もう一人のホワイトルーム生です   作:パクチーダンス

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問題を作るのにAIを使いました。



第二話 勉強会 

 

 高度育成高等学校は5月に突入した。今日も普段と何ら変わらない日常が来ると期待していたが、現実はそうはいかない。俺は朝起きてすぐに携帯を手に取り、今月の振り込まれたポイントの額を確認した。

 

(やはりか……………)

 

 坂柳が言っていた通りになった。俺は早々に朝飯を食べ終え、いつもよりも早く部屋を出た。そしてエレベーターに乗り一階のロビーに辿り着くと、

 

「おはようございます。狡噛君」

 

 坂柳がいた。ロビーに備え付けられた椅子に座っていた。

 

「おはよう。誰か待ってるのか?」

 

「貴方を待っていたんです」

 

「俺を?」

 

 俺は携帯を確認するが、前日に坂柳からのメッセージは届いていない。いつから待っていたのか分からないが、もし俺がいつも通りの時間に登校していたら、今よりも長く待たせてしまうところだった。

 

「言ってくれればよかった」

 

「確かに。ですが今日の朝決めたことですので」

 

 坂柳は杖をついて立ち上がる。

 

「さぁ、行きましょうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カツカツと杖が地面につく音が一定のリズムで聞こえてくる。俺は坂柳の歩くペースに合わせるよう、いつもより歩幅を狭くして歩く。

 

「それで? 俺を待ってた理由は?」

 

「既に確認されたと思いますが、振り込まれたポイントの額は先月よりも6000ポイント下がっていました」

 

 今月俺に振り込まれたポイントの額は、9万4000ポイント。どうやら俺だけではないらしい。とすると、クラスメイト達も同じ額を振り込まれていることだろう。

 

「坂柳、お前の見立てでは、振り込まれる額はクラスによって違うとのことだが」

 

「えぇ。ホームルームで真嶋先生から何かしらの連絡があるでしょう。そう言えば狡噛君、先月の小テストはどうでしたか?」

 

 小テスト? あぁ、あれか。

 

「答えは全部埋めたが、結果はどうだろうな」

 

 間違っていることなど有りはしないが。

 

「ご心配ありませんよ。狡噛君は満点です」

 

「どうしてそんなことが言える?」

 

「私の席は狡噛君と同じ列です。ですから、後ろから回ってきた狡噛君の解答用紙をコッソリと見させてもらいました」

 

「オイ」

 

「私と狡噛君の解答は何一つ間違っているところはありませんでした。故に、満点は確実です」

 

「随分と自信があるんだな。答えが二人とも合っていたとしても、同じミスをしている場合も考えられないか?」

 

「そんなことは万に一つもありませんよ」

 

「……そうか、なら安心だな」

 

 自分の実力を疑わない絶対的な自信の持ち主。俺は一瞬、自分より二回りも小さいこの彼女が、とてつもなく大きな存在に見えた。

 

「おい寛治、何でポイントが1ポイントも振り込まれてないんだよ!」

 

「俺が知るかよ! とりあえず教室に行ってみんなに聞こうぜ」

 

 俺と坂柳の横を二人の男子生徒が通り過ぎて行った。いやそれよりも、彼らは聞き捨てならないことを話していた。1ポイントも振り込まれてないだって?

 

「どこのクラスかは分からないが、これから大変そうだな」

 

「うふふ。楽しくなってきましたね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クラスメイトのざわざわした声が俺の耳に届いてくる。話の内容はやはり、支給されたポイントの額が減っている事。

 

 俺はその雑音を聞きながらも本に意識を集中していた。ペラペラとページがめくれる音、紙の感触を指で感じ取りながら、先生が入ってくるまで本を読んでいた。

 

 チャイムが鳴ると同時に、真嶋先生が扉から入って来た。だが、いつもの雰囲気とは少し違っていた。教卓に立ち、生徒達を一人一人観察するかのような目を向けていた。俺は本を閉じてカバンの中に入れる。

 

「先生ー、支給されるポイントが減っているんですが。学校側のミスなんじゃないですか?」

 

 そう声を上げたのは戸塚弥彦という男子生徒。俺が一度も話した事はない生徒だ。彼は席から立ち上がり、真嶋先生に抗議した。

 

「今から大事な話をする。皆、よく聞いて欲しい」

 

 真嶋先生がそう言うと、大半の生徒達は姿勢を正して聞く姿勢に入る。そして戸塚も渋々といった様子で席に座った。

 

「皆も既に気付いているだろう。支給されたポイントが減っている事に。だがそれは誤りなどではない」

 

「いや先生、10万ポイントが支給されるって……」

 

「私は()()()()()1()0()()()()()()()()()()()()など、

 発言した覚えはない」

 

 またも戸塚の発言が飛ぶが、真嶋先生は一蹴する。真嶋先生はホワイトボードに何かを書き始めた。それは何かの数字。その数字の横には、上から順にA、B、C、Dと書かれていた。

