もう一人のホワイトルーム生です   作:パクチーダンス

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第3話 派閥争い

 入学から1か月が経過し、高度育成高等学校は5月に突入した。普段と何ら変わらない日常が来ると期待していたが、現実はそうはいかない。狡噛は朝起きてすぐに、今月の振り込まれたポイントの額を確認した。

 

(9万4000ポイントか……やはり下がってるが、思ってたよりも多いな)

 

ポイントは10万ポイントではなく、6000ポイント下がっていた。他のクラスはどうなのだろうか?だが他クラスに友人はいないため、確認の手段が取れない。その時、森下からメッセージが飛んできた。内容としては、支給されたポイントが下がっている事だった。

 

「行くか」

 

狡噛はこの日、いつもよりも10分早く学校に登校した。

 

 

 

 

 

 先生が来るまでクラスメイトたちのざわざわした声が聞こえてくる。話している内容はやはり、支給されたポイントの額が減っている事。狡噛はその雑音をものともせず、本に集中していた。ペラペラとページがめくれる音、紙の感触を指で感じ取りながら、先生が入ってくるまで本を読んでいた。チャイムが鳴ると同時に、真嶋先生が扉から入って来た。だが、いつもの雰囲気とは少し違っていた。教卓に立ち、生徒達を一人一人観察するかのような目を向けていた。

 

「先生ー、支給されたポイントが減っているんですが。学校側のミスなんじゃないですか?」

 

そう声を上げたのは、戸塚弥彦。話した事は一度もない生徒だ。席から立ち上がり、真嶋先生に抗議した。

 

「今から大事な話をする。皆、よく聞いて欲しい」

 

先生がそう言うと、大半の生徒達は姿勢を正して聞く姿勢に入る。戸塚も渋々席に座る。他クラスはどうか分からないが、このAクラスは真面目な人間が多いようだ。

 

「皆も既に気付いているだろう。支給されたポイントが減っている事に。だがそれは、誤りなどではない」

 

「いや先生、10万ポイントが支給されるって……」

 

「私は毎月に必ず10万ポイントが支給されるなど、発言した覚えはない」

 

またも戸塚の発言が飛ぶが、真嶋先生は一蹴する。真嶋先生はホワイトボードに何かを書き始めた。それは何かの数字。その数字の横には、上から順にA、B、C、Dと書かれていた。

 

      Aクラス  940 cp

 

      Bクラス  650 cp

 

      Cクラス  490 cp

 

      Dクラス   0 cp

 

「入学から1か月間。私たち学校は、君達を観察して来た。授業に真面目に取り組む姿勢、成績、そして学校の外での生活態度。それを各クラス毎に評価して、ポイントにしたものだ。この1ヶ月間のクラスの遅刻、授業中の私語などから減点された事によって、60cpが引かれたことになる」

 

その理屈でいくと、Dクラスは一体どれだけの遅刻、私語を繰り返したんだと疑問に思った。Dクラスと他の三クラスのポイントの差が大きすぎる。

 

「ご覧の通り、君たちAクラスは、他クラスの中でも最高の評価を受けている。これは誇るべき数字だ。皆よくやった。1cp = 100ppの計算となっている。君たちは940cpが残っているため、94000ptが与えられた事になる」

 

ならばDクラスに支給されたppは、0ppということか。綾小路が心配になって来た。無駄にppを使っていなければいいが。

 

「まだ大事な話がある。心して聞いてくれ」

 

真嶋先生は生徒達を称賛したが、まだクラスメイトたちは混乱の中に取り残されているが、真嶋先生はさらに追い打ちをかける。

 

「先週行った小テストの結果だ。Aクラスの平均点は75点。これも各クラス最高点だ。だがここからが問題だ。この学校では、中間テスト、期末テスト共に、1科目でも赤点を取れば、その時点で退学になることが決まっている」

 

「た、退学!?」「嘘でしょ…」「マジかよ……」

 

クラスメイトの悲鳴ような声が聞こえてくる。赤点は平均点÷2で表される。つまりは37.5点。37点未満の生徒は即退学となる。

 

「このAクラスは優秀な成績を収めている生徒が多い。赤点を取ることはないと思っている」

 

