三題噺   作:深海に潜む

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「車内」「ハイヒール」「笑う」

 年末も近付いてきた、12月のある日。

 とあるモールで年越しに必要なものを買い出しに来た俺は、荷物を抱えて戻った車の中で奇妙なものを見つけた。

「靴?」

 ハイヒールである。

 女物の靴の値段などとんと見当もつかない俺だが、クリア素材のそれがいかにも値の張りそうなことは、手に持ってみてわかった。やすっちいプラスチックなどではない。硬質でひんやりとした感触のそれは、いかにも爪先を痛めつけようという高級感に満ちている。

 そんなものが、車の運転席に落ちていた。

「誰の……というか、どこから入ったんだ?」

 当然、車の窓は閉まっている。人出の多いこの時期は、犯罪者にとっても掻き入れ時なのだ。混み合った駐車場に窓も全開の車を放置していくなんて、車上荒らしにお年玉を用意するようなもの。

 というわけで、そういうイタズラにしても、一体どこから放り込んだのかわからない。

 勿論私物でもない。俺は男だし、独り身だし、そういう趣味も持ってない。身体つきが小柄なせいか、忘年会で女装を強要されることはあるが。

 考えていると、段々気味が悪くなってきた。

 つまみ上げ、モールのゴミ箱に放り込もうかと考えて、ふと、

「……捨てたら、呪われたりしないよな?」

 あるはずのない場所にないはずのものがあったのだ。超自然的な現象をつい疑ってしまってしまっても仕方がないだろう。

 それに超常現象ではないにせよ、取得物を無断で遺棄すると何らかの罪に問われるのではないかという気もする。そうか、そういう手口の詐欺の可能性もあるな。拾わせて、捨てさせて、証拠を撮って訴える。そのために鍵のかかった車を開けて、その中にこの値の張りそうなハイヒールを放り込んでおくわけだ。詐欺の手段は年々巧妙化していると聞く。

 そう考えると、捨てるのはまずいか。つまり、サービスカウンターなり警察なりに、物と一緒に責任を押し付けるのが上策になる。

 しかしこの広い、人で溢れるモールの中を、それだけのためにまた横切るというのもなんとなく悔しい。

 つまみ上げたハイヒールを、顔を顰めて睨みつけていると、ふとあることを思い付く。

「まあピッタリ」

 クリアなハイヒールの靴は、履いてみると小柄の俺の足にジャストフィット。

 なぜこんなことをしたのか?

 特に理由はない。強いて言うなら嫌がらせか。この靴に足裏の臭いをつけて、少しでも憂さを晴らしてやろうとか、そんなところだ。

 すると聞こえた、窓をコンコンと叩く音。

 見れば、やけにキラッキラした顔の男が微笑みを浮かべて車内を覗き込んでいる。勿論見知らぬ男だ。

 それでも俺は恐る恐る、車のパワーウィンドをほんのすこーしだけ開けて、男に尋ねた。

「……あの、なにか?」

 キラッキラした顔の男が笑って答えた。

「ハッハッハ。ようやく見つけたよシンデレラ」

「しまったこれはガラスの靴か」

 

 昔々、年末の舞踏会で見初めた女性に逃げられてしまった王子がいた。

 王子は女性の残したガラスの靴を片手に国中を捜し歩いたが、その見初めた女性はとうとう見つからなかったそうだ。それ以来、今も年末になると王子様が、ガラスの靴を片手にこうしてシンデレラを捜し歩いているそうな。

 とっぴんぱらりのぷう。

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