ろうやしきノそのご   作:緋色鈴

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我、隣人を愛することなかれ(終章)
我、隣人を愛することなかれ -1-


 

 

牢屋敷は今日も平和だった。

 

食料事情をはじめとして様々な環境が改善されつつあるこの島で、元魔法少女の少女達は相も変らぬ、しかし時折ちょっとした騒動を挟みつつの日々を過ごしている。

そしてあるとき、少女の一人がぽつりと呟いた。

 

「ねえ、ここっていつまで()()島で()()敷なのかなぁ?」

「あーね?」

 

魔女因子がこの世から無くなって、ここにいる少女達はもう囚われの身ではない。

 

「ほら、ここって実質もうあたし達の島なんだしさ、もっと良い感じの名前をつけたらどうかなって思うわけですよ」

「あーねぇ、珍しく良い事言うじゃん?」

「例えばチョコレ」

「シバくぞ」

 

聞いていた他の子達もその命名案は聞き流して、しかしそれ自体は名案だと好意的に受け入れ、めいめいに意見を述べ始めていた。

 

「確かに、名前から得る印象というのは大事ですよね」

「それなら二階堂アイランドで!」

「本人いねぇのよ」

「せっかくなら公募したらいいんじゃないかな」

「・・・正直どうでもいいけれど、投票ぐらいならするわ」

「ここは妾に任せてみんか?とびきりの目出度い名を授け・・・」

「皆さん、姫様の言う事は聞き流して下さい」

「まずは夏目さんたちにも訊いてみるというのはどうでしょうか?」

 

と、最後の意見に「それはそうだ」という声が上がる。

最後の十三人、特にこの屋敷に残る三人はここに住む少女達の中でもなんとなく別格の扱いで、というのは月日が経った今も変わらない。

いくら自分達が乗り気でも、もし彼女達が苦言を呈するのならそれは軌道修正が必要になるだろうというのが共通の見解だった。

 

「・・・お、センセ」

 

そしてちょうどそこに通りがかったのは中でも一番発言力と求心力を持つ通称先生、宝生マーゴ。

言い出しっぺの子がこれ幸いとマーゴのもとへぱたぱた駆けて行く。

 

「マーゴ先生~」

「・・・あら、なにかしら」

 

マーゴは少し黙って彼女を見つめていたものの、次にはいつもの笑みを浮かべて首を傾げる。

そして島と屋敷の新しい名前をつけたいのだという話を少女がすると、頷いていた。

 

「そうなのね、いいと思うわ」

「そこでですね、是非、マーゴ先生やノアちゃんたちにも意見をお聞かせ願いたく!」

「・・・悪いけれど、また今度にしてくれないかしら」

「え?」

 

勢い込んでいた少女がつんのめって止まり、きょとんとした顔をする。

マーゴは変わらず笑顔を浮かべつつも、わずかばかり申し訳無さそうに眉を下げて。

 

「ごめんなさい、ちょっとそういう気分ではなくてね。名づけの提案自体は構わないから、貴方達で進めてくれないかしら」

「あっ、はい、それは全然・・・」

 

そして少女がおずおずと頷いている間に、マーゴはそのまま歩き去っていってしまった。

思った話の流れにならなかった少女が頭を掻きながら戻ってくると、他の子達も心配そうな顔をしていた。

 

「マーゴさん、具合悪いのかな?」

「御病気でなければよいのですが」

「ま、センセに頼りすぎなのも良くないっしょ」

「それはそうですね」

 

と、一先ずその場は頷き合って、マーゴに言われた通りに各々で名前を募集する算段をつけはじめる少女達。

その中で、最初の少女が未だに釈然としない顔だったのを、一人がみとめて。

 

「どったの?」

「いや、なんか・・・」

 

彼女も彼女で珍しく考え込むような表情で、言っていいものかどうかと躊躇いがちに。

 

「最近、なんとなーく・・・マーゴ先生に避けられてる気がするんだよね・・・」

 

そう言って、マーゴの去った廊下の曲がり角を眺めていたのだった。

 

 

 

「いつものことじゃん?」

「そりゃこれまでの所業がね」

「味方はいないんですかね?!」

 

 

 

 

 

 

楽し気に話し合う少女達から離れたマーゴは、静かな場所を求めて歩いていた。

しかしこの屋敷にはどこへ行っても別の子達がいて、マーゴを見るや先生と呼んでは話しかけてくる。

それが普段牢屋敷のあれこれを取りまとめ、現代に復帰できるようにと勉強を教えてくれるマーゴを慕ってのことと分かってはいたが、今のマーゴはそれらから逃げるように会話をいなし誤魔化して、また別の場所を探す。

 

辿り着いたのは、アトリエ。

いつもの住人がいない時のそこは、静謐、という字が似合う空間だった。

窓が開け放たれていて、外気が吹き込んでは机の上にある紙束をぱらぱらと揺らす音がしていた。

面した中庭にも今は誰もいないらしく、ベランダに出てみれば、ただ頬を撫でる風が心地よかった。

 

そんな冷たい空気に、ふう、と温かく息を混ぜて。

 

「避けられてる、ね」

 

そのぼやきが聞こえたわけではないが、顔を見れば、その時そう思われたことぐらいは分かるのだった。

 

「あの子にも気取られるなんて私もまだまだ・・・いいえ、それほど余裕がないのかしらね」

 

見える窓から誰も見ていないことを確認してから、自嘲気味に口元を曲げて、独り言ちる。

事実だから、と。

 

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