張り出された小テストの結果。名前も一緒に載っている。1位は坂柳有栖の100点満点。100点は一人だけだった。その他の生徒は、高得点のものが多い。ちなみに狡噛は、もっと下の順位で77点。狡噛は上手くいったと満足した。

 

「これで最後だ。この学校では希望する就職先、進学先が叶う恩恵を受けることができるのはAクラスのみだ」

 

またも驚きがクラス全体に広がる。希望の切符を手に入れることができるのは、一クラスだけ。

 

「説明はこれで以上とする。何か質問がある人は挙手して欲しい」

 

たくさんの事をいっぺんに言われて、何を質問すればいいのか悩んでいる生徒が大半の中、手を挙げたのは二名。坂柳有栖とスキンヘッドな頭の葛城康平である。

 

「ではまず、坂柳から」

 

先に坂柳から質問させたのは、レディーファーストからなのだろうか。

 

「今後、cpを増やすことができる「何か」が起こるのでしょうか?」

 

「いい質問だ。今後、cpを増やす手段は必ず起こる。だが現時点で詳細を伝える事はできない」

 

このままcpが変動されない場合は、ただ自分たちに卒業先の選択権が与えられるだけになる。流石にそれはあり得ない。

 

「次は葛城」

 

「はい、ポイント減少の詳細を教えて下さい」

 

「済まないがそれは出来ない。詳細な査定の内容は、この学校では教えることができないことになっている。社会と同じだ。企業に入ったとして、人事の査定内容を教えるか否かは企業が決める事だ…………他にはいないか?」

 

真嶋先生はクラスをぐるりと見渡した。手を挙げる者は坂柳と葛城の他になさそうだ。だが真嶋先生は、コチラををじっと見つめていた。「お前は良いのか?」と言うような目で。仕方ないな。

 

「先生、二つ質問があります」

 

「何だ狡噛?」

 

狡噛が席を立ち、クラスメイト全員が狡噛に視線を向ける。

 

「一つ目は、退学が決定した生徒を救済する措置はありますか?」

 

「ある。退学を取り消す方法は、2000万ptを支払う事だ」

 

途方もない額だ。到底一人では集める事はできないだろう。退学する者を助ける事は、ほぼ不可能に近い。だが、一番聞きたい事は他にある。

 

「二つ目は、この学校において賭け事は禁止事項に当たりますか?」

 

「なるほど………学校側は生徒達の賭け事については黙認している。何かトラブルが発生したとしても、それは賭けを行った当人の責任だ。学校側は関与しない」

 

「ありがとうございます。以上です」

 

「また何か聞きたいことがあれば、職員室に来てくれ。では、ホームルームはこれで終了だ」

 

そう言って真嶋先生は、教室から出て行った。先生がいなくなり、シーンとした教室だが、一人の男が席を立ち、教卓に立った。

 

「皆、聞いて欲しい」

 

教卓の前に立ったのは、先程、真嶋先生に質問を行った葛城康平だ。

 

「次回の中間テストはもうすぐだ。これから、中間テストに向けての対策会議を行いたいと思う」

 

狡噛は頬杖をつきながら、葛城を観察していた。リーダーとしての素質はあるのかどうか。ちなみに葛城は、前回の小テストでは90点代を取っていた。

 

「待てよ葛城」

 

そう発言したのは、橋本正義だった。

 

「まず先に決めないといけないことがあるだろう?」

 

「決めること?何をだ橋本」

 

そう問いかける葛城に、橋本はニヤニヤとした表情を浮かべる。

 

「リーダーだよ。このAクラスをまとめ上げるためのリーダーを決めなくちゃならない」

 

「何言ってんだ橋本?リーダーなら葛城さんで決まりだろう?」

 

戸塚が葛城がリーダーに相応しいと主張する。だが橋本は、葛城がリーダーをする事に不満があるようだ。

 

「いいや、葛城よりもこのAクラスを引っ張っていくリーダーに相応しい人間が、他にいるだろう?」

 

「誰の事だよ?」

 

橋本は戸塚にそう言われると、席を立ち上がってある一点を見つめた。クラスメイトも橋本が見る方向に顔を向けた。

 

「坂柳だよ。俺は坂柳を、このAクラスのリーダーに推薦するぜ」

 

名前を呼ばれた坂柳は、不敵な笑みを浮かべた。

 

「橋本くんは何故、私をリーダーに推薦されたのですか?」

 

