ろうやしきノそのご   作:緋色鈴

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混ぜるな危険ガールズ -3-

 

「さて、現行犯よ」

「マーゴ先生、なぜここにっ!?」

 

その日、マーゴは厨房を訪れていた。

そこにはまず、予想通りの人物が一人。

今朝方に届いた大量の段ボールを積み抱え、満面の笑みを浮かべながらせっせと屋敷内に運び込んでいた雨衣チヨコである。

 

「あのね、食糧供給について発注はともかく、実際に届いた時はゴクチョーだけじゃなく私も立ち会っているのよ」

「あっそっか・・・てか発注書の件ももう知ってるんですか・・・」

「大体、明らかに届いた量がおかしいし・・・貴方がこっそり運ぼうとしていたそれ、包装越しでも甘い匂いが凄いわよ。この段階に至っても本当にバレないと思っていたの?」

「いえその・・・まあ・・・なんとかなるかと・・・」

「強行策にも程があるわね」

 

改めてマーゴは、書類を弄ったのが彼女ではないと確信する。

つかつかと歩み寄ると、チヨコは荷物を放り出して素早く土下座の姿勢へと移行していた。

 

「す、すみませんでしたーっ!!」

「その潔さは褒めて然るべきかもしれないわね」

 

溜息をついて、しかしマーゴはその栗毛頭を見下ろす。

そして、冷たい声で詰問した。

 

「さあ、外部協力者の名を吐きなさい」

「えっ?!あ、え、ええーっと・・・な、なんのことですか?」

 

ばっと顔を上げたチヨコは明らかに焦っていて、今時そうはならないだろうというぐらいに下手にはぐらかそうとしていた。

 

「隠し立てすると貴方の為にならないわよ」

「い、いやあその、何の心当たりもないと申しますか・・・」

「・・・そう、それじゃあ仕方ないわね」

 

その質問は実のところ何の意味もなく、チヨコの罪の重さを量るためのものでしかない。

ぱちん、とマーゴが指を鳴らすと、厨房の外から小さな影が倒れ込んできて、どさりと音を立ててその床に伏した。

 

「ふげっ」

「ル、ルカちゃん!?」

 

そしてその後を追うように厨房に入ってきたのは、マーゴの外部協力者たち。

 

「ご苦労様、ナノカちゃん、ナナちゃん」

 

事前にこの件を知る二人に、マーゴは発注書を改竄した下手人の確保を依頼していたのだった。

ゴミを見るような目でナノカがその当人のことを見下ろして、口を開く。

 

「琴宮ルカ。あなたが発注書を改竄した実行犯であることは既に割れているわ」

「調べたのは私ですけどね」

 

肩をすくめてナナが言い、それには張り合うかのようにナノカも肩をすくめていた。

そして二人に見下ろされる琴宮ルカは何故か妙に怯えており、ぷるぷると震えているばかり。

ナナは同情するような半笑いを口端の片方に浮かべて、首を振る。

 

「でも私が探していることを勘付かれたみたいでして、ここ数日で逃げ隠れられてしまっていたんです」

「よく見つけてくれたわね。それもナナちゃんが?」

「いいえ。そんな彼女をエゲツない手段で炙り出したナノカさんは凄かったですよ」

「・・・少し興味があるけど、それはまたの機会に聞かせてもらうことにするわ」

 

視線を戻すと、頼みの綱を失った雨衣チヨコは万事休すとばかりに打ちひしがれていた。

ルカの存在が露見していなければ、チヨコが罰される間か後かに、こっそり材料の一部を盗んでもらうこともできただろう。

彼女は涙目になりながらも、一縷の望みとばかりに恐る恐るマーゴのことを見上げて、囁く。

 

「あの・・・先生・・・まさか没収なんてことは言わない、ですよね・・・?」

「さて、どうかしら・・・仮に没収したら、その後このチョコレートの材料たちはどうなると思う?」

 

