高度育成高等学校に入学して、早一週間が経った。1年生達は寮生活にも慣れ、充実した学校生活を満喫していた。狡噛慎也もその一人だった。彼は学校が終わると、街に出掛けては初めて見る物全てに目を奪われていた。そんな狡噛の放課後に一緒にいるのが、
「狡噛慎也、貴方は本当に何に知らないようですね。呆れを通り越して心配になります」
「森下、何でお前がここにいるんだ?」
狡噛がいるのは日用品売り場。一人できたはずなのに、いつの間にか隣には森下の姿が。
「何も知らない狡噛慎也に、私が教えてあげようとしているんです。ですが、対価はちゃんと払ってもらいますけど」
「誰も教えて欲しいと言った覚えはない。邪魔だ帰れ」
狡噛は森下に寿司だけではなく、その次はうどん、またその次は中華を奢らされた。
「こんな恥知らずに育てた覚えはありませんよ私は」
「俺はお前に………いや、もういい」
コイツを真面目に相手すると疲れてくる。無視が一番有効だ。ついてくるなら勝手にしろ、そういうスタンスでいよう。だがその時、視界の端に気になるものが目に入った。それは無料コーナー。ポイントを使い果たした者への救済措置なのだろうか?
「……………」
「狡噛慎也、今日はパスタの気分です」
コイツ、今日も俺に奢らせる気なのか?無視だ無視。狡噛は後ろから付いてくる森下をいないかのように扱った。
「無視は寂しいです……」
後ろから聞こえて来たのは森下の悲しそうな声、本当に今のは森下の口から発せられたのか?そう思う狡噛だったが、流石にやり過ぎたと反省して後ろを振り返ると、森下の人差し指が狡噛の頬に突き刺さった。
「はい騙された」
「………………」
俺が馬鹿だった。そう心の中でつぶやいた狡噛は、深くため息を吐いた。
「森下、もう俺の財布をむしるのはやめろ」
「分かりました、じゃあ次は誰にしますか?」
「いや、誰とかじゃなくてだな。ポイントは残した方がいいと言っているんだ」
「来月、10万ポイントが振り込まれない事ですか?」
狡噛は森下のその言葉に目を見開く。純粋に驚いたのだ。森下藍は気付いていた。来月の1日に10万ポイントが振り込まれないかもしれない事を。
「もしかして誰かに聞いたか?」
「いえ、私なりの推測です」
嘘は言っていないようだ。森下藍という生徒は、ただのおかしな生徒ではなかった。森下と同じくこの事に気付いたものは、果たして何人いるのか。
「そうだ。毎月10万ポイントが配られるなんて言葉は到底信じられない」
「同感です。日本の大切なお金が、若者達の豪遊に使われるのがおかしいと、馬鹿な人たちは気付いていないようです」
「………歩きながら話そう」
狡噛と森下は、日用品売り場から出て寮へと歩き始めた。
「流石に1ポイントも貰えない、なんて事はないだろう。俺たちにも生活はあるからな」
「ならば来月から貰えるポイントは下がり、必要最低限のポイントが支給されて生活する事になると?」
横に並んで歩いていた森下がそう口にした。
「いいや、貰えるポイントは10万ポイントから下がる事は明白だが、必要最低限の固定ポイントしか支給されない、なんて事はないだろうな」
「何故です?」
「見ろ」
狡噛が視線を向ける方向を森下も目で追う。そこはカラオケ店だった。次に狡噛はボーリング場、カフェ、そして高そうなイタリアンの店へと視線を移す。何が言いたいのか、森下も理解した。
「なるほど、これほどの充実した施設があって、必要最低限のポイントはあり得ないと」
「そうだ。貰えるポイントが変動することは間違いないだろうがな」
そう狡噛は言うが、まだまだ判断材料が乏しい。先程自分で1ポイントも貰えない事はない、と言ったが、果たして本当にそうだろうか?0ポイントが支給されました、なんて事がある可能性が…………
「いや、あるのか」
「何がですか?」
何かに気が付いた狡噛に、森下はグイグイと「早く話せ」と近づいて来る。
「1ポイントも支給されない事がだ」
「………それは本当ですか?」
