ろうやしきノそのご   作:緋色鈴

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決起せよ野菜嫌いの少女達!
決起せよ野菜嫌いの少女達! -1-


 

「小学生か!!」

 

渾身のツッコミが炸裂したのは、ある日の食堂にて。

 

珍しく大声を上げたのは、食事を終えて皿を片付けようとしていたギャル子だった。

相手はこれもまた珍しく、ノアとアンアンの二人。

彼女達はどちらも、ギャル子が持っているのと同じ皿を手にしている。

それはギャル子がアトリエに運んでおいた食事であり、何故かそれを隠すかのように携え、こそこそと食堂の壁沿いを回り込んで厨房に向かおうとする二人の妙な姿が気になってギャル子が声をかけたのが、つい先程のことだった。

 

理由はすぐに判明した。

 

「あのね、ノアちー、なっちー。流石のあーしも怒ることはあんのね。せっかく作ってもらった料理から、嫌いなものだけご丁寧に取り除いてこっそり捨てちゃおうなんて、そんな子供っぽいマネしちゃダメっしょ!」

 

自分が運んだからというのも怒りの一部になくはなかったが、それ以前にギャル子は食事への礼儀として、それは譲れないところだと思っていた。

が、反応は芳しくなく。

 

「のあ、ニンジンきらい」

「わがはいも嫌いだ」

 

不貞腐れたように、そして何を言われようとも断固として聞き入れないという態度を如実に出して、二人はそう言ったのだった。

 

そしてその言葉に誰より驚いていたのは、作物を育てるに一家言ある少女だった。

聞き耳を立てていたヒメコが、がたんと席を立ちあがって叫ぶ。

 

「なんじゃと?!おぬしらは野菜を食べたくないと言うのか?!」

 

ぷい、とそれぞれ左右に顔を背けたのが彼女達の返答で。

ヒメコは愕然とした後、ぷるぷると震えていた。

 

「むむむ、妾の時代は食えるというだけで恵まれておったものを、最近の若いもんは選り好みなどと贅沢な!」

「セイセイお姫様、気持ちは分かるけどアタシら全員同い年ね」

 

なんやかんやいつも一緒にいる女子がそう宥めながらやってきて、慣れた様子でヒメコの両肩に手の平を載せ、彼女を座らせていた。

一方、普段はそういう時に姫を諫める立場である従者のツキは、その横でテーブルを見つめ、何か考えごとをしているようだった。

 

そして、それらの様子を見守っていたマーゴ。

ツキの横顔を見て彼女の懸念するところが分かり、ふむと案じる。

 

「畑ですか」

「ええ」

 

同じくその思考をトレースしたのか、隣の席にいたナナが声をかけてきた。

マーゴは頷く。

ノアとアンアンのような食わず嫌いは論外だが、さりとて無視できることでもない。

中には【食】についてより深いところに問題を抱えている少女もいるかもしれないし、それでなくても栄養の偏りなどは今後の懸念事項である。

なにより問題は、これからの食事がそうした野菜中心になることが確定していることだった。

 

「うーん、野菜や果物以外となると、せっかく周りが海なんだし魚を釣りに・・・後は、いっそ牛でも飼うとか?」

 

かうだけに、とナナが戯けたことを言っているとマーゴは溜息交じりに。

 

「馬鹿を言わないで、いきなりそんないくつも挑戦していられないわ。その辺りは今まで通りに仕入れてもらうしかないわね」

 

畑と水田でようやく展望が見えてきたとはいえ、それで問題が万事解決するわけではないのだった。

未だにギャル子とヒメコのお叱りに断固として抵抗している子供二人を眺めながらマーゴはぼやいた。

 

「でもどちらにせよ、せっかくこれから採れるものを食べない子がいるなんて正しくない・・・不健全だと思うわ」

「ヒロさんの口癖が移りましたね」

「いいから貴方もちゃんと考えて」

「アッハイ」

「ねえ今誰かヒロ様の話をしなかった?!」

「貴方は黙っていて」

「アッハイ」

 

横から飛んできた問題児を黙らせつつ、話を戻す。

その間ナナが大人しく熟考のポーズでテーブルと子供達の間で視線を行き来させ、うーむと唸っていた。

 

「なんにせよ、甘やかしすぎるというのは教育上良くないですよねぇ・・・」

「甘やかす・・・()()?」

 

呟かれた声に、ナナがちらり、とマーゴの方を見やる。

ひとつ、マーゴは思いついたことがあったのだった。

 

「そうね、ここは古典的な手段でいきましょう」

 

 

 

数刻後のマーゴは早速、厨房に人を集めて対策に取り組んでいた。

畑担当ゆえに気が気でなかった様子のツキにも一緒に来てもらっている。

そして今回は、こちらから助力を乞うのは少し珍しい人物に、力を貸して貰うことになっていた。

 

「フフフ、まさかこのあたしの力を頼られる日が来ようとは、かつて手にした魔法の再現を日頃試みていた甲斐があったというものですよ」

「御託はいいからやって頂戴」

「アッハイ」

「あとチョコちゃん、条件が一つ。甘くすると言ってもチョコレートは禁止するわ」

「なんですと!?待って下さいチョコレートも立派な調味料、フルーツとも相性抜群なのは勿論、カレーの隠し味なんか定番ですよ!なんならお肉料理にチョコレートソースがけなんてのも」

「駄目」

「アッハイ」

 

