各クラスの筆頭がどれ程の人物なのかを俺は知りたかった。

 

「まだ1回目が終わったばかりですが、如何でしたか?」

 

「正直言って、龍園が際立って見えたよ。他の奴らが霞んでしまう程に」

 

「狡噛君がそこまで評価するとは、龍園君もやりますね」

 

 龍園と坂柳は、4クラスのリーダーの中でも抜きん出ていると俺は思う。常識破りで斬新な手口を使う龍園と圧倒的な知略を展開する坂柳。

 

「柄にもなく、少し楽しいと思い始めている」

 

 闘争に興味のない俺の体が少し熱を帯びている、そんな感じがする。そう言うと、坂柳はクスリと笑った。

 

「フフ、それで良いと思います。狡噛君がやる事に私は何も言いません。ご自由になさって下さい」

 

「良いのか?お前の作戦に支障がきたさないよう、先に言って欲しいんだが」

 

 現時点で、坂柳はAクラスの『優待者』をどれくらい把握しているのだろうか。

 

「いいえ、それには及びません。今回の特別試験、私は参加していませんので」

 

「え?」

 

 坂柳の流れるような発言で、俺は一瞬耳を疑った。

 

 前から疑問だった。俺達の『辰』グループの中に坂柳の名前が無いのが。Bクラスのリーダーである一之瀬の名前が無いのもそうだが、何か理由があるのかと考えていた。しかし、本当は試験に参加していなかったとはな。

 

「私が豪華客船に乗れたのは、学校側の配慮なんです。無人島試験という厳しい試験があるからこそ、生徒達はこの豪華客船に乗れている。しかし、私はこの身体ですので試験に参加出来ない」

 

 さらに坂柳はこう言葉を続けた。

 

「私は学校側から条件を付けられました。皆さんと一緒に豪華客船に乗れますが、特別試験に一切介入することは出来ないと。加えて、いくつかの船内の娯楽施設の使用も禁止されています」

 

「そうだったのか」

 

 なら今回の特別試験も葛城に任せる、ということか。不安だ。俺の中では、葛城の格付けは済んでいる。龍園の相手にはならない。

 

「思ったんだが、西川とのやり取りは特別試験の介入に当てはまるんじゃないか?」

 

 『辰』グループの状況を西川から報告を受けていたのは、学校との約束を破ることにならないのか?

 

「いいえ、あれはあくまでも西川さん自らが行動したことであって、私は何も言っていませんよ」

 

 それは本当か?まぁ坂柳の事だから、約束を破らない範囲で何かと動いているんだろうな。

 

「私が本格的に動くのは2学期からになります。狡噛君、その時はよろしくお願いしますね」

 

「了解だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 1回目のグループディスカッションを終えて、オレと堀北は朝に集まったカフェでそれぞれの出来事を話し合った。

 

「慎也がそんなことを……」

 

 アイツが動くなんてどんな心境の変化だろうか。慎也も誰かに脅されている、ていう線はあるのか?

 

「それで、狡噛君が言っていたことなんだけど……」

 

 堀北は今朝見たときよりも顔が窶れているように見えた。あのグループメンバーではそうなるか。

 

「あぁ、可能性は高いだろうな。龍園翔という男の性質上、それをするのは容易い」

 

 『優待者』が一気に三人も分かるとなれば、龍園が次やる行動としては一つしかない。

 

「『優待者』の法則、龍園はそれを探すだろうな」

 

「やっぱりあるのかしら?」

 

 学校側から届いたメールの最後、厳正なる調整の結果。あれは学校側が意図して特定の生徒を選んでいると考えられる。

 

「もし、龍園君が『優待者』の法則なんてものが分かったとしたら………」

 

 オレ達のクラスの『優待者』は結果3で見事に当てられてしまい、最悪の場合150cpも失ってしまう。加えてCクラスとのクラスポイント差も開いてしまう。

 

「なら、オレ達も『優待者』の法則を探すしかないだろう。Dクラスの『優待者』の特定はどうする?」

 

「一応、平田君にお願いしているわ」

 

 クラスの皆んなから信頼を勝ち取っている平田なら、『優待者』の特定も難しくないだろう。それは一旦置いておくとして、

 

「慎也は他に何か言ってなかったか?」

 

「………ディスカッションが終わった後、彼に連れられて少し話したの」

 

 堀北は視線を下に落とす。

 

「隠れ蓑として力不足だって。成長しろって。上から目線で腹が立つわ」

 

「でも否定出来なかった、そうだろ?」

 

 堀北は視線を上げると、オレをこれでもかとキツく睨んで来た。

 

「慎也の言ってることは間違っていない。現に龍園はお前の先を行って、『優待者』の法則を暴こうとしている」

 

「貴方までそんなこと言うの。なら私も、龍園君と同じく暴力でクラスメイトを脅せというのかしら?」

 

 どうやら既に慎也に言われた後らしい。龍園と比べられて苛立つ堀北の顔は、オレでもビビる形相だ。

 

「何もそんなことは言ってない。龍園は龍園。お前はお前だ。奴に倣うことはない」

 

「分かってるわよ。少し言ってみただけ」

 

 堀北は大きくため息を吐いた。

 

「………………」

 

 突然の旧友の行動にオレは思考を巡らせる。

 

(慎也、お前はこの特別試験で堀北の成長を促そうとしているのか?)

 

 

 

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