 

 

      Aクラス  940 cp

 

      Bクラス  650 cp

 

      Cクラス  490 cp

 

      Dクラス   0 cp

 

 

「入学から1か月間。私たち学校は君達を観察して来た。授業に真面目に取り組む姿勢、成績、そして学校の外での生活態度。それを各クラス毎に評価してポイントにしたものだ。この1ヶ月間のクラスの遅刻、授業中の私語などから減点された事によって、60cpが引かれたことになる」

 

 その理屈でいくと、Dクラスは一体どれだけの遅刻、私語を繰り返したんだ。Dクラスと他の三クラスのポイントの差が大きすぎる。

 

「ご覧の通り、君たちAクラスは他クラスの中でも最高の評価を受けている。これは誇るべき数字だ。皆よくやった。1cp = 100ppの計算となっている。君たちは940cpが残っているため、94000ppが与えられた事になる」

 

 ならば、Dクラスに支給されたppは 0ppということか。綾小路が心配になって来た。無駄にppを使っていなければいいが。

 

「まだ大事な話がある。心して聞いてくれ」

 

 混乱の渦に取り残されている生徒達に真嶋先生は生徒達を称賛を送ったが、さらに追い打ちをかける言葉を吐く。

 

 真嶋先生は丸められた白の用紙を開き、磁石を使ってホワイトボードに貼り付けた。そこに書かれていたのは、

 

「先週行った小テストの結果だ。Aクラスの平均点は75点。これも各クラス最高点だ。だがここからが問題だ。この学校では、中間テスト、期末テスト共に、1科目でも赤点を取れば、その時点で退学になることが決まっている」

 

「た、退学!?」「嘘でしょ…」「マジかよ……」

 

 クラスメイトの悲鳴ような声が聞こえてくる。赤点は平均点÷2で表される。つまりは37.5点。37点未満の生徒は即退学となるわけか。

 

「このAクラスは優秀な成績を収めている生徒が多い。赤点を取ることはないと思っている」

 

 張り出された小テストの結果。名前も一緒に載っている。俺の名前は1番上にあった。坂柳有栖と同率一位。結果は100点満点。その他の生徒は、90点がチラホラおり、80点台の高得点を取っている生徒が多い。

 

「これで最後だ。この学校では希望する就職先、進学先が叶う恩恵を受けることができるのはAクラスのみだ」

 

 またも驚きがクラス全体に広がる。希望の切符を手に入れることができるのは、一クラスだけ。

 

「説明はこれで以上とする。何か質問がある人は挙手して欲しい」

 

 たくさんの事をいっぺんに言われて、何を質問すればいいのか悩んでいる生徒が大半の中、手を挙げたのは二名。坂柳有栖とスキンヘッドな頭の男子生徒、葛城康平。

 

「ではまず、坂柳から」

 

 先に坂柳から質問させたのは、レディーファーストからだろう。

 

「今後、cpを増やすことができる『何か』が起こるのでしょうか?」

 

「いい質問だ。今後、cpを増やす手段は必ず起こる。だが現時点で詳細を伝える事はできない」

 

 このままcpが変動されない場合は、ただ自分たちに卒業先の選択権が与えられるだけになる。流石にそれはあり得ない。

 

「次は葛城」

 

「はい、ポイント減少の詳細を教えて下さい」

 

「済まないがそれは出来ない。詳細な査定の内容は、この学校では教えることができないことになっている。社会と同じだ。企業に入ったとして、人事の査定内容を教えるか否かは企業が決める事だ…………他にはいないか?」

 

 真嶋先生はクラスをぐるりと見渡した。手を挙げる者は坂柳と葛城の他になさそうだ。だが真嶋先生は、コチラををじっと見つめていた。「お前は良いのか?」と言うような目で。仕方ないな。

 

「先生、二つ質問があります」

 

「何だ狡噛?」

 

 クラスメイトの視線がが狡噛に集中する。

 

「一つ目は、退学が決定した生徒を救済する措置はありますか?」

 

「ある。退学を取り消す方法は、2000万ptを支払う事だ」

 

 2000万。途方もない額だ。到底一人では集める事は出来ない。退学する者を助ける事はほぼ不可能に近い。だが、俺が一番に聞きたい事は他にある。

 

「二つ目は、この学校において賭け事は禁止事項に当たりますか?」

 

「なるほど………学校側は生徒達の賭け事については黙認している。何かトラブルが発生したとしても、それは賭けを行った当人の責任だ。学校側は関与しない」

 

「ありがとうございます。以上です」

 

「また何か聞きたいことがあれば、職員室に来てくれ。では、ホームルームはこれで終了だ」

 

 そう言って真嶋先生は、教室から出て行った。先生がいなくなり、シーンとした教室だが、葛城が席を立ち教卓に立った。

 

「皆、聞いて欲しい」

 

 言わずとも生徒の視線が葛城に集まる。

 

「次回の中間テストはもうすぐだ。これから、中間テストに向けての対策会議を行いたいと思う」

 

 俺は頬杖をつきながら葛城を観察していた。率先して人の前に立ち、先の問題に事前に対処しようと動く力。奴にはリーダーとしての素質がある。だが、

 

「待てよ葛城」

 

 そう発言したのは橋本正義だった。

 

「まず先に決めないといけないことがあるだろう?」

 

「決めること?何をだ橋本」

 

 そう問いかける葛城に、橋本はニヤニヤとした表情を浮かべる。コイツ、一体何を言うつもりだ?