「坂柳は前回の小テストで唯一満点を取った優秀な生徒だ。俺は何度か坂柳と話したりしたが、頭の回転が早く、知略に秀でている。クラスのリーダーをやるには、これ以上のない人物だと思うぜ」

 

「あら?そこまで言われてしまっては、私もリーダーをするのは吝かではありません」

 

茶番だ。前々から準備されていたのだろう。それに橋本の発言にクラスの何人かは頷いていた。仲間集めは順調のようだ。俺は話が纏まるまで目を閉じる事にした。

 

「何言ってんだ!葛城さんこそがリーダーに相応しいぜ!」

 

「そう思ってるのはお前だけだよ戸塚」

 

「私も坂柳さんが良いかなー」

 

「なっ!?西川お前」

 

色々とクラスで意見が飛び交う中、坂柳を支持する人間が少し多いようだ。

 

「皆さん、私を支持してくださり有難うございます。ですが、まだ私の能力に不安を持つ生徒も多数いらっしゃいます。私はこうして杖をついて歩かなければ何も出来ません。皆さんに助けてもらうことが多いかもしれません。なので、リーダーを決めるのはこの場で無くとも、今後、何らかの試験の結果を見てから判断された方がよろしいと思います。クラスのリーダーに相応しいのが、私かそれとも葛城くんか」

 

結論は出たみたいだな。このまま多数決で決めても坂柳が勝つかもしれないが、それでは少数が不満を抱えてしまう。ならば実力で示すまで。それが坂柳が言いたい事。シンプルでわかりやすい。

 

 

 

 

 

 お昼休み、狡噛は食堂へ行こうとするが、後ろから坂柳に呼び止められてしまった。

 

「狡噛くん、一緒に食事でもどうですか?」

 

「分かった」

 

別に断る理由はない。坂柳の提案を狡噛は承諾する。

 

「神室と橋本も呼ぶのか?」

 

「いいえ、今日は二人だけで食べたいと思いまして」

 

上目遣いで微笑みかけてくる坂柳だが、狡噛の表情は硬い。

 

「分かった、なら行こうか」

 

坂柳の歩くペースに合わせるために、狡噛の歩幅は小さくなる。

 

「気を遣わせてしまいすみません」

 

「これくらい構わない」

 

坂柳とこうして二人で歩くのは初めてだ。無言のままでも別に気にしないが、せっかくだから話題を振るか。

 

「坂柳、その足では階段を登り降りするのに苦労しないか?」

 

「はい、狡噛くんの言う通りです。手すりを使わなければいけませんから」

 

「いつもは神室に手伝ってもらっているのか?」

 

「ええ、同じ女性として、助かっている部分もあるのですよ。感謝し切れません」

 

「なら、もう少し優しくしたらどうなんだ?」

 

「あら?出会って早々、揶揄った狡噛くんがそれを言いますか?」

 

狡噛と坂柳は、食堂にたどり着くまで仲良く?話をしていた。

 

 

 

 

 

 全てのクラスポイントを吐き出したDクラスは、先月支給された10万ポイントを散財し、今月の生活が苦しいと嘆く者達ばかり。そんなクラスの様子に、堀北鈴音はウンザリしていた。

 

(ホント、呆れた人たち………)

 

だが、そのDクラスの中に自分もいる。何故自分が、不良品のクラスに配属されたのか。いまだに納得が出来ずにいた。

 

「何で私がこんなところに?って言う顔だな」

 

「人の頭を読まないでもらえるかしら?綾小路君、アナタは不満じゃないの?自分が不良品として扱われているのが」

 

「別に気にしてはいない」

 

「あっそう」

 

やはりこの隣人は好きにはなれない。いつも無表情で他の顔を作らない。全く気味が悪いわ。だけど、こんな隣人でも、何かの役に立つかもしれない。

 

「綾小路君、お昼一緒に食べないかしら?」

 

「へ?」

 

綾小路清隆と堀北鈴音、二人の物語は始まったばかりである。

 

 

 

 

 

 後日、真嶋先生から中間テストの試験範囲が発表された。それによってクラス全体に緊張が走る。もし赤点を取れば即退学。この学校から去らなければならない。だが狡噛は、この中間テストで退学になる生徒は、このAクラスにはいないだろうと確信していた。前回の小テストの結果を確認した時思ったが、どうやらこのAクラスは、全体的に学力が高い生徒達が集まっているようだ。これも学校側が仕組んだ事なのだろうか。

