もう一人のホワイトルーム生です   作:パクチーダンス

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第18話 グループディスカッション 2回目

 

 1日に2度あるグループディスカッションの2回目。俺は指定された部屋に着くと、Aクラスが固まっている場所へと腰を下ろし、試験開始の時間まで目を閉じていた。

 

「おい龍園、貴様何してる?」

 

「別に席が決まっているわけじゃねぇんだ。どこに座ったって問題ねぇだろ?」

 

 俺はゆっくりと目を開けて隣を見ると、そこには不敵な笑みを浮かべた龍園の顔があった。

 

「今度は何をしてくれるんだ狡噛?」

 

「何も。毎度ネタを持ってきているわけじゃない」

 

『ではこれより2回目のグループディスカッションを開始します』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 堀北が去ってからオレは一人、コーヒーを飲みながらこの特別試験の各クラスの動きについてまとめていた。

 

 Aクラスは葛城の考えのもと、話し合いに参加せず何もしない。

 

 Bクラスは話し合いによって、皆の意見が一致することを願っている。

 

 Cクラスは既にクラスの割り振られた『優待者』を確認し、法則を探していることだろう。

 

(………………)

 

 無人島試験から今日まで、Dクラスを勝たせるために、オレ一人では限界があると感じていた。

 

 堀北以外にも、オレが自由に動かせる駒が必要だ。情報収集に長けており、尚且つオレの命令に従う奴が。どこかに落ちてるといいんだが。

 

(ん?あれは何してるんだ………?)

 

 オレはふと周りを見渡した時、ある一人の女子生徒が目に留まった。オレがいる場所から少し離れた、甲板に設置されたベンチで何やら奇妙な事をしていた。

 

 オレは気になって席を立ち、その女子生徒に気付かれぬように背後から近づいて様子を伺った。

 

(本当に何してるんだ、コイツ………?)

 

 その女子生徒がやっている事を簡単に説明してみると、まず虫眼鏡を使って太陽からの光を集めて、床に置いてある紙コップの中の飲み物に照射していたのだ。

 

 一歩間違えれば紙を焦がしてしまいそうだが、彼女は動かずにただ紙コップの中の飲み物を温めている?のだ。

 

「何してるんだ……?」

 

 いや、何をしていたのかおおよそ把握はできていたのだが、オレは声を掛けずにはいられなかった。

 

「何をしているのか分からないのですか?」

 

 彼女はオレを見ようともせず、飲み物を温めるのに必死だ。

 

「飲み物を温めているんじゃないのか?」

 

「正解です。今私は忙しいので何処かへ行ってくれませんか?」

 

 彼女は空いている手を使い、ノールックでオレをシッシッと追い払う。

 

「いつからそんな事しているんだ?」

 

「およそ15分前くらい前でしょうか」

 

 大分長いことやってたんだな。というか、この真夏の中なんで飲み物を温める必要があるんだ?

 

「頑張っているところ悪いが、理論上では可能だとしても、その小さな虫眼鏡ではいつまで経っても無理だと思うぞ」

 

 もっと大きなレンズでないと。加えて、カップが黒色出ないからすぐに熱が逃げやすい。端的に言ってしまえば、彼女のやっている事は無駄だ。

 

「無駄とは酷い男ですね。人の努力を笑うとは、親の顔が見てみたいです」

 

「いや、笑っていないが………」

 

「確かにそうですね。先程から、貴方の表情筋は一向に動きません。これは完全に壊死していますね。直ぐに病院に行き、医者に診てもらうことをお勧めしますよ」

 

 そう言って彼女は再び、カップの中の飲み物を温め始めた。

 

 本当に何なんだコイツ?オレは早々にその場から、この変人から逃げるように立ち去った。思考を遮られ、無駄な時間を過ごしてしまったとため息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「龍園、もうクラスの『優待者』は把握したのか?」

 

 アナウンスが鳴ると同時に、

 俺は横に座って来た龍園に話しかけた。

 

「気になるか?俺が知ったかどうか?」

 

「いや、もう既に法則探しに移ってる頃合いじゃないのか?」

 

 俺と龍園の会話に、聞き耳を立てていた者達の顔が険しくなる。"法則探し" 俺の言葉を聞いたリーダー格の生徒達の視線が俺と龍園に集中する。

 

「フンッ、理解しているなら、わざわざ口に出す必要があったか?」

 

「……そうだな」

 

 既にCクラスは、法則を探す段階にまで移っているのだと、皆に周知させる為にわざと俺は聞こえるように話した。俺の横で笑みを浮かべる龍園は、その事を理解しているだろう。

 

「そう言うお前は、『優待者』を把握できたのか?」

 

「さぁな、葛城なら知ってるんじゃないか?」

 

 俺は葛城の方を向くが、依然として口を閉ざしている。

 

「アイツの派閥は無人島試験で崩壊した。もう信頼してくれる仲間なんて雀の涙ぐらいだ。お仲間は坂柳の方に流れちまった筈さ。『優待者』を把握出来てるわけねぇ」

 

「……………」

 

 龍園の言う通りだ。葛城ではAクラス内の『優待者』の把握は不可能だろう。無人島試験で結果を残せなかった葛城を、今でもリーダーだと認める人間は戸塚や的場くらいだ。

 

 それにしても、先程から話しているのは俺と龍園だけだ。他の生徒は俺たちの声に耳を傾けているだけで話す気が無いらしい。

 

「なぁ鈴音、無人島試験じゃあどんなマジックを使ったんだ?」

 

「……何のことかしら?」

 

 話の対象が俺から堀北へと変わる。

 

「俺の計算じゃあ、DクラスはAとCのリーダーを当てやがった。一体どうやったんだ鈴音?」

 