 

「リーダーだよ。このAクラスをまとめ上げるためのリーダーを決めなくちゃならない」

 

「何言ってんだ橋本? リーダーなら葛城さんで決まりだろ?」

 

 戸塚が葛城がリーダーに相応しいと主張する。だが橋本は、葛城がリーダーをする事に不満がある様子。

 

「いいや、葛城よりもこのAクラスを引っ張っていくリーダーに相応しい人間が他にいるだろう?」

 

「誰の事だよ?」

 

 橋本は戸塚にそう言われると、席を立ち上がってある一点を見つめた。クラスメイトも橋本が見る方向に顔を向けた。

 

「坂柳だよ。俺は坂柳を、このAクラスのリーダーに推薦するぜ」

 

 名前を呼ばれた坂柳は、不敵な笑みを浮かべていた。

 

「橋本くんは何故、私をリーダーに推薦されたのですか?」

 

「坂柳は前回の小テストで満点を取った極めて優秀な生徒だ。俺は何度か坂柳と話したりしたが、頭の回転が早く、知略に秀でている。クラスのリーダーをやるには、これ以上のない人物だと思うぜ」

 

「あら?そこまで言われてしまっては、私もリーダーをするのは吝かではありません」

 

 茶番だ。前々から準備されていたのだろう。それに橋本の発言にクラスの何人かは頷いていた。仲間集めは前から行っていたか。俺は話が纏まるまで目を閉じる事にした。

 

「何言ってんだ!葛城さんこそがリーダーに相応しいぜ!」

 

「そう思ってるのはお前だけだよ戸塚」

 

「私も坂柳さんが良いかなー」

 

「なっ!?西川お前」

 

「でもさ橋本君、それで言うと坂柳さんの他にもう一人、満点を取った生徒がいるよね?」

 

 色々とクラスで意見が飛び交う中、一人の女子生徒の発言の後、教室が急に静かになった。なんだ? すごい数の視線を感じる。

 

「狡噛君」

 

 俺は隣の白石に名を呼ばれるとゆっくり目を開ける。クラスメイト全員がこぞって俺の方に顔を向けていた。

 

「狡噛、お前まさか寝てたのか?」

 

 そう問いかけてくる橋本に、

 

「いや、聞き耳は立てていた。

 それで? 何で皆んな俺を見てるんだ?」

 

「いやそれ聞いてなかっただろ………」

 

 橋本が呆れた様子で俺を見てくる。

 

「狡噛君は、クラスのリーダーになりたいですか?」

 

 あぁ、そういうことか。

 

「柄じゃない。リーダーはしたい奴がやればいいさ。

 葛城でも坂柳でも、俺はどちらでも構わない」

 

 俺の言葉に、橋本はやや不満そうな顔をした。大方、自分と同じく坂柳を支持してくれると思ってたのだろうな。

 

「皆さん、私を支持してくださり有難うございます。ですが、まだ私の能力に不安を持つ生徒も多数いらっしゃいます。私はこうして杖をついて歩かなければ何も出来ません。皆さんに助けてもらうことが多いかもしれません。なので、リーダーを決めるのはこの場で無くとも、今後、何らかの試験の結果を見てから判断された方がよろしいと思います。クラスのリーダーに相応しいのが、私かそれとも葛城くんか」

 

 自分を通したいのなら実力で示すまで。それが坂柳が言いたい事。シンプルでわかりやすい。話は一旦区切りがついた。呼び鈴が鳴って、俺達は授業の準備を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日、真嶋先生から中間テストの試験範囲が発表された。それによってクラス全体に緊張が走る。もし赤点を取れば即退学。この学校から去らなければならない。

 

 前回の小テストの結果を確認した時思ったが、どうやらこのAクラスは、全体的に学力が高い生徒達が集まっている。

 

 俺は、試験範囲に該当する部分を教科書でパラパラとめくったが難易度はそう高くない。何より授業を真面目に聞いていれば解ける内容だ。よほどの体調不良に陥らない限り、このAクラスなら無事に乗り越えられるだろうと結論付けた。

 

「狡噛、少しいいか?」

 

 帰ろうとしていた俺を後ろから葛城が呼び止めた。

 

「何か用か?」

 

「今日の放課後から試験前日まで勉強会を開こうと思っているんだが、狡噛には是非とも参加してほしい。もちろん、教える人間としてだ」

 