信じられない様子の森下。0円生活なんて真っ平御免である。
「日用品売り場に見かけた無料コーナーだ。あれがあるということは、0ポイントも無いとは言い切れない」
ならばポイントが変動する要因は何だろうか?思考を巡らす狡噛に、制服の裾を引っ張る森下。
「どうした森下?」
「やることは一つです狡噛慎也」
「一つ?」
「小学校から今まで言われていたでしょう?わからない事があれば、先生に聞けって」
「…………………」
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『これで授業は終了とする』
「待ってください、綾小路先生」
『……何だ?慎也』
「先程の問題、少し分からないことがあるんです。教えて貰えませんか?」
『……………どこの部分だ?』
「この数字を代入した後のことでー」
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「どうしましたか?狡噛慎也。地蔵のように固まって」
森下は狡噛の顔の前にブンブンと手を振っていた。
「………いや、何でもない」
狡噛は昔の記憶を思い出していた。まだ幼い、ホワイトルームにいた子供の頃の記憶を。
「そうだな。明日の放課後、真嶋先生に聞くか」
翌日、午後の最後の授業が終わりを迎えると、狡噛と森下は真っ直ぐ職員室へと向かっていた。職員室に辿り着くと、狡噛は扉を3回ノックして扉を開けた。
「失礼します。1年Aクラスの狡噛慎也です」
「同じくAクラスの森下藍です」
狡噛は内心、森下が何かボケをかまして来るのではないかと期待していたが、流石に先生の前ではちゃんとするようだ。職員室を開けると、すぐ近くにいた職員が狡噛たちに近寄って来た。
「おや、どうされましたか?」
「真嶋先生はいらっしゃいますか?」
「少し待っていてくださいね」
狡噛がそう伝えると、その職員は奥へと歩いて行った。待っていたのはほんの20秒ほど、真嶋先生が奥から姿を現した。
「狡噛と森下か、どうしたんだ?」
「真嶋先生、いくつか質問があるんですが、よろしいですか?」
「何だ?質問というのは?」
狡噛たちの前で腕を組もうとする真嶋。だが狡噛の発言で、真嶋の動きはピタリと止まる。
「はい、入学初日に説明してもらった10万ポイントの件なんですが、本当に10万ポイントが振り込まれるの「狡噛、森下」……はい?」
真嶋の腕は降ろされ、狡噛の話を遮った。そして真嶋は、職員室から顔を出して、キョロキョロと廊下を見渡した。
「二人とも、ついて来なさい」
真嶋はそう言って職員室の奥の方へと歩いて行った。狡噛と森下は顔を見合わせて、真嶋の後をついて行った。
「この話は、トップシークレットなようです」
森下は、小さな声で狡噛の耳元に口を近づいてそう言った。
「その様だな」
言われなくとも分かっている。真嶋先生の表情が物語っていた。この話は、誰にも聞かせてはいけない。特に生徒には。
「ここに座りなさい」
黒いソファに座る様に言われた狡噛と森下は、真嶋先生に従い、腰を下ろした。ここは職員室の角。万が一、生徒が職員室に入って来たとしても、この距離ならば会話を聞かれることはない。
「先程は話を遮って悪かった狡噛。さっきの質問だが、悪いが答えられない」
「そうですか………」
真嶋からの回答は、答えられない、だった。
「次は私からいいですか?来月支給されるポイントが下がる事はありますか?」
「それも答えられない」
「…………答える気があるんですか先生」
森下は真嶋先生に不満を漏らす。
「すまない二人とも、私から言えるのは、答えられない、ということだ」
申し訳なさそうな顔をする真嶋先生。
「それで十分です、先生」
狡噛は自分の中で納得がいった。ポイントの変動は間違いなく起こると。そして多分、答えられない事が答えられるようになる時は、来月の1日。
「他に質問はあるか?」
「最後一つ良いですか?先生は、ポイントで買えないものは無いと言いましたよね?あれは、その言葉通りに受け取って良いんですか?」
