シングルファザーローランくん 作:なめなめろう(旧名:ELDERSIGN)
Library Of Ruinaを一週間で完走したので、衝動的に書きました。ローラン好きすぎる……
たった一つの希望と何百もの絶望
私には苦痛しかありません。それ以外の何物も望みませんでした。
「……………………」
苦痛は私に忠実で、今も変わりはありません。私の魂が深淵の底を彷徨うときにも。苦痛はいつもそばに座り、私を守ってくれた故。どうして苦痛を恨むことができましょう。
「アン……ジェリカ…………」
嗚呼、苦痛よ、汝は決して私から離れぬ故、私は遂に汝を敬うに至る。私はようやく汝のことがわかった。汝は存在するだけで美しいということを。
「あああ……ああああああああああああああ!!!!!」
汝は貧しい私の心の火鉢の傍から決して離れない人と似ている。私の苦痛よ、汝はこの上なく愛する恋人より優しい。私は知っている。私が死に就く日にも汝は私の心の奥深くに入り私と共に整然と横たわらんことを。
「楽に、楽に死ねると思うなよ! お前だけは!」
そして、ピアノの音が止んだ。
◇◇◇
雨が降る。鉛色の空から降るそれは、全てを洗い流していく。血も、ピアノの音の残響も。まるで俺から全てを奪っていく都市のように。
「結局……どんなに頑張って手に入れた幸せも、容易く奪われる……」
足元には水溜まりがあった。血と泥に塗れた俺が映っている。黒い仮面をつけた俺。人の目から隠れる為の黒い仮面。都市から、他人から、自分から目を逸らす為の黒い仮面。
その水溜まりに映った仮面を、自分の顔を。何度も、何度も、何度も何度も何度も何度も何度も。踏みつける。踏みにじる。
「……誰だ? 誰のせいだ? このクソッタレなバケモンを生み出したのはどこのどいつだ?」
ありとあらゆる人間を音符とピアノにし、全てを巻き込んで演奏を続けるバケモノ。そんな奴がいきなり現れるわけがない……。
「必ず、必ず殺してやる。世界で誰よりも不幸だと、惨めだと思わせた上で殺してやる。どんな奴だろうと……」
その時だった。声が聞こえた。とてもか細く、小さい。けれどそれは懸命で、命に溢れた泣き声だった。
「……ど、どこだ? おい、どこで泣いてるんだ?」
予感があった。俺はその泣き声を、絶対に見つけないといけないという予感。
「なあ……もしかして、アンジェリカなのか?」
俺が見た時には既に息絶え、身体の殆どを丁寧に解体されたアンジェリカ。その血塗れの身体に駆け寄る。
腹部はズタズタに裂けていた。綺麗な内臓が溢れている。けれど。
「ああ、よかった……! よかった……! 本当によかった……!」
小さな身体。持ち上げると驚くほどに軽い。明らかに未熟児であった。けれども、生きていることを世界に刻むように、その赤子は泣いていた。
自然と涙が溢れていた。まだ、まだ残っている。たった一つだけど、あまりにもか弱く、儚いけど。それでも確かに俺にはまだ残っているものがあった。
「絶対に、俺の全てを賭してでも守る……君だけは、必ず! 」
俺の世界が壊れた日。そして、俺の世界が生まれた日。
「名前は、アンジェラ……そう、アンジェラだ。俺の、最後の天使……」
都市中に響いた死の旋律。それを書き換えるように、生命の叫びがこだまする。その声は、何よりも美しかった。