 俺が小テストで100点を取ったからか。しかし、無駄な時間に付き合う程俺は優しくない。

 

「俺の力がなくても赤点は回避できると思うが」

 

「より確実性を求めるためだ。特に、小テストで70点台を取っていた生徒には全員参加してもらっている。どうかクラスメイトの為に力を貸してくれないか?」

 

 クラスメイトの為ね。別に俺ではなく坂柳でも良いだろうに。まぁ、アイツが勉強会なんてものに参加する人間ではないのは分かるが。

 

「………分かった。だが俺にもプライベートの時間は欲しい。参加できる回数は少ないぞ」

 

「それでも構わない。今日は16時から図書館だ。よろしく頼むぞ」

 

「………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜図書館〜

 

「なぁ狡噛」

 

 俺に声を掛けてきたのは対面に座っている男子生徒、吉田健太。Aクラスの中でも、特に明るい性格の持ち主。

 

「どうした吉田、分からない問題でもあるのか?」

 

「いやそうじゃなくて、

 お前は勉強しなくていいのかよ?」

 

 クラスメイトが教科書とノートを開いている中、俺はただ一人、図書館で借りてきた本を読んでいた。

 

「人の心配より自分の心配をしろ。赤点を一教科でも取れば即退学だぞ」

 

 俺は一旦本を閉じ、吉田が開いている数学の教科書、その中の問題集を解いたノートに目を移した。

 

「分かってるよ。でもそうしてるってことは、

 今度のテストも満点を取る自信があるのか?」

 

「………吉田、お前が解いた問題3の答え間違っているぞ」

 

「えっ? マジで!?」

 

 次の値を求めなさい。 1/(2+√3)

 

「このままだと分母に√3 があるから、√ を無くす

 ために分母を整数にしなければならない。

 これには共役をかける必要がある。

 

 2+√3 の共役は 2-√3 これを分子と分母に同じ

 ものをかける。すると分母は、(2+√3)(2-√3)

 これは公式 (a+b)(a-b)=a^2-b^2 に対応する。

 だから、(2+√3)(2-√3) =2^2-(√3)^2=4-3=1

 

 よって答えは 2-√3 となるわけだ。分かったか?」

 

「スゲェよ狡噛! 

 なんで計算式を書かずに答えが分かるんだよ!」

 

 声がでかいな。

 

「はしゃぎ過ぎだ。静かにしろ」

 

 俺は再び本に戻ろうとした時、俺の隣に座る帆足が自分の教科書とノートをズズッと俺の方へ寄せた。

 

「あ、あのー、狡噛君」

 

「………どこが分からないんだ?」

 

 

 Tom was very interested in space. He often read books about planets and stars at the library. One Saturday, he went to a science museum with his friend Ken. They saw a large model of a rocket and watched a movie about astronauts.

 

 After watching the movie, Tom said, “I want to work in space someday.” Ken smiled and said, “Then you should study hard now.”

 

 Tom thought Ken was right. From that day, he studied science harder than before.

 

 

 俺は英語の文章に目を通す。

 

「私、英語が苦手で……………」

 

「そうか。なら今から俺が簡単な翻訳をするから、

 よく聞いていろ。

 

 トムは宇宙にとても興味を持っていました。彼は図書館で、惑星や星に関する本をよく読んでいました。ある土曜日、トムは友達のケンと一緒に科学博物館へ行きました。そこで彼らは大きなロケットの模型を見たり、宇宙飛行士についての映画を観たりしました。

 

 映画を観終わった後、トムは「いつか宇宙で働きたいな」と言いました。するとケンは笑顔で、「だったら今からしっかり勉強しないとね」と答えました。

 

 トムはケンの言葉に納得しました。そしてその日以来、以前にも増して熱心に科学を勉強するようになりました。

                    以上だ」

 

「す、凄くわかりやすい!」

 

「スゲェぜ狡噛! 今の一瞬で和訳するだなんて!」

 

「オイ吉田」

 

 あまり騒ぎ過ぎると他の生徒に迷惑になる。加えて、規律に欠ける態度はポイントが減点されるかもしれない。

 

「なぁ狡噛、明日も勉強会に来てくれよ」

 

「俺にもプライベートな時間はある。毎日は来てやれないな」

 

 吉田と帆足もそこまで学力が低いというわけではない。Aクラスで見れば下の方だが、焦らずコツコツと積み重ねれば自然と点数は上がっていく。

 

「狡噛君。私もいいですか?」

 

「…………白石、お前は何でここにいる?」

 

「何でって、もちろん勉強ためですが?」

 

 白石は確か、前回の小テストで80点台後半を取っていた。だからこんな場所に来なくても良い筈だが、

 

「おい狡噛、ちょっと酷くないか? 

