そして、当日。
「アッハハハハハ!!あーっはははははは!!!!」
「うわあ!さっきまで大人しかった雨衣が暴れてる!?」
「雨衣のヤツ、さっき貰った
「誰か止めなかったの!?」
「みんな避難しよう!さもなくばチョコを奪いつくされるか、チョコまみれにされるかのどっちかよ!!」
「琴宮ルカが脱走したぞー!!」
「あの子、昨日、輸送のヘリを奪って二階堂さんのところに行くとか言ってましたよ!!」
「さすがに機関が黙っちゃいないでしょソレは?!」
「いくら同好の士とはいえ連帯責任なんてイヤよ!」
「あの馬鹿をつかまえて!!」
「・・・嗚呼」
力なく、声が漏れる。
ソファで横になっているのは、精魂尽き果てた宝生マーゴだった。
ばたばたと複数人の足音、そして轟と喧噪が嵐のように部屋を通り過ぎていく。
聞こえてくる屋敷を取り巻く騒動は大きく分けて二つ。
しかしもはや、マーゴはそのいずれにも関わりたくはなかった。
そのまま呆けて横になった視界から床を眺めていたマーゴは、騒ぎの音に紛れて、とた、と小さく一人分の足音が近づいてきていたことに気がついた。
「あの、マーゴ先生、大丈夫で・・・し、死んでる・・・」
恐る恐る様子をうかがいに来た子がソファの背もたれの向こうから頭を覗かせて、そこでこの世の終わりみたいな顔をしたのが見えた。
多分、自分もきっと同じ顔をしているに違いない。
「大丈夫では、ないわ・・・」
ぼそりと呟いて、一応の生存を示すと、彼女はほっと胸を撫で下ろしている。
その横にひょこりともう一つの頭が現れ、マーゴはそこでその二人組がいつぞや聞き取りをしたチヨコの同期の子たちであることを思い出した。
「あの・・・なんていうか、おつかれっす、先生」
「有難う・・・横のまま、悪いわね・・・」
しゃがれた声でマーゴが応じると、心底労わる表情で二人は眉根を下げている。
そして大人しそうな雰囲気の子の方が、おずおずと口を開いた。
「あの、マーゴ先生にお渡ししたいものがあるんです」
「なあに?悪いけど、そこに置いておいてもらえ・・・待って」
言われた通りに何かを持った彼女の手がテーブルへ伸ばされたのが視界に入り、それがなんであるかをみとめた時、流石にマーゴは身を起こした。
「それって・・・」
「日頃からの感謝の印っす、先生」
つられるように手を出すと、そこに二人がそれぞれ可愛らしい花の飾りのついた、ピンク色と赤色の包みを乗せてくれる。
しかし、マーゴはそれを素直に受け取るにはまだ理解が追いついていなかった。
彼女達と話したことを忘れてはいない。
「あなたたち、チョコレートの匂いがダメって言っていたわよね・・・?」
と、彼女達はまた顔を見合わせた後、どことなく照れくさそうに頬を掻いていた。
「いやあ、まあ・・・皆が大量に作ってて甘い香りは屋敷中に充満してましたし、もう何処にいても一緒っていうか、開き直りっていうか・・・そんなとこっすよ」
「気合です。自分で食べるんじゃなくて、人に贈る為なら話は違いますから」
「・・・そう」
その言葉を額面通りに受け取るほど、マーゴは素直ではない。
しかしそうまで言われて贈り物を受け取らないほど、偏屈でもなかった。
「貴方達の気持ち、受け取るわね・・・ありがとう」
まず人を、好意を示すその本心を疑ってかかる自分にしては、屈託なく笑えたと思えた。
「ただすみません、味は保証しません・・・」
「そんなこと。それなら早速食べてみてもいいかしら?」
「どうぞっす」
袋を紐解いて、食べやすいように小さく分けられているチョコを一つつまむ。
口に放り込んでみると確かに、甘味を苦手とした二人の手によるものゆえか、甘さは控えめにほろ苦さが勝つ、ビターな風味のチョコだった。
そしてそれは勿論、それゆえにこそ。
「とても美味しいわ、有難う」
微笑むと、二人は安心したように目配せをしていた。
その様は愛らしく、むしろその光景の方にマーゴは疲れていた脳が癒されていくような気がしたのだった。
ただそこで、屋敷をぐるりと一周してきたらしい嵐が再びその場を訪れる。