「ああ、この学校でポイントで買えないものは無い」
今度はハッキリと答えてくれた。ポイントで買えものは無いと。
「時間を取っていただき、ありがとうございます」
狡噛は真嶋先生に頭を下げて立ち上がった。
「行くぞ森下、話は済んだ」
「………わかりました。ありがとうございます、ケチな真嶋先生」
森下は感謝と共に、真嶋先生に小言を言って立ち上がった。狡噛と森下は職員室から出ようとしたが、真嶋先生が呼び止めた。
「待ってくれ二人とも」
「どうしましたか?真嶋先生。ようやくしゃべる気になりましたか?真嶋先生」
森下の顔をばっと真嶋先生の方へ向いた。それに真嶋先生はビクッとした。
「いや、違う。この事に気が付いたのはどっちだ?」
「森下です」
「違います、狡噛慎也です」
狡噛と森下は、互いに相手の方に指を差してコイツだと主張した。それに対して、真嶋はフッと笑った。
「そうか、今回のAクラスは相当優秀な生徒が集まったようだな。呼び止めて済まないな」
この事を綾小路に話そうか迷ったが、干渉しないという約束があるため、あえて言わない事にした。
(俺が気が付いたのはという事は、清隆も既に気付いているだろう。なんせアイツは、ホワイトルームの最高傑作だからな)
「さて、では先程の話を明日の朝、クラスの前で話しましょう。狡噛慎也、頼みましたよ」
職員室から出ると、前置きもなく森下が振り返ってそう伝えて来た。まったく他人任せか。
「いいや断る。この事は伏せておく」
「何故です?クラスで共有しないのですか?」
「まだ100%確定したわけでない。下手にクラスメイトを不安にさせるだけだ」
「いいえ、あれはもう確定でしょう。答えられない、それが物語っています」
「ポイントが下がる要因がわからない以上、迂闊に話すわけにはいかない。頼む森下、誰にも話さないでくれ」
森下は探るような目で狡噛を見つめていた。狡噛も森下を無言で見つめ返した。先に視線を切ったのは森下だった。
「確かに狡噛慎也の言う通り、ポイントが下がる要因は分かっていません。狡噛慎也に従いましょう」
森下が折れてくれたようだ。
「すまない森下」
「ここは狡噛慎也の顔を立ててあげましょう。良かったですね、もし今日が、藍ちゃんデビルモードだった場合は、こうは上手くいかなかったでしょう」
デビルモードって何だ?森下の意味のわからない発言に、狡噛は首を傾げたが、考えるだけ無駄である。森下藍とはそういう人間だ。いつまでもよくわからないクラスメイトに、狡噛はフッと笑った。
翌日の昼、狡噛慎也は食堂に向かうために席を立つ。その時、背後から駆け寄って来たのは橋本だった。
「なぁ狡噛。一緒に飯でも食わないか?」
「分かった」
断る理由はなかった。入学当初、声を掛けてくれた人間を無碍にはできない。狡噛は橋本と共に、食堂へ向かう。
「狡噛、最近森下と一緒にいるのは何でなんだ?」
「向こうが勝手についてくるんだ」
「変な奴に捕まったな」
肩に腕を置かれ、ニヤニヤと笑う橋本に狡噛は歩く速度を早める。
「置いて行くぞ」
「あっ、ちょっと待ってくれ」
先を行く狡噛に、橋本は追い掛けて並んで歩く。
「実はさ、狡噛と一緒に昼飯を食べたい奴がいるんだよ。そいつは後から食堂に来るからな」
「誰だ?」
狡噛は橋本に聞くが、首を横に振る。
「それはあってのお楽しみだな。ちなみに女子だぜ」
女子だから何なのだろうか?それは付け加える情報なのか?よく分からないが、その女子のために、先に席を確保しておこう。
その女子を待っている時、視界の端に綾小路を発見した。綾小路は一人で昼食を食べているようだった。なんて寂しい背中だ。友人の一人や二人は出来たと思っていたが。綾小路は向けられる視線に気付いたのか、コチラをチラッと見た。
(余計なお世話だ………)
綾小路の目はそう言っているようだった。確かに余計なお世話だったと綾小路から視線を切る。
「どうした狡噛?」