 白石にだって誰かと勉強したい日があるさ」

 

「吉田。次に声を出したら俺は帰るぞ」

 

 吉田はまだ何か言いたそうな様子ではあったが、

 黙って教科書を見てノートにペンを走らせる。

 

「それで? 白石はどこが分からないんだ?」

 

「化学の問題です」

 

 

 硫酸銅水和物 CuSO_4・xH_2O 25.0 g を

 加熱したところ、無水硫酸銅が 16.0 g 残った。 

 このときの x を求めよ。

 

 

「………そうか。ならまず、飛んでいった水の質量を

 求めることから始めよう。

 

 25.0 - 16.0 = 9.0 g

 

 次に、無水硫酸銅の mol を求める。

 無水硫酸銅の式量は問題文の最後に書いてある

 通りだ。CuSO_4 = 160

 

 16.0 g ÷ 160 mol/g = 0.10 mol

 

 解けたか? なら今度は水の mol を求める。

 水の式量も載ってあるだろう。H_2O = 18

 

 9.0 g ÷ 18 mol/g = 0.50 mol

 

 最後はそれぞれの mol の比を求める。

 

 CuSO_4 : H_2O = 0.10 : 0.50

 両方を 0.10 で割ると 1 : 5

 

 よって答えは、x = 5 となるわけだ」

 

「なるほど。とても分かりやすい説明でした。

 ありがとうございます狡噛君」

 

「褒めても何も出ないぞ」

 

 白石は何か言うわけでもなく、こちらに目を細めニコリと笑みを浮かべた。しかし何故だろうな。吉田からの視線がすごい。

 

「吉田、分からないところでもあったか?」

 

「いや別に…………」

 

 急に素っ気無く返してくる吉田。一体どうしたんだと思ったが、奴の視線はシャーペンを走らせる白石の方へ向いている。その理由は不明だが、何故かこの場では追及してはいけない気がした。俺はやっと本を開いて読書を再開した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「本の返却に来ました」

 

 勉強会が終わった後、俺は借りていた本を受付の係員に渡した。係員は本を受け取ると、本に貼付してあるバーコードを読み取った。これで返却は完了。さてと、俺も帰る前に一冊借りていくか。

 

「あら?狡噛くん、こんにちは」

 

 しばらく図書館を歩いていると、前から見知った女子生徒が歩いて来た。それに、その生徒の腕の中には何冊もの本が。

 

「椎名、お前は本当に本が好きだな」

 

「それは狡噛くんも同じではありませんか?」

 

「お前程じゃないさ」

 

 彼女の名前は椎名ひより。俺が初めて図書館に来た時に知り合った生徒。彼女はミステリー小説が好きで、彼女から本を勧められては、それを読んで後日感想を伝えたりしていた。毎日を図書館で過ごしていると言ってもいいくらいに本が好きな文学少女。

 

「何かお探しですか?」

 

「ああ、なにを借りようか悩んでいた」

 

「それならば、私がいくつか候補を出します。その中から、読んでは如何ですか?」

 

「そうさせてもらおう」

 

 彼女はふんわりとした雰囲気を醸し出している。それに天然なところもあってか、何かと面白い人物であると俺は認識している。

 

「何だとコラァ!!!」

 

 突然、静かな図書館に怒鳴り声が聞こえて来た。俺も椎名も、その声がした方に顔を向ける。そこには、赤い髪の男子生徒が黒い長髪の女子生徒の胸ぐらを掴んでいた。その女子生徒の隣には綾小路清隆の姿が。

 

(何故止めないんだ………?)

 

 綾小路は何をせずに静観していた。その後、黒髪の女子生徒が赤髪の男子生徒に何かを言うと、赤髪の生徒は席を立ち上がった。その横にいた二名の男子生徒も同じく立ち上がり、図書館の出入り口の方へ歩いて行った。

 

「何があったのでしょうか?」

 

「さあな………」

 

 俺は出て行った男子生徒達よりも、綾小路の姿をだだジッと見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは夜の出来事だった。俺は夜風に当たりたいと思い、寮の外へ散歩していた。外の世界へ来て1ヶ月弱。変な学校に入学してしまったが、思いのほか悪くはなかった。普通の高校生活は送れそうにもない、というのが残念でならないが。

 

(あれは…………)

 

 寮の外に設置された自販機の明かりが目立つ。その明かりに照らされ、一人寂しく佇んでいる人物を俺は発見した。

 

「綾小路」

 

 名前を呼ばれた綾小路が振り向く。

 

「狡噛、こんな夜にどうしたんだ?」

 

「散歩だ。お前こそ何してるんだ?」

 

「似たようなものだ………」

 

 久しぶりに話した綾小路は、相変わらず無機質な目と抑揚のない声をしている。俺は変わりない友人の様子にフッと笑う。

 

「今、何で笑ったんだ?」

 

「いやなんでも。それよりDクラスは大変そうだな。もしポイントで困っているならやるが?」

 

「いや、大丈夫だ」

 

「そうか」

 

 俺は綾小路と話しながら、自販機で売られている飲み物を眺めていた。別に買うつもりは全くない。

 

「友人は出来たか?」

 

「オレにできると思うか………?」

 

「前に図書館で勉強しているのを見かけたが、横にいた黒髪の女子は友達じゃないのか?」

 

「堀北のことか、アイツはただ席が隣というだけだ」

 

「堀北……?」

 

 確かこの学校の生徒会長も堀北だった筈。

 単に苗字が同じなだけか?