「アハハハハハ!!チョコをよこせぇえ!!」
「来たぞ、取り押さえろ!」
「痛っ、力強っ、なんでこの子こういう時だけこんなパワーあるわけ?!」
「ちよこれゐと、食へば人を狂わすか。げに恐ろしき甘味じゃな・・・」
「姫様、アレは例外にて御座います」
「あの狂信者はどこだ?!」
「塀の向こうまで行かれたら大問題よ!」
「いた!ルカがいたぞー!!」
「だーっ!っから、あーしは人違いだって、もう!あのバカもう外に行っちゃったし!わーったよ、このまま追いかけてやるって、者ども続けぇ!!」
玄関前ホールを駆け抜ける少女たちの喧噪と共に、この島に来てから何度目かの嘆きが脳裏を通り過ぎていく。
嗚呼、どうしてこんなことになったのかしら。
「・・・」
各々が遠い目でそれを見送って。
「先生・・・頑張りましょう」
「ウチらも手伝います。ファイトっす」
「ええ・・・ありがとうね」
再び気が遠くなりそうになるのを、マーゴは二人から貰ったチョコをもう一つかじることで、気付け代わりとしたのだった。
明石ナナ
魔法:【解錠】 施錠されている扉や金庫を開ける(魔女化で電子錠すら開ける)
原罪:
ガチの探偵少女(助手見習い)。見た目はボーイッシュで短髪、中性的、頭には鹿撃ち帽(ホームズのアレ)。
素性が分かるなり橘シェリーに激リスペクト、質問攻めにされていた。
探偵のイメージにありがちな殺人事件の捜査などではなく、堅実な身辺調査や人探しを主としていたのでシェリーの期待の眼差しが痛く、適当に誤魔化し続けていたのでシェリーが帰る頃にはだいぶ憔悴していた。
禁忌は、依頼とはいえ人が抱える暗部を解き明かし、要らぬ秘密を暴きだしてしまったことによって結果的に悲劇を生んだことへの後悔。
それと向き合わないまま騙し騙しに探偵業を続けていたので、謎を解くことまでは積極的でもそれがもたらす影響には頓着したがらず、言い換えれば己の行いにやや無責任な節がある。
当時の裁判では持ち前の調査能力を存分に発揮し、当時はエマやヒロにも劣らぬ活躍ぶりで犯人を特定していた。
しかし一方で中盤以降はなまじ有能なのが知れ渡ったゆえに「脅威だと思われて殺される」ことに怯える羽目に。
また「黒幕はこの中にいる」という事実は突き止めたのだが、それを宣告したところ肩書のせいで周囲からは丸投げ気味に頼られてしまったこと、中々その断定までは至れないという重圧で魔女化が進行。
被害者にも加害者にもならぬよう逃げ隠れているうちに別の事件が起き、捜査に駆り出されるために黒幕の事を調べる暇がないという悪循環に陥っていた。
ついに黒幕の正体を突き止めた頃には彼女と2人きりであり、詰みの状況に絶望しながらなれはてとなった。
黒幕に打ち勝つ力も、時を戻してやり直す力もない少女には、全ての謎を解き明かすことはできても、そこから現れた闇に立ち向かう術が無かった。
魔法は【解錠】
手で触れている扉に対して、鍵を持たずともその錠を強制的に解く魔法。
むしろ泥棒向きの力だと本人はこの魔法を忌避しており、他人に見せることは無い。
物探しや身辺調査にあたって普通の探偵業に用いる限りでは便利なのだが、殺人事件においては密室をうっかりこの魔法で解いたりすると犯人扱いされかねない上に真犯人の用いたトリックがよく分からなくなるため、使う用途も限られる。
また解錠はできても施錠はできないので自身で密室を作ることも出来ず、仮に犯人になるとしても使い辛い、とつくづく島での生活に向いていない。
余談1: 彼女視点で屋敷内の鍵を魔法で開ける選択肢は全てBADENDルート。
余談2:「解錠(再施錠可能な状態で開ける)」と「開錠(破壊してでもこじ開ける)」は意味合いが違うが、奇しくも彼女が解錠して死ぬ扉は、シェリーも開錠すると死ぬ扉である。懲罰房とか。
余談3:若干ハンナに嫉妬されていたのだがその理由は全く理解できていない。
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チョコの同期ちゃんA
チョコの同期ちゃんB
特に考えてないです。