ろうやしきノそのご   作:緋色鈴

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未来への伝達者
未来への伝達者 -1-


視界の端を、朧げに見覚えのある少女が横切ったのが、ついさっきのこと。

 

「・・・それじゃお姉ちゃん、後でね」

「ん。その人によろしくね」

 

その後ろ姿を目にしたナノカは、日課の散歩を共にしていた姉と一旦別れて、その影を追っていた。

追いついたのは屋敷の外、ナノカがかつてよく隠れていた、茂みの鬱蒼とした場所まで行ってから。

 

さく、と芝を踏む。

 

視線の先。

湖のほとりに、白い服を着た少女が座っていた。

まるでナノカを待っていたかのように。

いや、実際に待っていたのかもしれない。

何故なら彼女は図ったかのようなタイミングで振り向いて、知人に向けるように微笑んだからだ。

 

実際、彼女はナノカのことを知っていた。

そしてナノカもまた、彼女の事を知っていた。

 

「あなたが・・・星見カナタ」

「はい。黒部ナノカさん」

 

彼女は深くお辞儀をして、顔を上げたあとに、ふ、と悪戯っぽく笑った。

 

()()()()()()。そして、()()()()()ですね」

 

 

 

その珍妙な挨拶に、ナノカはどう返したものか迷って、結局「ええ」とだけ言う。

彼女・・・星見カナタは蘇生された少女の一人であり、ナノカや、姉よりももっと以前にこの島に囚われた少女である。

生まれた年から違うはずの彼女とはどこかで会ったはずもなく、確かに今この時が初対面だった。

それなのにナノカが彼女とお互いのことを知っているその理由には、数奇な縁があった。

 

「まず、礼を言わせて」

 

端的に要件を伝えようとする癖で、ナノカはそう口火を切る。

 

「あなたのくれた情報は、とても役に立った。有難う」

「それは良かったです」

 

こくり、と頷いてみせる彼女。

 

「ごめんなさい、言うのが遅れて。あなたが目覚めてから随分経っているというのに」

「いえ、礼を言われるためにやったことでもありませんから・・・それに、お姉さんのことで忙しそうなのは分かっていましたし」

「・・・まあ、そう」

「そもそも私が死んだのか、なれ果てになったのかもナノカさんは知りませんでしたよね。それなら無理もありませんよ」

 

その当たり前のような反応は、この邂逅も承知の上、という風に見える。

そんな彼女の素振りに、ナノカは彼女がどこまで知っているのかが気になった。

 

「・・・少し、答え合わせをさせて欲しいのだけど」

「はい、どうぞ」

 

淡い笑みを浮かべて小首を傾げる彼女の仕草は、超然としているように見えて、どこか儚い印象も受ける。

それは当初何もかもがお見通しと言わんばかりの態度をしていた、あの大魔女の雰囲気にもなんとなく似ていた。

 

「私はこの島に来て、最初にこの場所に辿り着いたとき、あなたを【幻視】した」

 

自分が彼女のことを知っている理由は、まだしも分かりやすい。

ナノカが持っていた魔法は、場所や物に触れた時、それが経験した、あるいはこれから経験する出来事を読み取るというもの。

その魔法の中で、彼女の姿を見たのだ。

ただしその時、ナノカはその彼女にひどく驚かされている。

何故なら。

 

「それは当時この島に囚われていたあなたが・・・誰もいない場所で、()()()()()()()()()()()風景だった」

「そうですね」

 

本人はさもありなんと頷いている。

 

「牢屋敷の情報、魔女に関する秘密の手がかり、()()()()()()()()()・・・【幻視】の中のあなたは、自分が知っていることを恐らく全て、私に教えてくれたわ」

「・・・自分の行動の仔細を改めて解説されるというのは少し恥ずかしいものですね」

 

頬に片手を当ててそんなことを言っているカナタに、ナノカは尋ねる。

 

「何故あなたはそんなことが出来たの?」

 

すると彼女はナノカを見据えて、再び小首を傾げ、なんということもないように言ってみせる。

 

「ナノカさんはもう見当がついているのではありませんか?」

 

その言い方で、ナノカはやはり、と思う。

それはナノカが今考えていることは正解である、と先に裏打ちするような言い方だった。

まるで彼女の筋書き通りに自分が喋らされているような気分だった。

それならばと、ナノカは確信をもって、その答えを口にした。

 

「・・・あなたが持っていたのは、【未来視】の魔法」

 

正解です、と口の形だけで応じた彼女は、再び淡い笑みを浮かべていた。

 




あとがき:
未来予知能力者は一足先を常に知っているが故に「読者の理解を置いてけぼりにすること」でこそむしろキャラが立つものだと思っているため、敢えて説明をすっ飛ばしている節があります。違うんです面倒だから省いたわけではなくて。
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