 

「お前はこれからも、事なかれ主義を貫くつもりなのか?」

 

「それは……………ん?」

 

 とても小さな声だった。夜は声が通りやすいと言うが、普通の人間なら聞き逃してしまうような声。だが俺と綾小路は、しっかりとその声が耳に届いていた。俺達は互いに顔を見合わせ、声がした方へゆっくりと歩いていく。寮の建物の裏手、そこにいたのは………

 

「待ってください、兄さん」

 

「鈴音、何度も言わせるな。この学校を去れ」

 

(生徒会長と……あれは、綾小路の隣にいた……)

 

 入学初日に出会った生徒会長、堀北学。そして、その生徒会長を「兄さん」と呼ぶ女子生徒。その時点で、二人は兄妹である事を理解した。

 

「もう、兄さんが知っている頃の、駄目な私じゃありません。追いつくためにきました」

 

「追いつく、か。お前はまだ、自分の欠点に気付いていない。この学校を選んだのは失敗だったな」

 

「すぐに、Aクラスに上がってみせます。そうしたら、「無理だ」…………絶対に上がってみせます」

 

 兄妹のデリケートな話をこのまま盗み聞きするのは良くないと思い、俺は気付かれないようにその場から去ろうとする。だが、綾小路に手を掴まれてしまった。

 

 綾小路は首を横に振る。「行くな」ということ。

 

「Dクラスに振り分けられた妹、恥をかくのはこの私だ」

 

 堀北学は、堀北鈴音の腕を掴むと、そのまま学生寮の壁に押し付けた。堀北鈴音の顔が痛みによって歪んだ。

 

「お前には、上を目指す力も資格もない」.

 

 堀北学は、右腕をゆっくりと上げ、堀北鈴音の腹部に打ち込む構えを見せた。その瞬間、綾小路が走り出し、あわやというところで、堀北学の腕を後ろから掴んで止めた。

 

「綾小路君!」

 

「アンタ、今本気で打ち込もうとしただろ。彼女を離せ」

 

 このまま何事もなく終わるとは思わない。そう思った俺は、携帯を片手に録画ボタンを押した。

 

「危ねぇっ」

 

 堀北学の裏拳が、綾小路の顔目掛けて飛んできた。綾小路は一歩下がりこれを回避。続く急所を狙った鋭い蹴りが綾小路の髪を掠めた。堀北学の右手がまっすぐ綾小路目掛けて伸ばしてきた。掴まれば最後、地面に叩きつけられる。それを左手の裏ではたくようにして流す。

 

「そこまでだ」

 

 俺の声で、綾小路と堀北学の動きがピタッと止まる。俺は三人に、特に堀北学に見せつけるようにしてスマホを掲げた。

 

「今の一部始終を動画で撮らせてもらった。生徒会長の暴力行為、これを学校に報告すれば、いかに生徒会長と言えど、処罰は避けられない」

 

「狡噛か………」

 

 堀北学は、眼鏡をクイッとし俺を睨んでいた。そしてその視線を、俺から綾小路へと移す。

 

「良い動きだな。何か習っていたのか?」

 

「……ピアノと書道なら」

 

「ふん、ユニークな奴だな。鈴音、お前に友達がいたとは驚きだな」

 

 堀北学は妹に話を振るが、首を横に張った。

 

「彼は友達ではありません。ただのクラスメイトです」

 

 その返答に、堀北学はハァと軽くため息を吐いた。

 

「相変わらず、孤高と孤独の意味を履き違えているようだな。それから、綾小路と呼ばれていたな。お前がいれば、少しは面白くなりそうだ」

 

 そう言うと堀北学は、綾小路と堀北鈴音から離れ、俺の方へ歩いていく。

 

「その動画は学校側に提出させるわけにはいかない」

 

「いえ、この動画は削除します。生徒会長の動きを封じるために撮ったものですから。よかったらご自分の手で」

 

 俺は自分の端末を堀北学に差し出す。その行動に堀北学はフッと笑った。受け取った堀北学は、俺の端末を操作して動画を削除する。だが、空いている片手でポケットから自分の端末を取り出して、何か操作し始めた。

 

「狡噛、お前は甘い男だな。こういう時は、相手に何か要求をするものだぞ。この学校ではそれが常だ。覚えておけ」

 

 操作し終えた堀北学は俺に端末を返した。俺はそれを受け取る。俺は目を見開いた。画面に表示されたのは、現在の自分のプライベートポイントの数値。その額は35万ppまで増えていた。

 

「アンタ………」

 

「動画を削除する代わりに、プライベートポイントを支払ったという事にする。受け取っておけ」

 

