シングルファザーローランくん   作:なめなめろう(旧名:ELDERSIGN)

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個人的に気になっているんですが、この作品を読んでる方って原作未プレイも結構いるんですかね?既プレイ前提で書いてるのでだいぶ不親切な話の飛び方してるんですけど、もし未プレイ勢もかなりいるならもう少し丁寧に描写したほうがいいのかなぁ……



Iron Lotus

 

 

 都市に自由なんてものはない。選択は欺瞞に満ちている。選ぶことのできない選択肢を削ぎ落とし続けていくと、最後には大抵一本の道しかなくなる。みんな、流されていくんだ。

 

 そうして選んだ誰かを傷つける道は、誰かに傷つけられる道へとつながっている。それが都市だ。誰かを踏み台にして得たものは、誰かに踏み躙られるんだ。たとえそれが、どんな人であっても。そう、最強のフィクサーだった赤い霧ですら逃れることのできなかった都市の仕組みだ。

 

 でも、そうするしかないんだ。そうしないと生きていけないから。だからみんななんとかそれをやり過ごす術を身につける。利己心。自分だけを見つめ続ける心。悲劇は、自分のものでなければそれでいい。そう思って見ないふりをするんだ。

 

 そして、その結果がこれだ。

 

「全員死んだな。誰も残っていない」

 

 リウ協会1課部長、シャオ。俺たちはその片割れを殺し、遂には彼女の部下の悉くを殺した。アンジェラが自由を得るために。そして、俺たちがただ生きるために。それを後悔する資格はない。彼女達を哀れむ資格もないんだ。

 

「闇しか見えない。前が見えない。どこに進んでいくべきか。足を踏み出す勇気はどこから来るのか。お前達は一体何をそんなに最後まで信じたんだ」

 

 フィリップのように不完全なE.G.Oを発現したシャオ。そのE.G.Oがゆらぎ始める。

 

「またお前か。しつこく話しかけてくるんだな。……私は私が自ら呼び起こした絶望に崩れ落ちも、恐れもしない。人間が……そして私が克服できないものはない」

 

 一体、誰と話してるんだろうな。幻想体の力を借りるときに聞こえる声。それに似てはいるが、違う。シャオは明確に対話をしている。

 

「希望があることで恐れが生じるが、恐れがあるゆえに勇気が存在し……この全てが無いのであれば、生はない。生きるべき理由がないのと同然であるから……私がどうしてこの生動感を覚えずにいられよう」

 

 E.G.Oの姿が変化していく。ねじれではない。彼女の纏う力がより強くなっていく。

 

「これからも私は私のために戦う。……お前の話は最後まで気に入らないな。独り生えた木が森になることはない、か……面白い話だ」

 

 火が灯る。シャオのE.G.Oはより強固になっていき、炎が羽衣のように姿を変えてゆく。

 

「たとえ一人でも夜は訪れてくる。そして明けない夜はない……一介の消える星ごときが登りゆく太陽の光に勝つことができようか」

 

 煌々と煌めく炎。凄まじい光と熱が放たれる。シャオはまさに太陽の化身となった。

 

「覚悟しろ。今日、都市の星が1つ沈むことになる」

「…………」

 

 その言葉に、昔の記憶が蘇る。……いや、駄目だ。今はまだ、駄目だ。そんなことを思い出しながら戦えるような相手じゃない。集中しろ。今はただ、目の前のことに。

 

 図書館がシャオの心に共鳴し、階の景色が変わっていく。気づけば辺りは、城壁と火の立ち上る戦場となり、空は暁に燃えている。

 

 全てを失ったシャオ。絶望してもいいはずだ。フィリップのようにねじれてもおかしくはない。だが、それでもなお、シャオはただ前を睨みつけるだけだ。全てを貫き、燃やし尽くすその瞳で。

 

 一歩、踏み込む。ただそれだけで、シャオは炎を撒き散らし、全てを焦がす。もう一歩。身に纏う炎が噴き出し、その勢いのまま、シャオが俺たちに向かって突進する。

 

「ぐっ……」

 

 目にも止まらぬ速度で振るわれる、炎の熱によって赤熱した偃月刀。それをデュランダルで受け止める。熱い。そしてそれ以上に、重い。先程までのシャオとはまるで別人だった。これが、E.G.Oの力なのか?

 

 なんとか数合打ち合うが、すぐにデュランダルを弾かれた。そして体勢を崩した俺にその刃が振るわれる。これは、死んだか?

 

 その時、ドウンと重い銃の音が響く。放たれた弾丸が偃月刀を横から撃ち抜き、間一髪で軌道が逸れた。逸れた刃は俺の髪の数本を斬り落とし、斬り落とされた髪は一瞬で燃えて煙となった。アンダーボス、カーロの力を得た司書補がなんとか俺を救ってくれたみたいだ。

 

 シャオの背後から忍び寄る、ユジンの力を得た司書補。彼女が、R社の力である連続切断でシャオのE.G.O.を斬り刻む。しかし、まともに刃が通らない。どうやら都市のどんな生地よりも硬いみたいだな。

 

 シャオは司書補による攻撃を受けてもなお、一切怯まず、動揺すらしない。文字通り、今までの敵とは格が違う。で、どうすりゃこんなやつに勝てるんだろうな?

