ろうやしきノそのご   作:緋色鈴

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混ぜるな危険ガールズ ~狂熱の祝祭日~
混ぜるな危険ガールズ -1-


 

「発注書がおかしい?」

「はい、マーゴさん」

 

あるとき呼び止められて、マーゴはその問題を知ることとなった。

マーゴに声をかけてきた相手は何処かで見たような鹿撃ち帽が目立つ、背丈の低いボーイッシュな雰囲気のある少女。

 

「あなた、えっと・・・ナナちゃんだったかしら」

「はい、合ってますよ。明石ナナと言います」

 

礼儀正しく帽子を取ってお辞儀をし、改めて自己紹介をする姿は妙に様になっている。

 

「挨拶もそこそこに失礼しました。ちょっと急な用件ではありましたので」

「いいえ、元からそう畏まる必要もないわ、わざわざありがとう。それで、その発注書というのは?」

「はい。まずはこれを見て下さい」

 

手渡されたのはかなり縦に長い1枚の用紙。

発注書というのは、牢屋敷で諸々入用である物品、特に食料を供給してもらうため、それを管理している機関側へ送る書類のことだった。

 

マーゴは視線を落とす。

そこには、この屋敷に滞在する少女達が消費するに足るだけの大量かつ様々な食料や生活用品が羅列されている。

それ自体はいつも通りだった、数々の品目が並べられているその()()()()

途中から、マーゴは自分の目を疑った。

 

「牛乳、砂糖、生クリーム、無塩バター、メープルシロップ、()()()()、ココアパウダー、デコペン、アイシングシュガー・・・大量のボウルと計量カップ、ゴムべら、すり鉢に・・・これは」

「テンパリングマシン。カカオバターの結晶を安定して作る温度調整用の機械です」

「・・・そう、なるほど」

 

リストから視線を上げて、マーゴはナナと顔を見合わせる。

そしてどちらからともなく、頷いた。

 

「犯人は明白ね」

「最早隠す気もないぐらいですね」

 

本命のカカオ豆が途中にあるのはせめてもの偽装のつもりだったのでしょうか、とナナが皮肉まじりに言って、ふんと鼻を鳴らしていた。

 

「それにしても、よく気づいたわね。この発注はゴクチョーの方の管轄でしょうに」

「ここに幽閉される前は、こういう調査を生業にしていたもので」

「あら、あなた以前はもう社会人だったの?すごいわ、大人なのね」

「同い年のほとんどに先生と呼ばれているマーゴさんの方が大人っぽいと思いますが」

「・・・そうね、誉め言葉と受け取っておくわね」

 

諦めてはいるが気にしてもいる事柄を口にされてマーゴは苦笑いを浮かべる。

藪蛇とマーゴは判断して、話を戻す。

 

「ともかく、教えてくれて礼を言うわ。これは改めて作り直して貰うから・・・」

 

しかしそう言いかけたところで、ナナはちょっと眉を下げて申し訳なさそうに首を振った。

 

「いえ、残念ながら少々手遅れでして・・・」

「え?」

「これは控えで、今回分の依頼は既にもう発注されてしまった後なんですよね」

 

絶句。

数秒かけて、マーゴはそれが意味するところを飲み込んで。

 

「・・・つまり、これらは近日中にこの島に届いてしまうと?」

「はい。流石にこの大仰な機材だとか、食材も非常識な量であれば機関側が却下すると思いますが、なにせまだこの島には数十人もの女の子がいるわけですから、ある程度は見過ごされるかもしれません」

「まさか一人がこれを欲しているとは思わないものね」

 

マーゴは思わず額を押さえてから、項垂れるか、天を仰ぐかに迷う。

 

「頭が痛くなってきたわ」

「心中お察しします」

 

例の甘味絡みで振り回されるのはもう勘弁して貰いたいのだが、とげんなりするマーゴ。

しかしその問題児のことを思い浮かべてから、ふと、怪訝に思うことがあった。

 

「ただ、気になることがあるわね」

「といいますと」

「少し失礼かもしれないけれど、あの子・・・()()()()()()に、こういう小細工というか、裏工作みたいな事は出来ないと思うのよ」

「マーゴさんもそう思いますか」

 

当たり前のようにナナは追従した。

件の彼女が周囲からどう思われているか分かるというものだ。

 

「筆跡も彼女のものとは違うので、本人がこれに手を加えたわけではないのは間違いありません」

「けれど、こんな品々を欲するのは彼女しかいない、ということは」

「つまり、彼女とは別に発注書を改竄した下手人・・・協力者がいる。そう考えられます」

「・・・そうなるのよね」

 

ナナの口ぶりには確からしいものがあったのでマーゴもそこを疑うことはなく、また同意見でもあった。

書類の改竄による、お菓子の材料の不正な大量発注。

そんな分かりやすい問題の中に、しかし一つまみの謎が混じっている。

それに少し引っかかりを覚えるマーゴは、この件がどうも簡単な話では終わらなそうな、面倒な予感がひしひしと湧き上がってくるのを感じたのだった。

 

「あの子に手を貸すだなんて・・・いったい誰が、どうしてそんなことをしたのかしら?」

 

 

 

・・・そうしてマーゴが首を傾げていた、その日の夜のこと。

 

 

 

「ひ、ひひひ、ついに、ついにもうすぐやってくる・・・」

「ふふ、ふふふ、そうよ、もうすぐ・・・運命の日が!」

 

深い深い闇の中で、ひそめきあう怪しげな二人の少女がいる。

彼女らは何事かを待ち侘び、そして何事かを企んでいる。

そして彼女達の前には、暗がりの中でよくは見えないものの、そこには人一人が丸ごと入ろうかという巨大な銅鍋が鎮座していた。

その底を見つめながら囁き合い、そして不気味に笑い合う少女たちのその様は、まるで、そう。

魔女が如く。

 

「それにしても協力してくれて嬉しいよ。これであたしの元には大量の()()()()()()が・・・!」

「いえいえお安い御用ですとも。私の分もありますし・・・それもこれも()()()()()()を示す為なれば・・・!」

 

そうして彼女らは興奮気味の目を闇の中にらんらんと輝かせながら、互いを見やる。

 

「準備は出来たかい・・・()()()()()

「万端です。そういうあなたは?・・・()()()()()

 

二人は頷き合い、そしてまたどちらからともなく、にんまりと口元を歪めた。

 

雨衣チヨコと、琴宮ルカ。

チョコに生きる者と、愛に生きる者。

 

近所迷惑系お騒がせ少女の二人が手を組む時、物語はかなり不味い感じに始まる。

 

 

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