「いや何も、その女子はいつ来るんだ?」
「そうだなーー、あっ、来たようだぜ」
橋本が視線を向ける先にいたのは、杖をついて歩いてくる小柄な少女。そして一歩後ろには、不機嫌そうな顔をしている女の子が。
「お待たせしてすみません狡噛くん、橋本くん」
「………………」
狡噛はこの二人の女子生徒を知っている。というか同じクラスメイトだ。坂柳有栖、そして神室真澄、自己紹介である程度記憶してある。
「いや、全然待ってないぜ坂柳」
「そうですか、それは良かったです」
坂柳と橋本が会話をしている中、狡噛がスッと先から立ち上がった。
「神室、俺が持つから坂柳を椅子に座らせてあげてくれ」
神室は、自分の分と坂柳の分のそれぞれの昼食を乗せたトレーを両方の手で持っているため、腕がプルプルと震えていた。それを気にした狡噛は、神室からトレーを受け取った。
「あら?紳士ですね狡噛くん」
「アンタとは大違いね、橋本」
「ごめんな、真澄ちゃん」
「…………………………」
橋本は神室を下の名前で呼ぶと、鋭い目つきで睨んでいた。少し怖いな。坂柳と神室が座った後、それぞれの前にトレーを置き、狡噛は元の席に座る。
「さて狡噛くん。改めてまして、私の名前は坂柳有栖です。そしてコチラは、神室真澄さん」
「さっきはありがとう」
「狡噛慎也だ。よろしく」
狡噛はてっきり一人だと思っていたが、女子が二人だとは考えていなかった。
「それで、俺と一緒に食べたい奴ってのはどっちだ?」
二人を交互に見る狡噛。神室は視線を坂柳に流す。
「ウフフ、私です」
「そうか、それじゃあ神室は一緒に食べたくないんだな。悪いな神室、こんな俺と一緒に食べる事になって」
「なっ……いや、そういうわけじゃ………」
狡噛の予想外の言葉で神室が少し慌てる。その様子に、坂柳は面白そうに微笑んでいる。
「狡噛くん、あまり神室さんをいじめてはダメですよ。神室さんをいじめては良いのは私だけなんですから」
「なるほど、その発言で二人の関係が見えた」
坂柳が上で神室が下、神室は日常生活において、坂柳にこき使われているようだ。
「ちょっとアンタ、今のわざと私に……」
「すまない神室、許してくれ」
狡噛は神室に軽く頭を下げる。それで神室の怒りは抑えられた。
「さて皆さん、そろそろ冷めてしまうので食べましょうか」
冷めてしまっては美味しくない。四人は箸を持って食べ始めた。その間も、たわいもない話をしていたが、本題は昼食を食べ終えた後の事だった。
「狡噛くん、今から重要なお話があります」
坂柳が小さな口でお茶を飲み、テーブルに置くと、コチラを向いて話し出した。
「何だ?」
「狡噛くんはこの学校をどう思いますか?」
「何で答えたらお前は喜ぶんだ?」
狡噛は質問を質問で返した。坂柳の質問に対して、何の答えにもなっていないが、坂柳は微笑んでいる。
「狡噛くん、アナタは既に、この学校の異質さに気が付いているのではありませんか?」
「異質さね、誰もがこの閉鎖された空間を異質と思うだろうが」
外部との接触禁止、限られた範囲の中で生活。普通の学校とは違う。
「確かにそう思いますが、私の言いたい事はそこではありません」
「と言うと?」
「私の口からではなく、狡噛くん自身の口から聞きたいんです」
狡噛と坂柳との会話に一切入って来ない橋本と神室。その事に、狡噛はすぐに理解した。この二人は、坂柳から聞かされているのだろうと。この学校の真の狙いを。
「来月10万ポイントが貰えないことか?」
狡噛の言葉に、橋本と神室は目を見開く。坂柳はうっすらと笑みを浮かべていた。
「何故そう思ったんですか?」
「計算すればわかる事だ。各学年が160人、全学年に同じ額、つまりは10万ポイントが支給された場合、その総額は約5千万ポイントだ。ふざけた額とは思わないか?」
「そうですね。そんな額、日本政府がただの高校生に支給する筈がありません。それと、狡噛くんは一つ訂正する箇所があります」
「訂正?」
俺の何が間違いなんだろうか?