 堀北学は俺の横を通り過ぎて去って行った。それを見送った俺は、綾小路と堀北鈴音の側に近づいた。

 

「あ、あなた、誰なの?」

 

 堀北鈴音は、突然現れた俺を訝しんでいる。

 

「後のことはオレがする。悪かったな」

 

「別にいいさ。じゃあ俺は帰る」

 

 俺は堀北を一瞥したのち、寮へと戻って行った。それにしても自分の財布が潤ったことは嬉しい誤算だ。いつもよりも豪華な食事が出来るかもしれないと、俺は心躍っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数日後、ホームルームに真嶋先生は突然、俺達に中間テストの範囲が変更されたことを伝えた。俺はすぐに教科書を手に取り確認する。初めに伝えられた範囲の内容とは大きく変わっている。

 

 勉強していた部分が出て来ないとなれば、時間を無駄にしていたと生徒達からの不満の声が飛び交う。学校側が決めたことに一教師である真嶋先生に言っても何も変わらない。

 

 だがテスト当日まで十分な時間があるので、今から勉強しても遅くはない。勉強会に参加する人間も増え、葛城を支持する者も総じて増えてきた。5月初日から比べて、支持する人間が逆転してきたのではないか。

 

 お昼休み、俺は坂柳に「大丈夫なのか?」と言葉を伝えたが、問題ないと一蹴されてしまった。どうやら、余計なお世話みたいだったようだ。

 

「何辛気臭い顔してるんだよ、狡噛」

 

「橋本……」

 

「これからプールだってのによ」

 

 制服を脱いでロッカーに詰め込む橋本。俺も制服のボタンを外して着替え始める。

 

「まさか高校生にもなって、プールの授業があるとは思わなかったな」

 

「……そうだな」

 

 適当に会話を合わせる。橋本の口ぶりから推測するに、どうやらプールの授業がある高校は珍しいのかもしれない。

 

「お、おい、狡噛」

 

 俺が制服の中に着ている白シャツを脱いで、上半身が露わになった時、橋本の様子がおかしくなった。

 

「何だ?」

 

「お前、スゴイ体してるよな」

 

 橋本の視線は、俺の首から胴体へとゆっくり下がっていく。発達した胸筋、盛り上がった上腕二頭筋、綺麗に6つに割れている腹部。橋本以外のクラスメイトも、俺の筋肉に目を合わせていた。

 

「お前ら、そんなに見られたら穴が空きそうだ」

 

「いや、マジでスゲェって。男の俺でも惚れ惚れしちまうぜ。なぁ皆んな?」

 

 橋本の呼びかけに、男子生徒達は一斉に頷いた。

 

「はぁ………先行くぞ」

 

「あっ、待ってくれよ狡噛」

 

 更衣室から出ると、女子達は既に学校が指定した水着に着替え終わっていた。女子は身支度が長いと聞いていたが、水着に着替える場合は例外なのか。

 

 後から更衣室を出てきた橋本は、俺の隣に佇む。

 

「なぁ狡噛、何がとは言わないが、絶景だな」

 

「………そうだな」

 

 橋本の言わんとする事が伝わる。目の前に広がる光景に、男子達は釘付けになっていた。女子の布一枚という姿。いつもは見られない夏限定の姿。こんなにも興味をそそられる事はないだろうな。

 

「やっと来たな男子、早く集まれ」

 

 体育の先生に呼ばれて、男子達は駆け足で集合する。俺達は、体育座りでその場に座り、先生から授業の説明が行われた。その間、女子の何人かは、俺の方をチラチラと見ては頬を赤らめていた。俺はその視線を鬱陶しいと思いながらも、先生に耳を傾けていた。

 

「この中で泳げない者はどのくらいいる?」

 

 先生がそう言うと、ポツポツと手が上がりだした。恥ずかしそうに上げる者もいる。

 

「何も恥ずかしがる事はない。この授業を何回かした後は、皆んなが泳げるようになっている。今から実演するからよく見ておくように」

 

 そう言って先生はプールの中に入り、クラスの前で適切な泳ぎ方を見せる。俺は先生から視線を外し、ベンチで座っている坂柳を見た。退屈そうに足をぶらぶらとしている様子。その後、俺達もプールの中に入り、泳ぎ方をレクチャーされた。

 

「狡噛……お前、中学は何をやっていた?」

 

 先生に声を掛けられ、俺は一旦泳ぐのを止める。

 

「いえ、帰宅部です」

 

「そうか。ジムにでも通っていたんだな。

 お前、良い体してるな」

 

 先生は俺の体を上から下へ、また下から上へと目を動かしていた。何か身の危険を感じた俺は、再び泳ぎ始めて先生から距離を取った。

 

「よし、今日はここまでだ。授業のチャイムがなるまでの間は自由時間とする」

 

 授業が終わるまであと15分ほどある。クラスメイトの大半は、プールに入ってはしゃいでいた。俺はその様子を、床に座って眺めていた。

 

