もう一人のホワイトルーム生です   作:パクチーダンス

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第19話 グループディスカッション 3回目

 

 朝、俺は同じルームメイトの真田と共に豪華客船内にあるレストランで朝食をとっていた。俺は優雅に食後のコーヒーを飲んでいたところ、テーブルに橋本が近づいて来る。

 

「狡噛」

 

「何か用か?」

 

「姫さんに聞いたぜ。ついに決心してくれたんだな。

 クラスの為に協力してくれると」

 

「まぁな」

 

 何かあると思ったらそんなことか。橋本は俺を坂柳派閥に加わるよう何度も勧誘していたからな。

 

 だが橋本は誤解している。クラスの為ではなく坂柳の為なんだが、それを訂正しようとは思わない。

 

「それに、昨日から早速動いたらしいじゃねぇか」

 

「各リーダーの特長、どの程度なのか、

     それを確かめるための余興に過ぎない」

 

 『辰』グループでの出来事も既に把握済みか。伊達に坂柳の情報収集係りをやっているだけはある。

 

「やる気になってくれて嬉しいぜ。何かあれば遠慮なく言ってくれ」

 

「そうか………なら、

  Aクラスの『優待者』が誰なのか分かるか?」

 

 今の所、俺が欲しい情報はそれだけだ。

 

「やっぱ『優待者』か、難しいな。姫さんが命令すれば一発でわかるんだが、特別試験に介入することを禁じられてるからよ」

 

 坂柳ならば、か。

 

「真田、橋本は信用されてないのか?」

 

「正直、答えにくいのですが………」

 

 真田は困った顔を俺に見せる。

 

「いや、いい。今ので分かった」

 

「言われなくても、信用されていないことくらい分かってるよ」

 

 橋本は拗ねたように頭をかき、俺と真田から視線を切る。橋本は普段の胡散臭さもあって信用を勝ち取れてないようだ。だが橋本の言葉から、やはり坂柳は絶対の存在のようだ。

 

「なら良い案がある」

 

「良い案?」

 

「Aクラスの皆に伝えてくれ。この特別試験のみ、

  狡噛慎也の言葉は坂柳有栖の言葉であるとな」

 

 真田も橋本も、俺の発言に驚き目を見開いていた。

 

「ちょっ、ちょっと待てよ狡噛。

 そんな勝手なこと、姫さんが許す筈がねぇよ」

 

「俺は坂柳から言われた。

 

 『狡噛君がやる事に私は何も言いません。

         ご自由になさって下さい』

                     とな」

 

 坂柳の名前を借りて、俺は俺の目的の為に好き勝手にやらせてもらおう。

 

「し、しかしだな狡噛、

 そう言って皆が素直に聞くかどうかわからねぇぜ」

 

「ならこう言えばいい。

 

  お前はこれから、坂柳から信頼されなくなる。

 

 そう言えば、聞き分けの悪い奴らにも理解出来るだろ。誰も坂柳の機嫌を損ねたくはないはずだ。違うか?」

 

「お、脅しじゃねぇか……」

 

 Aクラスの連中は決してバカじゃない。Aに配属されただけあって、基本的に頭が良い奴らの集まりだ。従わない人間がどうなるかなんて自分自身で容易に想像できるだろう。

 

「頼んだぞ橋本、今日中に『優待者』を特定してくれ。後、その人物がいるグループのメンバーも教えてくれ」

 

「人使いが荒いな。しかもグループにいる奴らの名前もかよ………分かったやるよ。けどな、ちゃんと結果を出してくれよ」

 

「あぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 昨日。2回目のディスカッション終了後、

 

 『猿グループの試験が終了いたしました。猿グループの方は以後試験へ参加する必要がありません。他の生徒の邪魔をしないよう気をつけて行動して下さい』

 

 高円寺の突発的な行動に呆気に取られ、ルームメイトであるオレは、堀北に暴走を止められなかったことを責められた。高円寺の行動は誰にも予測出来ない。オレでも難しい。『優待者』を当ててくれていることを願うばかりだ。

 

 平田から受け取ったクラスの『優待者』情報、

『辰』グループの櫛田、『午』グループの南、厳正なる調整の結果、この二人は『優待者』に選ばれた。オレは法則性を考えているが、成果は出ていない。

 

「…………………」

 

 試験の事よりも、頭にチラつくのは慎也のこと。

今後、アイツはAクラスの生徒として、堀北の前に立ち塞がる強大な壁となる。今の堀北では相手にもならない。アリとゾウの関係だ。

 

