女子力は一日にして生らず、なれば耕して育むべし -1-
その日、湖のほとりに少女達のほぼ全員が集められていた。
「私達は自足自給が出来るようにならなくてはなりません」
そう告げたのは勿論、臨時の取りまとめ役となっている宝生マーゴ。
先日のある無法者の暴挙によって生じたある問題のために、彼女達に集まってもらったのだ。
特殊な環境に保護されている身ながら、食料供給にかこつけて非常識な量の嗜好品を取り寄せた一件。
それだけならばまだしも、そのために島を訪れていた輸送ヘリを強奪しようとしての脱走未遂は流石に、年頃の少女のやんちゃでは済まされない事態とみられたらしく。
ゴクチョーを介してではあるものの、組織の方から正式に警告と言う形でお叱りを受けてしまったのである。
「といっても特にペナルティがあったわけではないわ。普段通り生活している分には影響はないのだけれど」
ほ、という空気が少女達から滲む。
「けれどもうそういう騒ぎは起こせないし、少し旗色が悪くなったのも確かよ」
また少し緊張が走って、マーゴはそこに説明を付け加えた。
「それにこの島の管理をしている機関とやらは今はまだ私達を庇護してくれているけれど、それもいつその気が変わるか、あるいはその組織自体、いつまで存続しているのかは私達からは分からない」
魔女に成り得る存在だったからという理由があるとはいえ、元が年端もいかない少女を拉致監禁し、そのまま秘密裏に葬ってきたような組織だ。
そこにまともな倫理観があるとは思えないが、組織であるなら恐らく完全な一枚岩でもないのだろうとマーゴは考えていた。
いまのところ多少なり融通が利いているのは多分向こうにも、罪滅ぼしのつもりでそうしたいという声があるのだろうと。
もう必要が無いのなら、その被害者だった者達には手を差し伸べたい、という者がいても、おかしくはない。
有難いことではある。
しかし、いつまでもそれに甘えているわけにはいかない、ともマーゴは思っていた。
「インフラなんかは正直私達の手に負えない部分もあるから追々考えていくけれど、少なくとも、食べるものについてはまだ私達でどうにかできる余地があるわ」
機関としても監視の名目は必要だから黙認しているのだろうが、前回のような件があってはその慈善の手に待ったがかけられてしまうかもしれない。
そもそも解体されて然るべき組織だ。いつ別の思惑が介在するかもわかったものではない。
「いつか梯子を外された時、そのまま飢えて死ぬような事態は避けたいと思うの」
そうマーゴは述べる。
そのために、畑を作りましょう、と。
多少なりとも自分達で食料を得る手段を確立できれば、と。
そして集められた少女たちの反応は、否定的ではなかったが、あまり芳しいものでもなかった。
やるべきだろうが、やりたくはない。
年頃の少女にサバイバルのような真似をしろと言えば、無理もない反応ではあった。
マーゴは想定通りの空気が流れたのを見て取ってから、話を次の段階へ進めることにする。
「そこで、専門家とも言える子にこれを依頼したわ」
横に退いて、入れ替わるように一人の少女が壇上に立つ。
彼女は緑と白に塗られたやたらと丈の長い羽織に身を包み、長い黒髪に留められた巨大な金色の飾りが目立つ少女だった。
「みなのもの、参集ご苦労じゃ」
「あ、お姫様」
前に出てきた少女を見て、誰かの声が上がった。
集まった中には多少なり彼女のことを知っている人がいるらしい。
聞こえたのか、うむ、と尊大に頷いてみせる彼女は、当たり前のように言う。
「当然、ここにいる全員が知っておるじゃろうが、改めて名乗ろうか」
知らんが、という小声がどこかで呟かれたが、幸いにしてそれは聞こえなかったらしい。
「妾の名は漆御門ヒメコ。かつてはとある土地で崇められていた
胸を張ってそう名乗り上げ、ちらと片目を開けて様子を窺う姫巫女は、少女達から「おお」という感嘆の声が上がるのを期待したようだった。
しかしむべなるかな、場を支配したのは、きょとーん、という音まで聞こえてきそうな、当惑の沈黙である。
一拍置いて。
何事もなかったように、ヒメコは先を続けることにしたらしい。
「まじょだのまほうだの、まじょいんしだのと、お主らの言葉は分からんが、
巫女?とその各々が当惑して顔を見合わせたのをどう受け取ったのか、ヒメコはうむうむ、とまたしても大仰に頷いている。
「もはや名も位も力も何もかもが失われた身の上、そんななかで唯一つ拾い上げた命じゃ。同じ境遇、いわば同胞たるお主らと共に暮らすのもやぶさかではない・・・と、これは蘇って暫くの妾が言ったことじゃが」
「改めて感謝するわ、ヒメコちゃん」
「ちゃん付けはよせ」
横からそう言ったマーゴに呆れた顔を向けた後、ヒメコはもう一度咳払い。
「話を戻そう。そうして今日まで過ごしたところ、此処での暮らしも存外悪くない。先日お主らが供した
ホワイトデーのこと教えてあげなきゃとまた誰かが呟いていたが、話の本題はヒメコの方に譲られる。
「そこで此度、畑を作ろうという話とあればと名乗り上げたのじゃ。なにせ、わらわが会得していた術は【豊穣】の力であるゆえな!」
そこで僅かにどよめきが起きて、ヒメコはいたく満足したようだった。
【豊穣】の魔法。それは字面通りに捉えれば、自然の実りを豊かにする力だ。
魔法そのものはもう無いとはいえ、畑をこれから作ろうという時に心強い存在な気はする。
巫女という肩書にも説得力が生まれ、確かにそこで少女達の見る目は変わったと言えた。
「永い時を超えて生まれ変わった妾の身に、その力こそ残念ながらもう備わってはおらんようじゃが、案ずることはない」
そうしてヒメコは自慢げに再び踏ん反り返って、高らかに宣言してみせるのである。
「なんとなれば、それがなくては生きていけなかった時代を過ごしたのじゃ。培ってきたものはある・・・畑のことならば、任せるがよい!」
今度こそ、おお、という声が上がって。
「
ん?という声が上がって、全員の首が傾けられて。
「・・・笹名塚ツキと申します。農作について、
ヒメコの陰から音もなく現れた新たな登場人物の、流暢に述べられた唐突かつ簡潔な説明に、全員は首を傾けたままおずおずと頷くという、器用な動作を強いられて。
「・・・じゃあ姫は?」
また誰かが呟いたのは、少女達全員が思い浮かべた疑問なのだった。