この屋敷の名誉トラブルメーカー、雨衣チヨコ。

しかし彼女は自身がチョコレートを食べること以外にもまだ個性を持ち合わせていた。

かつて【甘味に変える魔法】の持ち主だった彼女は、魔法がなくなっても尚それについて一家言あったのである。

そしてそれに用いる甘味料に関しては、バレンタインの時の余りの在庫があったのだった。

 

「ほう・・・野菜に、蜂蜜とは・・・」

 

フライパンの上で踊る人参が飴色の輝きを帯びていくのを興味深そうに眺めながら、ツキが言った。

 

「貴方達の時代は、甘いものって物凄く高価だったのよね、きっと。チョコの時に気がつくべきだったわ」

「・・・はい。わたくしはもちろん姫様も口にしたことが無かったものですから、あの甘味には驚かされました。砂糖からして存在すら・・・そうした甘いものを、普段の料理に用いるという発想自体がありませんでした」

 

姫様なのに?と雨衣チヨコが首を傾げていたが、ヒメコの正体を聞いているマーゴやナナは苦笑いでそれを流す。

 

「蜂蜜も、わたくしの感覚では大変貴重なものです」

「まあ値段はピンキリだけれどね・・・でもそれもまた、選べるということ自体が贅沢よね」

「ちなみにあたしが買ったこれらは純国産のかなりイイヤツですよ!」

「よくも笑顔で言えたわね」

 

マーゴに凄まれて、引きつった笑顔のままチヨコが料理をする、その傍らで。

ツキが薄く微笑んで、小さく呟いていた。

 

「好い時代になったのですね」

 

 

 

 

そして。

 

言葉巧みに食堂に誘導されてきたノアとアンアン。

二人とも最初は、お出しされた皿の上にある人参を親の仇のように見つめていた。

しかし食べやすくあえて大きめに角切りされたそれらは、表面をコーティングしている蜂蜜によって光沢を得て、キラキラと輝く薄橙色の宝石みたいにも見える。

そして二人もそこから香る甘い匂いに気づいたのか、互いに顔を見合わせて、少し当惑しているようだった。

 

「貴方達って子供の頃に甘い人参、食べたことない?」

 

皿を挟んでテーブルの反対側で、見下ろすマーゴが口を開く。

今も子供だけれど、というのは心の中に仕舞って。

 

「貴方達でも食べられるようにしてもらったのよ。すっごく美味しいの♡」

 

と、マーゴは言ったのだが。

ノアとアンアンは疑わしげにマーゴを見上げていた。

しかし横にいたナナが「本当ですよ」と追従してみせると、眉をひそめる。

加えて、すわ何事かと周りに集まってきていた他の少女達もまた趣旨を理解して、しかめつらしく頷いていたので、それらを見て考えが変わったらしかった。

 

「信用ないのね・・・」

「マーゴだからな」

「あらあら・・・」

 

最後に憎まれ口をひとつ叩いてきたアンアンはしかし、ノアと示し合わせたように同時にフォークを手に取って、恐る恐るそれを口に運んで。

・・・そしてノアともども、ぱあっと目を輝かせていた。

 

「・・・!」

「おいしい~!」

 

幸いにして、好評らしかった。

あんなに嫌がっていたのが嘘だったかのように、彼女達は喜んで人参を口にしていた。

 

あんまり美味しそうに食べる二人が微笑ましいのか、野次馬だった少女達が面白半分に参加しだして、おかわりもあるよー、とツキとチヨコが準備していた追加の皿を厨房から入れ替わり立ち代わり持ってくる。

ツキはこの機にと勉強熱心なところを見せ、蜂蜜以外にもバターや砂糖を使ったレシピなど、甘い味付けの料理を片端からチヨコに教わっていたのだった。

曰く姫様もこの手のが好きなので、と。

見れば、おかげで手の空いたツキが厨房から顔を出していて、食卓の様子を見るなり、その薄い笑みをわずかばかり満足げなものに変えていた。

 

「私もちっちゃい頃はこういうの好きだったなあ・・・どれどれ」

「んま!イケる!」

「え、これ雨衣作なん?やるじゃん!」

 

・・・一部つまみ食いに興じる子らもいたが、それはそれで。

そうして少女達によって続々運ばれてくる甘い野菜料理を頬張って、ノアとアンアンは顔を綻ばせていた。

 

「のあ、このニンジン好き~!」

「わがはいもだ!」

 

一方、頬杖をついて食卓の隅でそれらを眺めていたギャル子はそのリレーには加わらず、そんな各々を見やって一言。

 

「マジで小学生か・・・」

 

普段は世話を焼く側であるギャル子は、今回ばかりは呆れ果てていたのだが。

しかし、結局これ甘やかしているのでは?という疑問は、それでも。

二人の笑顔の前では、雲散霧消してしまうらしかった。

 

 

 

・・・そして、次の日。

 

 

 

「のあピーマンきらい!」

「わがはいはナスなど食べない!」

「このお子様たちホントにもぉさぁ!!」

 

牢屋敷の料理担当達の闘いは、まだ始まったばかりのようだった。

 





あとがき:すみませんこの話-1-で終わりです。
オリキャラも前回で打ち止め、設定とか禁忌とか考えるのとても楽しかったですね。
(そのせいで当初の予定よりどんどんオリキャラ要素の方に寄ってしまった気がしますが)
各章最後の魔女図鑑、ちゃんと読んでいて頂けていることを祈ります。

次章で各キャラを掘り下げつつ総決算としたいところです、すろーぺーす執筆中。
そしてその後に多分、マーゴさんのお話で〆ると思います。
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