 道は険しいどころではない。Aクラスにもう一人のオレがいるようなもんだ。慎也が手を貸したいと思う誰か。気にはなるが、

 

「綾小路くん、ちょっといいかな?」

 

 平田に呼ばれ、オレはそこで思考をストップする。今は目の前の特別試験に集中しなければな。そして、オレ自身の目的の為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 3回目のディスカッションが始まると、毎度の如く龍園は堀北で遊んでいた。強気で物怖じしない彼女の性格に、龍園は気に入っているようだった。

 

 皆から同情の眼差しを向けられているが、彼女のプライドの高さ故か、負けじと龍園と舌戦を繰り広げている。

 

「狡噛、何見てやがる?」

 

 俺はその様子を頬杖をつきながら、隣に座る龍園をジッと見つめていた。それに気付かれてしまう。

 

「楽しそうだな龍園、

       そんなに堀北に気があるのか?」

 

 龍園は堀北のような女性がタイプなのか。

 

「俺に対して反抗する態度がたまらねぇのさ。

 俺の女になればもっと可愛がってやれるんだがな」

 

 これでもかと顔を顰める堀北に、龍園はニヤリと不気味な笑みを浮かべる。残念ながら気持ちは一方通行だ。

 

「お前はどうなんだ狡噛、そのなりなら困ることねぇだろうよ」

 

「面白がってるところ悪いが、俺に恋愛経験はない」

 

「マジで言ってんのかよ。もしかして不能か?」

 

「そんなんじゃない。まだ自分が好きになる女性に出会った事がないんだ」

 

 恋愛。男女または同性間が互いに特定の相手を慕い、愛を感じ合う。その人間と一緒にいるだけで胸がドキドキするなどの心理的な興奮、幸福感を感じる。どれも俺は体験したことはない。

 

「ロマンチストか?まずは適当な女とヤレ。そして後から気に入った女を食えばいいんだよ」

 

「下劣な発言は控えてもらえないかしら、不快よ」

 

「なぁ狡噛、お前はどんな女がタイプなんだ?」

 

「…………」

 

 心理学的に、誰かが誰かを好きになる傾向にはいくつかある。

 

 可愛いや美しいなどといった外見的魅力。自分を受け入れてくれる、一緒にいて気持ちが落ち着くといった安心感を与えてくれる人物。自分に敵意がないといったサイン、笑顔を見せる人物。努力を評価し、自分を認めてくれる人物。

 

 今挙げたのは絶対的なものではなく文化や経験、個人差の影響が大きい。俺としては、

 

「そうだな…………あるとすれば、 

 揺るぎない意志・信念をもつ、逆境にも負けない精神的なタフさがある女性、かな」

 

「要するに、気概のある女が良いって話か?」

 

「そんなところだ」

 

 今言ったのは単なる理想だ。人は理想を追い求める生き物だが、現実は大きく乖離が見られる。本当は全く別の人間を好きになることもある。俺も、そういう相手が見つかる日が来るだろうか。

 

「貴方達、さっきから一体何の話をしているの?試験に関係の無い話なら他所でやってくれないかしら?」

 

 いかにも男子高校生の話を繰り広げる俺と龍園に、堀北は先程龍園におちょくられたことも相まって声のトーンが低い。流石に脱線しすぎた。

 

「鈴音、こうして集まっても俺の意見は変わらねぇ。顔を揃えても大した話は初日の1回目だけだ。無駄なんだよ、全てな」

 

「無駄と言い切るってことは、もう『優待者』の法則が分かったのかしら?」

 

 龍園は答えず挑発的な笑みを浮かべるだけ。付き合ってられないと堀北は視線を外す。

 

「…………」

 

 ディスカッションの回数も残り半分となり、皆が何処かで焦燥を感じる中、龍園だけは笑っているこの状況。龍園の顔に焦りの文字は見えて来ない。

 

 この場にいるのを無駄と言い放ったこの男は、俺の目には、どこか楽しそうに映っていた。

 

 俺は、龍園翔という男を改めて分析する。

 

 龍園翔はCクラスのリーダー。暴力という力で他者を恐怖を与え、支配する。誰も予想しない斜め上の発想を持ち、意表を突くやり方を好む。無人島試験でも、清隆がいなければ龍園に勝機があったと思う。

 

 龍園翔は他者を見下す。相手を舐めた態度は、自分が上であるという自信の表れ。無人島試験ではクラスポイントが手に入らなかったCクラスは、今回の特別試験で何かしら画策してくると踏んでいたが、それが今日まで見られない。考えられることとすれば、