 

「狡噛くん、少しよろしいですか?」

 

休み時間、狡噛が本を読んでいると、横の席の白石が声を掛けてきた。

 

「何か用か?」

 

白石が声を掛けてくるなんて珍しい。何かあったのか。

 

「狡噛くんは勉強会に参加されないのですか?」

 

中間テストに向けて葛城が開いた勉強会。クラスの多くは、その勉強会とやらに参加するつもりのようで、早くも葛城は、坂柳に負けじと頑張っているようだ。

 

「いや、俺はいかないな」

 

ホワイトルームで教育を受けた狡噛慎也に、そんな事は必要ない。たとえ試験範囲が分からなくても、当日のテストで満点を取る事など容易い。

 

「そうですか。失礼ながら、前回の小テストの順位は、後ろの方だったと記憶していますが……」

 

「そんな事を覚えていたのか?」

 

わざわざ他人の点数を覚える必要などないだろうに。

 

「いえ、狡噛くんの点数が印象的だったのでつい」

 

確かに77点という数字は印象に残りやすいのかもしれないが、坂柳の100点の方がより注目を集めていた。

 

「そうか、あの点数は偶然の産物だ」

 

「私はてっきり、狡噛くんは、もっと勉強が出来る方だと思っていたました」

 

「買い被りすぎだな」

 

何をもってそう思ったのかは聞かなかった。聞く必要もない事だと判断した。だがそんな俺の言葉に、白石は口を隠して笑っていた。

 

「何故笑うんだ?」

 

「いえ、すみません。おかしいですよね」

 

白石はニコッとして微笑んできた。一体何がおかしいのだろうか?白石飛鳥という生徒は、狡噛にとって何か引っ掛かる生徒であった。

 

 

 

 

 

 狡噛慎也は読書を好む人間だ。学校の図書館に行く事は往々にしてある。今日は借りていた本の返却日なので、放課後は図書館に寄ることになった。ついでに、もし居たのなら、同じ本好きな彼女に挨拶でもしておこう。

 

「本の返却に来ました」

 

狡噛は借りていた本を受付の係員に渡した。係員は本を受け取ると、本に貼付してあるバーコードを読み取った。これで返却は完了だ。さて、次は何の本を借りようか。

 

「あら?狡噛くん、こんにちは」

 

しばらく図書館を歩いていると、前から見知った女子生徒が歩いて来た。それに、何冊もの本を両手に抱えていた。

 

「椎名、お前は本当に本が好きだな」

 

「それは狡噛くんも同じではありませんか?」

 

「お前程じゃないさ」

 

彼女の名前は椎名ひより。狡噛が初めて図書館に来た時に知り合った生徒だ。彼女はミステリー小説が好きで、彼女から本を勧められては、それを読んで後日感想を伝えたりしていた。椎名ひよりは、毎日を図書館で過ごしていると言ってもいいくらいに本が好きだ。

 

「何かお探しですか?」

 

「ああ、なにを借りようか悩んでいたんだ」

 

「それならば、私がいくつか候補を出します。その中から、読んでは如何ですか?」

 

「そうさせてもらおう」

 

彼女はふんわりとした雰囲気を醸し出している。それに天然なところも多々あり、何かと面白い人物であると狡噛は認識している。

 

「何だとコラァ!!!」

 

突然、静かな図書館に怒鳴り声が聞こえて来た。狡噛も椎名も、その声がし方に顔を向ける。そこには、赤い髪の男子生徒が、黒い長髪の女子生徒の胸ぐらを掴んでいた。その女子生徒の隣には綾小路清隆の姿が。

 

(何故止めないんだ、清隆………?)

 

綾小路は何をせずに静観していた。その後、黒髪の女子生徒が赤髪の男子生徒に何かを言うと、赤髪の生徒は席を立ち上がった。その横にいた二名の男子生徒も同じく立ち上がり、図書館の出入り口の方へ歩いて行った。

 

「何があったのでしょうか?」

 

「さあな………」

 

狡噛は出て行った男子生徒達よりも、綾小路の姿をだだジッと見つめていた。

 

 

 

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