ろうやしきノそのご   作:緋色鈴

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混ぜるな危険ガールズ -2-

翌日、今はほとんど使われることのない裁判所内で。

 

『あらぁ・・・それはそれは、困っちゃいましたねぇ』

「困っちゃいましたねぇではないのよ」

『そう言われても困っちゃうんですよねぇ』

 

マーゴの陳情に対して、のらりくらりとそんなことを言う。

それは、この島の正式な管理人を自称する謎の生物。

ゴクチョーだった。

 

魔法という概念が失われた世界にあってなお唯一稼働し続ける異形の存在、元魔女の使い魔なるその鳥は、今はこの島を外から管理している組織との橋渡し役として、今なお屋敷内を飛び回っていた。

 

「こんな異常な注文をして、機関側に愛想を尽かされたら困るのよ」

『そう言われましても、私は任された仕事通りのことをやっていただけなので・・・はぁ。面倒事を増やさないで欲しいのはこっちのセリフなんですが・・・』

 

相変わらずのぼやきを入れるゴクチョーに業を煮やしそうになるマーゴだが、しかし彼の無機質な視線を向けられれば警戒が先に立つ。

 

『大体、どなたか知りませんけれども、我々のやり取りにこっそり介入して文書を書き換えたのはそちらなんですよねぇ?』

「・・・それは、けれど、私達の総意ではないわ」

『あの~、連帯責任って言葉知ってます?』

 

反撃とばかりにそう詰めるゴクチョーの、間延びしていながらも酷薄な口ぶりには、相変わらずぞっとさせられるものがある。

 

『少なくともその犯人は貴方がたに見つけ出して貰うとして・・・えーと。その後どうしましょうね?』

 

ただ問題の発端自体が下らないものであることもあってか、大真面目に対応するのもバカバカしいと思えたのか。

ゴクチョーはその口調を溜息混じりの、ややおどけたようなものに変えた。

 

『・・・処刑、しちゃいます?』

「・・・冗談にしても品が無いわよ」

『これは失敬。お茶目なゴクチョージョークですよ』

 

先程の不気味さが嘘のように、ゴクチョーはあっけらかんと言った。

 

『ま、改竄に気づかずに送っちゃったのはこちら側の不手際でもあるので、そこは不問にしちゃいましょうか』

「・・・そうしてもらえると助かるわ」

『なんとな~く事情は伝えておきますので、機関の方もそう怒らないと思いますよ。知りませんケド』

「感謝するわね。別に品物は届かなくてもいいから・・・」

 

しかしそこで、ゴクチョーはなんということもないように告げる。

 

『いいえ?一応正式な形で通っちゃってるわけなので、多分向こうも出来得る限りの範囲で用意してくれるんじゃないですか?』

「あら、本当に?」

『流石にこのなんちゃらマシーンは無理だと思いますがねぇ』

「それはそれでいいけれど・・・」

 

マーゴは言葉尻を濁す。

ゴクチョーの口ぶり然り、当の管理側があまりこれを異常だと思わない事の方が意外だった。

流石にこのすべてを一人ないし二人が使う予定で発注したであろうということまでは伏せているので、この屋敷に残る人数分の量だと思われているのだろうが、しかし。

 

「正直、拍子抜けしているわ。私達がこういう嗜好品でしかないものをたくさん要求しても良いだなんて、前例にしてしまっても良いのかしら」

『それはまあ、毎回好き勝手にされたら困っちゃいますけども・・・()()()()なら多少なりは、理由があってのことと融通してくれると思いますよ?』

「・・・時期?理由?」

『あれ、違ったんですか?』

 

思い当たるところのなかったマーゴは、すでに傾いている首をさらに傾げようとするゴクチョーのきょとんとした目に困惑する。

しかし次に彼が言った言葉には、ついに、はっとさせられた。

 

『世間は、もうすぐバレンタインデーとかいう日らしいですよ?』

 

それでマーゴはようやく、今回の主犯が何故今行動したのかを理解したのだった。

 

「そういうことね」

 

 

 

迫る運命の日とは、そう、2月14日。

バレンタインデーである。

この国においては伝統的にチョコレートに縁深く、しかし元を辿ればその起源は聖ウァレンティヌスに由来する記念日でありチョコとは無関係なのだがどうたらこうたら。

と、そこは割愛して。

 

「あの子、日付を確認する手段無しでもうすぐその日だと覚えていたのかしら・・・そこまでくると執念ね」

 

牢屋敷に戻ったマーゴは、貸与されているスマホを眺めながらぼやく。

完全なクローズドネットワークである牢屋敷には不要との判断らしく、スマホには時刻はあっても日付の表示が無い。

そういうところはまだ囚人扱いが抜けないのね、とマーゴはそれを見るたびに暗澹たる気分になっていたのだが、どうやらこの屋敷にはそれすら不要な、月日単位で正確な体内時計を持つ者がいるらしい。

 

「世の中って広いと思わない?」

「・・・いきなり来て、何?」

 

怪訝そうな顔でマーゴの唐突な問いにそう返したのは、図書室で本を探していたところだったらしい黒部ナノカだった。

 

「実はかくかくしかじかなのよ」

「・・・口でそのまま言っても伝わらないわ」

 

マーゴのからかいも慣れてしまった様子のナノカは、手に取りかけていた本を棚に戻しながら、溜息をついてみせる。

 

「用件を言って」

「はいはい、実はね」

 

にべもないナノカのあしらいに満足したマーゴは、おとなしく事情を話すことにする。

曰く、発注書にチョコレートの材料を書き加えた何者かがかくかくしかじか。

 

「・・・そう、また雨衣チヨコが何かしでかすのね」

「あら、実名は伏せたのに・・・」

「意味のないことね」

 

ナノカもまた呆れるように言う辺り、先日の騒動で彼女の印象は全員が共有するところとなっているらしかった。

 

「ただどうも他に共犯がいるらしいのと、結局モノ自体は届いてしまいそうだということで、それはそれで対処が必要なのよ」

「・・・それで、そのことで私になんの用があるのかしら」

「そこでね、お願いがあるの」

 

マーゴは本題に入った。

ナノカは少々警戒するような目つきだったが、かといって放っておけばまた面倒なことになるというのも想像できたのか、やがてその眼は値踏みするようなそれに変わる。

 

「いくつ?」

「あら話が早いわ」

「・・・まだやるとは言ってない。いくつ?」

「ふたつよ♡」

「そうだと思ったわ」

「そんな察しの良いナノカちゃんにしか頼めないことなのよ」

 

ナノカは瞑目することで遺憾の意を示したようだったが、それでも。

ややあって、彼女は結局頷いてくれる。

 

「・・・まあ、分かった。内容を聞いてから考えても良ければ」

「ありがとう、なのちゃん♡」

「やっぱりやめるわ」

「あらあら、待って!」

 

踵を返して立ち去ろうとするナノカを、マーゴは笑顔で追いかけるのだった。

 

 

 

そして結局伝えたお願いは、やはり少々渋られたものの。

彼女向きの内容であると彼女自身が納得したのもあって、聞き入れてくれることとなり。

その結果は、問題の品々が牢屋敷へ届く日に、明らかになることとなった。

 




あとがき
補足:ナノカが登場する場合は「未来への伝達者」より前の時系列という設定です。
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