ろうやしきノそのご   作:緋色鈴

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代る事夢みて -2-

 

その後もギャル子は取るに足らないようなことを次から次へと口にしては、フウカの正直な感想を受けて、そのいずれの場合でも愉快そうに笑っていた。

そうして何度目かの満足気な溜息のあとに、彼女はふとフウカの手元に視線をやる。

 

「つか今更だけど、電気もつけずに何してたん?」

「・・・故事に曰く、月光読書。月明かりを頼りに読む本というのも、なかなか乙なものですよ」

「ははあ・・・いやでも目ぇ悪くなるよ・・・?」

 

その忠告も尤もだが、しかし窓から差し込む月光で青金色に映し出されるアトリエはむしろ、普段より明るいような気さえしていた。

 

「これもまた時節の、中々できない体験ですから」

「ほーん・・・そういうもんか。あの二人もそういうの好きなんかな?」

「どうでしょう・・・」

 

フウカはこれまで作品を眺めはしても、その人となりまでは気にしていなかった彼女達の、その創作意欲の源流がなんであるかを記憶から手繰ろうとする。

 

「・・・城ケ崎さんも夏目さんも、どちらかというと己の内にあるイメージを表現することの方が好きのようですから」

「あーね、分かる気がする」

 

およそ正解にも遠からずだったのか、意を得たりとギャル子は頷いていた。

机の上、散らかっている紙の束に目をやりつつ彼女は言う。

 

「あーしはわっかんないからさー、ゲージュツってやつ・・・あディスってるわけじゃなくてね、マジで自分がセンスないの」

「ええ、分かる気がします」

「・・・ん???ディスってる???」

 

まいいか、とさらりと流して、ギャル子は。

ここに来てからずっと上向いている口角を維持しつつも、ほんの少しだけ寂しそうに、眉を下げて。

 

「二人がホントに楽しそーにしてるトコに限って、あーしは入っていけないっていうかさ」

 

フウカは咄嗟に口を開いて、しかし何も言葉が出てこずに、閉じる。

横目でそれを眺めていたギャル子は、にっと笑いかけ、肩をすくめてみせていた。

 

「だから、ま・・・ワラちーにはそこんとこヨロシク、みたいな?」

「・・・私と話をする時、夏目さんはいつも決闘でも挑むかのようですけどね」

「ウケる」

 

どうも本音に近いほどウケるようなので、フウカは洗いざらい吐いてみることにした。

 

「正直なところ頼まれても困りますが、同様にあのお二人から得られる知見もあるのだとは思います。なので、私が必要だと思った範囲でなら、関わろうとは思っていますよ」

「ん、それでいーよ」

「それに、むしろ」

「ん?」

「銀屋さんが芸術について何も分からないからこそ、お二人は安心して話せるのではないですか?」

 

今度はギャル子が口を開ける番だった。

はは、と乾いた笑いが漏れて、ギャル子は頭をぽりぽり掻いていた。

 

「・・・そうきたかあ」

「ぶしつけでしたか?」

「いんや、照れるってか、まあ、それがホントなら安心したってか・・・あんがとね」

「お礼を言われるようなことでは・・・」

 

実際フウカ目線でのそれは別に慰めたようなつもりはなく、ただの事実確認である。

ノアは自身の絵について言及されること自体をなぜか避けているし、アンアンだって評価されるのは相変わらず嫌そうなことは、フウカもなんとなく察していた。

つまりそれらは、ギャル子のような相手になら見せなくてよい姿なのだろうと思っただけだった。

 

「ワラちーもめっちゃオトナだねぇ」

「銀屋さんも最初の印象とは違って、色々考えている方なんだなと思いました」

「めちゃくちゃ正直に言うじゃん」

 

ギャル子は特に気にした風もなく、にこにこしている。

色んな笑い方をする人だな、とフウカは思った。

自分の場合はほとんと常に仏頂面なので、些細なことでもそうして楽しめる彼女は少し羨ましいような気もする。

そしてギャル子はそんな会話を終えて、どこか満足したようだった。

 

「いやあ、胸のつっかえが取れたかも。やっぱここに来ると良いことがあるね」

「それは何よりでしたが」

「ただま、あの二人は起きてこないっぽいし、そろっと、あーしも寝るとするかな」

「それがいいと思います」

 

淡白なフウカの返事をまたギャル子は面白がりつつ、頷く。

 

「読書の邪魔してゴメンね」

「いえ、とても有意義な時間でした」

 

そりゃよかった、と返しながら、ギャル子はひょいと立ち上がって丸椅子を戻し。

ひらひら手を振りながら、アトリエを後にするのだった。

心配ごとなど何もなかった、という風に。

 

「そんじゃね、おやすー!」

「はい、おやすみなさい」

 

おずおずと手を振り返した・・・のは彼女に見えたかどうか怪しかったが、フウカはそうして、ふうと息をつき。

自身とはおよそ違う世界に生きていると思っていた者と交わした言葉、そこから得た感慨のことを思い浮かべながら、悪くない時間だったと結論付ける。

 

そしてそれとは別に、やっぱり彼女個人に抱く感想としては、フウカからすれば。

これまで生きてきて、初めて深く関わったような傾向を持つ人だなという印象なのだった。

 

 

 

「・・・賑やかな人でしたね」

 

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