 

 そう思った時、シャオが俺を、いや、俺の手を見つめた。

 

「今、気づいた。その黒い手袋……見覚えがあるな。黒い沈黙のものだ。黒い沈黙もまた、図書館で本にされたのか?」

「……は?」

 

 こいつは今、俺が、アンジェリカを殺したって言ったのか? こいつには、俺がそう見えたのか?思わず、奥歯を噛み締めた。

 

「……殺す」

「ッ!」

 

 手袋からホイールズ・インダストリーの大剣を取り出す。偃月刀の炎が龍を象り、そのまま俺に向けて突きが放たれるが、関係ない。大剣を振り下ろす。歯車でできた車輪がギギッと回り始め、それと共に剣が加速していく。

 

 ギュルギュルと音を立てて車輪が回り、加速し切った大剣が偃月刀を叩き落とす。相手の攻撃は潰した。なら次はこっちの番だ。

 

 幻想体の力によって与えられた心臓が強く拍動する。今の俺に備わった、二つの心臓。それが怒りによって熱く煮えたぎった血液を全身に送り出した。身体が軽い。

 

 ホイールズ・インダストリーの大剣を消し、ムク工房の剣を取り出す。一閃。無数に放たれる斬撃がシャオの防御を貫通した。

 

「舐めるな!」

 

 だが血を流してもなおシャオの動きは精彩を欠くことはなかった。偃月刀を振り回す。すると、次第にその刃に炎が集まり始めた。ぐるり、ぐるり。炎は渦を巻き、どんどんと膨れ上がっていく。

 

 その炎は人生で出会ったどんなものよりも熱い。なのに、ゾッとするような寒気が背筋を伝う。頭に上った血が冷えていく。

 

 逃げることは不可能。取れる手段は迎撃か防御。だけど迎撃も現実的じゃない。

 

「饕餮!」

 

 炎が吠え、迸る。守れ、と言う暇すらなかった。全てが炎に包まれる。逃げ場はない。

 

「クリスタルアトリエ!」

 

 逃げ場がないなら作るしかない。迫り来る炎を水晶の双剣で断ち切り、前進する。幾ら斬り刻んでも押し寄せる炎。それでもただ剣を振るい続ける。

 

「ハァ……ハァ……」

 

 ようやく炎が収まる。だがその熱量に空気は揺らぎ、陽炎ができていた。呼吸がしづらい。息を吸うたび肺が焼ける。一体何人生きてる……? クソ、二人やられたか。

 

 残ったニコライと、ユジンの力を得た司書補も、火傷を全身に負っている。長期戦は無理だな。一瞬で全てを出し切る短期決戦。それしか勝ち目はないだろうな。

 

 ドクン、と心臓が高鳴る。感情が昂る。感情の昂りと共に、図書館が俺たちに幻想体の力を与える。そして、鼓動が押し寄せた。

 

 拍動と共に全身に力がみなぎった。だが、その代償は重い。拍動の度に全身に痛みが走る。筋肉が悲鳴を上げ、傷口からは血が吹き出す。おそらく、数分以内に死ぬだろうな。でも、それで十分だ。

 

 ニコライの力を持つ司書補が飛び出した。彼もまた、最後の力を振り絞るように、シャオの懐に潜り込む。当然それをみすみす許すようなシャオではないが、大技を放ったばかりだ。攻撃に先程のようなキレはなかった。

 

 糸を通すような、刃の一振り。E.G.Oの隙間を的確に狙うその一刀。シャオの身体から血が吹き出した。そして、その傷口へと、返す刀でさらに一閃。シャオは膝をつき、体勢を崩した。それと共に、司書補は燃えて本になった。

 

 ああ、今しかない。今しかチャンスはない。俺の持つ全ての武器を叩き込む連撃、Furioso。それを、ぶち込む。

 

「うおおおおお!」

 

 武器を持つ腕が悲鳴を上げる。一歩踏み出す度に筋肉が断裂する。シャオを攻撃する度に、俺の命もまた消えていく。

 

「これでも、駄目か!」

 

 だがシャオは倒れない。Furiosoは、普通の人間であれば何度死んでもお釣りが来る。それでも、シャオは倒れない。折れない心が、シャオに倒れることを許さない。

 

「死の境界」

 

 しかし、赤い刀から放たれた一撃が、彼女の折れない心すら断ち切った。シャオのE.G.Oが消えていく。それに伴って、図書館も元の姿へと戻っていった。

 

「君がこれ以上遠くなることはないから、いっそのこと、こうなる方が後悔せずに済むか……」

 

 そうして、太陽が沈んだ。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「結局、シャオも本になったわね」

「それでも、他の奴らみたいに崩れ落ちる姿を見せはしなかった。人間はあんなにも強くなれるのかと思ったし……」

「…………」

 

 俺の言葉に、アンジェラは少し考える素振りを見せた。

 

「なあ、アンジェラ」

「なにかしら」

「少し、思うところがあってな。しばらくの間、接待を休んでもいいか?」

「……わかったわ。ちなみに、理由を聞いてもいいかしら」

「ちょっと、疲れたんだ。それに確かめたいことができたんだ」

「そう。確かに、長い間ずっとあなたに頼っていたわね。いいわ、今までありがとう、ローラン」

「ああ」

 

 そうして、俺はアンジェラに背を向けた。

 

 

 

 





好きだった作品の作者にいつの間にかお気に入り登録されていて、死。本当にありがとうございます……
なお、シャオ戦の決着が死の境界なのは私の初見プレイの再現です。
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