指を顎にあてて小首を傾げてみせるマーゴ。

薄っすら笑みを浮かべて見下ろしているその表情は、彼女には悪魔のように見えたかもしれない。

 

「返品・・・とか?」

「まさか。これを全部返品したら今度こそ機関側に迷惑行為だと取られるわね」

「じゃあ・・・全て先生のもの、に?」

「そうね、そうしようかしら」

 

言ってみると、彼女はその場で魔女化するのかと思うぐらい絶望的な顔をした。

 

「けれどね」

と、マーゴは言葉を翻す。

「これを全部私が預かるとしても、全て一人で消費するのは現実的ではないのよね」

「えっ?」

 

チヨコはそこで場違いなぐらいにきょとんとしていた。

マーゴは内心呆れながらも、わざとらしくその説明をしてやる。

 

「だって、この量よ。とてもではないけれど、まさか一人でチョコレートを作って全部自分で食べようだなんてことは、普通は考えられないわよね?」

「・・・それはー・・・そ、そう・・・かもですねぇ~・・・?」

 

チヨコはあからさまに気まずそうに目を逸らしていた。

内心では違う事を考えているのが丸わかりだったが、とはいえ、そう詰められて否と言える者も中々いまい。

マーゴはそこで微笑みを意地悪げなものから、少し柔らかいものに変えた。

期待通りの反応をしてくれた彼女に、マーゴには一つ投げかけたい問いがあったのである。

 

「そう、そうなのよ。そうなると貴方、チョコちゃん」

「あ、はい・・・チヨコですけど・・・」

「貴方もこれだけの量を勝手に発注したのは、もしかして、他に理由があったんじゃないかしら?」

「・・・えっと?」

 

それこそ心当たりのなかったチヨコは首を傾げる一方で、雲行きが変わったということは感じたらしい。

しかし、その横で事の推移を見守っていたルカがはっと表情を変えて叫んだ。

 

「いけませんチヨコさん!これは罠っぶぇ」

 

ナナが即座にルカの口を塞いでいた。

マーゴはそちらにも薄い笑みを返してやってから、頷き、二人を交互に見やる。

 

「罠?いいえこれは慈悲なのよ、ルカちゃん、チョコちゃん」

「あの・・・わたくしめにはまだ話が見えないのですが・・・」

「続けるわね。今回、貴方がしようとしたことについて、改めて考えてみたの」

 

マーゴは床に這いつくばる彼女達を回り込んで、問題の大量の段ボールの方に近づき、その一つに手を置く。

 

「もうすぐバレンタインデーだと聞いたわ」

 

すり、と段ボールの表面を撫でながら、再びチヨコを一瞥して。

 

「この大量の材料。そして私達は全員が同年代の女の子・・・それなら、あなたは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そういう【企画】をしてくれたのじゃないかって」

「そっ、れは・・・」

 

チヨコは一瞬愕然として口を開けて、しかし続きの言葉を言えなかった。

その間に滑りこむように、マーゴは殊更に明るい声で続けた。

 

「それならある程度、事情を汲んであげても良いと思わなくもないのよ。協力してあげてもいいわ」

 

ナナとナノカに締め上げられたまま、ルカがぶんぶんと首を振っている。

しかしチヨコは、マーゴの視線に射すくめられてそちらを見やることが出来ない。

 

「これが貴方なりのサプライズだったのであれば、このことを他の子たちにも話して、これを分け合い、皆でチョコレートづくりというのも楽しそうじゃないかって。どうかしら?」

「うっ・・・でもそれだとあたしの・・・」

「勿論、これが貴方の全て自分本位の企みだったのなら、罰としてこれらは一片たりとも貴方の手に渡すわけにはいかないわよね」

「ぐぅ」

「そして、もし逆に()()()()が当たっていたのなら、貴方の分の材料はもちろんあるし、善意の企画者である貴方はいくらか多くのチョコを贈られるでしょう」

「・・・」

 