 

 『優待者』の法則は、既に分かっている。

 

 もし仮に、龍園が『優待者』の法則が分かっているとする。ならば何故、試験を終わらせないのか。何か試験を終わらせたくない理由があるのか。

 

 否。大した理由は無いのかもしれない。

 奴の性格、そこから分かることはーーーー慢心。

 

 今回もAクラスの大敗と思っていたんだな。チャンスが向こうから転がってきた感じだ。橋本が今日中までにAクラスの『優待者』を探し終えたなら、後は知恵を絞るだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ディスカッションが終わり、俺は自室へと足を運んでいたところ、前方から森下が歩いてきた。そして俺の道を塞ぐようにして立ち止まる。

 

「何か用か?」

 

「言われなくても分かっているでしょう?橋本正義のことです」

 

 俺は森下の横を通り過ぎると、逃がしてくれないようで跡をついてくる。

 

「ようやくクラスの為に動き始めましたか」

 

「………」

 

「ですが少し遅すぎます。『優待者』の法則を探すのならもっと早く、初日からAクラスの『優待者』を把握していないと」

 

「……………」

 

「聞いているのですか?狡噛慎也」

 

 俺は足を止めて森下と向き合う。

 

「聞いてるよ。なんで着いてくる?」

 

「『優待者』の法則を探すのでしょう?

 ならば私も協力します」

 

「いいよ、自分で考える」

 

 俺は再び歩き出すと、森下も続いて俺の背中に張り付くように追いかける。

 

「一人で出来ると?随分な自信ですね。ですが、この名探偵藍ちゃんに掛ればちょちょいのちょいです」

 

 頼んでもいないのに、何故コイツはこんなにもやる気と自信があるんだ?

 

「テンションが上がってるところ悪いが、まだ橋本からは何もきていない。『優待者』を探している最中だろう」

 

「はぁ?何をしているんですか橋本正義は。

   遅すぎてナマケモノもビックリ仰天ですよ」

 

 俺は部屋のドアを開け中へ入ろうとすると、続いて森下も入って来ようとしてくるので手で制止する。

 

「なぜ中へ入れないのですか?」

 

「逆に聞くが、なぜ中へ入れると思った?」

 

 ピロンッという音と共に、俺の携帯に誰かのメールが届いたようだ。俺はポケットから取り出してメールを確認する。噂をすればだ。

 

 差出人は橋本、短い文の愚痴と共に書かれていたのは、Aクラスの『優待者』の名前とその人物がいるグループのメンバー全員分の名前であった。仕事が早くて感心する。

 

「橋本正義からのメールですか?」

 

「おい覗くな」

 

 画面に覗こうとする森下に、俺は携帯をサッとしまうとドアを閉める。すると森下がドアに足を挟んできた。

 

「何してる?」

 

「それはこっちのセリフです。いいから中へ入れなさい。そして私も『優待者』が誰なのか教えなさい」

 

 真田はグループディスカッションで留守にしているから、ちょうど一人の空間で考えれると思った矢先にこれだ。

 

「森下さん、何をしているんですか?」

 

 俺と森下が歩いてきた廊下とは反対の方から白石が姿を現した。

 

「白石飛鳥。貴方もドアを開けるのを手伝いなさい」

 

「白石、森下をドアから離れさせてくれ」

 

「あらあら、これは………

 私はどちらの味方をすれば良いんでしょうか?」

 

 困った風を装いながら、白石はこの状況を面白がっているように見えた。

 

「狡噛慎也は『優待者』の情報を独占しているんです。これは許し難い行いです」

 

「なるほど、そのことですか。

    それでは今から『優待者』の法則を?」

 

「あぁそうだ」

 

 こんなことしている暇はないんだがな。

 

「狡噛君は一人でお考えになるつもりですか?差し出がましいようですが、一人よりも複数人で考えれば色々な発想が思い浮かぶと思いますよ。ほら、三人揃えば文殊の知恵と言いますし」

 

「三人?それは貴方も入っているのですか?」

 

「もしよろしければ。ですが、狡噛君が嫌と言われるのなら私も無理にとは言いません。森下さんを連れてここを立ち去りましょう」

 

 言い方が悪いな。俺が悪者みたいだ。けどここで俺が嫌と言ったら、白石はどんな反応をするのか。ちょっと興味はあるが、

 

「………………はぁ」

 

 俺はドアを開ける。

 

「真田が帰ってるまでだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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