毒使い   作:キタノユ

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第三部以前
ep.30.1 幼なじみ三人組の、ある日


 都は七つの区に分けられていて、それぞれに色が割り当てられている。

 

 その中で「緑」に該当する区は「山葵(わさび)之区」と名がついていて、住宅街、商店街、町の診療所、定食屋や小料理屋等、人々の生活に根付いた施設が集まっている。

 

 そんな山葵之区の一画にある軽食店で、トウジュは幼馴染二人に十八歳の誕生日を祝われていた。

 

「トウジュ、任務でケガしたって聞いたけど、大丈夫そうで良かった」

 

 幹事役のつゆりは、甘く煮た姜をすりつぶして作った冷茶に口をつけながら、嬉しそうだ。最近の都で流行っている飲み物らしい。

 

 ちなみに、なぜ軽食店かというと。凪の法における飲酒可能な年齢が二十歳と定められているからだ。

 

「痺れ毒にやられただけだし! 大したこと無いし!」

 

 トウジュはいつも、心配される事を嫌がる。「そんな事より」と無理やり話題を変えようと、対面に座る青へ顔を向けた。

 

「セイさー、いつの間にか中士になってるじゃないか!」

「え、そうなの!? おめでとう!」

 

 唐突に話題の中心になってしまった青は「え、え」と視線を泳がせる。

 

「あ~あ、先越されちゃったぁ」

 

 と、わざとらしく口を尖らせてそっぽを向くつゆりだが、その目は笑っていた。

 

 つゆりも来春には教員資格が取得できる目途がついており、教員免許取得者は中士への昇格も約束されているので、時間の問題である。

 

 

 それからの三人は、店の女将が次々と運んでくる料理をつまみながら、それぞれの近況報告を交わす。

 

「あらら、それ完全にフラれてるじゃない」

 

 トウジュの任務小話に、つゆりが「お気の毒」と笑う。話題は、青もシユウとして参加していた、陽乃姫騒動だ。

 

「あ、あはは……さすが、峡谷上士はモテるんだね」

 

 初耳であるという精一杯の演技をしながら、青もトウジュとつゆりに合わせて苦笑いの相槌を挟む。

 

「あのお姫さん、最後はものっっっ凄くしょげて、少し可哀そうだったかな」

 

 お気楽に笑いながら、トウジュは肉の塊を口に放り込んだ。姫のせいで自分もケガをしたというのに、そんな事はもう忘れているかのように、あっけらかんとしている。

 

「フラれて良かったわよ。他国のお嬢さんに横から取られでもしたら、凪中の女子が黙ってないわ」

「凪に来た途端にアンサツされちまうんじゃねーの」

「峡谷上士の浮いた話って全然聞こえてこないのよね」

 

 情報通のつゆりですら、凪の法軍が誇る天才の噂話を仕入れる事ができないでいるようだ。できるとすれば、諜報部の上士や特士級であろう。

 

「オレは、アザミ上士が怪しいんじゃないかって踏んでるんだよな」

「え! 誰それ!」

 

 アザミ上士は、同じく陽乃姫騒動の任務で隊長を務めていた菊野アザミの事だ。そういえば美男美女の隊長・副隊長の組み合わせだったな、などと思い出しながら、青は二人のよもやま話に耳を傾けていた。

 

 

 つゆりからは、学校で出会う子どもたちが話題の中心となる。

 

「将来強くなりそーな見込みのある奴っていんの?」

 

 教員見習いのつゆりへ、トウジュらしい質問が飛び出した。

 

「ん~、そうだなぁ。いる事はいるけど……本当は、教師があまり子どもを区別しちゃいけないんだけどね」

 

 いかにも、正義漢なつゆりらしい応えだが、トウジュには物足りない。

 

「ン年ぶりの天才現る! みたいなやついねえの?」

「いるいる。日野家の、よぎり君」

「あ、よぎり君かぁ」

 

 馴染みのある名前が出てきて、思わず青は口を滑らす。

 

「今年、下士になったみたいだよ。十歳だって。すごいね。峡谷上士が指南役についてた」

 

「ええ!? 峡谷上士が!?」と、トウジュとつゆりの声が重なった。

 

「すげぇ、それって本物じゃねーか」

 卓上のトウジュの両拳が、強く握られる。

 

「あ」

 しまった。

 トウジュの負けん気をくすぐってしまったかと、青は少しの後悔と共に口を噤む。

 

 つゆりも同様のようで「あ」の形に口を開いて顔を引いた。

 

 だが、トウジュの反応は、青とつゆりの予想をはみ出るもので。

 

「どんな奴なんだろうな、任務で一緒になんねえかな!」

 

 出世頭の幼なじみは瞳を輝かせて、夏の大輪の花のように笑っている。

 

「……」

「……」

 

 青とつゆりは顔を見合わせた。

 

 ――そうだった。

 ――こういう子だったね。

 

 言葉を必要としない会話を視線で送りあう。

 

「そうそう」

 ふと、つゆりが何かを思い出したように、手を叩いた。 

 

「よぎり君といえば、双子の妹の、あさぎちゃん」

「あさぎちゃん?!」

 

 懐かしい名前に、思わず青の背筋が伸びる。

 

「お、なんだ? その妹も強いやつ? 兄妹そろってムキムキとか」

「人を大猿みたいに言うのやめなさいよトウジュ」

「僕、あさぎちゃんも、よぎり君も会った事あるけど、どっちもムキムキじゃなかったよ。まだ子どもなんだし」

 

 あさぎの方は特異体質かつ体力オバケである事には違いないが、相手が年頃の女子という事もあって、青は無難な言葉を選ぶことにした。

 

 が、

 

「ところが。聞いてよ、最近のあさぎちゃん、普通じゃないのよ」

 

 何故かつゆりが自慢げに、不敵な笑みを口端に浮かべる。

 

「あさぎちゃん、どうかした……!?」

「お、ムキムキに進化しはじめたか?」

「トウジュはいい加減ムキムキから離れてよ!」

「それで、あさぎちゃんがどうかした??」

「待てよ……セイ、よぎりって奴に会った事あるのか? どんな奴だよ!」

「今は妹の方の話をしてるの!」

 

 三人の会話はいつもこうして、しっちゃかめっちゃかになるのであった。

 

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