「そんな事言うわけないでしょ。

 貴方は私の策に嵌った、それだけのことよ」

 

 毅然とした態度で堀北は龍園と向かい合うが、龍園は堀北を見て笑っていた。

 

「いいやお前じゃねぇ。俺はあの最終日、Dクラスのリーダーにお前の名を書いた。それは葛城も同じだ。だが違っていた。それはお前が前日にリタイアしていたからだ」

 

「それがどうしたの?試験続行が難しいと判断された生徒はリタイアできる。私はそれを利用したのよ」

 

「ククッ……まぁいいさ。お前の後ろにいるヤツは誰なのか。じっくりと探させてもらうぜ」

 

「探したって無駄な時間よ。そんな人は居ないわ。

 貴方のくだらない妄想、勘違いもいいところね」

 

 表情を崩さなかっただけでも及第点か。しかし、龍園はDクラスを一位に導いた功労者は別にいると考えている。

 

 ひょっとすると、既に目星はつけているのかもしれない。清隆を見つけ出すのも時間の問題なのかもな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2回目のディスカッションも終わり、特別試験1日目は終了した。俺は自室へと戻りシャワーを浴び、自分の髪から滴り落ちる水をタオルで拭き取りながら、俺はベッドに腰掛けた。

 

「真田、お前は確か坂柳派だったよな?」

 

「はい、そうです」

 

 突然の俺の問いに、真田は本から顔を上げて答えてくれた。

 

 中間テスト以降、真田とは接点が出来た。同じ読書・音楽を好む者同士、仲良くなるまでの時間はそれ程掛からなかった。俺の記憶では、真田は5月の時点で坂柳派閥に加わっていた筈だ。

 

「お前は何故、葛城よりも坂柳を選んだんだ?」

 

「選んだというよりも、先に声を掛けてくれたのが坂柳さんだったからです。その時に返事をしてしまったので」

 

「なるほど」

 

 2学期以降、俺は坂柳の力になると約束した。そうなって来ると、俺はもっとクラスメイト達のことを知る必要がある。

 

 今まで一匹狼としてクラスの輪に入って来なかった俺が、入学して4ヶ月も経過してやっとクラスメイトとより深く関わることを決めた。

 

「狡噛君はどうですか?坂柳さんには、クラスを率いていく力を持っていると思いますか?」

 

「不安なのか?」

 

「無いと言えば嘘になります。クラスの中で一番頭が良いのは知っていますが、自分はまだ、坂柳さんの実力を目にしていないので何とも言えません」

 

 そう思うのは真田だけじゃないと俺は考える。これまで、坂柳が実力を見せる場面はあまり無かった。無人島試験でも坂柳は棄権、今回の試験でも坂柳は不参加だ。だが、

 

「今はそうかもしれない。しかしいずれ、誰もがアイツを認める事になるさ」

 

「……狡噛君は、今でも無派閥のままなんですか?」

 

「いや、俺は2学期から坂柳の力になる」

 

「そうですか、それは良かった。これでAクラスも一つになって一致団結しますね」

 

「そうだな」

 

 葛城も下手にクラスの輪を乱す奴ではない。不安要素な戸塚も葛城が制御してくれれば、ようやくAクラスも坂柳のものとなる。俺の出番もこれからだ。

 

 

 俺は真田から視線を切り、サイドテーブルに置いてあった自分の携帯に手を伸ばす。画面をつけると清隆からメールが送られていた。

 

 

 綾小路清隆

 

『少し話せるか?』

 

 

 俺は真田に一言掛けてから部屋を出る。制服に着替えるのも面倒なので寝巻きで廊下を歩いている。私服で出歩いては行けないなんてルールは無かった筈だ。そこから人気のない場所まで移動すると、電話を掛ける。

 

「どうかしたか?」

 

『お前にしては珍しく、色々と動いているんだな。

 どういう風の吹き回しだ?』

 

 抑揚のない、慣れ親しんだ友の声が聞こえて来る。

 

「堀北から聞いたのか?」

 

『あぁ。目立つ行動はしないんじゃ無かったのか?』

 

 確かに入学当初はその気持ちだった。

 

「俺もそう思っていたが、

     力を貸してやりたい奴がいるんだ」

 

『…………誰かの為、か。お前らしい』

 

 俺らしいか。感情・人情で動く甘い男だと、お前は思っているんだろうな。

 

『堀北のことだが』

 

「余計なお世話だったか?」

 

『お前の自由にしてくれてかまわない。アイツにはまだまだ成長の余地がある。こんなこと他クラスの人間に頼むのはどうかと思うがな』

 

「好きでやっていることだ。それに、お前には謝っておかなければならないしな」 

 

『謝る?』

 

「お前の平穏を俺は侵してしまうかもしれない」

 

『…………………そうか』

 

 長い沈黙の末、清隆は短く返事をした。

 それに対し、俺は申し訳なさを感じていた。

 

「スマン」

 

『それは、お前が力を貸してやりたい奴に関係しているのか?』

 

「あぁそうだ。だが出来る限り、お前を矢面に立たせるようなことはしないよう俺も努力する」

 

『そうしてくれると助かる』

 

「怒っても良いんだぞ?」

 

『オレに怒りは存在しない。お前がそう決めたならそうするといい。だがな慎也、例え誰であろうともオレの平穏を乱す奴は容赦しない』

 

 それは清隆からの忠告だった。

 誰であろうとも、狡噛慎也であろうとも。

 

 そんな清隆の警告に携帯を握る手に力が入る。

 

「お前の強さは俺が一番理解している。

 肝に銘じておくよ」

 

『じゃあな』 プツッ

 

 そこで清隆との通話は終了した。

 

 

 

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