歩み寄ったマーゴは屈みこんで、愕然としているチヨコのすぐ目の前に顔を置く。

 

()()()()?」

 

満面の笑顔で、そう告げて。

もはや選択肢は残されていないのだいうことを、チヨコも察したようだった。

しばしの沈黙の後。

まるで殺人を暴かれた犯人が自白するかのように、苦渋の顔でゆっくりと頷いて。

 

「・・・そうです・・・あたしは、みんなでチョコを作るためにこれを頼みました・・・」

 

噛み締めた奥歯から絞り出すような震えた声で、彼女はそう言ったのだった。

 

 

 

 

 

♪ボクとワタシの (魔法少女が自白する時のピアノ)

 

これは何週間も前から練られていた計画でした。

バレンタインデー。あたしにとってそれは、チョコレートの日。

大好きなチョコをたくさん食べられる、とっても幸せな日でした。

 

学校に居た頃は、それはみんなにとっても特別な日。

その日が近づくと友達はみんな同じ話をして、同じことを計画します。

まずはこっそりチョコを用意する。

市販のものを買って。あるいは気持ちを込めた手作りに挑戦して。

そしてその日は、誰にも気づかれないようにそれを持ち込んで。

親しい人にあげよう。友達にあげよう・・・好きな子に、あげよう。

 

そんな彼女達のくすぐったい話を聞きながら、あたしは我関せず。

誰にあげるでもなく、いつも自分のためのチョコレート作りに勤しんでいました。

だって大好きなチョコレート。あるのならば自分が食べたいと思ってしまうから。

 

ですがこの島、牢屋敷には、そんな友達も、習慣も、チョコレートの材料もありません。

バレンタインに一つのチョコもない。

そんな日が来てしまうことを、あたしは許せませんでした。

 

島に材料を持ち込む計画はそこから始まりました。

けれどそれもはじめは杜撰で、机上の空論で、絵に描いたチョコ。

それは同じようにその日を待ち焦がれ、ある人へチョコを贈りたいという情熱に焦がれていた一人の女の子、琴宮ルカちゃんと出会ったことで、ちゃんと形になったのです。

 

ルカちゃんに発注書を改竄してもらい、材料と機材を届けてもらうことにしました。

機関はいまのところ私達に甘い。ここにはたくさんの女の子がいる。きっと通してくれるはず。

ルカちゃんの推測は正しいものでした。

かくして、この島にもたくさんの材料がやってきてくれました。

あとはこっそりチョコレートを作るだけ。幸せな時間はもうすぐやってくる。

・・・けれど。

 

嗚呼。

どうしてこんなことになってしまったのでしょう。

 

マーゴ先生によって、計画は暴かれてしまいました。

でも、はじめから全部分かっていたのだと言われて、ああやっぱり、という気持ちもありました。

だって、結末はいつも同じ。

なんのトリックもない、バレないことを祈るだけのあたしでは、この島では生きていけなかった。

ルカちゃんには悪いことをしてしまったけれど、土台無理な話だったのでしょう。

 

ああ、もっとたくさんチョコが欲しかった。

あたしの計画はこれでおしまい。

 

 

 

・・・けれど。

計画は失敗しても、全てがなくなったわけではありませんでした。

みんなでチョコを作ろうと、そしてそれにあたしも混ざってもよいと、マーゴ先生は言ってくれました。

今まで考えたこともありませんでした。

 

それを思い描いてみれば、少しは気持ちも晴れるような気がしました。

全部を独り占めはさせてもらえなかったけれど、それならば。

 

一人分のチョコでも作らせて貰えるのなら。

誰かからチョコを貰えるのなら。

 

そしてあるいは・・・今度は誰かに、少しでも、自分からそれを贈ることで。

いつかもっと、たくさんのチョコを返してもらえるのなら。

それでもいいのかなと、ほんの少しだけ、思うことができました。

 

 

 

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