星見カナタがやったことは、仕掛けを暴いてもなお当事者たるナノカでなければ分からないような、回りくどいものだった。
「狙ってか、偶然にかは分からないけれど・・・私の【幻視】の魔法がこの牢屋敷でいつの時代の記憶を読み取るのか、あなたはそれを【未来視】の魔法で予知したのね」
「はい」
「だからあなたはそのタイミングに合わせて、あえてその場所で独り言を呟いた・・・遠い未来の、
「その通りです」
過去を視る力と、未来を視る力。
その二つが交差した時間に、ナノカはこの少女と出会っていたのだ。
遠い時代を生きた、片一方だけのメッセンジャーである彼女に。
「魔女化が進んでしまい、なれはてになる直前に見えたんです。この時代、あなた達がこの呪いの連鎖を断ち切ってくれるという未来が」
彼女の目線で、その一幕の裏側が語られる。
「だから、その助力になるよう伝言を残した、と、【幻視】の中のあなたは言っていたわ」
「無事に受け取ってくれて安心しました・・・いえ、そうなることは分かっていたのですが」
と、諦観しているような口ぶりでカナタは言う。
安堵したというその内容と一致しない口調は、感情に沿わないちぐはぐな印象を受ける。
ナノカが少し戸惑っていると、彼女はそういえば、と先を続けた。
「ただ察するに、銃の在処は必要なかったかもしれませんね?」
カナタが視た世界では、ナノカが銃を使ったのは顕現した大魔女に対しての一度だけ。
それも全く効果無しで終わっていたので、そういう印象なのだろう。
しかしナノカの主観では、違う。
「・・・いいえ。役に立ったわ」
「そう・・・でしたか?」
そこで初めて予想外の出来事に出くわしたように、僅かに怪訝そうに首を傾げてみせるカナタ。
「あの銃は確かに悲劇を生んでしまったこともあるけれど、それでも私にとって支えになったことは、間違いないから」
多分その事を、カナタは知らない。
分岐した世界の記憶を持っているのは、この場ではナノカだけだった。
「そうでしたか。それなら・・・」
深くを問わないまま、カナタは字面通りにナノカの言葉を受け取ったようだった。
ナノカから視線を外して、湖の方に目を向けた彼女は、呟くように言った。
「あの子も報われたことでしょう」
遠い目をした彼女の横顔は、そこで初めて年相応の少女のように見えた。
それが、彼女は過去を見ている時だけそうなのだ、とナノカは気づいて、奇妙な感慨を抱く。
過去に囚われていた間は本当の自分を見せられなかった自分とは、何もかもが逆なのだと。
「・・・その子の魔法の産物なのね、この銃は」
「はい」
彼女は笑ったまま、言う。
「私が殺した、大切な友達でした」
ナノカは咄嗟に自分が息を呑んだと思ったのだが、実際には何の反応も出来ていなかった。
それぐらい雑談のような調子で彼女は言ったし、ナノカもすんなり受け入れてしまっていた。
この島では、珍しくもないことだったのだろうと。
「あ。すみません、今のは【私達の禁忌】でした」
「・・・いいえ、私は大丈夫よ。詳しくは、聞かないことにするけれど」
「ありがとうございます」
またも恥ずかしそうに片手を頬に当てて微笑む彼女は、今しがた口にしたのがただの冗談だったかのように、どことなくあっけらかんとしていた。
ただ失言だとは思ったようで、彼女はついと頭を下げる。
「すみません。未来が視えなくなってからというもの、人とのコミュニケーションがうまく取れないんです」
「・・・そこに関連があるの?」
「次に自分が何を言って、相手がどんな反応をするのかが、分からなくなってしまって・・・いいえ、以前は分かってしまっていた、と言うべきでしょうか」
さっきのやり取りも実は結構綱渡りなんですよ、と種明かしのように彼女は言う。
なるほど、と分かったような分からないような、ナノカは曖昧な頷き。
「・・・強力な魔法は必ずしも便利ではなく、むしろ本人を振り回す呪いでしかない。あなたもそうだったのね」
「そんなところです」
鶏か卵かという話になるが、ナノカの【幻視】も、姉が先に島に囚われる遠因になった。
知り得た情報にこそ縛られるという意味では、彼女のそれもまた同じだったのだろう。
「ああ、でも、これは言って良いと思うので」
とわざわざ前置いてから、彼女は話題を変えた。
「あなたのお姉さんが無事で良かったです。そこは見えていませんでしたから」
「・・・ありがとう」
ナノカも姉のことが話に挙がったことで、もう一つの用事を口にしやすかった。
「来週、お姉ちゃんと一緒に島から出ることになったの」
「そうでしたか。おめでとうございます」
「・・・うん」
あくまで淡泊な口調を貫くカナタだったが、その内では字面通りに祝福してくれていると分かって、ナノカはようやく微笑んで、頷く。
「だから、別れの挨拶にと思って」
「ふふ。わたしたち、初対面ですよ」
そう茶化してくる彼女の調子に、ナノカが「それはそうだけれど」と濁していると。
再び向き直り、折り目正しくお辞儀をして、カナタは言った。
「それでは、はじめまして。お久しぶりです・・・そして、さようなら、ですね」
まるで、その三つの言葉だけで自分達の関係は始まり、今終わったのだと言わんばかりの、あっさりとした挨拶だった。
ナノカはふと思う。
今まで同じ島の囚人だった少女たちの中で、ナノカへの友好を示してきた者達。
桜羽エマや、橘シェリー・・・二階堂ヒロはそこに含めていいものか、どうかだが。
とにかくそんな彼女達に、自分もまた、今のカナタと似たような態度を貫いていた気がする。
そしてなるほど、こうも取り付く島もないのでは、もう少し歩み寄って欲しいという気持ちが湧くのも、分かる気がした。
「・・・いいえ。もう一つ」
「え?」
だからナノカは彼女達に倣うことにする。
「また会いましょう」
そこで初めて、星見カナタは驚いた顔をして。
ナノカの表情を窺ってから、ゆっくりと頷いてみせたあとに、一言。
「はい」
次に浮かべた彼女の笑みは、今までで一番、温かみがあるように見えた。
星見カナタ
魔法:【未来視】確定した未来を予知する (魔女化進行でより遠くの時間軸が見える)
原罪:未来への
物や場所に関わる未来の事象を予知する魔法。
ナノカと同じく発動が不安定だが、変えようのない確定した未来を視るタイプの強力な予知魔法だった。
幼い頃に安易に未来を予言した結果、身近な人が不幸に見舞われたため、未来のことは決して口にしないようにしていた。
予知能力のおかげでかなり終盤まで生き残っていたが、魔女化が進んで随分先の未来まで見えるようになり、ナノカ達の世代で訪れる結末を予知。
その一助になるよう、黒部ナノカに向けて置き土産のメッセージを残した。
そしてその独り言を魔法の銃の持ち主である友人に盗み聞きされてしまい、それを黒幕との内通と勘違いされたことで一触即発の事態に。
前から薄気味悪かったという心無い言葉と、ついに銃撃されたことでその場で魔女化。
銃の少女を惨殺、銃を隠したところでなれ果て化し、黒幕によって捕縛、封印凍結された。
余談:魔法発動中、未来視の中の沢渡ココに見つめ返されてビビり散らかした事がある。