「現在の2年生、3年生の人数はそれぞれ、1年生の人数よりも少ないんです。それも、一人や二人という数ではありません」
人数が少ない?ならば考えられることとしては……
「それは、年によって入学してくる生徒の数が違うと言うことか?」
「いいえ、この学校は毎年、必ず過不足なく160人の生徒を入学させています」
狡噛は頭を働かせる。何故、2、3年生の人数が減っているのか。その理由は、すぐには思い浮かばない。
「坂柳は何故なのか知っているのか?」
「はい、貴方よりも明確に」
何故かマウントを取られてしまったが、狡噛は特に気にする様子はなかった。
「じゃあ教えてもらえるか?何で数が少ないんだ?」
狡噛がそう言うと、坂柳はテーブルに肘を乗せ、両の手を組んで不敵な笑みを浮かべた。
「教えてあげる代わりに、どうか私と友達になってくれませんか?」
友達……友達とは、読んで字の如くの友達だろうか?はたまた神室のような、人をこき使う友達だろうか?判断に困るな。
「ご安心ください。私は読んで字の如く、狡噛くんとお友達になってほしいのです」
坂柳は、人の考えを読む事に長けているようだ。どうやら前者の方らしい。神室は後者の方。ならば、橋本はどうなんだろうか?彼はどっちの友達だ?まぁどちらでもいいか。
「友達とは、自然とそうなるものだと本で書いてあったんだが」
「ウフフ、そうですね。ならばもう、私と狡噛くんは友達ですね」
坂柳は右手を差し出してきた。右手は友好的な意思を示すもの。俺も右手を差し出して、握手を交わす。とても小さい手だ。ほんの少し力を込めれば潰れてしまいそうな、可愛らしい手。
「それでは、分からない狡噛くんに教えて差し上げます」
なんか棘のある言い方だ。もっと他に良い言い方があるんじゃないのか?
「それはですね…………」
坂柳の言葉を聞いて、狡噛はこの学校に来たことを少しだけ後悔した。この学校が平穏とはかけ離れた場所であると、認識させられたのだ。
(清隆……これから大変になるぞ)
入学式から四週間が過ぎた。午後最後の授業で、真嶋先生から生徒達へ、抜き打ちの小テストが出された。
「今からこのプリントの問題を解いてもらう。もちろん言うまでもないが、カンニングは禁止だ」
突然のテストで、クラスメイト達がざわめき出す。だが有無を言わさず、真嶋先生が前からプリントを配っていく。
「受け取ったものから始めてくれ」
狡噛は、前の生徒からプリントを受け取ると、シャーペンを持たず、問題文に目を通していた。なんて事ない、授業を真面目に受けていたら解ける問題。ホワイトルーム生の狡噛慎也にとっては、こんなの朝飯前にもならない。ヘソで茶を沸かすくらいに簡単でつまらないもの。
「………………」
普通に解くのはつまらない。狡噛の中の遊び心が働いた。狡噛は問1の問題を飛ばして、問2からスタートした。そして、最後問題を模範的な回答で答え、それを消しゴムで何箇所か消していき、点数の調整に入る。
「終了だ。後ろから回してくれ」
狡噛は前の生徒に自分の回答用紙を回した。