「狡噛くんはプールに入らないのですか?」

 

「ああ、もう十分だ」

 

 白石は俺の側まで近づくと隣に腰掛けた。

 

「私も疲れてしまいました」

 

「運動は苦手か?」

 

「ええ、体を動かすのは苦手でして。狡噛くんは、言わなくても分かります。得意そうですね」

 

 白石は俺の顔ではなくその下、胴体の部分を見てそう言った。

 

「別に、可もなく不可もなくと言った感じだ」

 

「ご謙遜を。その身体を見れば誰であっても、私と同じ発言をするでしょう」

 

 うふふと笑う白石。

 

 まただ。また俺をどこか観察するような目をしている。久しく感じていなかった、まるであの白い施設にいた大人達と同じような…………。

 

「なぁ白石」

 

「はい?」

 

「お前…………」

 

 俺が口を開いたその時、顔に水が飛んできた。せっかく乾いてきた髪の毛がずぶ濡れになり、水が床に滴り落ちる。

 

「森下………おまえ何のつもりだ」

 

 俺はプールの水を飛ばして来た森下を睨み付けた。

 

「無様ですね狡噛慎也。私の攻撃が避けられない程、白石飛鳥に夢中になっていた事が証明されました」

 

 森下藍。コイツは人の名前をフルネームで呼ぶおかしな奴だ。相手の事情をあまり考慮せずに自分の都合で話を進めたり、歯に衣着せぬ発言や毒舌を吐く。俺は未だにコイツとの接し方が分からないでいる。

 

「チッ、せっかく乾いてきたってのに…………」

 

 悪態をつく俺に、白石はまた笑った。チャイムが鳴り、今日のプール授業は終了となった。森下のせいで会話を遮られたので、白石の事は、また今度ということとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とある放課後、坂柳はカフェで神室と橋本からの報告を聞いていた。報告というのは、他クラスの内情やその動き。足が不自由な坂柳では、情報を得るために探り回るなんてことは出来ない。そのため、お友達の神室や橋本に動いてもらい探らせていたのだ。

 

「なるほど。では今の所、Bクラスに注意を払う必要はないでしょう」

 

「ああ、一番警戒しなければならないのは、Cクラスのリーダーである龍園だ。クラスの奴らを恐怖で支配しているなんてよ。マジで同じ高校生のやる事かよって思うぜ」

 

 橋本は、優雅に紅茶を飲んでいる坂柳に説明した。

 

「やり方は褒められたものではありませんが、それでクラスが纏まっているのなら大したものです」

 

「それに、Cクラスの連中は、Bクラスに嫌がらせをしているらしいんだ。道を塞いだり、わざと肩にぶつかったりとかしてな」

 

 学校側に報告しても注意で終わりそうな小さな事。問題には発展しないだろう。坂柳はそう脳内で結論づける。

 

「Dクラスはどうですか?神室さん」

 

 坂柳は橋下から視線を外し、今度は神室に移す。

 

「Dクラスで注目すべき人間は、男子では平田洋介、女子では櫛田桔梗ぐらいかしら。この二人はクラスでの信頼が厚いわ。それ以外は……高円寺六助っていうやつ。相当な問題児らしいけど」

 

「その生徒は私も存じています。唯我独尊を体現したような生徒だと記憶しています。その生徒も、今は注意する必要はないでしょう。他には?」

 

「何も」

 

「そうですか、引き続き情報収集をお願いしますね」

 

 ニコッと微笑む坂柳に、神室はうんざりした顔をする。何で私がこんなことを、なんて心うちで。

 

「なぁ姫さん。前々から、狡噛の奴も俺たちの仲間に加えた方がいいと思ってたんだが」

 

 仲間とは派閥のことを言っているのだろうと、坂柳は頭で考えなくても理解した。

 

「前にお願いしたんですが断られてしまったんです。彼はどうやら、争いを好まない性格のようでして」

 

 狡噛と一緒に昼食を食べた時、坂柳は自分の派閥に入ってくれとお願いした。だが狡噛には「面倒ごとはゴメンだ」そう言われて断られたのだ。

 

「そう言ってもよ、この先必ず否が応でも巻き込まれることになるぜ」

 

 橋本は、葛城に奪われる前に、狡噛を自分達の方へ迎え入れたいようだ。

 

「それは彼も分かっている筈です。ですが、それはクラスが一つになった時でも遅くはありませんよ」

 

「………ずいぶんな自信ね。葛城は貴方にとって取るに足らない相手ってこと?」

 

「しばらくは、Aクラスの事は葛城君に任せましょう。葛城君が失脚した後に、私が君臨すればいいだけのことですから」

 

 笑顔で恐ろしいことを言う坂柳に、神室は「あっそ」と面白くなさそうに言い返した。

 

(狡噛君、しばらくは外の世界を、じっくりと楽しんでいて下さいね)

 

 

 

 

 

 

 

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